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卒業後
746 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(4)
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「遺跡発掘もなんだかんだで報告書とか計算書みたいのを準備しているみたいだけど、シェイラもあのフォレスタ遺跡の発掘団の活動に関してそう言う事をやっているのか?」
魔術院で転移門の順番を待っている間にふとシェイラに尋ねてみた。
シャルロの伝手で来てくれた元家宰の爺さんに色々教わってアレクの準備した俺たちの工房の収支報告を確認したが、はっきり言って来年(とその後)になって自分だけであれのチェックを出来るとは思えない。
本当にあんな報告書が世の中必要なのだろうかと思ってシェイラに聞きたくなったのだ。
遺跡発掘団が金のやり取りとかの詳細をちゃんとやっておかないと補助金とかを受け取れなくなって大変なことになるのは、以前ハラファが責任者になって(発掘に邁進して)いる発掘団の救援にシェイラが行っていたから知っているが、イマイチ一昨日まで色々と教えられたことがどう発掘団の活動にも適用されるのか想像がつかない。
昨日はシェイラをヴァルージャまで迎えに行って、王都に戻ってからは食事をしたり買い物に付き合ったりであまり数字の事なんぞ考える時間が無かったのだが、もう実質休暇時間なのでちょろっと暇つぶしにどうでも良い事を聞いても良いだろう。
「勿論よ。
まあ、収益組織である工房や商会と違って、趣味に情熱をささげている考古学者の集団だからね~。
お金はカツカツで盗むほどの余裕もないし、態々報告した結果を調べられることは殆ど無いわ。
お蔭で誰かがやり方を間違えていても収拾がつかなくなるまで誰も気が付かなくって大変なことになるんだけど」
シェイラがあっさり答えた。
なるほど。
遺跡発掘の現場にいる人間は自分の宿泊費や食費を削ってでも発掘を続けようと頑張るタイプばかりだから、金を盗まれる心配はあまりないのか。
だが。
「現場の方は良いとしても、歴史学会その物はそれなりに大きな金額を貴族や王国から支援金として受け取っているんだろ?
現場に出ない、歴史に対して興味も特にない数字担当の事務員に横領されたりしないのか?」
それこそハラファみたいのが発掘の業績で学会のお偉いさんになったら、下の人間は金を横領しまくれるんじゃないか?
ハラファはどう考えても横領とか不正とかをしっかり疑って確認するタイプではない。
人を疑って数字なんかを確認するよりは、研究発表された論文を読むか学会の倉庫に保管されている遺物を調べているかだろう。
・・・つまり、組織のお偉いさんにしちゃあいけない類いの人間だな。
「まあねぇ。
そこら辺は国も分かっているから、国から支援金を受けている学会団体には非定期で数年に一度、抜き打ちで検査が入っているわ」
おお~。
国のお偉いさんも、そこら辺の所はちゃんと分かっているんだな。
イリスターナ達の帳簿(未満)を見て頭を抱えていたアレクの姿に似た情景が頻発しそうな気もするが。
「そう言えばさ、不正をする人間って揃いも揃って全員裏帳簿を付けているみたいだけど、なんでなんだ?
あれって不正の証拠になるだけじゃん?」
見つかった時にああも絶望的な顔をする書類を何だって自分で手間暇かけて作成するのか、理解できない。
自分にとって不利な証拠になるんだから、最初からそんな情報を記録しなければ良いのに。
シェイラが暫し考えてから、答え始めた。
「う~ん、例えば買ってもいない資材を買ったことにして資金を横領しているとするじゃない?
ちゃんとしたっていうか表向きの報告書には本当に買った費用と、実は買っていないけど書類上は買ったことにしてネコババしている費用とが混在している事になる。
ちゃんとどこかに『払わなくて良い実在しない費用』をリストアップしておかないとうっかり買っていない分まで払ってしまったり、払うべき支出まで払わなくて怒鳴り込まれたりすることになりかねないでしょ?
だからそこら辺をしっかり把握する為に記録は重要なのよ」
確かに、本当に買った物と実は買っていないでっち上げとが混在していたら混乱しそうだ。
どっちも一応商品の受け取り証とか契約書がファイルに入っているんだから、正規の資料以外の場所に払わなくて良い擬装購入に関しての記録をしておかないと正しく払えないのは分かる。
「だけどさぁ、そう言うのって支払いが済んだら記録を捨てておけばいいじゃん?
なのに何だって何年も前の記録まで取っておくんだ?」
俺が今まで見た裏帳簿って、どれも絶対に1年分だけじゃあない量だった。
支払いを間違えない様にっていうんだったらせいぜい3か月分の情報があれば良いんじゃないか?
「それはそうなんだけどねぇ。
でも、横領しているってことはその組織の正しい収支状態が報告書を見ても分からないってことでしょ?
もっと横領してもバレないかとか、本当の利益率がどのくらいかとかいった判断をする為にも古い情報も取っておく方が便利・・・とも言えなくもないかな?
