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卒業後
610 星暦555年 橙の月 11日 忠誠心?(11)
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「結局、黒幕は誰だったの?」
屋敷船に戻ってリビングでソファに座ってお茶を飲みながらゼブとの話し合いの結果を報告した俺に、シャルロが尋ねた。
「『黒幕』っていう程しっかりと固まった意図を持った存在はいないだろうってさ。
流石に人を殺しちまったり土地を長期的に不毛化させるようなヤバい魔具は使ったら関係が劇的に悪化しかねないし、なんと言っても高くつくから気軽に使えないが、基本的に新しい取引先とはお手軽なザッファ産の『ショボい呪具』を試してみるのが東大陸の常識なんだってさ」
ゼブに同じことを聞いた際に言われた答えを伝える。
「その『ショボい呪具』とやらで有利になったらラッキー、防がれても解除系の魔具を売りつけて儲ける訳か」
ゼブから入手したよくあるザッファ産の禁忌系魔具(こちらでは呪具と呼ばれているらしい)と、その対処用の魔具の一覧表を見ていたアレクがため息をつきながら言った。
「おう。
防止用・解除用の魔具は禁忌ではないからな。
堂々と海沿いの交易都市で製造して売り出せる。
何種類かのショボい呪具を大量に流通させて、複合型の比較的高額な解除系魔具で稼ぐというのがザッファ連中の新しい商売方法なんだろうな」
ゼブとの話し合いの時に思ったことを言う。
奴も俺がそう聞いたら否定しなかったし。多分、解除系の魔具を作成している連中とザッファでショボい呪具を作っている連中は繋がっているんだろう。
「なにそれ。
対処用の高い魔具を売りつける為に呪具を大量に造って流通させているの??」
シャルロが憤慨したように声を上げる。
「しかも周辺の都市国家が本気でザッファを叩きに来ない程度まで意図的にショボいレベルに内容を抑えてというところが中々嫌らしいね。
解除用の魔具で合法的に金儲けできるんだったら周辺地域も旨味があるし」
アファル王国では東大陸の呪具に馴染みが無さ過ぎた上に王太子の結婚式の準備のせいで魔術院も軍部情報部も忙しすぎて対応が遅れ、ちょっと想定外に効き過ぎたようだが。
それですら実際のところは誰も死んでいないのだ。
ちょっと情報を抜かれて、多少有利な契約を結んだ程度だったらアファル王国側だって激怒はしないだろう。
対応策として比較的簡単な解除用魔具を入手すれば良いだけとなれば、戦争をするよりはずっと安上がりだし。
「確かに、一個一個のショボい奴の解除用魔具は簡単に造れそうだけど、全部に対応する高機能タイプはちょっと複製するの面倒そうだね。
しかも特許申請されているから正式に製造しようと思ったらその分お金を払わないといけないし」
街で入手したザッファ産のショボい呪具(実は忠誠心を植え付けるタイプの他にも、特定の香辛料をやたらと食べたくなる呪具とか、妙に喉が渇いて酒が飲みたくなる呪具とか、不思議と昼寝がしたくなる呪具とかと言ったショボいのが色々とあることが判明)を全部予防・解除できると謳った魔具はかなり高かった。
しかも数年おきにザッファ産の呪具が微妙に変わるせいで、対処用魔具も刷新する必要があり、絶対に特許が切れない仕組みになっているらしい。
こちらは魔術師団体の特許担当の男が苦笑しながら教えてくれたそうだ。
それなりに必要な魔具で、内容が微妙に変わり続けるせいでその特許が絶対に切れない、ね。
怪しすぎるにも程がある。
とは言え、裏で繋がっているという証明はほぼ不可能だし、街も解除用魔具の製造販売でそれなりに潤っている人間がいるので声を上げても『偶然だろう』と笑い飛ばされるだけ。
これも香辛料を直接取引する追加コストとして諦めるしかないようだ。
まあ、ザルガ共和国の関税よりは安いと考えると、一種の取引手数料と考えるしかないだろう。
「う~ん、この仕組みを考えた人って頭いいねぇ。
