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卒業後
202 星歴553年 藤の月30日 疑問(2)
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「まずは雪どけの術を領主の館から街の中央までの道全部に掛けて下さい。
それが終わったら通常の商会等からの防犯や固定化の術の依頼が来ていますのでもう一度来ていただけると助かります」
商業協会で言い渡された依頼はかなりの量だった。
幾ら小さめな街とは言え、南西の小高い地域の一番上にある館から街中まで、馬で半刻は掛るだろう。
それだけの距離を実質完全に新しく雪解けの術を掛けるにはかなりの魔力を必要とする。
毎年掛け直しているだけだったら魔力を多少足す程度で済むから何とかなるが、先程ちらっと見た限りでは昔の術は魔力が殆ど残っていない。術そのものがボロボロになっているからそれを活用するよりは、変に干渉しないように消してから掛け直さなければいけないぐらいだからかえって余計に手間が掛る。
「それを数日で終わらせて、更に通常の依頼を受けるのは難しいですね」
アレクもあきれたように係員に言った。
「出来れば今日中に終わらせて欲しいとのことなんです。
何でも、若い方達が街へ出てきたいと言っているらしくて。
以前、毎年掛けていた頃は一日で終わっていたのだから何とかなるだろうと」
すまなそうに肩をすくめながら係員のベルツが答える。
「そんな事言ったって、昔は毎年掛けていた術の補強だけだったんだろ?もうずっと掛けていなくて途切れ途切れになった術なんて補強する方が大変だから全部かけ直しだ。
そんなに直ぐには・・・」
「何をちんたらしている!!お前達が魔術師か!早く取りかかれ!!」
俺が係員に問題点を指摘しようとしていたら、突然後ろから怒鳴られた。
振り返ったところに来たのは何やらでぶっちい中年男。
妙に金の掛るアクセサリーをしている癖に服だけは実用的な物を着ている。
「若君達が街に出たいと言っているのだ!さっさと術を掛けろ!今日中に終わらなければ夜通しでも掛けてやれば良いだろう。
終わるまで宿に入れると思うなよ!」
突然脅迫をし始めた男に俺とアレクがあっけにとられていると、ベルツが慌てて前に出てきた。
「代官殿!無茶を言わないで下さい。
久しく掛けていなかったのでかなりの魔力を必要とするのです。
魔力が尽きてしまったら宿で休まなければどうしようも無いのですから無理なことを仰らないで下さい」
ほう。
これが代官ね。
いきなりこっちを脅してきて、かなりむかついたんだけど。
こんなのを代官に指名している時点でシャルロの親戚の評価が大分下がるな。
「・・・毎年術を掛けてあったら魔力を更新するだけなので一日で終わったのですけどね。
今では殆ど術が切れていて新しくかけ直さなければなりません。何故ずっとかけていなかったのですか?以前は掛けていたようにお見受けしますが」
アレクがさりげなく尋ねた。
代官の顔が怒りで真っ赤になった。
「煩い!お前達はさっさと言われたとおりに作業すればいいんだ!
魔術院を卒業したばかりの若造のくせに何をぐちゃぐちゃ言っている!
何だったら宿屋にお前らの荷物を放り出すように指示してもいいのだぞ」
思わず言い返そうとした俺の腕をつかんでアレクが止めた。
「分かりました。私たち2人では厳しいですが、宮廷魔術師にもなれるのでは、と言われるほどの魔力を持つ友人も来ているので彼にも手伝って貰って終わらせます」
「ふん、分かれば良いのだ、分かれば。さっさとぐちゃぐちゃ言わずに取りかかるのだな」
軽く頭を下げたアレクに代官が満足そうに鼻を鳴らしながら捨て台詞を吐いて出て行った。
「・・・なんであの代官、あんなに偉そうなの?
