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卒業後
739 星暦556年 橙の月 19日 確認したら、ヤバかった(17)
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「・・・あれ?」
ぱちぱちと何度か瞬きをした後、三男《キルスタン》が首を振ってちょっと不思議そうな声を零した。
「呪具??
お前、ちゃんと解呪の魔具を場所に行っていなかったのか?!」
フィダルト侯爵が顔をしかめながら三男《キルスタン》を問い詰める。
「いや、ちゃんと行ってましたよ。
ただ、私は別に重要な秘密を知っている訳でもないですし、誰かに便宜を諮れる訳でもないし、特に変に質問をしてくる人間とも会っていなかったので今まで通り週に1回だったんです。
・・・考えてみたら、前回行ったのはダルベール伯爵令嬢と会う前でしたね」
坊ちゃんが言い返しながら前回の解呪のタイミングを思い出す。
「今まで広まっていた呪具の利用方法は便宜を諮ったり情報収集の為だったので、そう言った働きかけを受ける可能性がある立場の人間は出来るだけ頻度を上げて解呪の魔具の元へ行くようにと国の方でも推奨していました。
ただ、先日発見したのですがあの呪具の洗脳効果は、異性による誘惑をより強力なモノにする惚れ薬のような使い方も出来るのです。
しかも愛情を感じたと思い込んだ場合は解呪後も恋愛感情を抱いていると誤解しつづける可能性もあるので、ある意味直接国家機密を盗もうとするよりもやっかいかも知れません」
ファルナが二人に説明する。
元々、愛情なんて思い込みと誤解の産物である事も多いしねぇ。
解呪されて洗脳部分が冷めても、単に愛情が薄れただけと思って呪具の使用を疑わない可能性が高いから、一級禁忌品の使用者にとってはかなり危険度の低い使い方だと言えよう。
若い息子の方はイマイチ何が起きているのか理解し切れていないような顔をしているが、父親の方は今回の訪問の理由と息子への危険を理解できたのか、しかめっ面が更に怖くなっている。
だけどさぁ。
・・・俺って一緒に来る必要あったの?
隅で静かに立ってるだけなんだけど。
「ダルベール伯爵家は特にフィダルト侯爵領と何か取引がある訳でも競合関係にある訳でもない。
今度婚姻関係を結ぼうとしたラズバリー伯爵家とは多少は生産物が重なるが、一級禁忌品に手を出すほどでもないと思うのだが・・・」
低く呟く侯爵の話を聞いて思わず目が丸くなる。
おや。
ケレナのお姉さんか妹と結婚する予定だったの?
もしかしたらシャルロと親戚になるかもなのか~。
まあ、俺とはあまり関係ないけど。
「単にフィルダルト卿に一目ぼれした令嬢が我儘を言って呪具を入手させたという比較的罪のない理由の可能性もありますが・・・ラズベリー伯爵家の次女は水精霊の加護持ちであるオレファーニ侯爵家の子息と結婚していますので、そちら関連のつながりで邪魔をしたかったのかも知れませんね。
もしくは邪魔をしたかった第三者が令嬢をそそのかして呪具を『ちょっとした惚れ薬モドキ』として渡した可能性もあります」
ファルナが分析する。
うわ~。
シャルロとの関係を狙ってとばっちりがあちこちに起きる可能性があるのか。
あいつの直接の兄弟は皆結婚しているけど、従姉妹とか親しい知り合いとか、潜在的被害者はそれなりにいそう。
ケレナの方にも被害が及ぶかもとなると、潜在的被害者が更にぐっと増えるな。
ある意味、あの呪具の解呪用魔具じゃなくって呪具の発見器みたいのを作ってばら撒く方が良さそう?
