704 / 1,038
卒業後
703 星暦556年 緑の月 30日 久しぶりに船探し(15)
しおりを挟む
結局、シェイラとの空のお散歩は諦めて転移門を使ってファーグからヴァルージャまで向かい、二人を転移門で連れてくることにした。
ツァレスの魔術院支部から船までの移動を手配するのも面倒だったし、なんと言ってもシェイラがそわそわとしてさっさと神殿探索を始めたいと思っているのが通信用魔具ごしでも分かったからね。
あの状態で空滑機《グライダー》で時間を過ごしても微妙だろう。
海底にある未知の神殿のことを考えていて気もそぞろになっている恋人に、努力してこちらの会話に付き合ってもらいたいほど俺も何か話をしたい訳ではない。
それよりは帰りに景色を楽しみつつ一緒に空を楽しめば良い。
まあ、ギリギリまで神殿で粘ったせいで暗くなっちまって、空滑機《グライダー》を使うのには遅くなりすぎる可能性も高そうだが。
そうなったら神殿を見終わってから適当に美味しそうな食事処にでも行って食事と一緒に会話を楽しむかな?
それに、早朝に空滑機《グライダー》で移動して待ち合わせっていうのもちょっと厳しいしね。
という事で、結局待ち合わせ場所は魔術院のヴァルージャ支部の転移門近くという事になった。
転移門から出てきて目に入ったのは、此方に抱き着かんばかりの勢いで駆け寄って来るツァレスの姿。
シェイラならまだしも、あんたに抱き着かれたくないよ。
さっとツァレスを避けて、シェイラに軽く抱きしめる。
「おはよ」
「おはよう。
今回は色々とありがとうね」
小さく苦笑しながらシェイラが答える。
まあ、無料で専門家の知識を教えて貰うんだ。
お互い様という事で良いだろう。
これで王都の歴史学会に連絡を取ったりしたら、誰が来るかの熾烈な争いが収まるまでどれだけ時間が掛かったか分からない。
ちょっとツァレスが邪魔でも、必要悪という事で我慢しよう。
「さあ、行こう!!!」
俺に避けられたことを微塵も気にせず、ツァレスが転移門の方へ突っ込んでいこうとした。
「まずは必要事項をこっちで書き込まないと」
ちゃんと行先、代金の支払い(もしくは魔力の提供)を転移門が設置してある部屋に入る前にしないといけない。
過去に何度か切実に急いでいたり金が無い人間が目の前にあった転移門に飛び込んむなんて事件があったらしく、今では転移門を見ることが出来るのはちゃんと支払いが済んだ人間だけとなっている。
ちゃんと行先設定が終わっていない転移門に飛び込むなんて、自殺行為だ。
アホンダラが自殺するだけだったらまだしも、変な風に使われた転移門の修理と調整(場合によってはついでに飛び散った血の清掃)はかなり時間が掛かるのだ。
なので今ではそこら辺は非常に厳しくなっている。
魔術師が同行している場合はかなり手続きは早いし、月の終わりとは言え、早朝に混むほどヴァルージャもファーグも人の往来が多い訳ではないので、ちゃちゃっと準備が終わり、半刻もしないうちに俺たちはファーグの街に辿り着いていたけどね。
「そう言えば、今回は屋敷船で来ているって話だったけど・・・探索もそれでやっているの?」
シェイラが小型船に乗り込みながら尋ねた。
「いや、流石にあれを全部海底まで持って行くのは無駄だからね。
この小型船はパディン夫妻やメイドが港と行き来するのに使って、海底探索は中くらいの手漕ぎボートを使ってる」
今回はシェイラやケレナも誘うかもと思ったので探索用の手漕ぎボートはちょっと大きめな中型のにしておいた。
普段はもう一回り小さいんだけど、あれは4人乗りだ。
ケレナとシェイラならまだしも、ツァレスが乗るとなったらどう考えても狭すぎだったから、中型のを選んだのは正しかったぜ。
「お久しぶり~。
そう言えば、こちらは僕の奥さんのケレナ。ツァレスは会った事ないよね?
