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卒業後
605 星暦555年 橙の月 2日 忠誠心?(6)
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「忠誠心を植え付けた状態の人間?」
長を探し当てたところ、今日は珍しく酒場ではなく古い倉庫の下の隠れ家に居た。
ワインが好きなせいか、長が好む隠れ家は酒場の下や上が多いのだが、流石に毎回同じようなパターンだと見つかりやすいと思うのか、偶に違う場所もある。
お蔭で探しにくいんだが。
「そう。
どんな状態になるのか心眼《サイト》で確認しておくほうが良いでしょう。
一応、受け取った解呪前のサンプルを複製して魔術院か軍部にでも使ってもらうというのもありだけど、既に被害にあっている人間がいるんだったらそちらを観察した方が早いと思って」
人体実験をするのだから、軍部にせよ魔術院にせよ、それなりに担当者による暴走防止の手順が決められているので時間がかかるのだ。
3日(というかもう2日だが)後の屋敷船での出発までに間に合うかはかなり怪しい。
かと言ってまだ禁止されていないとは言え、禁忌関連であると分かっているのに俺たちの方で勝手に実験するのも流石に微妙だし。
だから出来れば裏ギルドの方で解呪していない被害者を確保してあるとか、新しい被害者を見つけてまだ解呪出来ていないというような状況であることを期待したいところだ。
「なるほどな。
長期的に放置して置いたら術が解けるのかを確認する為に解呪していない人間が何名かいるから、そちらを視てきたらどうだ。
赤に案内させる」
あっさり長が要望に応えてくれた。
確かに、自然解除が起きるか否かは重要だろう。
解呪しなければ長期に渡って抜けない忠誠心なんて危険すぎる。
ずっと長年働いてきた人間が実は他の組織に忠誠心を持っていましたなんて、ヤバいだろ。
なんと言っても退職率も死亡率も高い裏ギルドだ。
長年組織内で生き残っているというのはそれだけ信用度の目安にもなるのだが、それこそ『目立たぬよう情報収集をしてこい』と命じられてずっと大人しく有能っぽい働きぶりを見せられてきたりしたら、下手をしたら将来は幹部・・・か少なくともそのすぐ下が裏切り者だらけなんてことになりかねない。
考えてみたら、これって精神力が強いとか、何かに対する信念があったら効きにくいといったようなこともあるのだろうか
有能な人間が強い信念を持っているとは限らないが、少なくとも精神力はそれなりにありそうだから、精神力が強ければ術にかかりにくい、もしくはかかっても行動への影響の度合いが低いとなって欲しいところだな。
対象者の素質に関係なく機能するとしたら、時間が掛かるとはいえこの『精神的な対人優先順位に干渉する』魔具って、単なる暗殺が出来る魔具よりもよっぽど危険じゃないのか?
下手をしたら時間さえかければ国や組織を乗っ取れそうだ。
人間の精神をそうそう長時間干渉し続けられないと期待したいところだな。
「そう言えば、軍の情報部に話を聞くために連絡を取った友人の知り合いが、術に掛かったままの人間が残っているなら見てみたいと言っていましたが」
一応、ウォレン氏の要望を伝えておく。
断られたらそれまでの事だ。
長が書類から目を上げてニヤリと笑った。
「ウォレン爺か?
解呪出来るレベルの神官だったら、相手を見たら精神汚染が分かるらしいぞ。
変なのが居ないか確認するために、神殿に頼んで軍の情報部や人事部の人間を全員見てもらったらどうだ?
軍部に一人も被害者が居なかったら、ウチの人間を見せても良いと伝えておいてくれ」
こえ~。
俺の人間関係、すっかり把握されてんじゃん。
取り敢えず。
ウォレン氏には軍が神殿に頑張ってお布施を払えと伝えておこう。
裏ギルドを揃い踏みしているんだ。
どう考えても軍に対して手を伸ばしていないなんて事はないだろう。
◆◆◆◆
「こっちの部屋で働いているのが2週間前に情報漏洩して捕まった男。
そっちの部屋のはつい先日変な契約を結ぼうとして拘束された女だ。
あっちで荷を動かしているのは変な契約を結ぼうとした女を多分犯人に引き合わせた奴だから調べたら術が掛かっていた」
赤に連れられてきたのは、ほぼ誰でも知っている裏ギルドの建物だった。
流石に『裏ギルドの出先機関』とは公にはしていないが、基本的にスラムや下町の人間なら誰でも知っている場所の一つだ。
「・・・拘束していないんだ?」
どっかの牢屋じみた場所に閉じ込めているのかと思っていたら、どの人間も何やら働いている。
赤が肩を竦めた。
「普通の状態で働かせておいても自然解呪されるのか、長が知りたいと言ったんでな。
取り敢えず、普段の仕事をさせた上で最終確認をこちらでやっている」
まあ、確かに情報漏洩をするには誰かに会わなければ出来ない。
取り敢えず普通の仕事をさせておき、情報に触れたとしても漏洩する前に解呪すれば問題はないのだろう。
ということで書類作業をしている一人目を注意深く心眼《サイト》で観察する。
人間が『いるか否か』に関してはよく心眼《サイト》で確認するが、何らかの術が掛かっているか否かを調べようとしたことは殆どないので、何を確認すれば良いのかイマイチ不明だ。
じっくり観察した後、赤を視比べる。
う~ん。
個人差なのか術の結果なのか、分からん。
しょうがないのでちょっと部屋から出て、他の人間もじっくり観察する。
・・・お?
