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卒業後
576 星暦555年 翠の月 29日 映像魔道具の進歩形?(3)
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取り敢えず、直近の記憶に関する実験としてはシャルロとアレクが村の雑貨屋まで歩いて行って適当にワインを買って戻ってくることにした。
勿論、後ろから俺も記録用魔道具で二人が見た景色を記録しながらついて歩く。
で、帰宅したらすぐに、別々の部屋でお互いの記憶を魔石に記録した。
そしてその後に今度は俺が話をしながら色々誘導した後にもう一度魔石に記憶を記録して比較してみるという流れだ。
まず、最初の手を加えていない直近の記録を魔道具に記録した後、シャルロが台所へパディン夫人とクッキーについて相談しに行き、その間に俺がアレクに何を見たのか話して貰って誘導できるか試してみた。
取り敢えず、俺が何も知らないという想定でアレクが家を出てから雑貨屋に着くまでの景色を説明していく。
「家を出て左に曲がったところで馬車に追い抜かれたな。
紋章はついていなかったがそこそこ良い造りの物だったから、シャルロの家にケレナの親族が遊びに行く途中だったのかも知れない」
アレクが話し始めたところに、口を挟む。
「そう言えば、家を出たところで隣の家の植栽が目に入っただろ?
中々綺麗な花が咲いていたよな」
実際には花なんか咲いていなかったが、若葉がちょっと明るい色で芽吹いていたのでそれが少し目に入った可能性は高い。
この場合、『花が咲いていた』と誘導したらどうなるのか?
「言われてみたらそうだったな」
おい。
花は咲いてなかったぞ~。
でも、色が何か目に入ったというのが記憶にあったのかな?
「まあ、それはともかく。
馬車が視界から抜けた後に道の向うで大工が何やらガヌール家の修繕をしていたようだな」
アレクがあっさりこちらの言葉に合意して、続けた。
「へぇ。
何人作業していた?
あの連中っていつも地味な茶色い服を着ているから目につきにくいんだよなぁ」
実は今回は3人作業していたうち一人は紺色の服を着ていたのだが。
「ふむ。
2人・・・いや、3人か。
ちゃんと景色を記憶に焼き付けておこうと思っても意外と普通の日常の光景というのは覚えていないものだな」
アレクが呟く。
そんなこんなで色々と雑貨屋までの道のりについて話させ、記憶を変えるような言葉を色々と投げかけた後にもう一度魔石に記憶の映像を記録させた。
面白いことに、家を出たところでちらりと視界に入る隣の家の植栽には花が咲いていて、ガヌール家で働いていた大工は3人とも茶色い服になっていた。
意外と細かい部分の記憶って勝手に編集されてしまうもんなんだなぁ。
同じ事をシャルロにも繰り返して、最後に見比べてみたら・・・
「これって審議官や警備兵の調査には絶対に使えないね」
ため息をつきながらシャルロが結論づける結果となった。
最初に帰ってきて直ぐに記録した映像はアレクとシャルロの記憶にそれほど違いは無かった。
はっきりと映像が見える対象に違いがあったし、大工に注意を払っていなかったシャルロの場合は人数が1人足りなかったりといったことが有ったものの、大体においてほぼ同じで俺が手に持っていた記録用魔道具で記録した映像とそれ程違いは無かった。
が。
俺が適当に誘導しまくった後の映像は・・・同じ日の同じ光景の記録とは思えないほど変わっていた。
「考えてみたら、隣の植栽って花をつける種類ではなかったな」
最初に俺の『綺麗な花』に誘導された記憶の書き換えによって、鮮やかな黄色い花をつけていた植栽の映像を見たアレクが半ば唖然としながら呟いた。
「僕たちってあやふやな記憶をこんなにも自分の想像で補完しちゃっているんだなんて、知らなかった・・・。
これじゃあよっぽどしっかり注意を払っていて自分の記憶に自信を持っていない限り、いくらでも調査官の誘導で記憶が変わってしまって怖い位だね」
雑貨屋で村の奥さんが話をしていた際に傍に子供がいなかったのに、俺の誘導に流されて退屈そうに立っていた姿の記憶を捏造してしまっていたシャルロもびっくりしていた。
あのガキンチョは基本的にいつも母親について回っているからなぁ。
当然、一緒に居ると思い込んで見たつもりになってしまっても不思議はないけど、それが映像になって記録されていると『確実に見た』という気になってしまうから中々怖い。
ため息ついたシャルロが、首を振ってアレクの方に向いた。
「過去の記憶を鮮明にする術ってどこで見かけたのか覚えている?
明日魔術院で探してから、適当に誰か親世代の人間の結婚式の映像でも記録できないか試してみようよ。
元々、調査用の売上よりも昔の思い出を映像にする方が需要がありそうだったし、そっちで使い物にならないか、もう少し頑張ってみよう」
「そうだな。
親世代だけでなく祖父母の世代も試してみたほうが良いんじゃないか?
