シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
224 / 1,038
卒業後

223 星暦553年 紫の月 23日 船探し(6)

しおりを挟む
「うあぁあぁぁぁゃあぁぁ~~!!」
シャルロの空滑機グライダーが宙に上がった瞬間に響き渡った叫び声を聞いて、思わず軽く吹き出してしまった。

「高いところが苦手なのかな?」
通信機をアレクに対してスイッチを入れてコメントする。

「船乗りならマストに登ったりしなければならないだろうから、高所恐怖症では務まらないと思うんだがなぁ」
通信機から笑いをこらえたようなアレクの声が聞こえる。

気を失ってしまったとか失禁してしまったとかなら航海士の人に確認作業に付き合って貰うのは諦めなければならないが、ちょっと怖い程度なら我慢して慣れてもらう。
ノンビリやりたいところに見張り役なんて無粋な横やりを入れるのだから、少しは役に立たないとね。

・・・あれ?
「そう言えば、アレクも高いところ苦手だって以前言ってなかったっけ?」

「私は頭脳派人間なんだ。自分の肉体能力なんて信頼できない物を使って高いところで動き回るのは苦手だが、自分たちで開発、テストして作った魔道具なら大丈夫さ」

なるほど。
アレクは運動そのものが苦手なのか。
上手く立ち回っていたのか、魔術学院の授業では特に目立っていなかったが。

取り敢えず、シャルロが捜索範囲の南端にたどり着き、何やら航海士と相談してから沖に進んで彼の血を1滴混ぜた水と錘を入れた瓶を海に落とす。
蒼流なら海全体を横断するような氷の障壁も作れるらしいのだが、流石にそんなことはして貰う必要は無いし、どんな弊害が起きるか分かったものではないので蒼流に分かりやすい目印をまず終点に落とすことにしたのだ。

その後は、海岸寄りの始点に戻る。
シャルロが蒼流に頼んだのか、一瞬海が輝いたと思ったら下に氷の壁と思われる力の塊が出来ていた。
精霊の力の発現というのは人間の魔術とは違うのだが、それでも魔力の一種ではあるので心眼《サイト》には光って見える。
それが何千ナタもにわたって一瞬で構築されるのは凄い。
今回は操作領域の南端と北端の区切りを蒼流に作って貰い、海中を進む際のサポートを清早に頼むことにしたのだが・・・相変わらず常識を越えた威力だな。

◆◆◆◆

何だかんだで時間が掛ったので、北端の壁を作って貰った後は一度宿に戻って空滑機グライダーを片づけた後に昼食を食べてから海に出た。

「じゃあ、ここら辺かな?」
下に氷の壁が見えてきたところでシャルロとアレクに確認し、二人が頷いたのを見てから航海士へ注意事項を伝えることにした。
「これから海中に潜るけど、ちゃんと濡れないし空気も循環して貰えるから安心してくれ。
下手に暴れて船から落ちたらどうなるか分からないから、出来れば立ち上がらないで貰えるとありがたい」

「???
潜る?」
航海士はイマイチ何の話なのか理解していない顔をしていたが、まあ取り敢えず警告はしたと言うことで無視してさっさと清早にお願いした。

「じゃ、下げるのと空気をよろしく~」
「了解!」
海での作業と言うことで張り切っていた清早が姿を現したと思ったら直ぐさまボートが沈み始めた。

どこかの屋根から自力で重力に任せて飛び降りるよりは遅いが、空滑機グライダーで先程高度を下げた時よりは早いぐらいの速度でボートが沈み始め、航海士の顔が面白いほど真っ青になった。

一体こいつは俺たちがどうやってアドリアーナ号を探すと思っていたのだろうか?
海上から船で探せる範囲は既にダルム商会でやっているのに、俺たちが海上から探すと思っていたのか?

深くまで潜っていくと、だんだん辺りが暗くなってくる。
灯りを付ければ氷の壁が見えるぐらいのところまで降りてきた。
イルム
ぽうっと光が浮かび上がったのを、半日程度持つだけの魔力を込め東側の海底に設置する。

「なんだあれは?!」
航海士がずっと海底に続く白く光を反射している氷の壁を見て驚いていた。

「シャルロが精霊に頼んで作って貰った氷の壁さ。
これがあれば、北端まで届いたことが分かるだろう?最初はロープでも張ろうかと思ったんだが、長さが半端ないから・・・氷の壁を海底に作って貰うことにしたんだ。
さっき南端でも同じ事をしたから、このままコンパスで方向を確認しながら北と南の氷の壁の間を往復しながら探す」

「じゃあ、よろしくね」
シャルロがコンパスと舵を航海士に渡した。
「まっすぐ北に進むように舵を動かしてね。一応後ろからまっすぐ一定の速度で進むよう力を加えて貰ってるから勝手に変な方向には進まないとは思うけど」

ボートの周りの空気の壁(水の壁?)を居心地悪そうに見ながら航海士がコンパスと舵を弄っている間に、俺たちは光源を設置して左右を確認し続ける。

最初は何も無かったが、2刻ぐらいした後に最初の塊が目に入った。

「お、何かあるぞ。水打《ヒタン》!」
アレクが術を放つ。
砂が舞い上がり・・・光が乱反射して辺り一面真っ白になった。
「あ~。
これじゃあ砂が落ち着くまで時間が掛りそうだね。
どこで水打《ヒタン》を打ったか記録しておいて帰りに全部纏めて見て回ろうか?」
シャルロがため息をつきながら紙を取り出した。

以前の探険の際は歩いていたので、砂が落ち着くまで待つのは良い休憩になった。しかし今回は船に乗っているだけなので特に休みは必要が無い。
捜査する範囲を考えると、ノンビリ一つ一つの岩や沈没船で砂が落ち着くまで待っている暇は無いかもしれない。
俺たちだったらちょっとおしゃべりして休憩しても良かったんだけどねぇ。
お目付役がいるし。

「じゃあ、とりあえず魔力が切れた人が記録係ね。
最初はシャルロがやっといて」

さて、一体幾つ沈没船が見つかるかな?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...