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卒業後
745 星暦556年 桃の月 15日 年末の予定(3)
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「こちらがシェフィート商会との契約書のファイルですな。
これとこちらの売り上げ詳細を確認すると、ちゃんと売り上げに対する正当な割合の利益を工房が受け取っているか確認できますね」
かなり年の行った爺さんがにこやかに工房に置いてあるファイルを手に取りながら俺とシャルロに一から解説してくれている。
オレファーニ家の王都の前家宰とやらで、『引退して暇でしょうがない年寄りですよ』と言って『お坊ちゃま』の教育の為に来てくれている。
しかも、態々俺たちに教えるために昨日1日かけてアレクにファイルや報告書の詳細を説明してもらっているんだから、よっぽど暇なのか、それともやはり『お坊ちゃま』がそれだけ大切で心配なのか、なんとも判断に悩むところだ。
「ちなみに、売り上げの総額が正しいかどうかはどうやって分かるんだ?
割合が正しくてもそれを使って計算する総額が違っていたら意味が無いと思うんだが」
この際なので、ついでに頭に浮かんだ疑問を全部聞いてみている。
一応アレクには過去に説明されている筈なんだけどね。
年に1回しか考えもしないし、色々忙しくしているうちにすっかり跡形もなく記憶の中から消えてしまった。
この際最初からしっかり教えて貰おう!
アレクも『私が準備したと思わず、そ知らぬ人間がやったと思って騙したり間違えたり出来る部分を全部解明するつもりで学び直してくれ』と言っていたし。
将来的に、アレクが忙しくなって帳簿を誰か外部の人間に任せることになった際に俺たちにもちゃんとチェックする役割を果たしてもらいたいから、しっかり理解しろという事らしい。
「こちらがシェフィート商会の売り上げの総合記録です。
課税やギルドの会費に関わるので、国税局や商業ギルドのチェックが入っているので取り敢えず間違っていないと想定しても良いでしょう。
というか、プロがチェックしていて見つけられないレベルで擬装されていたらお坊ちゃまやお仲間の方々が見つけられる可能性は非常に低いので、努力するだけ時間の無駄だと思われます」
爺さんが分厚い紙の束を持ち上げて俺の質問に応じた。
「この売り上げ記録はどの商品がどれだけ売れているかの詳細があるので、それを確認することでこちらの工房の方へ払われている報酬の計算に使われている売上額が正しいかが分かります。
今でしたら過去に開発した全ての商品の報酬に関する売り上げを確認することも可能だと思いますが、種類が多くなってきたら報酬額が多い商品の上位幾つかと、あとは無作為に選んだ商品とで合わせて半分か7割分ぐらい調べたら十分ではないでしょうか?
まあ、作業のチェックに掛ける時間は開発の仕事に取り掛かれない時間でもありますので、どの程度時間を掛けるかは皆さまの優先順位にもよりますが」
爺さんはぱらぱらと報酬の計算をしてある紙を捲って何かを選んで机の上にあったペンチでページを開いた状態で押さえ、次に分厚い紙の束を捲っていって何かを見つけ、右手で紙を抑えながら左手で俺たちを招き寄せた。
「こちらのこの報酬の計算にある売り上げ総額が、こちらの商会が提出した売り上げ詳細と一致していますでしょう?
これが一致していて、契約書類の利益の割合も合っていれば、計算した報酬額は正しいと考えて良いでしょう」
うわぁ・・・。
これを収入の7割分やるのか???
面倒くさそう。
つうか、現時点では少ないんだし全商品にやれって口振りだったよな。
少なくともアレクが報告書を作ってくれている間は調べなくても良いんじゃないかと言う気がしてきた。
ちょこちょこっとサンプルで2つ3つ調べれば十分じゃないか??
「ちなみに、こういう風に帳簿の数字を確認していくんだったら、裏帳簿を付けて金を誤魔化している連中なんかはどうやって誤魔化しているんだ?」
態々手間と暇を掛けて裏帳簿を付けて盗んでいるんだ。
単に金庫から金を抜き出して『泥棒が入りました』って言っている訳ではないだろう。
「そうですね・・・。
どちらの方向に誤魔化すかでも違いますが、収益額を誤魔化すのでしたら使ってもいない費用を払ったかのように見せかけてお金を抜き取るのが多いでしょうか。
『信頼しているから』と碌なチェックをしないと売り上げ報告書にある売り上げや契約で合意した利率その物を誤魔化すことも増えますので、必ず絶対にそれなりの割合をチェックすることをお勧めします」
穏やかに爺さんが答える。
なるほど。
チェックしないと思われたら手抜きで入ってくる筈の金額を安易に誤魔化すのか。
ちゃんとチェックしているなら払わなかった費用を払ったかのように見せかける、と。
「実際に払っていない費用かどうかなんて、どうやったら分かるの?」
シャルロが首を傾げて尋ねる。
「まあ、費用の多くは毎年払っていますから、前年度と比べて変動した金額が妥当かを考えるのも良い事だと思いますよ。
あとは相手の会社に直接出向いて確認するのも重要です。
受け取り証なんて幾らでも偽造できますからね。
金額が大きかったり、変動が腑に落ちない出費に関しては店に出向いて確認するのが一番です」
爺さんが説明を続ける。
「今回は関係ありませんが、自分達の収益ではなく、誰かへの投資を考えている場合は売上を水増しして儲かっていないのに儲けているように見せかけることもありますので、ご注意ください」
なんかもう、いい加減頭が一杯一杯になって来たんだけど。
投資なんぞ、一生しなくて良いや。
どうせ金は貸したら返ってこないものと思えって教わって育ったし。
返ってこないと思って恵むんだったら調べる手間も省ける。
まあ、基本的に金は貸すつもりは無いけどね。
【後書き】
そろそろ頭から煙が出てきそうなウィル君w
これとこちらの売り上げ詳細を確認すると、ちゃんと売り上げに対する正当な割合の利益を工房が受け取っているか確認できますね」
かなり年の行った爺さんがにこやかに工房に置いてあるファイルを手に取りながら俺とシャルロに一から解説してくれている。
オレファーニ家の王都の前家宰とやらで、『引退して暇でしょうがない年寄りですよ』と言って『お坊ちゃま』の教育の為に来てくれている。
しかも、態々俺たちに教えるために昨日1日かけてアレクにファイルや報告書の詳細を説明してもらっているんだから、よっぽど暇なのか、それともやはり『お坊ちゃま』がそれだけ大切で心配なのか、なんとも判断に悩むところだ。
「ちなみに、売り上げの総額が正しいかどうかはどうやって分かるんだ?
