606 / 1,077
卒業後
605 星暦555年 橙の月 2日 忠誠心?(6)
しおりを挟む
「忠誠心を植え付けた状態の人間?」
長を探し当てたところ、今日は珍しく酒場ではなく古い倉庫の下の隠れ家に居た。
ワインが好きなせいか、長が好む隠れ家は酒場の下や上が多いのだが、流石に毎回同じようなパターンだと見つかりやすいと思うのか、偶に違う場所もある。
お蔭で探しにくいんだが。
「そう。
どんな状態になるのか心眼《サイト》で確認しておくほうが良いでしょう。
一応、受け取った解呪前のサンプルを複製して魔術院か軍部にでも使ってもらうというのもありだけど、既に被害にあっている人間がいるんだったらそちらを観察した方が早いと思って」
人体実験をするのだから、軍部にせよ魔術院にせよ、それなりに担当者による暴走防止の手順が決められているので時間がかかるのだ。
3日(というかもう2日だが)後の屋敷船での出発までに間に合うかはかなり怪しい。
かと言ってまだ禁止されていないとは言え、禁忌関連であると分かっているのに俺たちの方で勝手に実験するのも流石に微妙だし。
だから出来れば裏ギルドの方で解呪していない被害者を確保してあるとか、新しい被害者を見つけてまだ解呪出来ていないというような状況であることを期待したいところだ。
「なるほどな。
長期的に放置して置いたら術が解けるのかを確認する為に解呪していない人間が何名かいるから、そちらを視てきたらどうだ。
赤に案内させる」
あっさり長が要望に応えてくれた。
確かに、自然解除が起きるか否かは重要だろう。
解呪しなければ長期に渡って抜けない忠誠心なんて危険すぎる。
ずっと長年働いてきた人間が実は他の組織に忠誠心を持っていましたなんて、ヤバいだろ。
なんと言っても退職率も死亡率も高い裏ギルドだ。
長年組織内で生き残っているというのはそれだけ信用度の目安にもなるのだが、それこそ『目立たぬよう情報収集をしてこい』と命じられてずっと大人しく有能っぽい働きぶりを見せられてきたりしたら、下手をしたら将来は幹部・・・か少なくともそのすぐ下が裏切り者だらけなんてことになりかねない。
考えてみたら、これって精神力が強いとか、何かに対する信念があったら効きにくいといったようなこともあるのだろうか
有能な人間が強い信念を持っているとは限らないが、少なくとも精神力はそれなりにありそうだから、精神力が強ければ術にかかりにくい、もしくはかかっても行動への影響の度合いが低いとなって欲しいところだな。
対象者の素質に関係なく機能するとしたら、時間が掛かるとはいえこの『精神的な対人優先順位に干渉する』魔具って、単なる暗殺が出来る魔具よりもよっぽど危険じゃないのか?
下手をしたら時間さえかければ国や組織を乗っ取れそうだ。
人間の精神をそうそう長時間干渉し続けられないと期待したいところだな。
「そう言えば、軍の情報部に話を聞くために連絡を取った友人の知り合いが、術に掛かったままの人間が残っているなら見てみたいと言っていましたが」
一応、ウォレン氏の要望を伝えておく。
断られたらそれまでの事だ。
長が書類から目を上げてニヤリと笑った。
「ウォレン爺か?
解呪出来るレベルの神官だったら、相手を見たら精神汚染が分かるらしいぞ。
変なのが居ないか確認するために、神殿に頼んで軍の情報部や人事部の人間を全員見てもらったらどうだ?
軍部に一人も被害者が居なかったら、ウチの人間を見せても良いと伝えておいてくれ」
こえ~。
俺の人間関係、すっかり把握されてんじゃん。
取り敢えず。
ウォレン氏には軍が神殿に頑張ってお布施を払えと伝えておこう。
裏ギルドを揃い踏みしているんだ。
どう考えても軍に対して手を伸ばしていないなんて事はないだろう。
◆◆◆◆
「こっちの部屋で働いているのが2週間前に情報漏洩して捕まった男。
そっちの部屋のはつい先日変な契約を結ぼうとして拘束された女だ。
あっちで荷を動かしているのは変な契約を結ぼうとした女を多分犯人に引き合わせた奴だから調べたら術が掛かっていた」
赤に連れられてきたのは、ほぼ誰でも知っている裏ギルドの建物だった。
流石に『裏ギルドの出先機関』とは公にはしていないが、基本的にスラムや下町の人間なら誰でも知っている場所の一つだ。
「・・・拘束していないんだ?」
どっかの牢屋じみた場所に閉じ込めているのかと思っていたら、どの人間も何やら働いている。
赤が肩を竦めた。
「普通の状態で働かせておいても自然解呪されるのか、長が知りたいと言ったんでな。
取り敢えず、普段の仕事をさせた上で最終確認をこちらでやっている」
まあ、確かに情報漏洩をするには誰かに会わなければ出来ない。
取り敢えず普通の仕事をさせておき、情報に触れたとしても漏洩する前に解呪すれば問題はないのだろう。
ということで書類作業をしている一人目を注意深く心眼《サイト》で観察する。
人間が『いるか否か』に関してはよく心眼《サイト》で確認するが、何らかの術が掛かっているか否かを調べようとしたことは殆どないので、何を確認すれば良いのかイマイチ不明だ。
じっくり観察した後、赤を視比べる。
う~ん。
個人差なのか術の結果なのか、分からん。
しょうがないのでちょっと部屋から出て、他の人間もじっくり観察する。
・・・お?
