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卒業後
729 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(7)
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『西通り3番の5』とやらへ向かうのが体力馬鹿な軍人と若い警備兵だけだったら全力疾走する羽目になったかも知れないが、幸いへなちょこ役人も数人一緒にいた為、走る速度は比較的緩やかだった。
まあ、街中を歩いている市民も邪魔だったしね。
建物を包囲する為に若い警備兵と軍人の数人が先に進んでいたようで、俺たちが西通りの3番街についたらちらほらとそれっぽい人影が木陰や建物の角の後ろから目立たないがそこそこ大きそうな家を見張っていた。
中堅どころの商家の拠点が多い地域らしく、比較的大きく悪くない素材の建物が多いが、豪邸という程ではない。
捜査だからと言って下っ端の警備兵が問答無用で押し入れるような場所ではないが、権力者がお互いに牽制しあう程のレベルでもない、丁度誰にも目を付けられにくい中庸な階層と言ったところだな。
元からいた裏社会の人間が裏にいるのだとしたら、かなり良い感じに街中に溶け込んでいる。
呪具なんて危険なものを扱わなければこのまま安全に街でやっていけただろうに。
単なる新しい女を食い物にする商売で他の『惚れ薬モドキ』と同じだと思ったのかな?
『惚れ薬』と言う名称で裏社会が提供しているモノには中毒性のある危険な薬もあるが、少なくとも国が全国一斉に解呪用魔具を設置するほどの効果は無いって事をしっかり認識するべきだった。
どれ程効果があろうと確実に平民クラスの女しか食い物にしないと保証出来るなら上も暫く見ぬ振りをして一緒に甘い汁を吸っていたかも知れないが、売った商品がどう使われるかなんて誰にも保証なんぞ出来ない。
使い方によっては下手をしたら国を動かすレベルの豪商や貴族の政略結婚に支障をきたしかねない呪具なのだ。
問題がありまくりだろう。
しかも古今東西、女に狂って情報漏洩する男は後を絶たないし。
単なる豊満な胸と思わせぶりな言動だけでも十分に危険なのに、そこに呪具なんて言う本人の嗜好を曲げるような魔具まで関与してきたらどんな悪影響が出るか、分かったものではない。
まあ、そう考えると国がもっと早くこういう呪具の使い方を想定して手をうっておくべきだったとも思うけどな。
「行くわよ」
ファルナが声をかけ、役人と警備兵が西通り3番の5の建物の扉をノックし、一瞬待って警備兵が扉を蹴破って中に突入した。
「隠し金庫や魔具探しも得意だったわよね?
手伝って頂戴」
くいっと顎で入り口を示しながらファルナが歩き始めた。
建物の裏もしっかり人が居るようなので、大丈夫かな?
・・・いや、誰かが地下を歩いている。
「早く終わらせるために協力するのは吝かじゃないが・・・地下通路があるみたいだぞ?」
地下に視える人影を追いながら右に歩いていく。
幸い、避難路は一つしかない様だ。
「・・・本当にあなたって便利ねぇ。
軍か警備隊で働かない?
臨時雇いでも良いわよ?」
ファルナが呆れたように言いつつ、数人の警備兵を捕まえて俺の後を追ってきた。
「出来れば遠慮させてもらいたいね。
追う方も追われる方も知恵比べに精を出しているんだ。
俺が居なくても負けない様、頑張ってくれ」
国が問題視するようなヤバい犯罪者を捕まえるのだったら多少は協力しても良いが、普通の犯罪者《プロ》を捕まえるのにあまり協力してはそれこそ裏社会から恨まれかねない。
「お疲れ様」
西通り3番の5から見て3軒東の屋敷から何気ない顔で出てきた男に声をかける。
後ろのひょろい男の方は落ち着きが無くて怯えているが、先に出てきた男はまるで普通の隣人の様に軽い好奇心を持って周りを見回してそのまま歩き去ろうとしている。中々曲者だな。
「おや?
