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卒業後
213 星歴553年 赤の月28日 手伝い再び(3)
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今回は考古学者さんたちの視点です。
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>>>サイド ガルバ
「初日に言われた範囲の目録作りと固定化の術を掛ける作業が終わったんですけど、他に固定化の術を掛け終わっていない区域はありませんか?」
レディ・トレンティスの孫のシャルロがラズバリー伯爵の娘であるケレナ嬢と一緒に声を掛けてきた。
「おおう・・・。
もう終わったのか。早かったな。そりゃあ、固定化の術を片っ端から掛けられるほど魔術師がいないから、掛けてくれるならありがたいけど、いいのか?」
ケレナ嬢から目録を受け取りながら聞いた。
発見直後の魔術回路や魔道具探しの時期ならまだしも、本格的な考古学の研究が主になる遺跡の作業に来る魔術師なぞ、少ない。
アルマのような物好きか、もしくはあまり魔力がないので考古学学会が払う安めの給料でも構わないと思う一流未満の魔術師が殆どだ。
だから今まで見た魔術師は一日に使える魔力にもそれなりに限界があったので、固定化の術を掛けて貰うにも対象を選ぶ必要があったし、やって貰うにしてもそれなりに時間が掛った。
それが。
シャルロとウィルは二人で、20軒分もの固定化を2日で掛け終わったのだ。
しかもそんな魔力の使用に関して特に何の苦も感じていないようだ。
「良いの良いの。ウィルが色々魔術回路を見て回る必要があるんで、ついでに固定化の術を掛けるだけだから」
にこやかに笑いながらシャルロが答える。
か~っ。
良いねぇ、このおおらかさ。
やはり豊かな者は心にも余裕があるということなのだろうか?
とは言え、レディ・トレンティスによるとこの3人組は親の財産で金持ちという訳では無く、自分達で魔道具を開発して金を稼いでいるという話だが。
願わくはここで見つけた魔術回路が彼らの役に立ってくれると良いのだが。
それでまた来てくれたらお互い大助かりだ。
「あ、そういえばウィルが見つけた金庫や隠し場所も目録と見取り図に書き込んでおいたので、確認して下さいね」
ケレナが街の見取り図につけた印を見せながら説明してきた。
「お、他にも金庫が見つかったのかい?!
前回大きそうな家は見て貰ったと思ったけど」
「殆どの家に隠し金庫があったわよ。貨幣経済が発達していたのかしらね?」
肩を竦めながらケレナが答えた。
この令嬢も貴族の娘としては変わっているが、考古学に興味があるのか先日もハラファと色々話していた。
何であれ、興味を持って楽しんでくれているのならありがたい。
面白かったらまた来年も来てくれるかも知れないし。
是非来て貰いたいところだ。
本当に。
◆◆◆
>>>サイド アルマ
「アルマさん、これはちょっと紙が融着しているみたいでうまく術をかけられないのですが、どうしましょう?」
アレクが声をかけてきた。
近寄って彼が修復用の術をかけていた書類に目をやる。
書類がフォルダーのような物に挟まれていた品で、フォルダーはうまく術をかけて無事中の紙を傷めずに開くことが出来たが、開いてみたら紙がボロボロになっていて殆ど全部一体化しているようだ。
「ああ、これか。
こういうのは、薄く表面に接着面を作るような形で術をかけて、根気よく薄皮一枚ずつはがしていくような感じでやるんだ。
何枚か薄皮を重ねると元々の一枚になるから、もの凄く時間がかかるし根気がいるんだけど、そうする以外はどうしようもないからね」
手本として術をかけて一枚薄皮をはがして見せながら説明する。
「なるほど」
頷きながら青年が同じように術をかけて注意深く剥がし始めた。
遺跡の出土品を調べるというのは本当に細心の注意を必要とする、根気のいる作業だ。
普通の紙に書かれて入れば5分で読み終わるような手紙書類でも、読める状態にするのに1日以上かかることはざらだ。
なのでその作業に向く魔術師は非常に少なく、おかげで自分の作業が山積みになってしまっているのだが・・・アレクが来てくれて、大分はかどっている。
彼は細かい作業が苦にならない上に魔力もそれなりに豊富にあり、しかも遺跡や出土品に興味があるようなので楽しんで取り掛かってくれている。
休みだけでなく、長期的にこっちで働いて欲しい位だ。
とは言え、考古学を趣味ではなく本職とするにはちょっとこの若い青年の枯れ具合が足りないかもしれないが。
「いやぁ助かるよ。君たちが来てくれたおかげであちこちの作業が凄くはかどってね。
無償でこれほど頑張ってくれるなんて、悪いね」
「いえいえ、私たちにとっては気分転換の遊びのようなものですから。遊ばせていただくついでに色々面白いことを教えてもらってこちらこそ感謝しています」
術をかけ終わった表面を丁寧にはがしながらアレクがにこやかに答えた。
「いいのかい?
君とシャルロ君は考古学が大好きなようだが、ウィル君はそこまで考古学というものに興味があるようではないけど。彼に金庫を探して貰えるのも凄く助かっているが、いやいや付き合わせるのも悪い気がするが・・・」
シャルロとアレクは昼休みなどに皆で雑談している際に考古学のことに話題に食らいついてくるが、ウィルは面白そうに聞いてはいるものの特に自分から質問するほど興味はない様子だった。
別におとなしく無口なタイプという訳ではないので、そこまで興味がないのではないかとガルバも多少気にしていた。
「ああ、ウィルはそれなりに興味があるし、彼は目的なしにぶらぶらと何かをするのも好きなんですよ。
大人になって、それなりに経済力が得られたので糧を稼ぐためでなくのんびりするのが好きなんです。ただ、結局何もしないのは耐えられない性格なので、こういうところでお手伝いしたり、今みたいに遺跡から魔術回路を再現しようとしたりするのを楽しんでいますから気にしないでください」
にやにや笑いながらアレクが答えた。
なるほど。
優雅に何もしないで過ごすのを苦にしないというのは、ある意味才能が必要だ。
休みをのんびり楽しむのに我々の手伝いをするのが役に立つなら、どんどん役に立ってもらうじゃないか。
また今度こちらに来ないか青年たちをさりげなく誘うよう、ガルバに言っておこう。
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>>>サイド ガルバ
「初日に言われた範囲の目録作りと固定化の術を掛ける作業が終わったんですけど、他に固定化の術を掛け終わっていない区域はありませんか?」
レディ・トレンティスの孫のシャルロがラズバリー伯爵の娘であるケレナ嬢と一緒に声を掛けてきた。
「おおう・・・。
もう終わったのか。早かったな。そりゃあ、固定化の術を片っ端から掛けられるほど魔術師がいないから、掛けてくれるならありがたいけど、いいのか?」
ケレナ嬢から目録を受け取りながら聞いた。
発見直後の魔術回路や魔道具探しの時期ならまだしも、本格的な考古学の研究が主になる遺跡の作業に来る魔術師なぞ、少ない。
アルマのような物好きか、もしくはあまり魔力がないので考古学学会が払う安めの給料でも構わないと思う一流未満の魔術師が殆どだ。
だから今まで見た魔術師は一日に使える魔力にもそれなりに限界があったので、固定化の術を掛けて貰うにも対象を選ぶ必要があったし、やって貰うにしてもそれなりに時間が掛った。
それが。
シャルロとウィルは二人で、20軒分もの固定化を2日で掛け終わったのだ。
しかもそんな魔力の使用に関して特に何の苦も感じていないようだ。
「良いの良いの。ウィルが色々魔術回路を見て回る必要があるんで、ついでに固定化の術を掛けるだけだから」
にこやかに笑いながらシャルロが答える。
か~っ。
良いねぇ、このおおらかさ。
やはり豊かな者は心にも余裕があるということなのだろうか?
とは言え、レディ・トレンティスによるとこの3人組は親の財産で金持ちという訳では無く、自分達で魔道具を開発して金を稼いでいるという話だが。
願わくはここで見つけた魔術回路が彼らの役に立ってくれると良いのだが。
それでまた来てくれたらお互い大助かりだ。
「あ、そういえばウィルが見つけた金庫や隠し場所も目録と見取り図に書き込んでおいたので、確認して下さいね」
ケレナが街の見取り図につけた印を見せながら説明してきた。
「お、他にも金庫が見つかったのかい?!