そんな魔具が無いか、もう一度東大陸に行って聞いて来ようかなぁ。
「危険を知らせることは、利用方法を知らせることにもなります。
この困った利用方法もつい先日発覚したばかりでこの情報をどう扱うかはまだ国の上層部でも頭を悩ませているところなのですが、今晩の舞踏会でどの程度あの呪具を使われている人間がいるかを確認してから、特に被害を受けそうな若い未婚の子供がいる高位貴族に警告を出そうという話に現時点ではなっています。
ただ、偶然フィルダルト卿を見かけたので、何かの間違いが起きる前に解呪して何らかの情報収集を先にしておこうとお邪魔させて頂きました」
ファルナが付け足す。
「ありがとう。
今晩の舞踏会にダルベール伯爵令嬢は出席できない筈ですが、さっきまでの私だったらラズベリー伯爵令嬢に失礼な言動をした挙句にダルベール伯爵令嬢に会うために抜け出すなんていうとんでもない事をしかねなかったのかも知れないので、本当に助かりました」
三男《キルスタン》が腕をさすりながらファルナにお礼を言った。
「ふむ。
一応の確認だが、ダルベール伯爵令嬢は趣味ではないのだな?」
フィダルト侯爵が仄かに微笑みを浮かべながら息子に尋ねる。
「ジェシーナと同じ年なんですよ!!
いくら化粧で誤魔化そうと、まだ子供じゃないですか。
なんだってそれを忘れて作り出された美しさに我を忘れそうになっていたのか、自分が信じられませんよ」
嫌そうに顔を歪めながら三男《キルスタン》が応じる。
へぇぇ。
あの呪具って本人の性的志向をある程度歪められるのか。
まあ、化粧で誤魔化した上っ面に騙されやすくするだけで、実際に服を脱いだ小娘を抱けるかは別問題かも知れないが。
そう考えると見た目と思い込みで色々発展しちゃいそう恋愛関係の惚れ薬モドキってマジで危険だな。
考えてみたら去年情報収集の為に呪具を使われた連中も、聞かれて答えたくなることを不自然だとは感じなかったらしいからな。
自分の倫理観や価値観に真っ向から反する行動をやらせようとすると時間が掛かるが、働きかけられていて心が揺らぐことに対して不自然さを感じないって言うのは厄介だ。
マジで、呪具の発見器みたいのがある方が良いかも知れない。
【後書き】
化粧と服で女は化けますからねぇ。
ある意味、体のサイズも魅力の一部になる男の方がそう言う点は厳しいですね~。
ぱちぱちと何度か瞬きをした後、三男《キルスタン》が首を振ってちょっと不思議そうな声を零した。
「呪具??
お前、ちゃんと解呪の魔具を場所に行っていなかったのか?!」
フィダルト侯爵が顔をしかめながら三男《キルスタン》を問い詰める。
「いや、ちゃんと行ってましたよ。
ただ、私は別に重要な秘密を知っている訳でもないですし、誰かに便宜を諮れる訳でもないし、特に変に質問をしてくる人間とも会っていなかったので今まで通り週に1回だったんです。
・・・考えてみたら、前回行ったのはダルベール伯爵令嬢と会う前でしたね」
坊ちゃんが言い返しながら前回の解呪のタイミングを思い出す。
「今まで広まっていた呪具の利用方法は便宜を諮ったり情報収集の為だったので、そう言った働きかけを受ける可能性がある立場の人間は出来るだけ頻度を上げて解呪の魔具の元へ行くようにと国の方でも推奨していました。
ただ、先日発見したのですがあの呪具の洗脳効果は、異性による誘惑をより強力なモノにする惚れ薬のような使い方も出来るのです。
しかも愛情を感じたと思い込んだ場合は解呪後も恋愛感情を抱いていると誤解しつづける可能性もあるので、ある意味直接国家機密を盗もうとするよりもやっかいかも知れません」
ファルナが二人に説明する。
元々、愛情なんて思い込みと誤解の産物である事も多いしねぇ。
解呪されて洗脳部分が冷めても、単に愛情が薄れただけと思って呪具の使用を疑わない可能性が高いから、一級禁忌品の使用者にとってはかなり危険度の低い使い方だと言えよう。
若い息子の方はイマイチ何が起きているのか理解し切れていないような顔をしているが、父親の方は今回の訪問の理由と息子への危険を理解できたのか、しかめっ面が更に怖くなっている。
だけどさぁ。
・・・俺って一緒に来る必要あったの?
隅で静かに立ってるだけなんだけど。
「ダルベール伯爵家は特にフィダルト侯爵領と何か取引がある訳でも競合関係にある訳でもない。
今度婚姻関係を結ぼうとしたラズバリー伯爵家とは多少は生産物が重なるが、一級禁忌品に手を出すほどでもないと思うのだが・・・」
低く呟く侯爵の話を聞いて思わず目が丸くなる。
おや。
ケレナのお姉さんか妹と結婚する予定だったの?
もしかしたらシャルロと親戚になるかもなのか~。
まあ、俺とはあまり関係ないけど。
「単にフィルダルト卿に一目ぼれした令嬢が我儘を言って呪具を入手させたという比較的罪のない理由の可能性もありますが・・・ラズベリー伯爵家の次女は水精霊の加護持ちであるオレファーニ侯爵家の子息と結婚していますので、そちら関連のつながりで邪魔をしたかったのかも知れませんね。
もしくは邪魔をしたかった第三者が令嬢をそそのかして呪具を『ちょっとした惚れ薬モドキ』として渡した可能性もあります」
ファルナが分析する。
うわ~。
シャルロとの関係を狙ってとばっちりがあちこちに起きる可能性があるのか。
あいつの直接の兄弟は皆結婚しているけど、従姉妹とか親しい知り合いとか、潜在的被害者はそれなりにいそう。
ケレナの方にも被害が及ぶかもとなると、潜在的被害者が更にぐっと増えるな。
ある意味、あの呪具の解呪用魔具じゃなくって呪具の発見器みたいのを作ってばら撒く方が良さそう?
そんな魔具が無いか、もう一度東大陸に行って聞いて来ようかなぁ。
「危険を知らせることは、利用方法を知らせることにもなります。
この困った利用方法もつい先日発覚したばかりでこの情報をどう扱うかはまだ国の上層部でも頭を悩ませているところなのですが、今晩の舞踏会でどの程度あの呪具を使われている人間がいるかを確認してから、特に被害を受けそうな若い未婚の子供がいる高位貴族に警告を出そうという話に現時点ではなっています。
ただ、偶然フィルダルト卿を見かけたので、何かの間違いが起きる前に解呪して何らかの情報収集を先にしておこうとお邪魔させて頂きました」
ファルナが付け足す。
「ありがとう。
今晩の舞踏会にダルベール伯爵令嬢は出席できない筈ですが、さっきまでの私だったらラズベリー伯爵令嬢に失礼な言動をした挙句にダルベール伯爵令嬢に会うために抜け出すなんていうとんでもない事をしかねなかったのかも知れないので、本当に助かりました」
三男《キルスタン》が腕をさすりながらファルナにお礼を言った。
「ふむ。
一応の確認だが、ダルベール伯爵令嬢は趣味ではないのだな?」
フィダルト侯爵が仄かに微笑みを浮かべながら息子に尋ねる。
「ジェシーナと同じ年なんですよ!!
いくら化粧で誤魔化そうと、まだ子供じゃないですか。
なんだってそれを忘れて作り出された美しさに我を忘れそうになっていたのか、自分が信じられませんよ」
嫌そうに顔を歪めながら三男《キルスタン》が応じる。
へぇぇ。
あの呪具って本人の性的志向をある程度歪められるのか。
まあ、化粧で誤魔化した上っ面に騙されやすくするだけで、実際に服を脱いだ小娘を抱けるかは別問題かも知れないが。
そう考えると見た目と思い込みで色々発展しちゃいそう恋愛関係の惚れ薬モドキってマジで危険だな。
考えてみたら去年情報収集の為に呪具を使われた連中も、聞かれて答えたくなることを不自然だとは感じなかったらしいからな。
自分の倫理観や価値観に真っ向から反する行動をやらせようとすると時間が掛かるが、働きかけられていて心が揺らぐことに対して不自然さを感じないって言うのは厄介だ。
マジで、呪具の発見器みたいのがある方が良いかも知れない。
【後書き】
化粧と服で女は化けますからねぇ。
ある意味、体のサイズも魅力の一部になる男の方がそう言う点は厳しいですね~。
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