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卒業後
602 星暦555年 黄の月 30日 忠誠心?(3)
しおりを挟む「なんか知り合いから下町の方で変な魔具が東大陸から流れて来ているっていう噂を聞いたんだけど、魔術院で何か把握しているのか?」
魔術院に行ったら丁度アンディが受付の傍にいたので、早速カフェテリアに連れ込んで尋ねてみた。
精神に働きかける様な魔具は基本的に規制対象であり、いくら裏社会で先に被害が出ているとは言っても最終的には表にも浸透していく。
と言うか、浸透していく過程でアファル王国でも規制対象になって、魔術院が何らかの形で対処していくはずだ。
そうなれば裏ギルドだって何食わぬ顔して魔術院から対処手段を入手すれば良いだけなので、既にこちらで取り掛かっているなら担当者を教えるだけで話は済むから楽なんだが。
「東大陸からの魔具?
珍しい物もあるからってことで個人的に研究している魔術師はそれなりにいるようだけど、魔術院にヤバげな魔術や魔具の話は特に何も来てないぞ」
ティーバッグとお湯に手を伸ばしながらアンディが答えた。
ちっ。
考えてみたら、かなり事態が深刻化しなければ魔術院には話が行かないか?
大問題になってから損害賠償的な話をつけるならまだしも、初期の段階で調査依頼的な方向で話なんぞ出したらそれなりに高くつきかねないからなぁ。
「魔術回路なんかの特許に関してはあちらの魔術師の団体と魔術院とで話し合うって聞いた気がするが、禁忌とされている魔具やそれの対応方法に関しての情報って来ているのか?」
麻薬の問題で起きたように、新しい交易相手とのやり取りだとヤバい魔具や魔術でも『知られていない』=『禁じられていない』為、禁忌とされず誰かが問題提起するまで合法扱いされてしまうのだ。
そう言った危険な魔術や魔具について情報をやり取りしてお互い危険なものが入ってこないように禁制させないと色々と問題が起きるだろう。
「あ~。
禁忌関連の情報はまだ話し合いも始まっていないな。
取り敢えず王太子の結婚式が終わるまでは基本的に今まで南航路経由で輸入してきていた物以外は全部禁輸にしていたから。
あっち関連がやっと一息ついて、こないだ特許関連の権利や費用に関して話し合いが始まったところなんだ」
アンディがため息をつきながら答えた。
そう言えば、結婚式の準備で魔術院は忙殺されていたか。
俺は警戒網の設置に駆り出されただけで後は自分達の映像記録用魔具開発の関係で王宮とやり取りしていた程度だが、魔術院直属の人間は結婚式が問題なく終わるまで寝る時間も削りまくってこき使われていたとは聞いている。
そんな中で東大陸との交易関係のやり取りは完全ストップ状態だったんだろう。
「取り敢えず、資料だけでも貰っているんだったらちょっと見せてもらえないか?
知り合いの家族が何か怪しげな魔具を使われてヤバい事になったらしいんだが、どうもその魔具が東大陸から来たんじゃないかって相談を受けてね」
裏ギルドの人間だって誰かの家族ではあるだろう。
多分。
「ヤバい事って・・・詐欺か?
まだ公的に取り決めが最終化していないから資料も表には出せないんだが・・・取り敢えず、俺の机のところで読むんだったらいいぞ」
顔をしかめながらアンディが言った。
「おう、助かる。
同性にも効く魅了に近い効果な上に、微妙に魅了とは違うせいで魅了探知にも引っかからない厄介な魔具だったらしい。
こちらの交渉役の人間も、変な術が掛かっていないか定期的に神殿で確認してもらった方が良いかも知れないぞ?」
魔術や魔具での精神的干渉の探知は特定の指摘した症状に反応する形なので、よっぽど精神に負荷が掛かっていない限り未知の新しい術による干渉は発見しにくい。
その点、神殿で状態異常に関して調べて貰ったり解呪してもらうと基本的に外的影響によるものは全て対処されるので、魔術院にとってはお布施代が掛かるしちょっとプライドも痛むが、未知の魔術関連の際には一応頼んでおく方が無難ではある。
定型的ではない、新規の脅威に対するふわっとした対応では神様パワーの方が人間の魔術よりも優れているのだ。
それなりに信仰の強い神官を必要とするので、気軽に依頼できないしお布施も高くつくが。
ここでケチって後で大問題が発覚するよりはましだと思うので、魔術院も変な見栄を張らないでくれることを期待しておこう。
何も情報が無いようだったら長から渡されたサンプルを提供して対応を急がせた方が良いかも知れないが・・・願わくはあちら側から渡された禁忌関係の資料に対応方法も含めて描いてあることを期待しよう。
ダメだったら東大陸に行って、ゼブ辺りにでも相談してみるか。
あいつが黒幕だったら助けてくれないだろうが、領事館経由でそれなりに金を落としていると聞いたから、願わくは快く協力してくれると期待しよう。
予算はそれなりにあるんだし。
対応策を見つけたら魔術院でも買い取ってくれるかな?
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