シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

282 星暦553年 萌葱の月 15日 ちょっとした遠出

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「ねぇ、ちょっと遠出しない?」
記録用魔道具やそれに対応する防止用結界の商品化も我々の手を離れ、最近妙に来ていた諸々の手伝いとかも終わって次は何をしようかとノンビリお茶を飲みながら話し合っていた俺たちに、シャルロが突然提案をしてきた。

「遠出ってどこへ?」
またシャルロの親戚の街にでも行くんかね?
王国でも有力な貴族の一員なだけあって、シャルロの親戚は多い。
彼のほんわかした性格もあいまって、それらの数多い親戚とも仲良くやっているようだからまた親しい従姉妹や叔父か叔母が結婚なり出産なりがあって呼ばれてるのかな?

まあ、最近色々バタバタしていたのが全部一区切り着いたところだから、変な話が来ないうちにどっか遠くへ遊びに行くのも悪くない提案だよな。

「サラフォードの方。
実は、アルフォンスの森がもうすぐ現世と触れ合う時期なんだって。だから遊びに来ないかって誘われたの」

はぁ?
アルフォンスってシャルロの使い魔の妖精王だよな?
妖精王が森全体をテリトリーとするという話は知っていたが、現世と触れ合うって・・・。
普段は触れ合ってないの??

「ああ、そう言えばサラフォードの森は幻想界に繋がるという言い伝えがあったね。
アルフォンスがその言い伝えの森の妖精王だったとは知らなかった。
伝説の王を使い魔にしているなんて、学者達に聞かれたらもの凄く興味を持たれそうだぞ?」
アレクがクッキーを手に取りながらからかいを交えて答えた。

そうか。
妖精の森の伝説って、幻想界が現世に時々繋がる際に迷い込んだものの運良く戻って来れた人間が伝えた話らしいよな。
「え。じゃあ、図書館を探したらアルフォンスの事が書いてある伝説が載っている本とかもあるのか?!」
そんな有名人(?)が身近にいたなんて、びっくりだ。

「多分ねぇ。
サラフォード地方の伝説を纏めた本にも妖精の森の話があったけど、アルフォンスに聞いたら全然中身は違うって言っていたから、大元の話を持って帰った人はべろんべろんに酔っ払っていたんだろうって」
酒かぁ。
幻想界というのは幻獣が居る世界であり、知らない人間に取っては普通の森よりもずっと危険だ。
素面だったら何やら雰囲気が普段と違い、見たこともない幻獣が居るのに気が付いたら直ぐに元の街へ戻ろうとするだろう。

幻想界に迷い込んで帰ってきたら何十年も過ぎていたと言うような伝説はそれなりによく知られているのだから。

帰ってこないようなのはそんな判断が出来ないぐらい酔っ払っているか、伝説にある妖精の酒に惹かれて判断力が弱まった呑兵衛ぐらいのものだろう。

そう考えると、妖精の森の伝説が不正確になるのはしょうがないよな。

「今の時期だったらちゃんと帰ってこれるんだね?
妖精の森には私も興味があるが、流石にパーティを楽しんで帰ってきたら何十年も経っていたというのは困る」
笑いながらアレクが確認した。

「勿論。時間の経過が変になっちゃうのは、帰ってくる際に更に別の世界を経由しちゃった場合らしいよ。
アルフォンスがちゃんと帰り道も案内してくれるから、時間軸が狂ったりする心配は無いんで平気~」
シャルロが頷いた。

ふ~ん。
だったら、面白そうだから行ってみたいな。
あまり酒は飲まないが、幻想界を実際にこの目で視れる機会なんて滅多にない。
なんと言っても伝説の世界だ。
後で学園長あたりに話したら、羨ましがられそうだ。


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