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卒業後
717 星暦556年 黄の月 21日 もうそろそろ涼しい(5)
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「なんか、夜中に寝返りを打った際に魔術回路が断線したのか、朝起きたら動いてなかった」
朝食後に現れたシャルロが報告した。
「私の方は大丈夫だったが、ちょっと固くて寝心地が悪かったな」
アレクの方が寝相が良いのか、薄いシーツの下に仕込んだ発熱寝具の魔術回路は無事だったらしいが・・・安眠妨害になったらしい。
「断線したり安眠妨害にならない様にあらかじめそれなりに厚めのクッション生地を挟んだらあまり暖かい感じがしなかったんだよな?
だったら・・・マットレスってスプリングを枠の中に押し込んでカバーを掛けたようなもんだから、この枠の中に魔術回路を入れたらどうだ?」
人間の体というのは寝転がっていても部位によって突き出している部分とへこんでいる部分があるため、それなりにマットレスが上からの重さに対応してへこむ構造じゃないと体重が掛かったら居心地が悪くなる。
まあ、俺みたいに慣れていればそれなりにどんな環境でも眠れるんだけどな。
子供の頃からちゃんとしたマットレスで寝るのに慣れている二人はしっかりと体の凹凸を受け止めてくれる寝具の上じゃないと熟睡できないらしい。
貧乏人だったら俺みたいに板の上に薄いタオルケットを敷いただけでも眠れるっていう人間も多いが、なんと言っても魔具を買おうなんて考えるのはそれなりに金を持っている連中だ。
貧乏人から成功して金を持つに至った人間もいるだろうが、大多数は子供の頃からそれなりな環境で育ってきているから、仄かに暖かくなる魔具の為に金を掛けるんだったら寝心地は現状維持かそれ以上じゃないと満足しないだろう。
なんと言っても、魔具自体がそれなりに良い品質の布団や毛布と同じかそれ以上の値段になる可能性が高いのだ。
寝心地が悪くなるなら品質が良くて暖かい羽根布団を買う方が良いという事になってしまう。
という事で最初はかなり厚いクッション生地の下に魔術回路を仕込んでみたのだが・・・余剰魔力程度で動く発熱魔具では分厚いクッションが邪魔でイマイチ熱がちゃんと伝わらなかったらしい。
一応温度計を置いて測ってみたら、発熱魔具がある部分と無い部分で多少の温度差はあったものの、人間ってそうそう敏感に温度差を感知できる訳では無いので効果を実感できないという話になったのだ。
なので今回は極薄いクッション生地の下に魔術回路を仕込んだのだが・・・失敗のようだ。
「流石にマットレスの中に仕込むのは大変過ぎるし、上の方に故障時の修理が大変な事になるぞ」
アレクが反対した。
まあ、マットレス自体がそれなりに高いのに、それに魔具も仕込んで一緒に買えなんて言ったら購入者が激減か。
マットレスなんて10年とか20年に一度程度しか買い替えないだろうし。
「もう、金持ち用の寝具は諦めて、軍人用にでも寝袋に仕込んだのを作ってみるか?
寝袋だったら寝返り打っても体の下に巻き込めないから、上の部分に魔術回路を入れておけば大丈夫だろ?
内側にシーツを入れる形で使えば寝袋そのものは洗わないだろうし」
軍人だったら遠征の時なんかに外で野宿する際に、薄くて暖かい寝袋があったら重宝されるのではないだろうか?
「う~ん。
寝袋って出てくるのに時間が掛かるよね?
遠征中にそんなので、良いのかな?」
魔術学院での遠征モドキな1泊二日の実習で、寝袋から出るのに悪戦苦闘したシャルロが微妙そうな声を上げた。
シャルロは寝相が悪すぎて寝袋の中でシーツが滅茶苦茶になっていたのが原因だったから、普通の軍人だったらそこまで問題にはならないと思うぞ?
「・・・最近、力を込めたら比較的簡単に外れるボタンとフックの間の様なスナップボタンというのが売られるようになったんだ。
片側を縫う代わりにこれで留める様にして、力を込めて引っ張れば直ぐにガバッと開く様な寝袋にすれば非常時にも簡単に抜け出せて良いかも知れないな」
アレクがふと思いついたように提案した。
ほおう。
そう言えば、そんな感じのボタンの話をシェイラと仕立て屋に行った際に聞いたな。
男にはあまり関係ないのだが、そのスナップボタンとやらを使えば女性用のお洒落な服でも一人で脱げるというのがうけていた。
女性のおしゃれな服ってデザインを生かすために脇の下とか背中にボタンがあることが多いから、一人じゃあ着るのは当然の事ながら脱ぐのも出来ないんだよな。
それがこのスナップボタンだと着るのは手伝いがいるのに変わりは無いが、メイドが就寝した後に帰ってきても引っ張れば一人で脱げると仕立て屋の人間が言っていたし、シェイラもそれが気に入ったのか一式服を作っていた。
1年の殆どの時間を遺跡発掘に費やしているのにお洒落な服なんているのか?と密かに思わないでもなかったが、年末年始とかに王都に帰ってきた際にそれなりに必要らしい。
まあ女性の服はともかく。いざという時にがっと腕を伸ばせば開けて抜け出せる寝袋というのは発熱魔具が入っていなくても便利そうだ。
「良さそうだな。
がっつり寝袋を売り込むのに使えそうじゃないか?」
ついでにシャルロみたいな寝相の人間でも中でシーツがこんがらがらない様に、シーツもちょっとボタンで数カ所固定してこんがらがらない様にしたら更に良さそうだ。
朝食後に現れたシャルロが報告した。
「私の方は大丈夫だったが、ちょっと固くて寝心地が悪かったな」
アレクの方が寝相が良いのか、薄いシーツの下に仕込んだ発熱寝具の魔術回路は無事だったらしいが・・・安眠妨害になったらしい。
「断線したり安眠妨害にならない様にあらかじめそれなりに厚めのクッション生地を挟んだらあまり暖かい感じがしなかったんだよな?
