シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
238 / 1,038
卒業後

237 星暦553年 紺の月 20日 魔道具の修理

しおりを挟む
「できた~~~!!!」
シャルロが、突然叫び声を上げてリビングに駆け込んできた。
カラフォラ号の貨物に多くあった自鳴琴オルゴールの魔道具の小さな部品を根気よく一つ一つ修理し、音を確認していたのだが、どうやら1つ自鳴琴オルゴールの修理が完成したようだ。

ちなみに、アドリアーナ号はシャルロ(に頼まれた蒼流)が無事海上に持ち上げ、後部に開いていた穴をいつものように布で適当に塞いだ後に中の海水も抜いてダルム商会の船員達に任せてきた。

結局、貨物だけでなく船そのものまで回収出来たので、ダルム商会は一気に危機的状況から抜け出せたらしい。
大金を掛けて作った船だからね。
ちょろと後ろの穴を塞げばまた使えるなんて、想像以上にラッキーだったと言えよう。
・・・先に船が沈んだ事を考えなければ。
今後はあそこまで満載に中身を詰めず、どの位の嵐をどの程度の積載量で扱えるのかがはっきりするまでは、ベテラン一人と若い魔術師を二人では無く、ベテラン三人を乗せることにしたらしい。

破綻の危機から、一気にリスクを取った大型船が無事に帰ってきたと言っても良い形で抜け出せたんだ、これからは自分達の運を過信せずに気をつけてやっていくだろう。

お陰で後からフェルダン氏がケーキを持参して知らせに来た『ギリギリ払える金額』というのがもの凄く大きくなって、結局この仮定の数字もそれなりに減額することになった。

それでも普通の人間だったら営利目的で誘拐されるのが間違いないような金額だったが、なんと言っても精霊の加護持ちだからね。
侯爵の息子でもあるし。
特にシャルロに危険は訪れていないようだった。

何だかんだでフェルダン氏が頑張っている間、セビウス氏と俺たちはカラフォラ号の積荷を確認・照合してきた。
磁器の方は先日終わったので、セビウス氏が現在オークションの手配をしている所だ。
魔道具の方はある意味予想通り時間が掛っている。
いや、魔術回路で無い部分の修理が必要になったので、予想以上に時間が掛っていると言うべきか。

一応魔道具も積載品のリストと照合出来て、別に魔術院が首を突っ込む必要があるような物も見当たらなかったのでアンディは数日前に魔術院へ戻っている。
ニルキーニ氏は報酬分としてぶんどった魔道具を魔術学院の自分の研究室へ持ち込み、あちらで修理に取りかかっている。終わったら俺たちにも見せてくれることになっているが、憶えているかなぁ?

で、残りは俺たちの工房で修理していたのだが・・・。

魔術回路の方は10日ぐらいで台分と修理できたんだけどねぇ。
実は、カラフォラ号に積まれていた魔道具って自鳴琴オルゴールが多かったのだ。

自鳴琴オルゴールの魔道具というのは、魔術回路が機械的な自鳴琴オルゴール構造を動かして音を鳴らし、別の魔術回路がその音響を美しく、大きくする仕組みになっている。
長年海水に浸かっていたために、当然ながら魔術回路だけでなく機械的な構造の方にも色々問題が起きていて、そちらも直さないことには魔道具として機能しないことが判明したのだ。

そんな、100年も前に流行っていたような音楽なんて俺は知らない。
第一、音楽なんて魔術学院では学ばなかったし。
当然のことながら、知らない音楽を奏でる構造なんぞ俺に直せるわけが無い。
アレクはもうちょっとマシだったので簡単な修理は出来たが・・・。
結局、シャルロが一番活躍する羽目になった。

「聞いて!!」
にこやかに笑いながらシャルロがやっと修理が終わった魔道具の内蓋を閉じ、スイッチを入れた。

~♪♪~~♪
一抱え程度しか無い魔道具の箱から流れてきているとは思えないほど深みが有り、透き通った音が部屋に流れる。

聞いたことが無い旋律だが、美しく思わず聞き惚れてしまうような音の奔流だった。

「良いね・・・」

「こんなに綺麗な音があれから出てくるなんて、びっくりだな」
最初に構造部分の修理を始めたときに、俺もある程度は手伝おうとした。
だから飛び出した針金みたいのが金属板に触れて音を出すのは知っている。単に、俺の音楽に関する知識とセンスでは、色々折れちゃったり曲がっちゃったりしている針や金属板をどう直すのが正解なのか分からなくてお手上げだっただけだ。
諦める前に色々触ったからあの構造から出る音って色々聞いたが、それなりに悪くない金属音だけど、こんな深みや透明感のある音じゃあなかった。

いやぁ、これは明らかに今回の発見物に対する報酬の分割はシャルロに多めに渡さなきゃだなぁ。

こんなに良い音楽を奏でる魔道具だったらかなりの値になるに違いない。

とは言え、まだまだ修理に時間が掛りそうだけど。

魔術回路の修理そのものはもうかなり進んだから、暫くシャルロとアレクの作業待ちだな。
だとしたら、何やら頼み事がしたいってアンディが言っていたから先にそっちを片づけておこうかな?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】殿下、私ではなく妹を選ぶなんて……しかしながら、悲しいことにバットエンドを迎えたようです。

みかみかん
恋愛
アウス殿下に婚約破棄を宣言された。アルマーニ・カレン。 そして、殿下が婚約者として選んだのは妹のアルマーニ・ハルカだった。 婚約破棄をされて、ショックを受けるカレンだったが、それ以上にショックな事実が発覚してしまう。 アウス殿下とハルカが国の掟に背いてしまったのだ。 追記:メインストーリー、只今、完結しました。その後のアフターストーリーも、もしかしたら投稿するかもしれません。その際は、またお会いできましたら光栄です(^^)

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

処理中です...