街の人間ならまだしも、魔術院から派遣された魔術師にあの態度って非常識じゃ無い??」
思わずベルツに尋ねた。
「領主一族と何らかのやり取りをする機会がある人にはまともな対応をするのですがね。ここ数年来た魔術師は若い人が多くて何か言ってきても威圧も報復もしなかったから、魔術師も『領主一族と縁の無い人間』に分類されてしまったようですね」
微妙な顔をしながらベルツが説明した。
「まあいいや、取り敢えず、シャルロに連絡しよう」
術を掛ける地区の地図を貰いながらアレクが出口へ向かって歩み始める。
「清早いる?」
清早がいるなら蒼流に連絡して貰えばもっと早く内容を伝えられる。
「なんだ?」
ぴょいっと清早が姿を現した。
「ちょっとここの代官に無茶ぶりされて魔力が大量に必要な作業を今日中に終わらせないと宿を追い出すと脅されたんだ。だからシャルロにも助けて欲しいって蒼流から伝えて貰えるかな?」
「なんだそれ。ぶっつぶしてやろうか、そんな事を言う奴!」
清早の顔に怒りが浮かぶ。
「大丈夫だよ。これ以上無いぐらいに相手には後悔して貰うから。取り敢えずシャルロには周りにあまり説明せずに、友人から呼び出しがあったとでも言って出てきてくれと伝えてくれるか?」
アレクがにこやかに清早を宥めた。
おい。
その笑い、怖いぞ。
まあ、ベルツの引きつった顔を見る限り、俺の笑いも怖いことになっているかもだけど。
それが終わったら通常の商会等からの防犯や固定化の術の依頼が来ていますのでもう一度来ていただけると助かります」
商業協会で言い渡された依頼はかなりの量だった。
幾ら小さめな街とは言え、南西の小高い地域の一番上にある館から街中まで、馬で半刻は掛るだろう。
それだけの距離を実質完全に新しく雪解けの術を掛けるにはかなりの魔力を必要とする。
毎年掛け直しているだけだったら魔力を多少足す程度で済むから何とかなるが、先程ちらっと見た限りでは昔の術は魔力が殆ど残っていない。術そのものがボロボロになっているからそれを活用するよりは、変に干渉しないように消してから掛け直さなければいけないぐらいだからかえって余計に手間が掛る。
「それを数日で終わらせて、更に通常の依頼を受けるのは難しいですね」
アレクもあきれたように係員に言った。
「出来れば今日中に終わらせて欲しいとのことなんです。
何でも、若い方達が街へ出てきたいと言っているらしくて。
以前、毎年掛けていた頃は一日で終わっていたのだから何とかなるだろうと」
すまなそうに肩をすくめながら係員のベルツが答える。
「そんな事言ったって、昔は毎年掛けていた術の補強だけだったんだろ?もうずっと掛けていなくて途切れ途切れになった術なんて補強する方が大変だから全部かけ直しだ。
そんなに直ぐには・・・」
「何をちんたらしている!!お前達が魔術師か!早く取りかかれ!!」
俺が係員に問題点を指摘しようとしていたら、突然後ろから怒鳴られた。
振り返ったところに来たのは何やらでぶっちい中年男。
妙に金の掛るアクセサリーをしている癖に服だけは実用的な物を着ている。
「若君達が街に出たいと言っているのだ!さっさと術を掛けろ!今日中に終わらなければ夜通しでも掛けてやれば良いだろう。
終わるまで宿に入れると思うなよ!」
突然脅迫をし始めた男に俺とアレクがあっけにとられていると、ベルツが慌てて前に出てきた。
「代官殿!無茶を言わないで下さい。
久しく掛けていなかったのでかなりの魔力を必要とするのです。
魔力が尽きてしまったら宿で休まなければどうしようも無いのですから無理なことを仰らないで下さい」
ほう。
これが代官ね。
いきなりこっちを脅してきて、かなりむかついたんだけど。
こんなのを代官に指名している時点でシャルロの親戚の評価が大分下がるな。
「・・・毎年術を掛けてあったら魔力を更新するだけなので一日で終わったのですけどね。
今では殆ど術が切れていて新しくかけ直さなければなりません。何故ずっとかけていなかったのですか?以前は掛けていたようにお見受けしますが」
アレクがさりげなく尋ねた。
代官の顔が怒りで真っ赤になった。
「煩い!お前達はさっさと言われたとおりに作業すればいいんだ!
魔術院を卒業したばかりの若造のくせに何をぐちゃぐちゃ言っている!
何だったら宿屋にお前らの荷物を放り出すように指示してもいいのだぞ」
思わず言い返そうとした俺の腕をつかんでアレクが止めた。
「分かりました。私たち2人では厳しいですが、宮廷魔術師にもなれるのでは、と言われるほどの魔力を持つ友人も来ているので彼にも手伝って貰って終わらせます」
「ふん、分かれば良いのだ、分かれば。さっさとぐちゃぐちゃ言わずに取りかかるのだな」
軽く頭を下げたアレクに代官が満足そうに鼻を鳴らしながら捨て台詞を吐いて出て行った。
「・・・なんであの代官、あんなに偉そうなの?
街の人間ならまだしも、魔術院から派遣された魔術師にあの態度って非常識じゃ無い??」
思わずベルツに尋ねた。
「領主一族と何らかのやり取りをする機会がある人にはまともな対応をするのですがね。ここ数年来た魔術師は若い人が多くて何か言ってきても威圧も報復もしなかったから、魔術師も『領主一族と縁の無い人間』に分類されてしまったようですね」
微妙な顔をしながらベルツが説明した。
「まあいいや、取り敢えず、シャルロに連絡しよう」
術を掛ける地区の地図を貰いながらアレクが出口へ向かって歩み始める。
「清早いる?」
清早がいるなら蒼流に連絡して貰えばもっと早く内容を伝えられる。
「なんだ?」
ぴょいっと清早が姿を現した。
「ちょっとここの代官に無茶ぶりされて魔力が大量に必要な作業を今日中に終わらせないと宿を追い出すと脅されたんだ。だからシャルロにも助けて欲しいって蒼流から伝えて貰えるかな?」
「なんだそれ。ぶっつぶしてやろうか、そんな事を言う奴!」
清早の顔に怒りが浮かぶ。
「大丈夫だよ。これ以上無いぐらいに相手には後悔して貰うから。取り敢えずシャルロには周りにあまり説明せずに、友人から呼び出しがあったとでも言って出てきてくれと伝えてくれるか?」
アレクがにこやかに清早を宥めた。
おい。
その笑い、怖いぞ。
まあ、ベルツの引きつった顔を見る限り、俺の笑いも怖いことになっているかもだけど。
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