何か用かね?」
ファルナが俺の顔を見て確認し、男の腕をがしっと掴んで後ろ手にロープを掛けた。
「一級禁忌品である呪具販売の疑いで逮捕する。
後で詳しい取り調べの際に言い訳は聞くけど、誰か上の人間を売って取り調べを軽くしたいなら今のうちよ?」
一級禁忌品という言葉を聞いて男の表情が凍ったので、ついでに口を挟んでおく。
「上の黒幕を捕まえるのに協力すれば普通の鉱山労働ぐらいで済むかもしれないぜ?
実務はお前さんがトップなんだろ?
貴族なり豪商なりの金を出して密輸を手配した黒幕の人間が捕まらなかったら、お前が見せしめに拷問付きの公開処刑になるだろうな」
元々、処刑というのは基本的にはあっさり終わる。
だが禁忌品に関わるような重罪だと公開処刑になり、誰も手を出そうと思わなくなる様に拷問まがいに残酷な方法で殺されることになる。
取り調べにしたって、下っ端の売人ならまだしもそれなりの社会的地位(もしくは金)がある人間だったら弁護人を雇って冤罪を叫び権利を主張できるのでそこまで酷い目に合わないことが多いのだが、『禁忌品』となると『酷い目』のハードルが別レベルになるのでかなり危険だ。
一瞬の間にそこまで考えたのか、男はあっさり口を割った。
「ガルバスト男爵の次男だ。
男爵本人も関与しているかも知れないが、我々と取引をしてきた書類は全て次男の名になっている。
それなりに処罰の方を後から緩めてくれるなら、証拠になる書類も確保してあるぞ」
ふむ。
自信満々なところを見るに、どっかの隠れ家に隠してあるのかな?
というか、捕まったという情報が流れたら此奴もさっさと上を潰さないと口封じに殺されかねないしな。
まあ、それは指摘しないでおいてやるけど。
【後書き】
プロには元同業者としてちょっと甘いめなウィル。
豪商とか貴族の証拠集めとかだったらガンガン協力するけど、裏社会が対象の場合は依頼されないと基本的に知らん振り。
今回は年末の予定を狂わせない様に協力したけどw
まあ、街中を歩いている市民も邪魔だったしね。
建物を包囲する為に若い警備兵と軍人の数人が先に進んでいたようで、俺たちが西通りの3番街についたらちらほらとそれっぽい人影が木陰や建物の角の後ろから目立たないがそこそこ大きそうな家を見張っていた。
中堅どころの商家の拠点が多い地域らしく、比較的大きく悪くない素材の建物が多いが、豪邸という程ではない。
捜査だからと言って下っ端の警備兵が問答無用で押し入れるような場所ではないが、権力者がお互いに牽制しあう程のレベルでもない、丁度誰にも目を付けられにくい中庸な階層と言ったところだな。
元からいた裏社会の人間が裏にいるのだとしたら、かなり良い感じに街中に溶け込んでいる。
呪具なんて危険なものを扱わなければこのまま安全に街でやっていけただろうに。
単なる新しい女を食い物にする商売で他の『惚れ薬モドキ』と同じだと思ったのかな?
『惚れ薬』と言う名称で裏社会が提供しているモノには中毒性のある危険な薬もあるが、少なくとも国が全国一斉に解呪用魔具を設置するほどの効果は無いって事をしっかり認識するべきだった。
どれ程効果があろうと確実に平民クラスの女しか食い物にしないと保証出来るなら上も暫く見ぬ振りをして一緒に甘い汁を吸っていたかも知れないが、売った商品がどう使われるかなんて誰にも保証なんぞ出来ない。
使い方によっては下手をしたら国を動かすレベルの豪商や貴族の政略結婚に支障をきたしかねない呪具なのだ。
問題がありまくりだろう。
しかも古今東西、女に狂って情報漏洩する男は後を絶たないし。
単なる豊満な胸と思わせぶりな言動だけでも十分に危険なのに、そこに呪具なんて言う本人の嗜好を曲げるような魔具まで関与してきたらどんな悪影響が出るか、分かったものではない。
まあ、そう考えると国がもっと早くこういう呪具の使い方を想定して手をうっておくべきだったとも思うけどな。
「行くわよ」
ファルナが声をかけ、役人と警備兵が西通り3番の5の建物の扉をノックし、一瞬待って警備兵が扉を蹴破って中に突入した。
「隠し金庫や魔具探しも得意だったわよね?