ふと、情報漏洩をした男に微妙な色合いちっくな違いがある箇所が目につく。
もう一人の女の方を視に行ったら、そちらも同じような色合いがある。
もう少し濃い感じだが。
荷物運びを言いつけられた人間の方は、がっつり濃くその色合いが出ていた。
ふむ。
これがその精神汚染とやらなのかね?
時間経過で薄くなっていくのだったら2週間前の情報漏洩の男<荷物運びをしている男<変な契約を結びそうになった女の順で影響が残っているはずだが、荷物運びをしている男が一番濃く残っている。
「ちょっとそれっぽいかも?と思う特徴が視えたんだが、誰か一人解呪してもらえないかな?
解呪して消えるか確認したい」
薄れていく条件は不明なままだが、少なくともこの微妙な色合いっぽい物が洗脳モドキな兆候なのだとしたら心眼《サイト》で見つけるのは可能そうだ。
「娼婦《ハーロット》ギルドが重点的に狙われたらしいから、あっちならいくらでもいるだろうし、解呪も順次していると聞いたからそれを見せて貰ったらどうだ?」
赤が提案した。
なるほど。
情報収集が一番使い易い用途だとしたら、娼婦《ハーロット》ギルドが主要ターゲットになるか。
解呪の依頼もただではないのだ。
あっちのトップは怒っているだろうなぁ・・・。
長を探し当てたところ、今日は珍しく酒場ではなく古い倉庫の下の隠れ家に居た。
ワインが好きなせいか、長が好む隠れ家は酒場の下や上が多いのだが、流石に毎回同じようなパターンだと見つかりやすいと思うのか、偶に違う場所もある。
お蔭で探しにくいんだが。
「そう。
どんな状態になるのか心眼《サイト》で確認しておくほうが良いでしょう。
一応、受け取った解呪前のサンプルを複製して魔術院か軍部にでも使ってもらうというのもありだけど、既に被害にあっている人間がいるんだったらそちらを観察した方が早いと思って」
人体実験をするのだから、軍部にせよ魔術院にせよ、それなりに担当者による暴走防止の手順が決められているので時間がかかるのだ。
3日(というかもう2日だが)後の屋敷船での出発までに間に合うかはかなり怪しい。
かと言ってまだ禁止されていないとは言え、禁忌関連であると分かっているのに俺たちの方で勝手に実験するのも流石に微妙だし。
だから出来れば裏ギルドの方で解呪していない被害者を確保してあるとか、新しい被害者を見つけてまだ解呪出来ていないというような状況であることを期待したいところだ。
「なるほどな。
長期的に放置して置いたら術が解けるのかを確認する為に解呪していない人間が何名かいるから、そちらを視てきたらどうだ。
赤に案内させる」
あっさり長が要望に応えてくれた。
確かに、自然解除が起きるか否かは重要だろう。
解呪しなければ長期に渡って抜けない忠誠心なんて危険すぎる。
ずっと長年働いてきた人間が実は他の組織に忠誠心を持っていましたなんて、ヤバいだろ。
なんと言っても退職率も死亡率も高い裏ギルドだ。
長年組織内で生き残っているというのはそれだけ信用度の目安にもなるのだが、それこそ『目立たぬよう情報収集をしてこい』と命じられてずっと大人しく有能っぽい働きぶりを見せられてきたりしたら、下手をしたら将来は幹部・・・か少なくともそのすぐ下が裏切り者だらけなんてことになりかねない。
考えてみたら、これって精神力が強いとか、何かに対する信念があったら効きにくいといったようなこともあるのだろうか
有能な人間が強い信念を持っているとは限らないが、少なくとも精神力はそれなりにありそうだから、精神力が強ければ術にかかりにくい、もしくはかかっても行動への影響の度合いが低いとなって欲しいところだな。
対象者の素質に関係なく機能するとしたら、時間が掛かるとはいえこの『精神的な対人優先順位に干渉する』魔具って、単なる暗殺が出来る魔具よりもよっぽど危険じゃないのか?
