シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

627 星暦556年 藤の月 21日 とばっちり(14)

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団長視点続きます


>>>サイド ダグロイド・シャーストン団長(第三騎士団)

「スラム、場合によっては下町を巡回する警備兵の質が悪すぎて住民にとって守りどころか害になっている現状を是正する必要がある事は国の上層部も以前から認識はしておっての。
費やせる労力や資源に制限があった故、これまでは小手先の対応で済ませておったのだが上手くいかなかった。
だがやっと近隣国との状況が落ち着いてきたので、今だったら根本的な解決策に取り組めると言う結論になっての。
軍部もいざとなったら王都内での大規模な軍事作戦になっても他国に国境を侵攻される前にスラムを更地にすることは可能だと言っておる」

(爺さん何を言ってるの?!?!)
色々と上層部で相談し、案を練ってスラムの三大ギルドに話を持ち掛けることになったのだが・・・。
最初から交渉役のウォレン爺がこうも強硬に脅しをかけるとは思っていなかった。

この狸爺のことだから考えがあるのだろうが、前もって言っておいて欲しかった。
心臓に悪い。
鉄壁の無表情は副団長の方が得意なのだ。
やはり今回の同行、あいつに押し付けておくべきだった。

「ほう。
老獪なガズラート殿が持って来る話ですから、単純な力押しにはならないと思っておりましたが・・・間違っておりましたかな?」
鳩の仮面をつけた男が軽い口調で聞き返してきた。

裏ギルドの人間が顔を晒すわけにはいかないとのことで、3人とも仮面をかぶっている。
鳩が盗賊《シーフ》ギルド、蛇が暗殺《アサッシン》ギルド、猫が娼婦《ハーロット》ギルドの長だと言われた。

蛇と猫はまだしも、何故鳩なのか。
イマイチ理解に苦しむ。
ウォレン爺だったら分かるのだろうか?後で聞いてみよう。

「うむ。
まあ、流石にスラムにいる不特定多数の人間を皆殺しにするのは兵にとっても抵抗があるだろう。とは言え、殺さねば恨みが蓄積して後々困った問題になるかもと軍の上層部は心配しておっての。
だが、税も払わぬ相手が占拠する地域に有能な警備兵を配置するのはおかしいと財務省の人間は主張する。
新しい交易相手やそこからくる厄介な魔具の問題などもあるから、有能な人間は港町や国境街に幾らいても足りないぐらいであるし。
困った状況じゃろう?」

そう。
住民に暴力を振るわず、かといってそれなりに柔軟に賄賂を受け取ることでスラムの集団《ギャング》から攻撃されない様な立ち回りをするにはかなり特殊な頭の切れを必要とする。

怪しい呪具や薬などの水際対策で大忙しな港町などで有能な人間が切実に必要とされているのに、銅貨1枚分もの税を払わぬスラムに配置するなんて国の運営としてあり得ない!!!と財務省に悲鳴をあげられると、確かに一理はある。

そこで各裏ギルドとも水面下で感触を探りつつ妥協案を探していたはずなのだが・・・ほぼ話が付いていた内容を合意する筈の会議でこんなに強硬に当たることになるとは想定外だった。

作戦があるなら先に言っておいて欲しかった。

「税も払えぬほど貧しい人間が逃げ込む先がスラムなのですよ。
そんな状況を何とかしなければ、どうしようもないのでは?」
猫の仮面をつけた女が口を挟む。

「確かにの。
とは言え、全てのスラムの人間がまともに働いて税を払うようになったら、お主たちのギルドに入る人間がいなくなって困るのではないのかな?
じゃが、裏ギルドの人間を供給し続けるためにスラムの現状を放置する訳にもいかぬ。
人件費や装備代が掛かっているのに住民からは信頼されるどころか恐れ憎まれている警備兵を引き上げるのも一つの手とは思うが、流石に王都内に全くアファル王国の関与がない地域を造るのも国防的に危険すぎる。
なので、王国としてはスラムの人間が徐々に自立できるように手を講じていこうと考えておる。
これでダメだったら更地化して再開発じゃの」」
アイシャルヌ氏が提案した警備兵を引くという手段は軍部の反対によって流れた。

