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卒業後
281 星暦553年 萌葱の月 8日 調査(5)
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>>>サイド デルヴィン・ガヴァーラ
「ベイラル商会はガルカ王国のテリウス教の王都の神官長から依頼を受けて色々情報を送っていました。
暗号鍵が分かったので今まで入手した資料も見直したところ、どうやらこの国にもテリウス教の神殿の直轄地を作る目的で、それに協力させるために貴族や有力商会の弱みを握ろうと頑張っているようですね」
上司が深くため息をついた。
「ガルカ王国の直轄領の統治があれだけ酷いのに、そんなものをこの国に許すわけがないだろうが。
相変わらず、あの国のテリウス教の人間は頭がおかしいな。
この国の神殿はまだ普通に機能しているというのに、あの『本殿』気取りの連中は一体何でああも酷いんだか。
もう何代も神の声が聞こえる神殿長がいないことを考えても、あそこの連中のやっていることが間違っているのは明らかだろうに・・・」
宗教団体というのは、神の存在をそっちのけで自分の利益や昇進を争うようになった段階でもうその団体の性格が変わってくる。
残念なことに神が直接関与してこない神殿の場合、利己的な人間の方が組織の上へ登り詰められることが多いので、下はまともなのに上が腐った状態がゆっくりと広がる。
ガルカ王国のテリウス教は既にその段階をとうの昔に通り過ぎ、今では下まで上に習って神の名で自分の懐を潤すことに何の躊躇も感じない神官が大多数になっているようだ。
それでも『国教』としての権力があるので組織が機能してしまっているところに諸悪の根源がありそうだ。
アファル王国の神殿はまだ普通に神殿として機能しているというのに。
もしかしたら、神としてはこちらの神殿が本殿だと思っているのかも知れない。
なまじアファル王国のテリウス教がまともだけに、『テリウス教に気を許すな』とは言い切れないことでこちらにとって話が複雑になっている。
まあ、今回の場合は隣国の人間に便宜を図ろうとしていることでアウトだが。
「潰しますか?」
上司に尋ねる。
十分な証拠は挙がっているのだ。
現実的な話として長期的なガルカ王国のテリウス教の脅威がそれ程高くないことを考えると、態々秘密裏に泳がして監視する人員を割くほどのメリットはないだろう。
流石に、いくら国教といえども宗教団体の要求だけでこちらに宣戦布告をしてくる程、ガルカ王国の政府も愚かではない。
が、上司は首を横に振った。
「まず、闇の神殿にでも手伝いを頼んで、ベイラル商会が何故ガルカ王国のテリウス教に手を貸すようになったのか確認しろ。
金や脅迫が理由だったら、彼らの秘密は分かったから、これからはこちらの言うとおりに情報を向こうへ流すよう命じて監督しておけばいい。
変に潰して知らぬ間に他の商会に手を付けられても面倒だからな。
狂信者が大元にいるようだったら・・・しょうがないから火事でも起こして、潰せ」
成る程。
直轄領から搾り取っているので金だけはあるガルカ王国のテリウス教だから、当然金で買収されたのだと思っていたが、必ずしもこちらの思い込みが正しいとは限らないな。
確認して、ベイラル商会がこちらを裏切ってガルカ王国のテリウス教に忠誠を尽くす可能性がなければこちらの手の者として使えばいい訳だ。
「分かりました。早速手配します」
頷きながら手元の書類に目を戻した上司がふと顔を上げた。
「そう言えば、盗賊ギルドの人間を使ったらしいが、どうだったか?
軍が裏の人間と手を組むというのはあまり褒められたことではないが、そのリスクに見合うだけの成果はあったのか?」
サリエル商会の話を聞いて、こちらも盗賊ギルドの人間の手を借りようと提案した際にはかなり渋られた。
手間暇掛けて税務調査を手配したのだから、それで十分だろうと言われたのだ。
実際の所、中の人間を追い出して思う存分調べられるのだから欲しい情報が直ぐに見つかるだろうと自分も思っていたのだが・・・。
スパイ行為を伺わせるような情報が何一つ見つからず、焦っていたところに耳に入ったのがサリエル商会の話だったのだ。
「凄かったですよ。
あっという間に隠し部屋を見つけました。
税務調査の人達も、自分達では商会の本店を解体する勢いで探すので無い限り、あの隠し部屋にはたどり着けなかっただろうと言っていました。
一日で他の隠し場所もほぼ完全に見つけきってくれたと思いますし。
サルティナ以外は彼が軍の人間だと思っていたので、他の調査でも是非彼の力を借りたいと言ってくる人間が何人もいて、困りました」
上司が首を斜めに傾けた。
「ふうん?
だったら、軍で直接雇えないか、交渉してみたらどうだ?
今回みたいな機密性の高い案件は珍しいが、捜査そのものはそれなりにあるんだ。
軍で仕事がない時は審議官や税務調査局に貸し出しても良いだろうし。
それとも、手癖が悪いのか?」
軍で雇った元盗賊ギルドの人間が手癖が悪くて捜査先で色々盗んで回ったりしたら目も当てられない。
そこまで馬鹿でもお調子者でもないようには見えたが・・・。
「難しいと思いますね。
盗賊ギルドも散々渋りましたし、本人にも今までの犯罪歴も全て抹消するからこちらで働かないかと提案しましたが『権力者側の為に働くのなんて絶対に嫌だ』と言われました」
ため息をつきながら上司が肩を竦めた。
「盗賊ギルドの人間ならば、下町出身の人間だろう。あそこの人間は脅迫や強請を日常茶飯事に行う警備兵を『権力者』の代表として捉えているからな。
下町の警備兵の質をどうにかせんことには、まともな協力を盗賊ギルドの人間から得るのは難しいだろうな」
思わずため息が出た。
本来ならば貴族街だろうが商店街だろうが下町だろうが、警備兵の給料は変わらないはずなのだが・・・。
残念ながら下町の見回りや警備をするのは落ちこぼれの仕事であると見なされ、そういう人間が回されることで給料も安い傾向になる。
給料が安いから仕事もまともにせずに、守っているはずの住民を強請って金を得ようとする人間が多くなり、住民から嫌われ、憎まれる。
嫌われ者になることからますます自分の仕事にやりがいがなくなり、まともな勤務をしなくなる。
警備兵に関する悪循環は本当に頭が痛い問題だ。
以前、交代制にしたこともあったが『下町担当』を『外れクジ』と見なすようになり、真面目な警備兵までもが下町担当の間は平気で賄賂を要求するような腐った言動を取るようになり、却って他の地域に移ってからもその悪癖が抜けきらないケースが頻出して問題視された歴史があるぐらいだ。
「難しいですねぇ・・・」
「ベイラル商会はガルカ王国のテリウス教の王都の神官長から依頼を受けて色々情報を送っていました。
暗号鍵が分かったので今まで入手した資料も見直したところ、どうやらこの国にもテリウス教の神殿の直轄地を作る目的で、それに協力させるために貴族や有力商会の弱みを握ろうと頑張っているようですね」
上司が深くため息をついた。
「ガルカ王国の直轄領の統治があれだけ酷いのに、そんなものをこの国に許すわけがないだろうが。
相変わらず、あの国のテリウス教の人間は頭がおかしいな。
この国の神殿はまだ普通に機能しているというのに、あの『本殿』気取りの連中は一体何でああも酷いんだか。
もう何代も神の声が聞こえる神殿長がいないことを考えても、あそこの連中のやっていることが間違っているのは明らかだろうに・・・」
宗教団体というのは、神の存在をそっちのけで自分の利益や昇進を争うようになった段階でもうその団体の性格が変わってくる。
残念なことに神が直接関与してこない神殿の場合、利己的な人間の方が組織の上へ登り詰められることが多いので、下はまともなのに上が腐った状態がゆっくりと広がる。
ガルカ王国のテリウス教は既にその段階をとうの昔に通り過ぎ、今では下まで上に習って神の名で自分の懐を潤すことに何の躊躇も感じない神官が大多数になっているようだ。
それでも『国教』としての権力があるので組織が機能してしまっているところに諸悪の根源がありそうだ。
アファル王国の神殿はまだ普通に神殿として機能しているというのに。
もしかしたら、神としてはこちらの神殿が本殿だと思っているのかも知れない。
なまじアファル王国のテリウス教がまともだけに、『テリウス教に気を許すな』とは言い切れないことでこちらにとって話が複雑になっている。
まあ、今回の場合は隣国の人間に便宜を図ろうとしていることでアウトだが。
「潰しますか?」
上司に尋ねる。
十分な証拠は挙がっているのだ。
現実的な話として長期的なガルカ王国のテリウス教の脅威がそれ程高くないことを考えると、態々秘密裏に泳がして監視する人員を割くほどのメリットはないだろう。
流石に、いくら国教といえども宗教団体の要求だけでこちらに宣戦布告をしてくる程、ガルカ王国の政府も愚かではない。
が、上司は首を横に振った。
「まず、闇の神殿にでも手伝いを頼んで、ベイラル商会が何故ガルカ王国のテリウス教に手を貸すようになったのか確認しろ。
金や脅迫が理由だったら、彼らの秘密は分かったから、これからはこちらの言うとおりに情報を向こうへ流すよう命じて監督しておけばいい。
変に潰して知らぬ間に他の商会に手を付けられても面倒だからな。
狂信者が大元にいるようだったら・・・しょうがないから火事でも起こして、潰せ」
成る程。
直轄領から搾り取っているので金だけはあるガルカ王国のテリウス教だから、当然金で買収されたのだと思っていたが、必ずしもこちらの思い込みが正しいとは限らないな。
確認して、ベイラル商会がこちらを裏切ってガルカ王国のテリウス教に忠誠を尽くす可能性がなければこちらの手の者として使えばいい訳だ。
「分かりました。早速手配します」
頷きながら手元の書類に目を戻した上司がふと顔を上げた。
「そう言えば、盗賊ギルドの人間を使ったらしいが、どうだったか?