割合が正しくてもそれを使って計算する総額が違っていたら意味が無いと思うんだが」
この際なので、ついでに頭に浮かんだ疑問を全部聞いてみている。
一応アレクには過去に説明されている筈なんだけどね。
年に1回しか考えもしないし、色々忙しくしているうちにすっかり跡形もなく記憶の中から消えてしまった。
この際最初からしっかり教えて貰おう!
アレクも『私が準備したと思わず、そ知らぬ人間がやったと思って騙したり間違えたり出来る部分を全部解明するつもりで学び直してくれ』と言っていたし。
将来的に、アレクが忙しくなって帳簿を誰か外部の人間に任せることになった際に俺たちにもちゃんとチェックする役割を果たしてもらいたいから、しっかり理解しろという事らしい。
「こちらがシェフィート商会の売り上げの総合記録です。
課税やギルドの会費に関わるので、国税局や商業ギルドのチェックが入っているので取り敢えず間違っていないと想定しても良いでしょう。
というか、プロがチェックしていて見つけられないレベルで擬装されていたらお坊ちゃまやお仲間の方々が見つけられる可能性は非常に低いので、努力するだけ時間の無駄だと思われます」
爺さんが分厚い紙の束を持ち上げて俺の質問に応じた。
「この売り上げ記録はどの商品がどれだけ売れているかの詳細があるので、それを確認することでこちらの工房の方へ払われている報酬の計算に使われている売上額が正しいかが分かります。
今でしたら過去に開発した全ての商品の報酬に関する売り上げを確認することも可能だと思いますが、種類が多くなってきたら報酬額が多い商品の上位幾つかと、あとは無作為に選んだ商品とで合わせて半分か7割分ぐらい調べたら十分ではないでしょうか?
まあ、作業のチェックに掛ける時間は開発の仕事に取り掛かれない時間でもありますので、どの程度時間を掛けるかは皆さまの優先順位にもよりますが」
爺さんはぱらぱらと報酬の計算をしてある紙を捲って何かを選んで机の上にあったペンチでページを開いた状態で押さえ、次に分厚い紙の束を捲っていって何かを見つけ、右手で紙を抑えながら左手で俺たちを招き寄せた。
「こちらのこの報酬の計算にある売り上げ総額が、こちらの商会が提出した売り上げ詳細と一致していますでしょう?
これが一致していて、契約書類の利益の割合も合っていれば、計算した報酬額は正しいと考えて良いでしょう」
うわぁ・・・。
これを収入の7割分やるのか???
面倒くさそう。
つうか、現時点では少ないんだし全商品にやれって口振りだったよな。
少なくともアレクが報告書を作ってくれている間は調べなくても良いんじゃないかと言う気がしてきた。
ちょこちょこっとサンプルで2つ3つ調べれば十分じゃないか??
「ちなみに、こういう風に帳簿の数字を確認していくんだったら、裏帳簿を付けて金を誤魔化している連中なんかはどうやって誤魔化しているんだ?」
態々手間と暇を掛けて裏帳簿を付けて盗んでいるんだ。
単に金庫から金を抜き出して『泥棒が入りました』って言っている訳ではないだろう。
「そうですね・・・。
どちらの方向に誤魔化すかでも違いますが、収益額を誤魔化すのでしたら使ってもいない費用を払ったかのように見せかけてお金を抜き取るのが多いでしょうか。
『信頼しているから』と碌なチェックをしないと売り上げ報告書にある売り上げや契約で合意した利率その物を誤魔化すことも増えますので、必ず絶対にそれなりの割合をチェックすることをお勧めします」
穏やかに爺さんが答える。
なるほど。
チェックしないと思われたら手抜きで入ってくる筈の金額を安易に誤魔化すのか。
ちゃんとチェックしているなら払わなかった費用を払ったかのように見せかける、と。
「実際に払っていない費用かどうかなんて、どうやったら分かるの?」
シャルロが首を傾げて尋ねる。
「まあ、費用の多くは毎年払っていますから、前年度と比べて変動した金額が妥当かを考えるのも良い事だと思いますよ。
あとは相手の会社に直接出向いて確認するのも重要です。
受け取り証なんて幾らでも偽造できますからね。
金額が大きかったり、変動が腑に落ちない出費に関しては店に出向いて確認するのが一番です」
爺さんが説明を続ける。
「今回は関係ありませんが、自分達の収益ではなく、誰かへの投資を考えている場合は売上を水増しして儲かっていないのに儲けているように見せかけることもありますので、ご注意ください」
なんかもう、いい加減頭が一杯一杯になって来たんだけど。
投資なんぞ、一生しなくて良いや。
どうせ金は貸したら返ってこないものと思えって教わって育ったし。
返ってこないと思って恵むんだったら調べる手間も省ける。
まあ、基本的に金は貸すつもりは無いけどね。
【後書き】
そろそろ頭から煙が出てきそうなウィル君w
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