下手をしたら時間さえかければ国や組織を乗っ取れそうだ。
人間の精神をそうそう長時間干渉し続けられないと期待したいところだな。
「そう言えば、軍の情報部に話を聞くために連絡を取った友人の知り合いが、術に掛かったままの人間が残っているなら見てみたいと言っていましたが」
一応、ウォレン氏の要望を伝えておく。
断られたらそれまでの事だ。
長が書類から目を上げてニヤリと笑った。
「ウォレン爺か?
解呪出来るレベルの神官だったら、相手を見たら精神汚染が分かるらしいぞ。
変なのが居ないか確認するために、神殿に頼んで軍の情報部や人事部の人間を全員見てもらったらどうだ?
軍部に一人も被害者が居なかったら、ウチの人間を見せても良いと伝えておいてくれ」
こえ~。
俺の人間関係、すっかり把握されてんじゃん。
取り敢えず。
ウォレン氏には軍が神殿に頑張ってお布施を払えと伝えておこう。
裏ギルドを揃い踏みしているんだ。
どう考えても軍に対して手を伸ばしていないなんて事はないだろう。
◆◆◆◆
「こっちの部屋で働いているのが2週間前に情報漏洩して捕まった男。
そっちの部屋のはつい先日変な契約を結ぼうとして拘束された女だ。
あっちで荷を動かしているのは変な契約を結ぼうとした女を多分犯人に引き合わせた奴だから調べたら術が掛かっていた」
赤に連れられてきたのは、ほぼ誰でも知っている裏ギルドの建物だった。
流石に『裏ギルドの出先機関』とは公にはしていないが、基本的にスラムや下町の人間なら誰でも知っている場所の一つだ。
「・・・拘束していないんだ?」
どっかの牢屋じみた場所に閉じ込めているのかと思っていたら、どの人間も何やら働いている。
赤が肩を竦めた。
「普通の状態で働かせておいても自然解呪されるのか、長が知りたいと言ったんでな。
取り敢えず、普段の仕事をさせた上で最終確認をこちらでやっている」
まあ、確かに情報漏洩をするには誰かに会わなければ出来ない。
取り敢えず普通の仕事をさせておき、情報に触れたとしても漏洩する前に解呪すれば問題はないのだろう。
ということで書類作業をしている一人目を注意深く心眼《サイト》で観察する。
人間が『いるか否か』に関してはよく心眼《サイト》で確認するが、何らかの術が掛かっているか否かを調べようとしたことは殆どないので、何を確認すれば良いのかイマイチ不明だ。
じっくり観察した後、赤を視比べる。
う~ん。
個人差なのか術の結果なのか、分からん。
しょうがないのでちょっと部屋から出て、他の人間もじっくり観察する。
・・・お?
ふと、情報漏洩をした男に微妙な色合いちっくな違いがある箇所が目につく。
もう一人の女の方を視に行ったら、そちらも同じような色合いがある。
もう少し濃い感じだが。
荷物運びを言いつけられた人間の方は、がっつり濃くその色合いが出ていた。
ふむ。
これがその精神汚染とやらなのかね?
時間経過で薄くなっていくのだったら2週間前の情報漏洩の男<荷物運びをしている男<変な契約を結びそうになった女の順で影響が残っているはずだが、荷物運びをしている男が一番濃く残っている。
「ちょっとそれっぽいかも?と思う特徴が視えたんだが、誰か一人解呪してもらえないかな?
解呪して消えるか確認したい」
薄れていく条件は不明なままだが、少なくともこの微妙な色合いっぽい物が洗脳モドキな兆候なのだとしたら心眼《サイト》で見つけるのは可能そうだ。
「娼婦《ハーロット》ギルドが重点的に狙われたらしいから、あっちならいくらでもいるだろうし、解呪も順次していると聞いたからそれを見せて貰ったらどうだ?」
赤が提案した。
なるほど。
情報収集が一番使い易い用途だとしたら、娼婦《ハーロット》ギルドが主要ターゲットになるか。
解呪の依頼もただではないのだ。
あっちのトップは怒っているだろうなぁ・・・。
1
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる