シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
666 / 1,038
卒業後

665 星暦556年 翠の月 23日 空滑機改(10)

しおりを挟む
「要は、軽い空気で籠を吊し上げている訳だろ?
適当な枠に縦長な空気を通さない結界を張ってその中に熱した空気を入れて吊るさせたらどうだ?
あれほど大きな袋を物理的に使う必要はないだろう」
朝1で熱気球に乗ってみた俺たちは、家に帰ってから工房でお茶を手に空滑機《グライダー》改の離陸装置について話し合いを始めた。

「そうだね、直接結界の中に熱を解放する形にしたら魔力消費の効率も良さそうだし、素材を買って加工する費用も節約できるし、なんと言ってもあの巨大な袋をしまわなくて済むのは大きいよね」
シャルロが俺の言葉に賛成した。

「空気が軽ければ良いんだったら、熱するよりも重量軽減の術を使う方が良くないか?」
アレクが首を軽く傾げながら言う。

「・・・というか、機体にどれだけ重量軽減の術を掛けても浮かないのに、空気に掛けたら浮くのか??」
何か不思議だ。

「大量の空気を軽くしているから浮くのかも?
そう考えると、機体の上に大きな結界を展開させてその空気ごと重量軽減の術を掛けたら浮くかも?」
シャルロが黒板の上に落書きの様な図を描きながら提案した。

「一度上空に浮いたら空気抵抗とかに邪魔になるから結界を解除するとして、大量の空気と機体を対象として重量軽減の術を掛けた場合に機体だけの時より効果が上がるのか、試してみるか」
今まで空気に重量軽減の術を掛けるなんてことはやったことが無かった。

だが、熱することで人を持ち上げられるぐらい空気が軽くなるのだったら、重量軽減の術だって同じことが出来ても良い気がする。
重量軽減の術は対象に直接魔術回路を刻むので、どうやってその上に展開した結界内の空気を対象とするのかは要研究だが。

「容器や結界に入れた空気や液体を対象にする魔術回路が無いか、探すか」
アレクが立ち上がりながら言った。

◆◆◆◆

「意外と色々あるね」
ほぼ1日をかけて魔術院で特許申請されている魔術回路を調べた俺たちは、夕方になって帰宅してから写してきた資料をお互いに見せあった。

臭い消しや水の浄化、果ては風呂のお湯を温める魔術回路など、液体や空気を対象とした魔術回路を片っ端から写してきたので一抱え程もある。

「・・・これを重量軽減の術と組み合わせて結界の中の空気に掛けるのか・・・。
どうやって試すかも色々と研究が必要そうだな」
ちょっとうんざりした顔でアレクが言った。

「というか、普通に術を掛ける時に空気を対象に重量軽減の術を掛けられるか試してみようよ?」
大きな袋をどこからか持ってきたシャルロが提案した。

確かに、魔術回路は定義したことしか出来ないから融通が利かないが、魔術師が直接術を掛ける場合は意図がかなりの度合いで結果を左右するので、空気を対象に術を掛けることは可能だろう。

多分。
「まずは畳んだままの袋に重量軽減の術をかけても浮かないことを確認してから、空気を入れてその中身に掛けられるかやってみてどうなるか試してみようぜ」

空気に掛けているつもりで袋に掛けていたら意味がない。
重量軽減の術は基本的に物を軽くしても物を浮かせるだけの効果はないのだが・・・大量の空気を軽くしたら浮くのか、非常に興味があるところだ。

「ちょっと試しに空気を熱したらどの程度軽くなるのかも調べてみないか?
少なくとも同じ程度に軽くできるなら、同じだけの空気を軽くしたら人間を4人乗せた籠を浮かせられると分かっているんだ。
最初からあれだけ大量な空気を対象に術を掛けるより、小さな模型で試した方が良いだろう」
アレクがごそごそと棚の中を漁りながら言った。

「確かに、重量軽減の術の効果が足りないのか、空気の量が足りないのかはっきりしないと困るな。
だけど、あの熱気球でどの程度空気を熱していたのか分かるのか?」
使っていた魔具の熱量は消費されていた魔力から大体計算できるとは思うが、半刻程度にどのくらい空気が温まったのかは不明だぞ?

「取り敢えず小さな熱気球モドキの模型を作って熱してみよう」
アレクが乾燥用魔具を造った際の魔術回路の試作品を手に持って言った。

確かにな。
確かその試作品は熱すぎて火事になるかもという事で効果を下げることになった奴だから、あれで何とかなりそうか?


【後書き】
かなり行き当たりばったり?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...