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卒業後
735 星暦556年 橙の月 14日 確認したら、ヤバかった(13)
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なんだかんだでガルバスト男爵の屋敷や隠れ家や愛人宅の捜索に駆り出された俺だが、やっとこの街での俺の仕事は終わったので次の街へ移動することになった。
ちなみに諸々の処罰に関しては王都の方で情報を精査してから確定するらしいが、男爵本人は処刑、爵位に関しては剥奪、長男に関しては取り敢えず処罰は無いものの男爵家の資産は実質全て没収された上に貴族出身だった奥さんからは離縁されて愛人用にこっそり買っていた一軒家だけが残るというかなり侘しい結果になった。
次男《ゼネファルト》に関しては男爵家の犯罪行為の担当だったので無罪釈放とは言えないが、取り敢えず軍部に協力して働くことで執行猶予扱い。あの手紙の相手だった女性の実家に関しては男爵家から没収した資産の一部を使って王国の北部の方へ移転することに。
考えてみたら新しくやり直したいんだったらパストン島に移住なんていうのも有りじゃね?とも思ったが、態々提案して元犯罪組織の中間管理職(多分)を招き込む必要も無いかと思って何も言わなかった。
「あの次男《ゼネファルト》って悪事も働いていたんだろ?
幾ら情報提供するにしてもかなり処分が甘くないか?」
空滑機《グライダー》改に乗りながらファルナに尋ねる。
確かに王都のスラムでも警備兵や審議官に情報を売ることで犯罪者や組織の人間が目こぼしして貰ったり報奨金を貰ったりってことはあったし、今回の話だって国の金を使った訳ではないが・・・かなり条件が甘い気がしないでもない。
惚れ薬モドキな定期的に効果を解呪されるちゃっちい呪具だけならまだしも、違法麻薬や人身売買にも関与していたという話なのだ。
麻薬の販売に携わるような人間は全員極刑にしても良いんじゃないかと密かに思わないでもない俺としては、ちょっと微妙な気分だ。
「どうもあの次男《ゼネファルト》は単なる中間管理職って感じで、大逸れた悪事が出来るような人間でもないってガルバスト男爵の方も思っていたようでね。
次男《ゼネファルト》がびくつくようなキツイ犯罪からは殆ど手を引いていたようなのよ。
お蔭で貴方が男爵邸で色々と見つけてくれなければ極刑にまで出来るだけの証拠が集まらなかったかもってぐらい」
ファルナが肩を竦めながら言った。
おやま。
あれほど次男《ゼネファルト》のところで証拠があったのに、足りなかったのか。
確かにあれだけ几帳面に書類を保管していて足りなかったとなったらやっていなかったんだろうなぁ。
まあ、考えてみたらそこまで凄い(そして金になる)悪事に手を染めていたら、下に裏切られない様にもっと容赦なくやってこないとダメか。
下があっさり裏切る選択肢を選ぶような程度の悪事しかやっていなかったって訳ね。
警備隊に捕まったことがバレたら消されるんじゃないか?という脅しを鼻で笑わなかったから殺しもやっていると思っていたが、それは父親の方だったのかな?
「男爵さんの方も、リタイヤするつもりだったらすっぱり辞めるべきだったってことか。
中途半端に悪事に手を残し続けてそっちで掴まったせいで芋蔓式にもっとヤバい悪事までバレるなんて、アホだな」
まあ、確かに違法行為は儲かるんだろうが。
「麻薬も余程大量に使わなければ廃人にはならない程度の緩いのだったし、人身売買って言っても奉公契約の違法変更程度だしで、ある意味本当に馬鹿よね。
金貸し業で十分儲かっていたんだからそこで止めておけば良かったのに」
「あれ、金貸し業の方が惚れ薬モドキよりも儲かるのか?」
情報収集に使ったり、貴族の政略結婚の破綻用の道具として売り込めばがっつり儲かるだろうに。
それとも金貸し業ってそんなに儲かるのか?
確かに以前見つけた魔術師への違法利率での金貸し業ではがっつり儲けていたらしいが、あれは例外的な話だったんじゃないのか??
「まあ、あの呪具も使い方によってはもっとずっと儲かったでしょうけど、単なる若者用の惚れ薬モドキとして売る分にはそこまで高額には出来ないでしょ?