ふと、情報漏洩をした男に微妙な色合いちっくな違いがある箇所が目につく。
もう一人の女の方を視に行ったら、そちらも同じような色合いがある。
もう少し濃い感じだが。
荷物運びを言いつけられた人間の方は、がっつり濃くその色合いが出ていた。
ふむ。
これがその精神汚染とやらなのかね?
時間経過で薄くなっていくのだったら2週間前の情報漏洩の男<荷物運びをしている男<変な契約を結びそうになった女の順で影響が残っているはずだが、荷物運びをしている男が一番濃く残っている。
「ちょっとそれっぽいかも?と思う特徴が視えたんだが、誰か一人解呪してもらえないかな?
解呪して消えるか確認したい」
薄れていく条件は不明なままだが、少なくともこの微妙な色合いっぽい物が洗脳モドキな兆候なのだとしたら心眼《サイト》で見つけるのは可能そうだ。
「娼婦《ハーロット》ギルドが重点的に狙われたらしいから、あっちならいくらでもいるだろうし、解呪も順次していると聞いたからそれを見せて貰ったらどうだ?」
赤が提案した。
なるほど。
情報収集が一番使い易い用途だとしたら、娼婦《ハーロット》ギルドが主要ターゲットになるか。
解呪の依頼もただではないのだ。
あっちのトップは怒っているだろうなぁ・・・。
長を探し当てたところ、今日は珍しく酒場ではなく古い倉庫の下の隠れ家に居た。
ワインが好きなせいか、長が好む隠れ家は酒場の下や上が多いのだが、流石に毎回同じようなパターンだと見つかりやすいと思うのか、偶に違う場所もある。
お蔭で探しにくいんだが。
「そう。
どんな状態になるのか心眼《サイト》で確認しておくほうが良いでしょう。
一応、受け取った解呪前のサンプルを複製して魔術院か軍部にでも使ってもらうというのもありだけど、既に被害にあっている人間がいるんだったらそちらを観察した方が早いと思って」
人体実験をするのだから、軍部にせよ魔術院にせよ、それなりに担当者による暴走防止の手順が決められているので時間がかかるのだ。
3日(というかもう2日だが)後の屋敷船での出発までに間に合うかはかなり怪しい。
かと言ってまだ禁止されていないとは言え、禁忌関連であると分かっているのに俺たちの方で勝手に実験するのも流石に微妙だし。
だから出来れば裏ギルドの方で解呪していない被害者を確保してあるとか、新しい被害者を見つけてまだ解呪出来ていないというような状況であることを期待したいところだ。
「なるほどな。
長期的に放置して置いたら術が解けるのかを確認する為に解呪していない人間が何名かいるから、そちらを視てきたらどうだ。
赤に案内させる」
あっさり長が要望に応えてくれた。
確かに、自然解除が起きるか否かは重要だろう。
解呪しなければ長期に渡って抜けない忠誠心なんて危険すぎる。
ずっと長年働いてきた人間が実は他の組織に忠誠心を持っていましたなんて、ヤバいだろ。
なんと言っても退職率も死亡率も高い裏ギルドだ。
長年組織内で生き残っているというのはそれだけ信用度の目安にもなるのだが、それこそ『目立たぬよう情報収集をしてこい』と命じられてずっと大人しく有能っぽい働きぶりを見せられてきたりしたら、下手をしたら将来は幹部・・・か少なくともそのすぐ下が裏切り者だらけなんてことになりかねない。
考えてみたら、これって精神力が強いとか、何かに対する信念があったら効きにくいといったようなこともあるのだろうか
有能な人間が強い信念を持っているとは限らないが、少なくとも精神力はそれなりにありそうだから、精神力が強ければ術にかかりにくい、もしくはかかっても行動への影響の度合いが低いとなって欲しいところだな。
対象者の素質に関係なく機能するとしたら、時間が掛かるとはいえこの『精神的な対人優先順位に干渉する』魔具って、単なる暗殺が出来る魔具よりもよっぽど危険じゃないのか?
