シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

654 星暦556年 青の月 13日 渡河用魔具(8)

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ウォレン爺の視点が続きます

【本文】
>>>サイド ウォレン・ガズラート

「ご覧になったように、徐々に水面が上がる程度の増水でしたら対応できますが、突然土石流や山津波が上流から流れてきて水面が一気に持ち上がると標準型の渡河用魔具では対応できません。
ですので標準型を使って橋を流された増水時などに渡河する場合は、川の上流の地形なども考慮に入れた上でくれぐれも山津波などが想定できる場合は使わないで下さい」
アレクが見ている人間に念を込めた説明をした。

ふむ。
上流の地形と言っても倒木などで増水が一時的に堰き止められて山津波のような現象が起きることもある。
ある意味、増水している最中には使うなという事じゃな。

増水で橋が流された場合、それの修理に10日以上かかることも珍しくない。
この足止めされている期間に荷馬車ごと渡河できるとなれば、それはそれで十分効果があると言えよう。

「さて、こちらはそんな増水時にどうしても渡河しなければならない非常時用の魔具です。
山津波が起きても大丈夫なように色々と機能をつけているので機体がかなり高額になりますし、非常時の起動は魔石の消費が非常に激しいです。
高額な機体を買ってもちゃんと動かすだけの魔石を搭載しておかないと意味は無いので、そこら辺の準備もしっかり毎回事前にご確認ください」
アレクが更に説明を続ける。

その間、ウィルとシャルロで荷馬車の中から先ほどの『標準型』より多少厚みがあるように見える魔具を取り出して、荷馬車をそちらの上に移していた。

「では行きま~す」
呑気に手を振って再びシャルロが川に向かう。
多少増水気味だった川面は先ほどの山津波の様な高波の後も何事も無かったように戻っていたのだが・・・考えてみたら、あの波は下流には流れていないのだろうな?

あれで橋が流されていたりしたら大問題だ。
シャルロと蒼流(及びアレク)なのでそこら辺は抜かりないとは思うが、後で確認しておこう。

シャルロが川の半ばに差し掛かったところで再び急遽川の水位が2メタメートルほど盛り上がったが、今回はそれに合わせたようにふわっと魔具と荷馬車が更に上空に浮き上がった。

波が過ぎ去ったところで魔具が降りてきたが、そこへ倒木らしき物体まで流れてくる。
なんとも芸が細かい。
水面から飛び出している枝が荷馬車にぶち当たるかと思ったが・・・結界に弾かれて水面の下に押し戻されていた。

ほう。
非常時に上昇するだけでなく、防御結界も展開するのか。
これならば確かに高額で魔石も大量に使うだろう。
とは言え、増水時の渡河にはこの程度の安全対策は無いと安心はできないか。

そのままシャルロが川を渡り続けていたら更に大波が何度か上流から現れるが、そのたびにふわりふわりと魔具が浮かび上がって水を避けている。

うん?
普通に渡河している時は川面が微妙に下へ押されているように見えるが、この緊急避難的上昇の時にはそれが無い・・・か?
使っている魔術が違うのかも知れんの。
下へ力を掛けずに荷馬車を持ち上げられるとしたら、土砂崩れなどで道が塞がれた斜面などを通るのにも使える可能性が高い。

まあ、土砂崩れでふさがれた道をなんとしても緊急事態として荷馬車ごと通らねばならぬ状況などそうそうないが。
それでも鉱山などの様な人が多い特殊な現場だったら食糧と水の運び込みなどが必要な場合などもある。

山や谷越えだけでなく、土砂崩れ対応に関する需要も後で確認しておくか。

数は揃える必要はないだろうが、非常時用に幾つか軍部で買っておいても良さそうじゃの。
購入部門の主任も熱心にシェフィート商会の人間に質問をしているから同じことを考えていそうだ。

どの位値切れるか、見ものじゃの。
最近はシェフィート商会も軍との取引が増えて来たせいで、『軍との取引のとっかかりになるから』という口実での値引きには応じなくなってきたと聞く。

まあ、頑張って貰おう。
儂としてはシャルロが儲かるのはそれはそれで構わんし。



【後書き】
相変わらずシャルロラブな爺w
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