まあ、長い間横領なり違法取引なりをしてバレないような人間なんて、基本的にマメで詳細な記録を残しておきたいタイプが多いのよ」
転移門室の扉が開いたのでそちらに動きながらシェイラが説明する。
なるほど。
本当の支払いと要らない支払いを見分けるために必要っていうのは事実だが、実際のところは記録魔だっていうのが真相なんだな。
確かに、大雑把なタイプじゃあ直ぐにぼろが出てバレるんだろう。
それでも昔の二重帳簿は捨てるべきだと思うけどね。
魔術院で転移門の順番を待っている間にふとシェイラに尋ねてみた。
シャルロの伝手で来てくれた元家宰の爺さんに色々教わってアレクの準備した俺たちの工房の収支報告を確認したが、はっきり言って来年(とその後)になって自分だけであれのチェックを出来るとは思えない。
本当にあんな報告書が世の中必要なのだろうかと思ってシェイラに聞きたくなったのだ。
遺跡発掘団が金のやり取りとかの詳細をちゃんとやっておかないと補助金とかを受け取れなくなって大変なことになるのは、以前ハラファが責任者になって(発掘に邁進して)いる発掘団の救援にシェイラが行っていたから知っているが、イマイチ一昨日まで色々と教えられたことがどう発掘団の活動にも適用されるのか想像がつかない。
昨日はシェイラをヴァルージャまで迎えに行って、王都に戻ってからは食事をしたり買い物に付き合ったりであまり数字の事なんぞ考える時間が無かったのだが、もう実質休暇時間なのでちょろっと暇つぶしにどうでも良い事を聞いても良いだろう。
「勿論よ。
まあ、収益組織である工房や商会と違って、趣味に情熱をささげている考古学者の集団だからね~。
お金はカツカツで盗むほどの余裕もないし、態々報告した結果を調べられることは殆ど無いわ。
お蔭で誰かがやり方を間違えていても収拾がつかなくなるまで誰も気が付かなくって大変なことになるんだけど」
シェイラがあっさり答えた。
なるほど。
遺跡発掘の現場にいる人間は自分の宿泊費や食費を削ってでも発掘を続けようと頑張るタイプばかりだから、金を盗まれる心配はあまりないのか。
だが。
「現場の方は良いとしても、歴史学会その物はそれなりに大きな金額を貴族や王国から支援金として受け取っているんだろ?
現場に出ない、歴史に対して興味も特にない数字担当の事務員に横領されたりしないのか?」
それこそハラファみたいのが発掘の業績で学会のお偉いさんになったら、下の人間は金を横領しまくれるんじゃないか?
ハラファはどう考えても横領とか不正とかをしっかり疑って確認するタイプではない。
人を疑って数字なんかを確認するよりは、研究発表された論文を読むか学会の倉庫に保管されている遺物を調べているかだろう。
・・・つまり、組織のお偉いさんにしちゃあいけない類いの人間だな。
「まあねぇ。
そこら辺は国も分かっているから、国から支援金を受けている学会団体には非定期で数年に一度、抜き打ちで検査が入っているわ」
おお~。
国のお偉いさんも、そこら辺の所はちゃんと分かっているんだな。
イリスターナ達の帳簿(未満)を見て頭を抱えていたアレクの姿に似た情景が頻発しそうな気もするが。
「そう言えばさ、不正をする人間って揃いも揃って全員裏帳簿を付けているみたいだけど、なんでなんだ?
あれって不正の証拠になるだけじゃん?」
見つかった時にああも絶望的な顔をする書類を何だって自分で手間暇かけて作成するのか、理解できない。
自分にとって不利な証拠になるんだから、最初からそんな情報を記録しなければ良いのに。
シェイラが暫し考えてから、答え始めた。
「う~ん、例えば買ってもいない資材を買ったことにして資金を横領しているとするじゃない?
ちゃんとしたっていうか表向きの報告書には本当に買った費用と、実は買っていないけど書類上は買ったことにしてネコババしている費用とが混在している事になる。
ちゃんとどこかに『払わなくて良い実在しない費用』をリストアップしておかないとうっかり買っていない分まで払ってしまったり、払うべき支出まで払わなくて怒鳴り込まれたりすることになりかねないでしょ?
だからそこら辺をしっかり把握する為に記録は重要なのよ」
確かに、本当に買った物と実は買っていないでっち上げとが混在していたら混乱しそうだ。
どっちも一応商品の受け取り証とか契約書がファイルに入っているんだから、正規の資料以外の場所に払わなくて良い擬装購入に関しての記録をしておかないと正しく払えないのは分かる。
「だけどさぁ、そう言うのって支払いが済んだら記録を捨てておけばいいじゃん?
なのに何だって何年も前の記録まで取っておくんだ?」
俺が今まで見た裏帳簿って、どれも絶対に1年分だけじゃあない量だった。
支払いを間違えない様にっていうんだったらせいぜい3か月分の情報があれば良いんじゃないか?
「それはそうなんだけどねぇ。
でも、横領しているってことはその組織の正しい収支状態が報告書を見ても分からないってことでしょ?
もっと横領してもバレないかとか、本当の利益率がどのくらいかとかいった判断をする為にも古い情報も取っておく方が便利・・・とも言えなくもないかな?
まあ、長い間横領なり違法取引なりをしてバレないような人間なんて、基本的にマメで詳細な記録を残しておきたいタイプが多いのよ」
転移門室の扉が開いたのでそちらに動きながらシェイラが説明する。
なるほど。
本当の支払いと要らない支払いを見分けるために必要っていうのは事実だが、実際のところは記録魔だっていうのが真相なんだな。
確かに、大雑把なタイプじゃあ直ぐにぼろが出てバレるんだろう。
それでも昔の二重帳簿は捨てるべきだと思うけどね。
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