シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

590  星暦555年 黄の月 7~12日 虫除け(10)

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「取り敢えず、今後は魔術回路をチェックしている際に気になったのには付箋でも付けるようにしようぜ」

結局、シャルロが『見たような気がする』と言っていた『ふわっと障害物を避けて展開する膜の様なモノ』の魔術回路を見つけるのに、丸1日以上かかった。

昨日の午後遅くに見つかったのだが・・3人とも何とも言えず疲れた気分だったので、発見した魔術回路の検討は翌日に繰り越すことにしたのだ。

「そうだね~。
とは言え、風船みたいに障害物をよけて展開する領域設定がそこまで役に立つとは思ってなかったし、明らかに無駄が多い設計だったせいで初期段階でボツになっていたやつだから余計見つけにくかったんだけど」
お茶を注ぎながらシャルロが肩を竦めた。

特定の目的を持って調べている時には『全然ダメ』とさっさと却下した魔術回路が、状況が変わると『使い道があるかも』に変わる事もあるので、確かに珍しいアイディアに全部片っ端から付箋を付けていったのでは結局探す作業は効率化出来ない。
元々、特許登録が認められる魔術回路は何かしら新しいアイディアがある事が必須要件なのだ。

アイディア毎に一覧表を作って引き出しにでも整理して入れておけば良いのかもしれないが・・・流石にそこまでの暇は無い。
一番そう言う作業に向いているのはアレクだが、あいつだってシェフィート商会の手伝いがあるし。

まあ、これからも必要に応じて探していこう。

それはさておき。
新婚という事でシャルロは自宅から通っているのだが、こいつのことだからほぼ確実に朝食時にケレナと一緒にお茶を飲んでから来ていると思うのだが・・・その後にこちらに来ても基本的に毎回お茶を淹れている。

元々、俺はトイレが近くなると色々と不都合があった幼少時代の習慣から必要以上に飲み物を摂取しない傾向があるのだが、それを考えてもシャルロのお茶を飲む量は随分と多い気がする。

なのにトイレに行く回数が俺と殆ど変わらないなんて・・・不思議だ。
もしかして、蒼流が何らかの形で支援しているのだろうか??

思わず、『俺ももしもの時に清早にトイレに関して助けてもらえるかな?』なんてどうしようもない事を考えてしまった。


「まあ、確かに実際に試作してみるとこれってやたらと無駄が多くてこのままでは魔力消費量が却って増えそうだ」
アレクが魔術回路の記載された紙を手に取って再度目を通す。

そう。
一応、魔術回路が見つかった後に、これを使ってシャルロが造った試作品も掘り起こして確認してみたのだ。

障害物が無い状態にしてそこだけ虫除け領域にするという魔力消費を削減しそうなアイディアなのだが、実際に試作してみたら魔力効率が悪くてあっさり没になった物だったのだ。

だから余計シャルロの記憶にも漠然としか残らなくて探すのに時間が掛かったのだが。

「取り敢えず、どの部分で『障害物を避ける』という機能を実現しているかを確認して、それを虫除け結界に適用できないか試してみようぜ」

膜状の虫除け結界その物が障害物を避けて形を変えてくれれば、魔力消費量が減る可能性は高いのだ。

膜状の結界その物の展開方法を修正出来たら目的が果たせる可能性はある。

「そうだね。
難しい事を求めずに、単に物理的障害物に当たったらそれを避けるっていう機能だけを使えればいいんだから。
それがどの部分かを見つけるのが大変そうだけど」
ちょっとため息をつきながらシャルロが立ち上がった。

そう。
魔術回路を分解して、どの部分が求める機能を果たしているかを確認するのは運が良ければあっという間な時もあるのだが・・・運が悪いとやたらと時間が掛かる。

しかも今回のはやたらと無駄のある魔術回路だ。
今回はあまり運がいい展開にはなっていない気がするのは、気のせいだと良いんだが・・・。

◆◆◆◆

「これだけ時間を掛けて、『しゃがんで作業してもじっと立っている時と魔力消費量がほぼ同じ』かぁ。
凄い事なんだけど、微妙に達成感が足りない気がする・・・」

ほぼ5日かけて、やっと俺たちは障害物を避けて展開する虫除け結界の作成に成功した。
魔術回路をぶつ切りにしてどの部分で『障害物を避ける』という機能を持たせているかを見つけようとしたのだが、今回は魔術回路の必要要件が何故か3か所に分散していた。お陰で無駄をそぎ落とすのにやたらと時間が掛かったのだ。

これ、造った奴はよっぽど性格が悪いか、単に偶然の産物的に出来上がったんだろ???

余りにも魔術回路として効率が悪すぎる。
まあ、お蔭で『障害物を避ける』という機能その物にあまり魔力を掛けないで済むところまで魔術回路を削れたのだが。
時間がやたらとかかって俺たちは疲れ果てる結果となった。

思わず10日の休息日には何もかも投げ出して、シェイラの所に行って横でぼ~と1日過ごしてしまったよ。

休息日も遺跡近辺の森を歩き回ったり何やら掘り起こしていたりしているシェイラって考古学が好きすぎだよなぁ。
仕事を好きすぎると、労働時間が増えすぎてヤバいぞ~と密かに思った俺だった。

口には出さなかったけど。

これってもしも結婚しても、絶対に家のことを任せるメイドと執事を雇わないと。
少なくともシェイラに任せるのは無理だな。

まあ、俺自身だって家のことをする気が無いんだから、お互い様だが。
二人合わせて使用人も雇えるだけの収入か資金をしっかり準備してから共同生活に関しては考えることにしよう。

「まあ、お蔭で携帯式虫除け魔具はほぼ完成に近いんじゃないか?
この無駄削減の回り道をしている間に肝心の虫除け機能に関してはそこそこの数の人に試用してもらって、問題点を潰せたし」
アレクが立ち上がって伸びをしながら言った。

まあねぇ。
「じゃあ、適当にシェフィート商会の方で売りに出すか。
ちなみに、軍の方はどうする?
矢避け防寒結界の魔具にオプションで付けるようにするか?」
じゃらじゃら沢山の魔具を身に着けるのは邪魔だが、あまり多すぎる機能を一つの魔具に搭載すると故障した時に色々面倒なんだよなぁ。

「・・・そこら辺は、取り敢えず虫除け結界を紹介して、向うが希望してきたら研究するというとこで良いだろう。
出来れば全顧客に対して同じ商品を売れる方が製造プロセスも在庫管理も楽になる」
肩を竦めながらアレクが言った。

ついでに、改造することになったらその費用も請求するんだろ?

まあ、俺の懐にも入ってくる収入だから、文句はない。
将来の為にも堅実に金を貯めていかなきゃ。
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