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卒業後
583 星暦555年 緑の月 8日 虫除け(3)
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アレク視点の話です。
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>>サイド アレク・シェフィート
「やあジェド、久しぶり」
虫除け・・・しかも主に百足やゴキブリに対するテストの委託に関して話し合うという事で、周囲に聞こえるような大声で話すつもりは無いものの一応は個室の方が良いだろうと生物学会の傍にあるお茶の美味しい食事処の貸し出し部屋で待ち合わせをした。
まあ、この店の顧客層は生物学会の会員が一般の人間が聞きたくないような内容を大声で話すのに慣れているかも知れないが。
酷い時は2刻待たされたこともある待ち合わせの相手は、今回は珍しく待ち合わせ時間から半刻しか遅れずに現れた。
ジェド・ファルーンは百足やゴキブリと言った人の家にも出没しやすい害虫を専門に研究している生物学者だ。
学生時代にシャルロの親戚の領地にあった遺跡でネズミサイズのゴキブリの群れに襲われかけたのに懲りた私は、遺跡や洞窟で大量のゴキブリに襲われる可能性がどの程度あるのかを確認しようと次兄のセビウスに頼んでそう言った生き物に関して詳しい専門家を探してもらい、接触したのだ。
『ゴキブリに襲われた』と聞いて大興奮したジェドが早速トレンティス侯爵夫人の領地までに自腹で研究のために出かけ、色々と調べた結果の報告によると・・・遺跡での現象は通常ではまず起きないとのことだった。
ジェド曰く、地下に封じ込められていた囚人たちが餓死した際の恨みから悪霊化した後、長い年月を掛けて消滅した際に怨念がゴキブリに僅かずつ吸収され、ゴキブリの部分的魔物化を起こしたことが原因と思われる単発的な異常現象らしい。
魔物化したゴキブリ達もずっと封じ込まれていた為に活動を継続できず休眠し、長い年月が経った末に地震で封印に亀裂が入ったことで活動を再開し始めていた時期に我々が現れて巻き添えを食らったのだろうと言われた。
ある意味、部分的でも魔物化していたのだったら地震の後にあそこに探索に行って襲われたのが我々で、すべての異常ゴキブリを蒼流が抹殺したのは幸運だったと言えよう。
近所の少年やシャルロの親戚があの遺跡に入っていたら食い殺された可能性もゼロではないし、そうでなくてもあの異常ゴキブリが野に放たれて繁殖していたら大問題だっただろう。
そして例え繁殖しなくても、魔物化したゴキブリの死骸によって地域の土壌が汚染されていた可能性は高い。
何とも絶妙なタイミングだったようだ。
それはさておき。
害虫というのは色々と生活にも関係してくる。
新しい補給地となったパストン島の害虫に毒があった場合に思いがけぬ害を広めてしまう可能性があるかもとあちらにも行って現地の害虫について調べてもらった。
ついでに東の大陸まで短期間で行き来できる新規航路が開発された際の害虫の持ち込みの危険をジャレット経由で国土省にも指摘して、生物学会から何人かが東大陸まで調査に行く出張費用も出すよう話を持ち掛けておいた。
変な害虫が王都に広まり、それの一端をシェフィート商会が負っているなんて話が広まっては困る。場合によっては対応策が見つかるまでシェフィート商会の船が入港する前に毎回殺虫の術を掛けるよう魔術師か魔術学院の学生を雇うかとも話をしていたのだが、取り敢えず現時点での報告によると数週間単位の船旅で移って来れるような危険な虫はいないらしい。
そんなジェド(と生物学会)なので、虫除けの百足に対する効果のテストにも協力してくれると期待しているのだが・・・。
「やあ、アレク。
今度はどこに行かせてくれるんだい??!」
嬉し気に椅子に身を投げ出しながらジェドが聞いてきた。
「いや、どこかに行くんではなく、ちょっと研究を始めようと思っている虫除け魔具の効果確認のテストを受託してくれないかなと思ってね。
我々は百足やゴキブリが苦手なんだ」
そう。
苦手だからこそ完璧に排除する魔具を造る熱意が生じるのだが、完璧に排除できるかを確認する為にはそれら害虫を目にしなければならないという矛盾が非常に大きな問題なのだ。
「へぇぇ、虫除けねぇ。
今さら必要かい?
まあ、お金を払ってくれるならあたらしい虫除けの効能テストなんていつでもやるけど。
どこでやれば良いんだい?」
準備してあったティーポットからお茶を注ぎ、クッキーに手を伸ばしながらジェドが尋ねる。
百足とゴキブリの話をしても、全く食欲に影響は無い様だ。
「我々はノルデ村に住んでいるんだが、別に王都近辺だったらどこでテストをしてくれても構わないぞ」
というか、シャルロの話が冗談でないのだったらノルデ村にはゴキブリが存在しないのだからそれに対する虫除けのテストは出来ないだろう。
「ノルデ村!!??
