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卒業後
209 星歴553年 赤の月5日 疑問(9)
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>>>サイド インクーザ
ダントールと話しながらスラフォード伯の代官の家へ向かった。
「魔術師なら術をかければ誰でも透視は出来ますが、術をかけて一か所一か所見ていくのはかなり大変なので、それだったら複数の捜査員を使って床や壁を軽くたたきながら調べていく方が早いんですよ。
ただ、自分は術をかけなくても実質透視の術と同じような感じに物を見ることが出来るので、隠し金庫などを見つけるのが得意でしてね。以前、たまたま巻き込まれた人身売買事件で攫われた娘さんを探すついでに金庫に隠されていた書類を見つけるのを手伝ったら重宝がられちゃって」
軽く苦笑しながらダントールが捜査員との関係を説明してくれた。
なるほど。
逮捕者が出た場合は、その家を捜索し怪しげな場所に関しては床や壁も調べるが、それなりの広さがある家に住んでいたらすべての場所を調べる手間はさすがにかけられない。
それを見るだけで透視できるならば重宝がられるだろう。
というか、自分も手伝ってもらいたいところだ。
「ほう。それは確かに便利そうですね。こちらで大きな案件があった場合などに、魔術院経由で依頼を出せますかな?」
魔術師はあまり興味なさげに肩をすくめた。
「あまり個人依頼については詳しくないので、魔術院に相談してみてください。
俺が王都に居て、特に予定が入ってなければ対応できる場合が多いと思いますよ」
ふむ。
今回の案件で態々代官の存在を知らせたのは個人的に自分に関与した話だからであって、別に特に正義感が強いとか、捜査に興味があるという訳ではないのか。
まあ、変に素人の癖に推理が好きな人間に首を突っ込まれるよりはましかもしれないが。
今度、魔術院に彼のレベルの魔術師の日当がどのくらいなのか確認してみよう。
大きな案件の場合、捕まえた人間の隠し金庫からどのような書類が見つかるかで捜査の進展速度が大分変わる。本人が露骨に嫌がらない限り、予算の範囲内で活用させてもらいたいところだ。
問題の代官の家は西区の中でもそれなりに大きく、豪奢な作りだった。
こう言っては何だが田舎町の代官がまともに働いていて買えるような屋敷ではない。
「エンベザーリ・バドル!審査官である!扉を開けろ!」
捜査官が玄関の扉をダンダンと叩いた。
暫くしてから、扉が開き、家令らしき老人が顔を出した。
「・・・主人は留守にしております」
「これが捜査状だ。中を改めるぞ」
警備兵が家の中を捜索し始め、直ぐに応接間で酒を頼んしんでいた金髪の一人の男を発見した。
・・・明らかにカツラだろう、これは。
大体、眉毛も睫毛も黒に近いこげ茶なのに、髪の毛がそこまで明るい金髪な事なぞあるか。
「こちらは?」
こほん、と咳払いをして男が話し始めた。
「私は商人のジャルド・バンダールと言いまして、南の方からたまたま王都へ訪れたの者でございます。本日は以前お世話になりましたバドル様にご挨拶にお伺いしただけです。もうすぐ戻られるとのことでお待ちしていたのですが、何やら大事のようなのでお邪魔にならないように今日のところは宿に戻りますね」
当然ながら、カツラを被ることは罪ではない。
インクーザは代官を直接は知らないので怪しくても『嘘をつくな!』とは問い詰められない。
家にいないか、いるとしたらあきらめて逮捕されると思っていたので、まさかここまで厚顔に嘘をつかれると思っていなかった。
真偽判定のできる神官に同行を頼んでいなかったのは失敗だったな。
だが、他人の家に訪れて、屋敷の主人がいないのに酒を一人飲んでくつろぐ訳があるか。
通常、隠れ財産まで抑えられたらどうせもう逃げても食っていけないので横領程度の罪だったら観念することが多いのだが、このバドルはしぶとくしらを切っている。
もしかしてまだ他の場所にも隠し財産があるのかもしれない。
嘘を暴露しようとこの『ジャルド・バンダール』の商売やバドルとの関連について突っ込んだ話を聞いている間に、警備兵と一緒に隠し金庫探しに離れていたダントールが部屋に入ってきた。
「・・・何を言っているんだか。俺たちを宿屋から締め出すと脅迫したくせにたかがそんな似合わないカツラ一つでごまかせると思っているのか」
ダントールがあきれたように男のカツラをむしり取る。
「何をする!」
「コバムアポスに以前いた魔術師は違うかもしれないが、魔術師というのはそれなりに上流階級にも繋がりがあるんだよ。スラフォード伯の甥と一緒に街に来ていたのを知らずに俺たちを脅迫しようとしたのが間違いだったな」
馬鹿にしたようにバドルにひらひらと手を振ってから、ダントールがインクーザの方へ向いた。
「書斎に隠し場所と隠し金庫があって、金貨と宝石が保管されていました。裏帳簿らしいものは見当たらなかったのでコバムアポスの別邸にでも隠してあるのでしょうね。
夕方にはコバムアポスへ転移門で戻る予定なので、ご一緒しますか?」
代官をクビにするなり横領に関して捜査するのはスラフォード伯の権限内だが、王都にあった財産を横領によって不正に得た財産であるとしてスラフォード伯が接収するには王都の審議官による審議が必要となる。
つまり、インクーザが裏帳簿なり、代官の横領の証拠なりを確認しなければならない。
裏帳簿を探すのも骨なのだが、こんなにあっという間に隠し財産を見つけたダントールならば、早く片付くかもしれない。