過去の思い出に浸るのって今働くのに忙しい現役世代よりも、引退して暇を持て余している老人世代の方が多そうじゃん?」
子育ても終わって引退した老人世代の方が貴族や大きな商会の人間だったら自由になる金も多そうだし。
しっかし。
この魔道具は完成できて売り出した場合、一番気をつけなければならないのはどうやって調査機関による冤罪に悪用させないかだな・・・。
勿論、後ろから俺も記録用魔道具で二人が見た景色を記録しながらついて歩く。
で、帰宅したらすぐに、別々の部屋でお互いの記憶を魔石に記録した。
そしてその後に今度は俺が話をしながら色々誘導した後にもう一度魔石に記憶を記録して比較してみるという流れだ。
まず、最初の手を加えていない直近の記録を魔道具に記録した後、シャルロが台所へパディン夫人とクッキーについて相談しに行き、その間に俺がアレクに何を見たのか話して貰って誘導できるか試してみた。
取り敢えず、俺が何も知らないという想定でアレクが家を出てから雑貨屋に着くまでの景色を説明していく。
「家を出て左に曲がったところで馬車に追い抜かれたな。
紋章はついていなかったがそこそこ良い造りの物だったから、シャルロの家にケレナの親族が遊びに行く途中だったのかも知れない」
アレクが話し始めたところに、口を挟む。
「そう言えば、家を出たところで隣の家の植栽が目に入っただろ?
中々綺麗な花が咲いていたよな」
実際には花なんか咲いていなかったが、若葉がちょっと明るい色で芽吹いていたのでそれが少し目に入った可能性は高い。
この場合、『花が咲いていた』と誘導したらどうなるのか?
「言われてみたらそうだったな」
おい。
花は咲いてなかったぞ~。
でも、色が何か目に入ったというのが記憶にあったのかな?
「まあ、それはともかく。
馬車が視界から抜けた後に道の向うで大工が何やらガヌール家の修繕をしていたようだな」
アレクがあっさりこちらの言葉に合意して、続けた。
「へぇ。
何人作業していた?
あの連中っていつも地味な茶色い服を着ているから目につきにくいんだよなぁ」
実は今回は3人作業していたうち一人は紺色の服を着ていたのだが。
「ふむ。
2人・・・いや、3人か。
ちゃんと景色を記憶に焼き付けておこうと思っても意外と普通の日常の光景というのは覚えていないものだな」
アレクが呟く。
そんなこんなで色々と雑貨屋までの道のりについて話させ、記憶を変えるような言葉を色々と投げかけた後にもう一度魔石に記憶の映像を記録させた。
面白いことに、家を出たところでちらりと視界に入る隣の家の植栽には花が咲いていて、ガヌール家で働いていた大工は3人とも茶色い服になっていた。
意外と細かい部分の記憶って勝手に編集されてしまうもんなんだなぁ。
同じ事をシャルロにも繰り返して、最後に見比べてみたら・・・
「これって審議官や警備兵の調査には絶対に使えないね」
ため息をつきながらシャルロが結論づける結果となった。
最初に帰ってきて直ぐに記録した映像はアレクとシャルロの記憶にそれほど違いは無かった。
はっきりと映像が見える対象に違いがあったし、大工に注意を払っていなかったシャルロの場合は人数が1人足りなかったりといったことが有ったものの、大体においてほぼ同じで俺が手に持っていた記録用魔道具で記録した映像とそれ程違いは無かった。
が。
俺が適当に誘導しまくった後の映像は・・・同じ日の同じ光景の記録とは思えないほど変わっていた。
「考えてみたら、隣の植栽って花をつける種類ではなかったな」
最初に俺の『綺麗な花』に誘導された記憶の書き換えによって、鮮やかな黄色い花をつけていた植栽の映像を見たアレクが半ば唖然としながら呟いた。
「僕たちってあやふやな記憶をこんなにも自分の想像で補完しちゃっているんだなんて、知らなかった・・・。
これじゃあよっぽどしっかり注意を払っていて自分の記憶に自信を持っていない限り、いくらでも調査官の誘導で記憶が変わってしまって怖い位だね」
雑貨屋で村の奥さんが話をしていた際に傍に子供がいなかったのに、俺の誘導に流されて退屈そうに立っていた姿の記憶を捏造してしまっていたシャルロもびっくりしていた。
あのガキンチョは基本的にいつも母親について回っているからなぁ。
当然、一緒に居ると思い込んで見たつもりになってしまっても不思議はないけど、それが映像になって記録されていると『確実に見た』という気になってしまうから中々怖い。
ため息ついたシャルロが、首を振ってアレクの方に向いた。
「過去の記憶を鮮明にする術ってどこで見かけたのか覚えている?
明日魔術院で探してから、適当に誰か親世代の人間の結婚式の映像でも記録できないか試してみようよ。
元々、調査用の売上よりも昔の思い出を映像にする方が需要がありそうだったし、そっちで使い物にならないか、もう少し頑張ってみよう」
「そうだな。
親世代だけでなく祖父母の世代も試してみたほうが良いんじゃないか?
過去の思い出に浸るのって今働くのに忙しい現役世代よりも、引退して暇を持て余している老人世代の方が多そうじゃん?」
子育ても終わって引退した老人世代の方が貴族や大きな商会の人間だったら自由になる金も多そうだし。
しっかし。
この魔道具は完成できて売り出した場合、一番気をつけなければならないのはどうやって調査機関による冤罪に悪用させないかだな・・・。
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