軍が裏の人間と手を組むというのはあまり褒められたことではないが、そのリスクに見合うだけの成果はあったのか?」
サリエル商会の話を聞いて、こちらも盗賊ギルドの人間の手を借りようと提案した際にはかなり渋られた。
手間暇掛けて税務調査を手配したのだから、それで十分だろうと言われたのだ。
実際の所、中の人間を追い出して思う存分調べられるのだから欲しい情報が直ぐに見つかるだろうと自分も思っていたのだが・・・。
スパイ行為を伺わせるような情報が何一つ見つからず、焦っていたところに耳に入ったのがサリエル商会の話だったのだ。
「凄かったですよ。
あっという間に隠し部屋を見つけました。
税務調査の人達も、自分達では商会の本店を解体する勢いで探すので無い限り、あの隠し部屋にはたどり着けなかっただろうと言っていました。
一日で他の隠し場所もほぼ完全に見つけきってくれたと思いますし。
サルティナ以外は彼が軍の人間だと思っていたので、他の調査でも是非彼の力を借りたいと言ってくる人間が何人もいて、困りました」
上司が首を斜めに傾けた。
「ふうん?
だったら、軍で直接雇えないか、交渉してみたらどうだ?
今回みたいな機密性の高い案件は珍しいが、捜査そのものはそれなりにあるんだ。
軍で仕事がない時は審議官や税務調査局に貸し出しても良いだろうし。
それとも、手癖が悪いのか?」
軍で雇った元盗賊ギルドの人間が手癖が悪くて捜査先で色々盗んで回ったりしたら目も当てられない。
そこまで馬鹿でもお調子者でもないようには見えたが・・・。
「難しいと思いますね。
盗賊ギルドも散々渋りましたし、本人にも今までの犯罪歴も全て抹消するからこちらで働かないかと提案しましたが『権力者側の為に働くのなんて絶対に嫌だ』と言われました」
ため息をつきながら上司が肩を竦めた。
「盗賊ギルドの人間ならば、下町出身の人間だろう。あそこの人間は脅迫や強請を日常茶飯事に行う警備兵を『権力者』の代表として捉えているからな。
下町の警備兵の質をどうにかせんことには、まともな協力を盗賊ギルドの人間から得るのは難しいだろうな」
思わずため息が出た。
本来ならば貴族街だろうが商店街だろうが下町だろうが、警備兵の給料は変わらないはずなのだが・・・。
残念ながら下町の見回りや警備をするのは落ちこぼれの仕事であると見なされ、そういう人間が回されることで給料も安い傾向になる。
給料が安いから仕事もまともにせずに、守っているはずの住民を強請って金を得ようとする人間が多くなり、住民から嫌われ、憎まれる。
嫌われ者になることからますます自分の仕事にやりがいがなくなり、まともな勤務をしなくなる。
警備兵に関する悪循環は本当に頭が痛い問題だ。
以前、交代制にしたこともあったが『下町担当』を『外れクジ』と見なすようになり、真面目な警備兵までもが下町担当の間は平気で賄賂を要求するような腐った言動を取るようになり、却って他の地域に移ってからもその悪癖が抜けきらないケースが頻出して問題視された歴史があるぐらいだ。
「難しいですねぇ・・・」
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