ケレナ、こちらはツァレス・メンダラス氏。ヴァルージャ近郊のフォラスタ文明の遺跡発掘責任者で普段はシェイラと一緒に働いている人なんだ」
屋敷船に着いた俺たちをシャルロ達が迎えた。
「お久しぶり。
そういえば結婚おめでとう。
神殿に行く途中で詳しく教えてくれると嬉しいが・・・さあ、行こう!!」
ツァレスが足をじたばたさせかねない勢いで焦れていたので、挨拶もほどほどに皆で苦笑を浮かべながら中型の手漕ぎボートへ移った。
まあ、俺たちもさっさと神殿の解説を聞いてみたいからね。
さて。
何か面白い発見があるかな?
【後書き】
転移事故があっても、手の先だけ違う所に転移しちゃったりって程度なら流血は凄くても一応人は死なないのかな?
まあ、罰金とか損害賠償で死んだ方がマシな気分になっただろうけど。
ツァレスの魔術院支部から船までの移動を手配するのも面倒だったし、なんと言ってもシェイラがそわそわとしてさっさと神殿探索を始めたいと思っているのが通信用魔具ごしでも分かったからね。
あの状態で空滑機《グライダー》で時間を過ごしても微妙だろう。
海底にある未知の神殿のことを考えていて気もそぞろになっている恋人に、努力してこちらの会話に付き合ってもらいたいほど俺も何か話をしたい訳ではない。
それよりは帰りに景色を楽しみつつ一緒に空を楽しめば良い。
まあ、ギリギリまで神殿で粘ったせいで暗くなっちまって、空滑機《グライダー》を使うのには遅くなりすぎる可能性も高そうだが。
そうなったら神殿を見終わってから適当に美味しそうな食事処にでも行って食事と一緒に会話を楽しむかな?
それに、早朝に空滑機《グライダー》で移動して待ち合わせっていうのもちょっと厳しいしね。
という事で、結局待ち合わせ場所は魔術院のヴァルージャ支部の転移門近くという事になった。
転移門から出てきて目に入ったのは、此方に抱き着かんばかりの勢いで駆け寄って来るツァレスの姿。
シェイラならまだしも、あんたに抱き着かれたくないよ。
さっとツァレスを避けて、シェイラに軽く抱きしめる。
「おはよ」
「おはよう。
今回は色々とありがとうね」
小さく苦笑しながらシェイラが答える。
まあ、無料で専門家の知識を教えて貰うんだ。
お互い様という事で良いだろう。
これで王都の歴史学会に連絡を取ったりしたら、誰が来るかの熾烈な争いが収まるまでどれだけ時間が掛かったか分からない。
ちょっとツァレスが邪魔でも、必要悪という事で我慢しよう。
「さあ、行こう!!!」
俺に避けられたことを微塵も気にせず、ツァレスが転移門の方へ突っ込んでいこうとした。
「まずは必要事項をこっちで書き込まないと」
ちゃんと行先、代金の支払い(もしくは魔力の提供)を転移門が設置してある部屋に入る前にしないといけない。
過去に何度か切実に急いでいたり金が無い人間が目の前にあった転移門に飛び込んむなんて事件があったらしく、今では転移門を見ることが出来るのはちゃんと支払いが済んだ人間だけとなっている。
ちゃんと行先設定が終わっていない転移門に飛び込むなんて、自殺行為だ。
アホンダラが自殺するだけだったらまだしも、変な風に使われた転移門の修理と調整(場合によってはついでに飛び散った血の清掃)はかなり時間が掛かるのだ。
なので今ではそこら辺は非常に厳しくなっている。
魔術師が同行している場合はかなり手続きは早いし、月の終わりとは言え、早朝に混むほどヴァルージャもファーグも人の往来が多い訳ではないので、ちゃちゃっと準備が終わり、半刻もしないうちに俺たちはファーグの街に辿り着いていたけどね。
「そう言えば、今回は屋敷船で来ているって話だったけど・・・探索もそれでやっているの?」
シェイラが小型船に乗り込みながら尋ねた。
「いや、流石にあれを全部海底まで持って行くのは無駄だからね。
この小型船はパディン夫妻やメイドが港と行き来するのに使って、海底探索は中くらいの手漕ぎボートを使ってる」
今回はシェイラやケレナも誘うかもと思ったので探索用の手漕ぎボートはちょっと大きめな中型のにしておいた。
普段はもう一回り小さいんだけど、あれは4人乗りだ。
ケレナとシェイラならまだしも、ツァレスが乗るとなったらどう考えても狭すぎだったから、中型のを選んだのは正しかったぜ。
「お久しぶり~。
そう言えば、こちらは僕の奥さんのケレナ。ツァレスは会った事ないよね?