前回大きそうな家は見て貰ったと思ったけど」
「殆どの家に隠し金庫があったわよ。貨幣経済が発達していたのかしらね?」
肩を竦めながらケレナが答えた。
この令嬢も貴族の娘としては変わっているが、考古学に興味があるのか先日もハラファと色々話していた。
何であれ、興味を持って楽しんでくれているのならありがたい。
面白かったらまた来年も来てくれるかも知れないし。
是非来て貰いたいところだ。
本当に。
◆◆◆
>>>サイド アルマ
「アルマさん、これはちょっと紙が融着しているみたいでうまく術をかけられないのですが、どうしましょう?」
アレクが声をかけてきた。
近寄って彼が修復用の術をかけていた書類に目をやる。
書類がフォルダーのような物に挟まれていた品で、フォルダーはうまく術をかけて無事中の紙を傷めずに開くことが出来たが、開いてみたら紙がボロボロになっていて殆ど全部一体化しているようだ。
「ああ、これか。
こういうのは、薄く表面に接着面を作るような形で術をかけて、根気よく薄皮一枚ずつはがしていくような感じでやるんだ。
何枚か薄皮を重ねると元々の一枚になるから、もの凄く時間がかかるし根気がいるんだけど、そうする以外はどうしようもないからね」
手本として術をかけて一枚薄皮をはがして見せながら説明する。
「なるほど」
頷きながら青年が同じように術をかけて注意深く剥がし始めた。
遺跡の出土品を調べるというのは本当に細心の注意を必要とする、根気のいる作業だ。
普通の紙に書かれて入れば5分で読み終わるような手紙書類でも、読める状態にするのに1日以上かかることはざらだ。
なのでその作業に向く魔術師は非常に少なく、おかげで自分の作業が山積みになってしまっているのだが・・・アレクが来てくれて、大分はかどっている。
彼は細かい作業が苦にならない上に魔力もそれなりに豊富にあり、しかも遺跡や出土品に興味があるようなので楽しんで取り掛かってくれている。
休みだけでなく、長期的にこっちで働いて欲しい位だ。
とは言え、考古学を趣味ではなく本職とするにはちょっとこの若い青年の枯れ具合が足りないかもしれないが。
「いやぁ助かるよ。君たちが来てくれたおかげであちこちの作業が凄くはかどってね。
無償でこれほど頑張ってくれるなんて、悪いね」
「いえいえ、私たちにとっては気分転換の遊びのようなものですから。遊ばせていただくついでに色々面白いことを教えてもらってこちらこそ感謝しています」
術をかけ終わった表面を丁寧にはがしながらアレクがにこやかに答えた。
「いいのかい?
君とシャルロ君は考古学が大好きなようだが、ウィル君はそこまで考古学というものに興味があるようではないけど。彼に金庫を探して貰えるのも凄く助かっているが、いやいや付き合わせるのも悪い気がするが・・・」
シャルロとアレクは昼休みなどに皆で雑談している際に考古学のことに話題に食らいついてくるが、ウィルは面白そうに聞いてはいるものの特に自分から質問するほど興味はない様子だった。
別におとなしく無口なタイプという訳ではないので、そこまで興味がないのではないかとガルバも多少気にしていた。
「ああ、ウィルはそれなりに興味があるし、彼は目的なしにぶらぶらと何かをするのも好きなんですよ。
大人になって、それなりに経済力が得られたので糧を稼ぐためでなくのんびりするのが好きなんです。ただ、結局何もしないのは耐えられない性格なので、こういうところでお手伝いしたり、今みたいに遺跡から魔術回路を再現しようとしたりするのを楽しんでいますから気にしないでください」
にやにや笑いながらアレクが答えた。
なるほど。
優雅に何もしないで過ごすのを苦にしないというのは、ある意味才能が必要だ。
休みをのんびり楽しむのに我々の手伝いをするのが役に立つなら、どんどん役に立ってもらうじゃないか。
また今度こちらに来ないか青年たちをさりげなく誘うよう、ガルバに言っておこう。
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