あの奇跡の村か!!」
突然ジェドがクッキーを放り出して身を乗り出してきた。
「奇跡の村??」
ノルデ村で奇跡が起きているなんて話は聞いていない。
「知らないのか?!
あそこではここ数年、全くゴキブリが出現していないんだ!!
水源に何か変化が起きたのか、もしくは誰も知らないゴキブリの天敵が住み着いたのか、それとも何か特効成分のある除虫草が変異したのか。何が奇跡的状況を齎しているのか原因を解明しようと、かなりの人数が我々の学会でも研究しているんだよ」
ジェドが熱心に言い募った。
ゴキブリが大発生したら話題になるだろうが、出てこない事は特に日常の話題に上がったりしないので、パディン夫人やデルブ夫人経由でも流れてこなかったが・・・学者連中の注意は引いていたらしい。
「水源・・・と言うよりは天敵がの方が近いかな。
でも、研究してもあまり意味がないぞ?」
上位精霊の加護なんて、望んで得られるものではないのだから。
ある意味、ウィルの清早や更に下位な精霊でも同じくゴキブリを殲滅できるのかは調べる価値はあるかもしれないが。
風や火精霊の加護持ちでも頼んだら同じ結果を得られるかも興味を感じる所だが・・・今度、ウィルにでも学院長に尋ねてみないか唆してみたら面白いかも知れない。
「何を知っているんだ?!」
こちらに掴みかからんばかりの勢いでジェドが聞いてきた。
これは勿体ぶらずに教えておいた方が、学会による無駄な研究費の浪費を防げるか。
幾ら研究馬鹿の集まりな生物学会でも、流石に侯爵家の子息であるシャルロを研究対象にしようと突撃したりはしないだろう。
多分。
「ノルデ村に住んでいる、シャルロ・オレファーニはゴキブリが大っ嫌いなんだよ。
自分に加護を与えている水精霊に頼んで定期的に村全体からゴキブリを殲滅してもらっていると先日彼が言っていた」
シャルロが水精霊の加護持ちなのは知る人ぞ知る情報だったが、彼が村全体から殲滅させる程ゴキブリを嫌っているのは流石に公の情報では無いだろうからなぁ。
これは生物学会にとっても想定外な『天敵』だろう。
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>>サイド アレク・シェフィート
「やあジェド、久しぶり」
虫除け・・・しかも主に百足やゴキブリに対するテストの委託に関して話し合うという事で、周囲に聞こえるような大声で話すつもりは無いものの一応は個室の方が良いだろうと生物学会の傍にあるお茶の美味しい食事処の貸し出し部屋で待ち合わせをした。
まあ、この店の顧客層は生物学会の会員が一般の人間が聞きたくないような内容を大声で話すのに慣れているかも知れないが。
酷い時は2刻待たされたこともある待ち合わせの相手は、今回は珍しく待ち合わせ時間から半刻しか遅れずに現れた。
ジェド・ファルーンは百足やゴキブリと言った人の家にも出没しやすい害虫を専門に研究している生物学者だ。
学生時代にシャルロの親戚の領地にあった遺跡でネズミサイズのゴキブリの群れに襲われかけたのに懲りた私は、遺跡や洞窟で大量のゴキブリに襲われる可能性がどの程度あるのかを確認しようと次兄のセビウスに頼んでそう言った生き物に関して詳しい専門家を探してもらい、接触したのだ。
『ゴキブリに襲われた』と聞いて大興奮したジェドが早速トレンティス侯爵夫人の領地までに自腹で研究のために出かけ、色々と調べた結果の報告によると・・・遺跡での現象は通常ではまず起きないとのことだった。
ジェド曰く、地下に封じ込められていた囚人たちが餓死した際の恨みから悪霊化した後、長い年月を掛けて消滅した際に怨念がゴキブリに僅かずつ吸収され、ゴキブリの部分的魔物化を起こしたことが原因と思われる単発的な異常現象らしい。
魔物化したゴキブリ達もずっと封じ込まれていた為に活動を継続できず休眠し、長い年月が経った末に地震で封印に亀裂が入ったことで活動を再開し始めていた時期に我々が現れて巻き添えを食らったのだろうと言われた。
ある意味、部分的でも魔物化していたのだったら地震の後にあそこに探索に行って襲われたのが我々で、すべての異常ゴキブリを蒼流が抹殺したのは幸運だったと言えよう。
近所の少年やシャルロの親戚があの遺跡に入っていたら食い殺された可能性もゼロではないし、そうでなくてもあの異常ゴキブリが野に放たれて繁殖していたら大問題だっただろう。
そして例え繁殖しなくても、魔物化したゴキブリの死骸によって地域の土壌が汚染されていた可能性は高い。