第三騎士団としては、どうせ国への帰属意識なぞない現状を考えたら『敵』として認識される警備兵をなくした方がまだマシなのではないかと考えていたのだが、国防省としては警備兵がいることである程度は地域内の知識と権威を維持できているので、それを放棄するのは容認できないとの話だった。

孤児だからといって子供を気が向くたびに蹴り殴るような屑の有する知識や権威が本当に有事に役に立つのか怪しいものだが、建前としては一理あるので反対はしにくい。

「ギルドというのは互助組織なのですよ。
自分と仲間を助けるだけの能力がない人間が自立できるようになるのは我々としてもありがたい」
鳩男が肩を竦めながら言った。

「そう言っていただけるとこちらもやりやすい。
取り敢えず、スラムと下町、及びスラムと港との間の地域に一棟ずつ簡単な仕事を斡旋する場所を造る。
そこで仕事を得て働く者は、割安で斡旋所の上の部屋で眠れるようにもする予定じゃ。
斡旋することで受け取る日当は5分だけ税金として引くことで、斡旋所と上の宿場モドキの運営資金とし、継続的にそこで働く者には納税者としての証明書も渡す。
勿論、スラムや下町の女子供でも出来るような仕事が受け取る日当の5分では微々たる金額にしかならないので足りぬ分は国が援助するが、少なくとも税を払っているという形にはなるし、職業訓練になるような仕事を紹介することで将来的にはもっと実入りの良い仕事を見つけられるようになるじゃろう」

スラムの人間が自立できない理由のひとつが、碌な仕事が無いという現実である。
新しい交易先や新領地が出来たことで景気が上向いているアファル王国には現在それなりに労働力に対する需要はあるのだが、スラムの人間では目を離したら何を盗まれるか分かったものではないと雇い主が嫌がるのだ。

斡旋業の流れが軌道に乗るまで、仕事を斡旋した先で悪さをする人間を見張り、止めるのは情報部の仕事になる。

「それは良かった。
それで、今日我々をここに呼びつけた理由は?」
今まで口を開かなかった蛇の仮面の男が尋ねた。

「スラムの土地に対して、地代を払っている人間は一人もおらぬ。
なので、所有者はいないと見做し、全てのスラムの土地は王家の物とし、新年になったら全ての住民及び事業者に地代を払うよう告知が出される。
勿論、住民が払っても飢えぬようそれなりに金額は抑えるが、税金を払わぬ者が何か事件を報告して解決を望む場合は警備兵に銀貨1枚払ってもらう。
納税証明書を持つ者からの訴えだった場合は通常の所定規則に沿った対応をする。
勿論、警備兵が巡回している最中に殺人や暴行を目撃したらそれは止め、犯人を捕縛するが、事後の事件の訴えに関しては納税者のみ、対応する。
警備兵が住民に暴力を振るわぬよう、そして賄賂を受けて事件の対処を恣意的に歪めぬよう、三大ギルドの人員に巡回に立ち会う人材を提供してもらいたい」

そう。
賄賂を受け取らなければ事件に対応しないのではなく、納税者ならば対応するが、納税しないなら依頼料を払う形にするのだ。
そして住民寄りかつ一応軍部の上へ報告の出来る組織の人間が同行することで恣意的な事件の対処を防ぎ、警備兵による暴力も抑制させる。

裏ギルドの者が買収されたら終わりだが、スラムの裏ギルドの裏切り者への熾烈な制裁は有名なので、それを裏切らせるほどの賄賂を払う価値のあるような事件はそうそうないだろう。

一応前もって非公式にも合意していた話に落ち着き長達の空気が落ち着いてきた。
どうやら問題なく話が纏まりそうだ。

だが。
毎回ギルドの人間は仮面をかぶって出てくるのだろうか・・・?
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