下手をしたら時間さえかければ国や組織を乗っ取れそうだ。
人間の精神をそうそう長時間干渉し続けられないと期待したいところだな。
「そう言えば、軍の情報部に話を聞くために連絡を取った友人の知り合いが、術に掛かったままの人間が残っているなら見てみたいと言っていましたが」
一応、ウォレン氏の要望を伝えておく。
断られたらそれまでの事だ。
長が書類から目を上げてニヤリと笑った。
「ウォレン爺か?
解呪出来るレベルの神官だったら、相手を見たら精神汚染が分かるらしいぞ。
変なのが居ないか確認するために、神殿に頼んで軍の情報部や人事部の人間を全員見てもらったらどうだ?
軍部に一人も被害者が居なかったら、ウチの人間を見せても良いと伝えておいてくれ」
こえ~。
俺の人間関係、すっかり把握されてんじゃん。
取り敢えず。
ウォレン氏には軍が神殿に頑張ってお布施を払えと伝えておこう。
裏ギルドを揃い踏みしているんだ。
どう考えても軍に対して手を伸ばしていないなんて事はないだろう。
◆◆◆◆
「こっちの部屋で働いているのが2週間前に情報漏洩して捕まった男。
そっちの部屋のはつい先日変な契約を結ぼうとして拘束された女だ。
あっちで荷を動かしているのは変な契約を結ぼうとした女を多分犯人に引き合わせた奴だから調べたら術が掛かっていた」
赤に連れられてきたのは、ほぼ誰でも知っている裏ギルドの建物だった。
流石に『裏ギルドの出先機関』とは公にはしていないが、基本的にスラムや下町の人間なら誰でも知っている場所の一つだ。
「・・・拘束していないんだ?」
どっかの牢屋じみた場所に閉じ込めているのかと思っていたら、どの人間も何やら働いている。
赤が肩を竦めた。
「普通の状態で働かせておいても自然解呪されるのか、長が知りたいと言ったんでな。
取り敢えず、普段の仕事をさせた上で最終確認をこちらでやっている」
まあ、確かに情報漏洩をするには誰かに会わなければ出来ない。
取り敢えず普通の仕事をさせておき、情報に触れたとしても漏洩する前に解呪すれば問題はないのだろう。
ということで書類作業をしている一人目を注意深く心眼《サイト》で観察する。
人間が『いるか否か』に関してはよく心眼《サイト》で確認するが、何らかの術が掛かっているか否かを調べようとしたことは殆どないので、何を確認すれば良いのかイマイチ不明だ。
じっくり観察した後、赤を視比べる。
う~ん。
個人差なのか術の結果なのか、分からん。
しょうがないのでちょっと部屋から出て、他の人間もじっくり観察する。
・・・お?
ふと、情報漏洩をした男に微妙な色合いちっくな違いがある箇所が目につく。
もう一人の女の方を視に行ったら、そちらも同じような色合いがある。
もう少し濃い感じだが。
荷物運びを言いつけられた人間の方は、がっつり濃くその色合いが出ていた。
ふむ。
これがその精神汚染とやらなのかね?
時間経過で薄くなっていくのだったら2週間前の情報漏洩の男<荷物運びをしている男<変な契約を結びそうになった女の順で影響が残っているはずだが、荷物運びをしている男が一番濃く残っている。
「ちょっとそれっぽいかも?と思う特徴が視えたんだが、誰か一人解呪してもらえないかな?
解呪して消えるか確認したい」
薄れていく条件は不明なままだが、少なくともこの微妙な色合いっぽい物が洗脳モドキな兆候なのだとしたら心眼《サイト》で見つけるのは可能そうだ。
「娼婦《ハーロット》ギルドが重点的に狙われたらしいから、あっちならいくらでもいるだろうし、解呪も順次していると聞いたからそれを見せて貰ったらどうだ?」
赤が提案した。
なるほど。
情報収集が一番使い易い用途だとしたら、娼婦《ハーロット》ギルドが主要ターゲットになるか。
解呪の依頼もただではないのだ。
あっちのトップは怒っているだろうなぁ・・・。
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