もっと効果的な使い方を他の人間が思いつく前に根絶しなくちゃいけないから我々はこれからしっかり見て回る必要はあるけど、利益は男爵家の本業の方が大きかったようよ」
ファルナが答えた。
「マジか」
「貴族は金を借りなきゃいけない事情をプライドに掛けてでも公に出来ないから、法定利率なんて無視して借りるのよ。
だから貴族相手に安定的に金貸し業が出来るなら儲けは大きいわよ~。
普通の商家がやると貴族という立場に負けて割引させられたりすることがあるけど、同じ貴族になってしまえばそこら辺もかなり立場が強くなるし。
はっきり言ってウハウハだったようよ?」
ファルナが教えてくれた。
うわぁ。
ウハウハな事業があったのに、国が目を付けるようなヤバい事業で小銭稼ぎをして全部失うなんて、本当にアホだな。
呪具の物凄く美味しい使い方に行き当たっていたのにそれを活用しきる前に捕まるなんて、バカすぎる。
まあ、ヴァサール王国にとっては幸いだったのかもだが。
【後書き】
ウィルは麻薬が大嫌い。
でも今回は緩い大麻程度だし量もそれほど多くなかった模様。
ちなみに諸々の処罰に関しては王都の方で情報を精査してから確定するらしいが、男爵本人は処刑、爵位に関しては剥奪、長男に関しては取り敢えず処罰は無いものの男爵家の資産は実質全て没収された上に貴族出身だった奥さんからは離縁されて愛人用にこっそり買っていた一軒家だけが残るというかなり侘しい結果になった。
次男《ゼネファルト》に関しては男爵家の犯罪行為の担当だったので無罪釈放とは言えないが、取り敢えず軍部に協力して働くことで執行猶予扱い。あの手紙の相手だった女性の実家に関しては男爵家から没収した資産の一部を使って王国の北部の方へ移転することに。
考えてみたら新しくやり直したいんだったらパストン島に移住なんていうのも有りじゃね?とも思ったが、態々提案して元犯罪組織の中間管理職(多分)を招き込む必要も無いかと思って何も言わなかった。
「あの次男《ゼネファルト》って悪事も働いていたんだろ?
幾ら情報提供するにしてもかなり処分が甘くないか?」
空滑機《グライダー》改に乗りながらファルナに尋ねる。
確かに王都のスラムでも警備兵や審議官に情報を売ることで犯罪者や組織の人間が目こぼしして貰ったり報奨金を貰ったりってことはあったし、今回の話だって国の金を使った訳ではないが・・・かなり条件が甘い気がしないでもない。
惚れ薬モドキな定期的に効果を解呪されるちゃっちい呪具だけならまだしも、違法麻薬や人身売買にも関与していたという話なのだ。
麻薬の販売に携わるような人間は全員極刑にしても良いんじゃないかと密かに思わないでもない俺としては、ちょっと微妙な気分だ。
「どうもあの次男《ゼネファルト》は単なる中間管理職って感じで、大逸れた悪事が出来るような人間でもないってガルバスト男爵の方も思っていたようでね。
次男《ゼネファルト》がびくつくようなキツイ犯罪からは殆ど手を引いていたようなのよ。
お蔭で貴方が男爵邸で色々と見つけてくれなければ極刑にまで出来るだけの証拠が集まらなかったかもってぐらい」
ファルナが肩を竦めながら言った。
おやま。
あれほど次男《ゼネファルト》のところで証拠があったのに、足りなかったのか。
確かにあれだけ几帳面に書類を保管していて足りなかったとなったらやっていなかったんだろうなぁ。
まあ、考えてみたらそこまで凄い(そして金になる)悪事に手を染めていたら、下に裏切られない様にもっと容赦なくやってこないとダメか。
下があっさり裏切る選択肢を選ぶような程度の悪事しかやっていなかったって訳ね。
警備隊に捕まったことがバレたら消されるんじゃないか?という脅しを鼻で笑わなかったから殺しもやっていると思っていたが、それは父親の方だったのかな?
「男爵さんの方も、リタイヤするつもりだったらすっぱり辞めるべきだったってことか。
中途半端に悪事に手を残し続けてそっちで掴まったせいで芋蔓式にもっとヤバい悪事までバレるなんて、アホだな」
まあ、確かに違法行為は儲かるんだろうが。
「麻薬も余程大量に使わなければ廃人にはならない程度の緩いのだったし、人身売買って言っても奉公契約の違法変更程度だしで、ある意味本当に馬鹿よね。
金貸し業で十分儲かっていたんだからそこで止めておけば良かったのに」
「あれ、金貸し業の方が惚れ薬モドキよりも儲かるのか?」
情報収集に使ったり、貴族の政略結婚の破綻用の道具として売り込めばがっつり儲かるだろうに。
それとも金貸し業ってそんなに儲かるのか?
確かに以前見つけた魔術師への違法利率での金貸し業ではがっつり儲けていたらしいが、あれは例外的な話だったんじゃないのか??
「まあ、あの呪具も使い方によってはもっとずっと儲かったでしょうけど、単なる若者用の惚れ薬モドキとして売る分にはそこまで高額には出来ないでしょ?
もっと効果的な使い方を他の人間が思いつく前に根絶しなくちゃいけないから我々はこれからしっかり見て回る必要はあるけど、利益は男爵家の本業の方が大きかったようよ」
ファルナが答えた。
「マジか」
「貴族は金を借りなきゃいけない事情をプライドに掛けてでも公に出来ないから、法定利率なんて無視して借りるのよ。
だから貴族相手に安定的に金貸し業が出来るなら儲けは大きいわよ~。
普通の商家がやると貴族という立場に負けて割引させられたりすることがあるけど、同じ貴族になってしまえばそこら辺もかなり立場が強くなるし。
はっきり言ってウハウハだったようよ?」
ファルナが教えてくれた。
うわぁ。
ウハウハな事業があったのに、国が目を付けるようなヤバい事業で小銭稼ぎをして全部失うなんて、本当にアホだな。
呪具の物凄く美味しい使い方に行き当たっていたのにそれを活用しきる前に捕まるなんて、バカすぎる。
まあ、ヴァサール王国にとっては幸いだったのかもだが。
【後書き】
ウィルは麻薬が大嫌い。
でも今回は緩い大麻程度だし量もそれほど多くなかった模様。
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