対処用魔具が効かなくなる程度にちょっとだけ変更するのだったらそれ程難しくないし、特許が切れるまでとなればそれなりに年数があるから余裕をもって準備しておけるし」
お茶のお代わりを淹れながらシャルロが感心したように言った。
「しかも自分の所じゃない特許で競合製品が出てきたら呪具の方をちょっと弄らせて競合品が効かないようにすれば良いんだし。
ビジネスモデルとしては、ある意味完璧かもな」
街中で合法的な活動で金を稼げるグループと、ザッファで違法な呪具を作っている連中との生活水準が違いすぎたらそのうち裏切られるかもしれないが、ザッファで数年働いたら卒業して沿岸都市に移動できるような流れにでもしておけば長期的な関係も保てるだろう。
元々貧しい地域で他に選択肢が無いから違法な呪具を作り、そのせいで定期的に攻め込まれていた集団なのだ。
それなりに団結力は強いだろう。
ビジネスモデルが成功し続けて、『昔はこれだけ辛かった』というのを覚えている人間がいなくなった時にも団結を保てるかがポイントかも知れないな。
とは言え。
俺たちにはあまり関係のない話だ。
アファル王国側として出来ることと言えば、対処用魔具を大人しく買うか、特許料を払うか・・・王太子の結婚式の際に王都で使った探知網に似たものを港湾周辺にでも張り巡らせて、東大陸からの魔具の持ち込みを全て禁止するかといったところかな?
対処されなければそれなりに悪用すれば便利なのだ。禁止しても密輸する人間が出てくるだろうから、対処用魔具を買うのと探知網で止めるのとで国全体にとっての費用対効果がどの程度違ってくるかを調べる必要があるだろう。
「こういうあくどい商法は裏社会の方が詳しいだろうから、依頼結果を報告する際に聞いてみたらどうだ?
何かいい対処方法を提案してもらえるかも知れないぞ?」
クッキーの缶を差し出しながらアレクが提案してきた。
確かに。
長達にしたって、大人しくこのまま東大陸のザッファ関連の連中に『手数料』を払い続けるのは癪だろう。
ある意味、香辛料でしっかり儲けている表の商会や国は『ザルガ共和国の関税の代わりに払っている手数料』ということで納得できるかもしれないが、交易に直接関係していない裏社会の方が割を食うことになりそうだ。
どうなるかな?
屋敷船に戻ってリビングでソファに座ってお茶を飲みながらゼブとの話し合いの結果を報告した俺に、シャルロが尋ねた。
「『黒幕』っていう程しっかりと固まった意図を持った存在はいないだろうってさ。
流石に人を殺しちまったり土地を長期的に不毛化させるようなヤバい魔具は使ったら関係が劇的に悪化しかねないし、なんと言っても高くつくから気軽に使えないが、基本的に新しい取引先とはお手軽なザッファ産の『ショボい呪具』を試してみるのが東大陸の常識なんだってさ」
ゼブに同じことを聞いた際に言われた答えを伝える。
「その『ショボい呪具』とやらで有利になったらラッキー、防がれても解除系の魔具を売りつけて儲ける訳か」
ゼブから入手したよくあるザッファ産の禁忌系魔具(こちらでは呪具と呼ばれているらしい)と、その対処用の魔具の一覧表を見ていたアレクがため息をつきながら言った。
「おう。
防止用・解除用の魔具は禁忌ではないからな。
堂々と海沿いの交易都市で製造して売り出せる。
何種類かのショボい呪具を大量に流通させて、複合型の比較的高額な解除系魔具で稼ぐというのがザッファ連中の新しい商売方法なんだろうな」
ゼブとの話し合いの時に思ったことを言う。
奴も俺がそう聞いたら否定しなかったし。多分、解除系の魔具を作成している連中とザッファでショボい呪具を作っている連中は繋がっているんだろう。
「なにそれ。
対処用の高い魔具を売りつける為に呪具を大量に造って流通させているの??」
シャルロが憤慨したように声を上げる。
「しかも周辺の都市国家が本気でザッファを叩きに来ない程度まで意図的にショボいレベルに内容を抑えてというところが中々嫌らしいね。
解除用の魔具で合法的に金儲けできるんだったら周辺地域も旨味があるし」
アファル王国では東大陸の呪具に馴染みが無さ過ぎた上に王太子の結婚式の準備のせいで魔術院も軍部情報部も忙しすぎて対応が遅れ、ちょっと想定外に効き過ぎたようだが。
