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卒業後
621 星暦555年 桃の月 19日 とばっちり(8)
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>>>サイド ウォレン・ガズラート
「ベルファウォードは街全体を封鎖し、領主殿の許可を得て成人した住民全員に軽い自白剤を投与して確認したところ、多分情報は漏れていないのではないかという結論になったようです」
今日は第3騎士団の団長室でお茶を飲みながら、ウィルに押し付けた街毎の精神汚染度の確認作業で発覚した白磁の街での異常事態について話を聞いていた。
「ウォード侯の偏執的なまでな誓約魔術の使用には陛下も苦言を呈していたのだが・・・これからは何も言えなくなりそうじゃの」
比較的小規模とは言え仮にも侯爵領の領都の人口三分の二を超える人数に誓約魔術を課すなんてやりすぎとしか言いようがない行動なのだが、何が幸いするか分からないものだ。
「ベテラン職人の何人かは誓約魔術への負荷のせいで心臓に痛みを訴えていたそうなので、別の意味でも危ない所でしたけどね。
まさかこんな事件が起きているとは思ってもいませんでしたが、解呪用魔具の配布優先度を調べることにして良かったですよ、本当に」
ため息をつきながら団長が立ち上がってお茶のお代わりを注いだ。
こやつはワイン好きなのだが、流石に昼前から飲む前にはいかないと我慢しているのだろう。
「それで何か分かったのかの?」
「横領が何件か分かったのでそちらは訴追しました。
不倫も幾つか発覚したので、後で脅される可能性を考えて関係者を呼び出して注意をしてあります。
黒幕に関しては・・・直接的に動いていたのはザルガ共和国の商会の一つの様ですが、あの国は陶器の製造に適した土は全くありませんからな。
陶磁器生産の地域で利権を手に入れた様子も無いらしいので、どこかの依頼なのでしょう。
依頼先の特定にはまだ出来ていませぬ」
ザルガ共和国ね。
あそこは商売という名の下でなら何でもするから、今までに同じような事件が起きていなかったこと自体が驚きかも知れない。
南航路で東大陸とは以前から交易をしていたのだから、呪具のことはもっと前から知られていただろうに。
考えてみると、あの呪具をもっと情報戦に使って来なかったことが意外だが・・・長期使用すると精神異常を起こすという欠点のせいで国の政策に関するような長期の情報戦には向かないのかの?
そんなことを考えていたら、慌ただしく団長室の方へ走ってくる足音がしたと思ったら忙しないノックの音が響いた。
「入れ!」
扉が開き、中堅の士官らしき男が飛び込んで来た。
「魔力探知機の持ち出しの許可をお願いいたします!」
扉を閉めたと思ったら、抑えた声と共に承認要請書が差し出された。
「魔力探知機?
今か?」
眉をひそめながら団長が承認要請書を手に取る。
「ファルナ大尉から連絡がありまして。
誓約魔術が掛かっていても内部の人間での話し合いに障害はないことから、ギルド内などの会議室に通信用魔具を仕込めば時間が掛かるもののいつか情報を得られるのではないかと」
ファルナ大尉と言えば、ウィルに付けた人間だ。
ウィルからの指摘なのかな?
有難いが・・・どうせならもう数日早い方が更に良かったのう。
「不味いな。
直ぐに各ギルドの建物内を徹底的に調べさせろ。
あと、安全を確認した部屋でギルド関係者に不味い情報についてここ数日間で具体的な話し合いがあったかどうかも確認しておけ。
場合によっては何か理由をつけて国境を封鎖する必要があるかも知れない」
団長が士官に指示を出した。
転移箱や通信機の普及してきた今では、残念ながら国境を封鎖してもあまり効果はない可能性が高いが。
「はっ!
あと、ファルナ大尉の報告ではペルファーナでも多数の精神汚染者が発見されているという事です」
ベルファウォードの状況が明らかになって、3か所程追加で特産物の情報が秘匿されている街の確認させようとウィルに回って貰っていたのだが、そのうちの二つは問題が無かったらしいのでどうやら産業諜報の標的にされたのはベルファウォードだけのようだと一息ついていたのだが・・・どうやらペルファーナも狙われているらしい。
「ペルファーナもか。
魔力探知機の半数はあちらに回せ」
頭を抱えながら団長が指示した。
「・・・現在回せる王都にある使用されていない魔力探知機は5台しかないので、半数に分けるとベルファウォードの捜査が大幅に遅れる可能性がありますが」
恐る恐るといった様子で士官が尋ねる。
「ペルファーナの方は通信用魔具の確認もウィル君に頼んだらどうじゃ?
彼は精神汚染被害者だけでなく魔具を見つけるのも得意らしいぞい」
追加依頼に文句を言われそうだが。
暫し腕を組んで考え込んでいた団長が、手元にあった承認依頼書にそのまま署名して士官に差し出した。
「ペルファーナの住民は殆どが主なギルドの関係者か、その家族の筈だ。
広場での確認作業はやめて、各ギルドに関係者と家族を全員集めるようにしてその場で精神汚染を調べてもらい、ついでにギルド敷地内の通信用魔具捜査もお願いしろ。
取り敢えず金貨10枚で依頼してみて、難色を示したら30枚まで出しても良い」
取り敢えず。
ご機嫌取りに美味しい焼き菓子を入手しておこう。
そして年末にとびっきり美味しい食事処でのフルコースも予約かな。
最近東大陸の香辛料をふんだんに使った異国風の料理で人気が出てきたところがあった筈。
あそこは客層は限定していないが、人気がありすぎて予約しようにも来年春ぐらいまで空きがないと聞いた。
ちょっとなんとかならないか、調べてみるか。
「ベルファウォードは街全体を封鎖し、領主殿の許可を得て成人した住民全員に軽い自白剤を投与して確認したところ、多分情報は漏れていないのではないかという結論になったようです」
今日は第3騎士団の団長室でお茶を飲みながら、ウィルに押し付けた街毎の精神汚染度の確認作業で発覚した白磁の街での異常事態について話を聞いていた。
「ウォード侯の偏執的なまでな誓約魔術の使用には陛下も苦言を呈していたのだが・・・これからは何も言えなくなりそうじゃの」
比較的小規模とは言え仮にも侯爵領の領都の人口三分の二を超える人数に誓約魔術を課すなんてやりすぎとしか言いようがない行動なのだが、何が幸いするか分からないものだ。
「ベテラン職人の何人かは誓約魔術への負荷のせいで心臓に痛みを訴えていたそうなので、別の意味でも危ない所でしたけどね。
まさかこんな事件が起きているとは思ってもいませんでしたが、解呪用魔具の配布優先度を調べることにして良かったですよ、本当に」
ため息をつきながら団長が立ち上がってお茶のお代わりを注いだ。
こやつはワイン好きなのだが、流石に昼前から飲む前にはいかないと我慢しているのだろう。
「それで何か分かったのかの?」
「横領が何件か分かったのでそちらは訴追しました。
不倫も幾つか発覚したので、後で脅される可能性を考えて関係者を呼び出して注意をしてあります。
黒幕に関しては・・・直接的に動いていたのはザルガ共和国の商会の一つの様ですが、あの国は陶器の製造に適した土は全くありませんからな。
陶磁器生産の地域で利権を手に入れた様子も無いらしいので、どこかの依頼なのでしょう。
依頼先の特定にはまだ出来ていませぬ」
ザルガ共和国ね。
あそこは商売という名の下でなら何でもするから、今までに同じような事件が起きていなかったこと自体が驚きかも知れない。
南航路で東大陸とは以前から交易をしていたのだから、呪具のことはもっと前から知られていただろうに。
考えてみると、あの呪具をもっと情報戦に使って来なかったことが意外だが・・・長期使用すると精神異常を起こすという欠点のせいで国の政策に関するような長期の情報戦には向かないのかの?
そんなことを考えていたら、慌ただしく団長室の方へ走ってくる足音がしたと思ったら忙しないノックの音が響いた。
「入れ!」
扉が開き、中堅の士官らしき男が飛び込んで来た。
「魔力探知機の持ち出しの許可をお願いいたします!」
扉を閉めたと思ったら、抑えた声と共に承認要請書が差し出された。
「魔力探知機?
今か?」
眉をひそめながら団長が承認要請書を手に取る。
「ファルナ大尉から連絡がありまして。
誓約魔術が掛かっていても内部の人間での話し合いに障害はないことから、ギルド内などの会議室に通信用魔具を仕込めば時間が掛かるもののいつか情報を得られるのではないかと」
ファルナ大尉と言えば、ウィルに付けた人間だ。
ウィルからの指摘なのかな?
有難いが・・・どうせならもう数日早い方が更に良かったのう。
「不味いな。
直ぐに各ギルドの建物内を徹底的に調べさせろ。
あと、安全を確認した部屋でギルド関係者に不味い情報についてここ数日間で具体的な話し合いがあったかどうかも確認しておけ。
場合によっては何か理由をつけて国境を封鎖する必要があるかも知れない」
団長が士官に指示を出した。
転移箱や通信機の普及してきた今では、残念ながら国境を封鎖してもあまり効果はない可能性が高いが。
「はっ!
あと、ファルナ大尉の報告ではペルファーナでも多数の精神汚染者が発見されているという事です」
ベルファウォードの状況が明らかになって、3か所程追加で特産物の情報が秘匿されている街の確認させようとウィルに回って貰っていたのだが、そのうちの二つは問題が無かったらしいのでどうやら産業諜報の標的にされたのはベルファウォードだけのようだと一息ついていたのだが・・・どうやらペルファーナも狙われているらしい。
「ペルファーナもか。
魔力探知機の半数はあちらに回せ」
頭を抱えながら団長が指示した。
「・・・現在回せる王都にある使用されていない魔力探知機は5台しかないので、半数に分けるとベルファウォードの捜査が大幅に遅れる可能性がありますが」
恐る恐るといった様子で士官が尋ねる。
「ペルファーナの方は通信用魔具の確認もウィル君に頼んだらどうじゃ?
彼は精神汚染被害者だけでなく魔具を見つけるのも得意らしいぞい」
追加依頼に文句を言われそうだが。
暫し腕を組んで考え込んでいた団長が、手元にあった承認依頼書にそのまま署名して士官に差し出した。
「ペルファーナの住民は殆どが主なギルドの関係者か、その家族の筈だ。
広場での確認作業はやめて、各ギルドに関係者と家族を全員集めるようにしてその場で精神汚染を調べてもらい、ついでにギルド敷地内の通信用魔具捜査もお願いしろ。
取り敢えず金貨10枚で依頼してみて、難色を示したら30枚まで出しても良い」
取り敢えず。
ご機嫌取りに美味しい焼き菓子を入手しておこう。
そして年末にとびっきり美味しい食事処でのフルコースも予約かな。
最近東大陸の香辛料をふんだんに使った異国風の料理で人気が出てきたところがあった筈。
あそこは客層は限定していないが、人気がありすぎて予約しようにも来年春ぐらいまで空きがないと聞いた。
ちょっとなんとかならないか、調べてみるか。
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