ケレナ、こちらはツァレス・メンダラス氏。ヴァルージャ近郊のフォラスタ文明の遺跡発掘責任者で普段はシェイラと一緒に働いている人なんだ」
屋敷船に着いた俺たちをシャルロ達が迎えた。
「お久しぶり。
そういえば結婚おめでとう。
神殿に行く途中で詳しく教えてくれると嬉しいが・・・さあ、行こう!!」
ツァレスが足をじたばたさせかねない勢いで焦れていたので、挨拶もほどほどに皆で苦笑を浮かべながら中型の手漕ぎボートへ移った。
まあ、俺たちもさっさと神殿の解説を聞いてみたいからね。
さて。
何か面白い発見があるかな?
【後書き】
転移事故があっても、手の先だけ違う所に転移しちゃったりって程度なら流血は凄くても一応人は死なないのかな?
まあ、罰金とか損害賠償で死んだ方がマシな気分になっただろうけど。
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。
※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。
お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!
蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ)
第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞
2019年4月に書籍発売予定です。
俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。
そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。
貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。
まぁ仕方ないよね。
しかし、話はそれで終わらなかった。
冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。
どうしたんだよ、お前ら……。
そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。
神の眼を持つ少年です。
やまぐちこはる
ファンタジー
ゴーナ王国のフォンブランデイル公爵家のみに秘かに伝わる、異世界を覗くことができる特殊スキル【神の眼】が発現した嫡男ドレイファス。
しかしそれは使いたいときにいつでも使える力ではなく、自分が見たい物が見られるわけでもなく、見たからといって見た物がすぐ作れるわけでもない。
食いしん坊で心優しくかわいい少年ドレイファスの、知らない世界が見えるだけの力を、愛する家族と仲間、使用人たちが活かして新たな物を作り上げ、領地を発展させていく。
主人公のまわりの人々が活躍する、ゆるふわじれじれほのぼののお話です。
ゆるい設定でゆっくりと話が進むので、気の長い方向きです。
※日曜の昼頃に更新することが多いです。
※キャラクター整理を兼ね、AIイラストつくろっ!というアプリでキャラ画を作ってみました。意外とイメージに近くて驚きまして、インスタグラムID koha-ya252525でこっそり公開しています。(まだ五枚くらいですが)
作者の頭の中で動いている姿が見たい方はどうぞ。自分のイメージが崩れるのはイヤ!という方はスルーでお願いします。
※グゥザヴィ兄弟の並び(五男〜七男)を修正しました。
※R15は途中に少しその要素があるので念のため設定しています。
※小説家になろう様でも投稿していますが、なかなか更新作業ができず・・・アルファポリス様が断然先行しています。
付与って最強だと思いませんか? 悪魔と呼ばれて処刑されたら原初の悪魔に転生しました。とりあえず、理想の国を創るついでに復讐しようと思います!
フウ
ファンタジー
勇者にして大国アルタイル王国が王太子ノアールの婚約者。
そんな将来を約束された一人の少女は……無実の罪でその人生にあっさりと幕を下ろした。
魔王を復活させて影で操り、全てを赦そうとした聖女様すらも手に掛けようとした公爵令嬢。
悪魔と呼ばれた少女は勇者ノアールによって捕縛され、民の前で処刑されたのだ。
全てを奪われた少女は死の間際に湧き上がるドス黒い感情のままに強く誓い、そして願う。
「たとえ何があったとしても、お前らの言う〝悪魔〟となって復讐してやる!!」
そんな少女の願いは……叶えられた。
転生者であった少女の神によって与えられた権利によって。
そうして悪魔という種族が存在しなかった世界に最古にして始まり……原初の悪魔が降り立ったーー
これは、悪魔になった一人の少女が復讐を……物理的も社会的にも、ざまぁを敢行して最強に至るまでの物語!!
※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。
上記サイトでは完結済みです。
上記サイトでの総PV1200万越え!!
養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます
ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。
彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。
着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。
そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる