シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

207 星歴553年 赤の月5日 疑問(7)

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>>サイド スラフォード伯爵

「叔父上、ちょっとお時間いただけますか?」
娘の初出産の祝いに来てくれた妹の息子、シャルロが朝のお茶の後に声を掛けてきた。

「うん?勿論だとも。何か問題があったのかい?」
しゃきしゃきな妹に似ずポヤポヤなこの子供も、いつの間にか大人になっていた。
既に、魔術学院を卒業して独り立ちしていると先日聞いた。
今回ここに来る途中でテストしてきたという防寒具は先程朝駆けに使わせて貰ったら中々使い心地が良かった。

「僕というよりも、一緒に来た仲間なのですが、先日代官にこの館の正門から街中までの道の雪解けの術を1日で掛けなかったら宿から追い出すと脅されたようなのです。
まあ、それに関しては僕も手を貸して取り敢えず雪を全部どけたので、積もらないようにする術はこれから何日かかかえて設置すると言っていましたが・・・。
ちょっと手を貸した際に気になったのですが、この館から街中までの術ってもう10年近くかけて無かったようでした。館に住む人にとって不便だったんじゃないかな?と思って。
もしも魔術師の伝手が必要なら僕が知り合いに声を掛けますよ?」
シャルロがちょっと心配そうに尋ねてきた。

10年かけてない??

そんなはずはない。いくら領主一族が居ないと言っても、それなりに街と領主の館ではやり取りがある。
冬の間でも領主を無視して話を進めるわけにはいかないのに、その館へ来る最中に雪に足を取られて怪我なぞされては困るから通常通りに術は掛けさせていたはずだ。

「ほおう?そういえば、ヘネサンが冬用の防雪の術や雪下ろし用の設備に不備があると言っていたな。
バドルに少し話を聞いてみよう。
シャルロ、教えてくれてありがとう。魔術師に関してはちゃんと出先機関に前もって声を掛けておけば術を掛けて貰えるはずだし、いざとなればこちらに誰か派遣するよう魔術院に交渉してもいいのだから、取り敢えずは大丈夫だ。
魔術院が人手不足だと言って対応が遅れそうなら泣きつくことになるかも知れないが」
軽く笑いながら甥っ子の頭を撫でる。

既に頭を撫でるような年ではないはずなのだが、生意気盛りなヘネサンに比べ、ついこの素直な少年のような青年は子供のように扱ってしまう。

「そうですか?では、何か僕に出来ることがあったら言って下さいね~」
にこやかに笑いながらシャルロが部屋から出て行った。

「バドルを呼べ」
執事に声を掛けて代官を呼びつける。

バドルは代々代官をしてきた家系の人間で、父親は誠実で有能な人間だったが・・・息子は領主たる自分や自分の家族には精一杯の誠意と努力を見せるが、どうも品性の欠けるところがあるように思えていた。

とは言え、奉仕に問題があるわけでも無いので代々代官を継いできた家の男を「気に入らないから」という理由だけで解雇するのもどうかと思っていたところだった。
が。
どうやら、自分は甘かったらしい。

しかもそれをあのノンビリとしたシャルロに指摘されるとは。
「彼の方がはっきりと物事が見えていたと言うことか」


「バドルの姿が見当たりません」
昼食後に、執事が書斎に報告に来た。
「今日も館に来ていたのですが、先程人をやったところ『商業協会の人間と会合の約束がある』と言って出て行ったそうで部屋にいませんでした。
商工会に確認したところ、誰もそのような約束がある人間はおらず、家の人間によると朝に家を出た後一度戻り、直ぐにまた出て行ったとのことです」

「転移門を使ったか確認させよ」
前もって姿を消す予定だったとしたら一度館に来る意味が分からないから、館でシャルロを見かけて自分が脅迫した魔術師達が領主の甥であるシャルロと一緒に来た友人だと気付いたのか?

「冬に行う補修・保全関係の出費から始めて、ここ一年間の出費として帳簿に記載されているものを大きいものから順に全て発注先に確認させよ」
頭が痛い。どれだけ横領していたのか知る必要があるし、保全が行われていないのならばそれらの発注もする必要がある。
税収や大きな公共事業に関してはこちらでも確認していたが、館やこの街に関する出費は街の代官であるバドルが一任されていた。
ずっと出費の額が一定していたので油断していたが、まさかそれらをやらずに懐に入れていたとは。
まだ作業をやるだけやって、費用を過大計上されて差額を横領されていた方がましだったが・・・それだとこちらが怪しむと思ったのか。

「先祖代々真面目に務めてきた家系だからといって当代がまともな人間であると無条件に信用したのは失敗だったな」

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