転移門を使ってちゃっちゃっと終わってくれるならばありがたいことなのだが・・・。
「ああ、よろしく頼む」
ダントールと話しながらスラフォード伯の代官の家へ向かった。
「魔術師なら術をかければ誰でも透視は出来ますが、術をかけて一か所一か所見ていくのはかなり大変なので、それだったら複数の捜査員を使って床や壁を軽くたたきながら調べていく方が早いんですよ。
ただ、自分は術をかけなくても実質透視の術と同じような感じに物を見ることが出来るので、隠し金庫などを見つけるのが得意でしてね。以前、たまたま巻き込まれた人身売買事件で攫われた娘さんを探すついでに金庫に隠されていた書類を見つけるのを手伝ったら重宝がられちゃって」
軽く苦笑しながらダントールが捜査員との関係を説明してくれた。
なるほど。
逮捕者が出た場合は、その家を捜索し怪しげな場所に関しては床や壁も調べるが、それなりの広さがある家に住んでいたらすべての場所を調べる手間はさすがにかけられない。
それを見るだけで透視できるならば重宝がられるだろう。
というか、自分も手伝ってもらいたいところだ。
「ほう。それは確かに便利そうですね。こちらで大きな案件があった場合などに、魔術院経由で依頼を出せますかな?」
魔術師はあまり興味なさげに肩をすくめた。
「あまり個人依頼については詳しくないので、魔術院に相談してみてください。
俺が王都に居て、特に予定が入ってなければ対応できる場合が多いと思いますよ」
ふむ。
今回の案件で態々代官の存在を知らせたのは個人的に自分に関与した話だからであって、別に特に正義感が強いとか、捜査に興味があるという訳ではないのか。
まあ、変に素人の癖に推理が好きな人間に首を突っ込まれるよりはましかもしれないが。
今度、魔術院に彼のレベルの魔術師の日当がどのくらいなのか確認してみよう。
大きな案件の場合、捕まえた人間の隠し金庫からどのような書類が見つかるかで捜査の進展速度が大分変わる。本人が露骨に嫌がらない限り、予算の範囲内で活用させてもらいたいところだ。
問題の代官の家は西区の中でもそれなりに大きく、豪奢な作りだった。
こう言っては何だが田舎町の代官がまともに働いていて買えるような屋敷ではない。
「エンベザーリ・バドル!審査官である!扉を開けろ!」
捜査官が玄関の扉をダンダンと叩いた。
暫くしてから、扉が開き、家令らしき老人が顔を出した。
「・・・主人は留守にしております」
「これが捜査状だ。中を改めるぞ」
警備兵が家の中を捜索し始め、直ぐに応接間で酒を頼んしんでいた金髪の一人の男を発見した。
・・・明らかにカツラだろう、これは。
大体、眉毛も睫毛も黒に近いこげ茶なのに、髪の毛がそこまで明るい金髪な事なぞあるか。
「こちらは?」
こほん、と咳払いをして男が話し始めた。
「私は商人のジャルド・バンダールと言いまして、南の方からたまたま王都へ訪れたの者でございます。本日は以前お世話になりましたバドル様にご挨拶にお伺いしただけです。もうすぐ戻られるとのことでお待ちしていたのですが、何やら大事のようなのでお邪魔にならないように今日のところは宿に戻りますね」
当然ながら、カツラを被ることは罪ではない。
インクーザは代官を直接は知らないので怪しくても『嘘をつくな!』とは問い詰められない。
家にいないか、いるとしたらあきらめて逮捕されると思っていたので、まさかここまで厚顔に嘘をつかれると思っていなかった。
真偽判定のできる神官に同行を頼んでいなかったのは失敗だったな。
だが、他人の家に訪れて、屋敷の主人がいないのに酒を一人飲んでくつろぐ訳があるか。
通常、隠れ財産まで抑えられたらどうせもう逃げても食っていけないので横領程度の罪だったら観念することが多いのだが、このバドルはしぶとくしらを切っている。
もしかしてまだ他の場所にも隠し財産があるのかもしれない。
嘘を暴露しようとこの『ジャルド・バンダール』の商売やバドルとの関連について突っ込んだ話を聞いている間に、警備兵と一緒に隠し金庫探しに離れていたダントールが部屋に入ってきた。
「・・・何を言っているんだか。俺たちを宿屋から締め出すと脅迫したくせにたかがそんな似合わないカツラ一つでごまかせると思っているのか」
ダントールがあきれたように男のカツラをむしり取る。
「何をする!」
「コバムアポスに以前いた魔術師は違うかもしれないが、魔術師というのはそれなりに上流階級にも繋がりがあるんだよ。スラフォード伯の甥と一緒に街に来ていたのを知らずに俺たちを脅迫しようとしたのが間違いだったな」
馬鹿にしたようにバドルにひらひらと手を振ってから、ダントールがインクーザの方へ向いた。
「書斎に隠し場所と隠し金庫があって、金貨と宝石が保管されていました。裏帳簿らしいものは見当たらなかったのでコバムアポスの別邸にでも隠してあるのでしょうね。
夕方にはコバムアポスへ転移門で戻る予定なので、ご一緒しますか?」
代官をクビにするなり横領に関して捜査するのはスラフォード伯の権限内だが、王都にあった財産を横領によって不正に得た財産であるとしてスラフォード伯が接収するには王都の審議官による審議が必要となる。
つまり、インクーザが裏帳簿なり、代官の横領の証拠なりを確認しなければならない。
裏帳簿を探すのも骨なのだが、こんなにあっという間に隠し財産を見つけたダントールならば、早く片付くかもしれない。
転移門を使ってちゃっちゃっと終わってくれるならばありがたいことなのだが・・・。
「ああ、よろしく頼む」
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