何とも絶妙なタイミングだったようだ。
それはさておき。
害虫というのは色々と生活にも関係してくる。
新しい補給地となったパストン島の害虫に毒があった場合に思いがけぬ害を広めてしまう可能性があるかもとあちらにも行って現地の害虫について調べてもらった。
ついでに東の大陸まで短期間で行き来できる新規航路が開発された際の害虫の持ち込みの危険をジャレット経由で国土省にも指摘して、生物学会から何人かが東大陸まで調査に行く出張費用も出すよう話を持ち掛けておいた。
変な害虫が王都に広まり、それの一端をシェフィート商会が負っているなんて話が広まっては困る。場合によっては対応策が見つかるまでシェフィート商会の船が入港する前に毎回殺虫の術を掛けるよう魔術師か魔術学院の学生を雇うかとも話をしていたのだが、取り敢えず現時点での報告によると数週間単位の船旅で移って来れるような危険な虫はいないらしい。
そんなジェド(と生物学会)なので、虫除けの百足に対する効果のテストにも協力してくれると期待しているのだが・・・。
「やあ、アレク。
今度はどこに行かせてくれるんだい??!」
嬉し気に椅子に身を投げ出しながらジェドが聞いてきた。
「いや、どこかに行くんではなく、ちょっと研究を始めようと思っている虫除け魔具の効果確認のテストを受託してくれないかなと思ってね。
我々は百足やゴキブリが苦手なんだ」
そう。
苦手だからこそ完璧に排除する魔具を造る熱意が生じるのだが、完璧に排除できるかを確認する為にはそれら害虫を目にしなければならないという矛盾が非常に大きな問題なのだ。
「へぇぇ、虫除けねぇ。
今さら必要かい?
まあ、お金を払ってくれるならあたらしい虫除けの効能テストなんていつでもやるけど。
どこでやれば良いんだい?」
準備してあったティーポットからお茶を注ぎ、クッキーに手を伸ばしながらジェドが尋ねる。
百足とゴキブリの話をしても、全く食欲に影響は無い様だ。
「我々はノルデ村に住んでいるんだが、別に王都近辺だったらどこでテストをしてくれても構わないぞ」
というか、シャルロの話が冗談でないのだったらノルデ村にはゴキブリが存在しないのだからそれに対する虫除けのテストは出来ないだろう。
「ノルデ村!!??
あの奇跡の村か!!」
突然ジェドがクッキーを放り出して身を乗り出してきた。
「奇跡の村??」
ノルデ村で奇跡が起きているなんて話は聞いていない。
「知らないのか?!
あそこではここ数年、全くゴキブリが出現していないんだ!!
水源に何か変化が起きたのか、もしくは誰も知らないゴキブリの天敵が住み着いたのか、それとも何か特効成分のある除虫草が変異したのか。何が奇跡的状況を齎しているのか原因を解明しようと、かなりの人数が我々の学会でも研究しているんだよ」
ジェドが熱心に言い募った。
ゴキブリが大発生したら話題になるだろうが、出てこない事は特に日常の話題に上がったりしないので、パディン夫人やデルブ夫人経由でも流れてこなかったが・・・学者連中の注意は引いていたらしい。
「水源・・・と言うよりは天敵がの方が近いかな。
でも、研究してもあまり意味がないぞ?」
上位精霊の加護なんて、望んで得られるものではないのだから。
ある意味、ウィルの清早や更に下位な精霊でも同じくゴキブリを殲滅できるのかは調べる価値はあるかもしれないが。
風や火精霊の加護持ちでも頼んだら同じ結果を得られるかも興味を感じる所だが・・・今度、ウィルにでも学院長に尋ねてみないか唆してみたら面白いかも知れない。
「何を知っているんだ?!」
こちらに掴みかからんばかりの勢いでジェドが聞いてきた。
これは勿体ぶらずに教えておいた方が、学会による無駄な研究費の浪費を防げるか。
幾ら研究馬鹿の集まりな生物学会でも、流石に侯爵家の子息であるシャルロを研究対象にしようと突撃したりはしないだろう。
多分。
「ノルデ村に住んでいる、シャルロ・オレファーニはゴキブリが大っ嫌いなんだよ。
自分に加護を与えている水精霊に頼んで定期的に村全体からゴキブリを殲滅してもらっていると先日彼が言っていた」
シャルロが水精霊の加護持ちなのは知る人ぞ知る情報だったが、彼が村全体から殲滅させる程ゴキブリを嫌っているのは流石に公の情報では無いだろうからなぁ。
これは生物学会にとっても想定外な『天敵』だろう。
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