シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
260 / 1,038
卒業後

259 星暦553年 翠の月 2日 祭りの後(5)

しおりを挟む
>>>サイド アルヌ・ファーナム

「魔術学院って藤の月から始まるんだよね。
俺は赤の月に学院長に会って放り込まれたんで、まだちょっと頑張れば追いつけた。
だが、流石に今から入学したら大変だぜ~。
別に平均的な入学の年齢を過ぎている訳じゃあないし来年からで良いと思うんだが、どうしても今すぐ始めたいと言うならまあ、勉強に協力しても良いが。
どうしたい?」
魔術学院の学院長に相談した後、ウィル・ダントールという俺を見つけた魔術師が彼の家へ連れて行ってくれた。

彼の同居人の二人とも軽く話した後、直ぐに寝てしまったのだが・・・。
朝になって、朝食を食べながら軽い口調でウィル氏が尋ねてきた。

「えっと。
ギルドはどうなるのかな?」

入学をいつにするかよりも、根本的な話がまだ解決していないと思うのだが・・・。

卵焼きとソーセージのお代わりを皿に取りながら、ウィル氏が肩を竦めた。
「大丈夫だよ。
あの学院長が何とかするって言っているんだから。
特級魔術師な上に皇太子の家庭教師まで任されるような男なんだぜ?
お前さんが熟練の凄腕でお偉いさんにとって都合の悪い情報を色々知りまくっているというならまだしも、まだ殆ど何もしていないんだろ?
暗殺アサッシンギルドにとって、態々特級魔術師と魔術院に喧嘩を売ってまでして引き留める理由がないよ」

そうなのか。
なんか、どうでも良いと言われるのはちょっと不満。
とは言え、引き留められても困るけど。

唯一残念なのが、お袋が死んだ後に拾ってくれたおっさんと縁が切れてしまうことかなぁ。
下町で人間は、保護者のいない孤児がどんな目に遭うか知っている。

いつも遊んでいた子供が親が死んだ途端に痩せ細ってきたり。
あちこちに見える痣が増えてきたと思ったらいつの間にか居なくなったり。

孤児なんて、スリやかっぱらい、ゴミあさりでしか食べる物を入手する手段はない。
スリやかっぱらいでは捕まったら後が無い。
かといってゴミあさりなんて競争相手が多すぎて、余程体格が良くない限り他の子供に先に取られるか、折角見つけても奪われるのがオチだ。

そして偶に飢えた孤児に優しくしてくれる大人がいると・・・大抵それは裏ギルドの勧誘員だ。

同じ裏ギルドでも、何の技能も無い子供は大抵の場合は娼婦ハーロットギルドで子供が好きな変態や、人を傷つけることが好きな人間の相手として使い捨てにされる。

それを考えると、お袋の知り合いだと言って俺を拾ってくれて食わせてくれたおっさんには恩がある。

ギルドの事も、使い捨てされないようにちゃんと技能を教えてくれると言っていたし。
まだ教わり始めたばかりで殆ど何も憶えてないけどさ。

「じゃあ、来年から入学でいいや。
それまで、何をしていれば良いんかな?
それまでの生活費も奨学金で貰えるの?」

寮に入れば衣食住の面倒を見てくれると言われたが、それまでどうするんだろ?

「う~ん、魔術院で雑用の下働きでもする?
住む場所はウチで暮しても良いし。ちょっと毎日魔術院まで通うのが遠いけど、ラフェーンかアスカに乗せて貰えばいいんじゃない?」
同居人のシャルロという青年が口を出した。

ふふっともう一人の同居人が笑った。
土竜ジャイアント・モールとユニコーンで通勤する下働きって・・・。
まあ、魔術院で知り合いを増やすのは良いことだけどね。
じゃなきゃ、ウチの商会の店の何処かで下働きとして住み込みで働いても良いよ?」

??
商会になんか伝手があるのか?
泥棒を中に引き入れては困るから、特に住み込みの下働きなんて商会はそれなりに信用がないと雇ってくれない。

「掃除係だとしても、魔術院で知り合いを増やしておくのは良いことなんじゃないか?
まあ、魔術院どっぷりでは無く、俺たちみたいに外の世界で働くつもりなら商会で働く方が世界が広がって良いが。
お前さんはどうしたい?」
皿の上を綺麗に片づけたウィル氏がお茶のお代わりを淹れながら尋ねてきた。

どうしたいんだろう?
魔術師になるなんて、考えたことも無かったからどんな生き方があるのか、想像もつかないよ・・・。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...