だったら・・・マットレスってスプリングを枠の中に押し込んでカバーを掛けたようなもんだから、この枠の中に魔術回路を入れたらどうだ?」
人間の体というのは寝転がっていても部位によって突き出している部分とへこんでいる部分があるため、それなりにマットレスが上からの重さに対応してへこむ構造じゃないと体重が掛かったら居心地が悪くなる。
まあ、俺みたいに慣れていればそれなりにどんな環境でも眠れるんだけどな。
子供の頃からちゃんとしたマットレスで寝るのに慣れている二人はしっかりと体の凹凸を受け止めてくれる寝具の上じゃないと熟睡できないらしい。
貧乏人だったら俺みたいに板の上に薄いタオルケットを敷いただけでも眠れるっていう人間も多いが、なんと言っても魔具を買おうなんて考えるのはそれなりに金を持っている連中だ。
貧乏人から成功して金を持つに至った人間もいるだろうが、大多数は子供の頃からそれなりな環境で育ってきているから、仄かに暖かくなる魔具の為に金を掛けるんだったら寝心地は現状維持かそれ以上じゃないと満足しないだろう。
なんと言っても、魔具自体がそれなりに良い品質の布団や毛布と同じかそれ以上の値段になる可能性が高いのだ。
寝心地が悪くなるなら品質が良くて暖かい羽根布団を買う方が良いという事になってしまう。
という事で最初はかなり厚いクッション生地の下に魔術回路を仕込んでみたのだが・・・余剰魔力程度で動く発熱魔具では分厚いクッションが邪魔でイマイチ熱がちゃんと伝わらなかったらしい。
一応温度計を置いて測ってみたら、発熱魔具がある部分と無い部分で多少の温度差はあったものの、人間ってそうそう敏感に温度差を感知できる訳では無いので効果を実感できないという話になったのだ。
なので今回は極薄いクッション生地の下に魔術回路を仕込んだのだが・・・失敗のようだ。
「流石にマットレスの中に仕込むのは大変過ぎるし、上の方に故障時の修理が大変な事になるぞ」
アレクが反対した。
まあ、マットレス自体がそれなりに高いのに、それに魔具も仕込んで一緒に買えなんて言ったら購入者が激減か。
マットレスなんて10年とか20年に一度程度しか買い替えないだろうし。
「もう、金持ち用の寝具は諦めて、軍人用にでも寝袋に仕込んだのを作ってみるか?
寝袋だったら寝返り打っても体の下に巻き込めないから、上の部分に魔術回路を入れておけば大丈夫だろ?
内側にシーツを入れる形で使えば寝袋そのものは洗わないだろうし」
軍人だったら遠征の時なんかに外で野宿する際に、薄くて暖かい寝袋があったら重宝されるのではないだろうか?
「う~ん。
寝袋って出てくるのに時間が掛かるよね?
遠征中にそんなので、良いのかな?」
魔術学院での遠征モドキな1泊二日の実習で、寝袋から出るのに悪戦苦闘したシャルロが微妙そうな声を上げた。
シャルロは寝相が悪すぎて寝袋の中でシーツが滅茶苦茶になっていたのが原因だったから、普通の軍人だったらそこまで問題にはならないと思うぞ?
「・・・最近、力を込めたら比較的簡単に外れるボタンとフックの間の様なスナップボタンというのが売られるようになったんだ。
片側を縫う代わりにこれで留める様にして、力を込めて引っ張れば直ぐにガバッと開く様な寝袋にすれば非常時にも簡単に抜け出せて良いかも知れないな」
アレクがふと思いついたように提案した。
ほおう。
そう言えば、そんな感じのボタンの話をシェイラと仕立て屋に行った際に聞いたな。
男にはあまり関係ないのだが、そのスナップボタンとやらを使えば女性用のお洒落な服でも一人で脱げるというのがうけていた。
女性のおしゃれな服ってデザインを生かすために脇の下とか背中にボタンがあることが多いから、一人じゃあ着るのは当然の事ながら脱ぐのも出来ないんだよな。
それがこのスナップボタンだと着るのは手伝いがいるのに変わりは無いが、メイドが就寝した後に帰ってきても引っ張れば一人で脱げると仕立て屋の人間が言っていたし、シェイラもそれが気に入ったのか一式服を作っていた。
1年の殆どの時間を遺跡発掘に費やしているのにお洒落な服なんているのか?と密かに思わないでもなかったが、年末年始とかに王都に帰ってきた際にそれなりに必要らしい。
まあ女性の服はともかく。いざという時にがっと腕を伸ばせば開けて抜け出せる寝袋というのは発熱魔具が入っていなくても便利そうだ。
「良さそうだな。
がっつり寝袋を売り込むのに使えそうじゃないか?」
ついでにシャルロみたいな寝相の人間でも中でシーツがこんがらがらない様に、シーツもちょっとボタンで数カ所固定してこんがらがらない様にしたら更に良さそうだ。
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