シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

683 星暦556年 緑の月 5日 人(+盗品)探し(7)

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逃亡者はそのまま階段を登り続け、屋上に出た。
俺ともう二人の兵士は使用人用の階段を登っていたのでそのまま屋上に出たが、屋上で洗濯物を干したりする必要が無い一般人用の表の通路に繋がった階段は最上階までしかなかったので上の階へ先に行けと指示されたファルグとやらは使用人用階段へ移動しなければならず、遅れてしまった。

俺たちが追いかけているのを振り返って確認した襲撃者(多分)はそのまま勢いよく棟の端まで胸壁の上を走り続け・・・隣の建物へ飛び移った。

マジか~。
5階の上だぜ、ここ?
しかも一階ごとの高さが一般の家屋よりずっと高いから実質広場の鐘楼並みの高さだ。

「俺たち二人分なら術で補助する。
追加の支援要員をあちらの建物に呼べ!!」
浮遊《レヴィア》の術を準備しながら隣を走っている兵士に怒鳴る。

此奴が付き合って飛ぶなら二人分、なんとか術を掛けられるだろう。
というか、俺一人だったらこのぐらいの距離なら飛べるかな?
最近はこういう曲芸じみたことはやっていないが、昔はそれなりに必要に応じて建物の屋上を走り回った。

あの頃よりも体が育ち、飛べる距離も伸びた筈。
中央棟が一番高いので、斜め下へのジャンプだから何とかなるとは思うが、一緒にいる兵士がビビッて最後にちゃんと踏み切らなかったりしたらかえって危険だ。

「不審者が南棟の屋上へ飛び乗って逃亡中!」
兵士が通信用魔具に怒鳴る。

『了解!
2班、使用人用を含めた中央棟への通路を全てに人をやって塞げ!
3班は3階へ急行!』
通信用魔具から命令が聞こえてくる。

ふうん、王宮の兵士用通信機は複数間で通信が出来るのか。
固定型と携帯型を組み合わせたらそう言う使い方が出来るのかな?
ちょっと手を加える必要がありそうだが。

「飛距離が足りなかった分を魔術で補助するから、思い切って踏み切れ!
一緒に飛ぶんじゃなかったら自力だけになるから後ろの連中は無理するなよ!」
少なくともファルグとやらは俺の術に間に合わないだろう。

「ゼダ、お前はこちらに留まって不審者が他の建物に移動しないか見張れ!
ファルグ、3階の回廊に回ってそこから南棟へ移動!」
俺の横を走っていた兵士が残りの奴らに命じる。

下に行った奴はどうするんだろうな?
通信機を持っていないようだったが、そのまま下を探して出口でも固めるのかな?

胸壁の上に飛び乗り、そのまま走り続け・・・ジャンプ。
すぐ後ろから兵士もガン!と踏み切ってジャンプした音が聞こえた。

取り敢えず、自分は間違いなく南棟の屋上に着地できそうなので準備した浮遊《レヴィア》の術を兵の方へ掛ける。

勢いや高さを確かめるために振り返って自分のバランスを崩しては意味がない。
だったら準備した術を掛けてしまった方が楽だ。

それこそ何かを妨害に投げつけられてもこれだけ勢いがあれば壁にはたどり着けるので、俺ならそれで何とか出来る。

まあ、逃亡者の方も他の兵士が回ってくるのに足を止めて俺たち二人のジャンプを邪魔しても意味がないと判断したのか、振り返りもせずにそのまま走って階段へ駈け込んで行ったので心配は必要なかったが。

俺も横の兵士もほぼ同じタイミングで南棟に飛び乗り、ちょっとよろめいたがそのまま走り続けた。

中央棟の方が一階ごとの高さが大きかったのか、4階建ての南棟への落差は1階分よりも大きかった感じだ。
お蔭でちょっと足が痛い。
失敗したな。
魔力をケチらずに俺にも浮遊《レヴィア》の術を掛ければよかった。

だん!という俺たちが飛び乗った音に逃亡者が振り返り、すぐさま逃走を続けた。
一体どこまで逃げるつもりなんだろう?
はっきり言って、シャルロが足止め用の結界を蒼流と展開させた段階で逃走は不可能なんだが・・・。

暗号用魔術回路を隠すために頑張っているのかね?
走っている最中じゃあ碌な隠し場所なんて見つけられないだろうから、隠すんだったら俺に見つかる前にやっておくべきだと思うんだが・・・奇跡を期待しているのか?

はっきり言って迷惑なんだが。


【後書き】
隠れ部屋に居てもウィルが探している限り見つかってしまうんで、逃げ続ける方がまだ希望はあるんですけどね。
でも、最終的には追いかけっこを果てしなく続けるだけで逃げられはしないんだけど;

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