それですら実際のところは誰も死んでいないのだ。
ちょっと情報を抜かれて、多少有利な契約を結んだ程度だったらアファル王国側だって激怒はしないだろう。
対応策として比較的簡単な解除用魔具を入手すれば良いだけとなれば、戦争をするよりはずっと安上がりだし。
「確かに、一個一個のショボい奴の解除用魔具は簡単に造れそうだけど、全部に対応する高機能タイプはちょっと複製するの面倒そうだね。
しかも特許申請されているから正式に製造しようと思ったらその分お金を払わないといけないし」
街で入手したザッファ産のショボい呪具(実は忠誠心を植え付けるタイプの他にも、特定の香辛料をやたらと食べたくなる呪具とか、妙に喉が渇いて酒が飲みたくなる呪具とか、不思議と昼寝がしたくなる呪具とかと言ったショボいのが色々とあることが判明)を全部予防・解除できると謳った魔具はかなり高かった。
しかも数年おきにザッファ産の呪具が微妙に変わるせいで、対処用魔具も刷新する必要があり、絶対に特許が切れない仕組みになっているらしい。
こちらは魔術師団体の特許担当の男が苦笑しながら教えてくれたそうだ。
それなりに必要な魔具で、内容が微妙に変わり続けるせいでその特許が絶対に切れない、ね。
怪しすぎるにも程がある。
とは言え、裏で繋がっているという証明はほぼ不可能だし、街も解除用魔具の製造販売でそれなりに潤っている人間がいるので声を上げても『偶然だろう』と笑い飛ばされるだけ。
これも香辛料を直接取引する追加コストとして諦めるしかないようだ。
まあ、ザルガ共和国の関税よりは安いと考えると、一種の取引手数料と考えるしかないだろう。
「う~ん、この仕組みを考えた人って頭いいねぇ。
対処用魔具が効かなくなる程度にちょっとだけ変更するのだったらそれ程難しくないし、特許が切れるまでとなればそれなりに年数があるから余裕をもって準備しておけるし」
お茶のお代わりを淹れながらシャルロが感心したように言った。
「しかも自分の所じゃない特許で競合製品が出てきたら呪具の方をちょっと弄らせて競合品が効かないようにすれば良いんだし。
ビジネスモデルとしては、ある意味完璧かもな」
街中で合法的な活動で金を稼げるグループと、ザッファで違法な呪具を作っている連中との生活水準が違いすぎたらそのうち裏切られるかもしれないが、ザッファで数年働いたら卒業して沿岸都市に移動できるような流れにでもしておけば長期的な関係も保てるだろう。
元々貧しい地域で他に選択肢が無いから違法な呪具を作り、そのせいで定期的に攻め込まれていた集団なのだ。
それなりに団結力は強いだろう。
ビジネスモデルが成功し続けて、『昔はこれだけ辛かった』というのを覚えている人間がいなくなった時にも団結を保てるかがポイントかも知れないな。
とは言え。
俺たちにはあまり関係のない話だ。
アファル王国側として出来ることと言えば、対処用魔具を大人しく買うか、特許料を払うか・・・王太子の結婚式の際に王都で使った探知網に似たものを港湾周辺にでも張り巡らせて、東大陸からの魔具の持ち込みを全て禁止するかといったところかな?
対処されなければそれなりに悪用すれば便利なのだ。禁止しても密輸する人間が出てくるだろうから、対処用魔具を買うのと探知網で止めるのとで国全体にとっての費用対効果がどの程度違ってくるかを調べる必要があるだろう。
「こういうあくどい商法は裏社会の方が詳しいだろうから、依頼結果を報告する際に聞いてみたらどうだ?
何かいい対処方法を提案してもらえるかも知れないぞ?」
クッキーの缶を差し出しながらアレクが提案してきた。
確かに。
長達にしたって、大人しくこのまま東大陸のザッファ関連の連中に『手数料』を払い続けるのは癪だろう。
ある意味、香辛料でしっかり儲けている表の商会や国は『ザルガ共和国の関税の代わりに払っている手数料』ということで納得できるかもしれないが、交易に直接関係していない裏社会の方が割を食うことになりそうだ。
どうなるかな?
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