手伝って頂戴」
くいっと顎で入り口を示しながらファルナが歩き始めた。
建物の裏もしっかり人が居るようなので、大丈夫かな?
・・・いや、誰かが地下を歩いている。
「早く終わらせるために協力するのは吝かじゃないが・・・地下通路があるみたいだぞ?」
地下に視える人影を追いながら右に歩いていく。
幸い、避難路は一つしかない様だ。
「・・・本当にあなたって便利ねぇ。
軍か警備隊で働かない?
臨時雇いでも良いわよ?」
ファルナが呆れたように言いつつ、数人の警備兵を捕まえて俺の後を追ってきた。
「出来れば遠慮させてもらいたいね。
追う方も追われる方も知恵比べに精を出しているんだ。
俺が居なくても負けない様、頑張ってくれ」
国が問題視するようなヤバい犯罪者を捕まえるのだったら多少は協力しても良いが、普通の犯罪者《プロ》を捕まえるのにあまり協力してはそれこそ裏社会から恨まれかねない。
「お疲れ様」
西通り3番の5から見て3軒東の屋敷から何気ない顔で出てきた男に声をかける。
後ろのひょろい男の方は落ち着きが無くて怯えているが、先に出てきた男はまるで普通の隣人の様に軽い好奇心を持って周りを見回してそのまま歩き去ろうとしている。中々曲者だな。
「おや?
何か用かね?」
ファルナが俺の顔を見て確認し、男の腕をがしっと掴んで後ろ手にロープを掛けた。
「一級禁忌品である呪具販売の疑いで逮捕する。
後で詳しい取り調べの際に言い訳は聞くけど、誰か上の人間を売って取り調べを軽くしたいなら今のうちよ?」
一級禁忌品という言葉を聞いて男の表情が凍ったので、ついでに口を挟んでおく。
「上の黒幕を捕まえるのに協力すれば普通の鉱山労働ぐらいで済むかもしれないぜ?
実務はお前さんがトップなんだろ?
貴族なり豪商なりの金を出して密輸を手配した黒幕の人間が捕まらなかったら、お前が見せしめに拷問付きの公開処刑になるだろうな」
元々、処刑というのは基本的にはあっさり終わる。
だが禁忌品に関わるような重罪だと公開処刑になり、誰も手を出そうと思わなくなる様に拷問まがいに残酷な方法で殺されることになる。
取り調べにしたって、下っ端の売人ならまだしもそれなりの社会的地位(もしくは金)がある人間だったら弁護人を雇って冤罪を叫び権利を主張できるのでそこまで酷い目に合わないことが多いのだが、『禁忌品』となると『酷い目』のハードルが別レベルになるのでかなり危険だ。
一瞬の間にそこまで考えたのか、男はあっさり口を割った。
「ガルバスト男爵の次男だ。
男爵本人も関与しているかも知れないが、我々と取引をしてきた書類は全て次男の名になっている。
それなりに処罰の方を後から緩めてくれるなら、証拠になる書類も確保してあるぞ」
ふむ。
自信満々なところを見るに、どっかの隠れ家に隠してあるのかな?
というか、捕まったという情報が流れたら此奴もさっさと上を潰さないと口封じに殺されかねないしな。
まあ、それは指摘しないでおいてやるけど。
【後書き】
プロには元同業者としてちょっと甘いめなウィル。
豪商とか貴族の証拠集めとかだったらガンガン協力するけど、裏社会が対象の場合は依頼されないと基本的に知らん振り。
今回は年末の予定を狂わせない様に協力したけどw
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