198 / 1,118
卒業後
197 星歴553年 藤の月 1日 防寒(2)
しおりを挟む
「さて。
加熱型魔具といったら何が必要かな?」
工房に持ち込んだ黒板の前でアレクがペン型魔具を手に、振り返った。
ちなみに、これも我々が自分たちのために作った魔具だ。以前はチョークを使っていたのだが、粉があまりにも目障りだったので魔力を通したら文字を消せる黒板モドキとペンをセットで作ったのだ。
魔術師にしか使えないが、魔術学院にはそれなりの数を定期的に売り込んでいる。
研究肌な魔術師にも魔術院経由でそれなりに売れているし。
ま、単価も売上数もたいしたことないから、お小遣い程度だけど。
「熱!」
シャルロが手を上げて発言する。
「ほどよい熱、だ。熱すぎると火傷するぜ」
魔術学院に入る前に石を暖めて布にくるんで抱えて暖をとっていて火傷したのは痛い記憶だ。
「ああ、そういえば触って直ぐに火傷するほどで無くても、ある程度以上高い温度に長時間触れていると火傷することがあるらしいからな。そこら辺は医療師《ヒーラー》にでも確認しておこう」
アレクが頷きながら黒板に書き足す。
「風を遮るローブみたいなものがあると、効率がいいはず」
同じ気温でも、風がある日と無い日では外で身を潜めていたときの寒さが全然違った。
風というのは寒さを何倍も増やす。
だから空気の動きを止められれば、かなり暖かく出来るはず。
「ローブ型にする?」
シャルロが首を少し傾けて考え込んだ。
が、アレクが首を横に振った。
「いや。空滑機《グライダー》のレンタルの際に貸すのに、一々相手のコートを預かる羽目になったら面倒だし、警備兵とかにも売りつけるんだったら制服と型の違うローブを売りつけるのは難しいかもしれない。もっと着脱に融通の利く魔具にした方がいいと思う」
それにあんまり野暮ったいと上流層には買えないだろうし、かといって一々いろいろなデザインにつけるのは面倒だ。
「じゃあ、空気の動きをある程度阻害する結界を体の周りに、それとちょっと暖かい熱を出す機能が必要な訳だね。
他は?」
「あまり結界の効力を強くしすぎると呼吸困難になったり、音が聞こえなくなったりするかもしれないぜ」
風を止めるための結界というのは一番簡単にやる方法は空気の動きを禁じることだ。
「物に触れるのも阻害しちゃ駄目だしね」
シャルロが同意する。
「形も使用者の体勢に合わせて変化させる必要もありそうだな」
アレクのコメントに、シャルロが首をかしげた。
「考えてみたら、人間用の結界ってどんな形なんだろ? あんまり考えたこと無かった」
確かに。
「外で、結界を作ってみろ。上から水をかけて、どんな形に水がはじかれるか見てみよう」
シャルロなら失敗してびしょ濡れになっても過保護な精霊が直ぐに乾かしてくれるだろうし。
「え~! 寒いよ~~~!!! いいじゃん、ここでやれば!」
ばっと見事な速度で結界を自分の周りに張り、シャルロが手を振り上げる。
ざば~~~!!!!
見事な勢いで水が中から飛び出し、シャルロの周りの結界ではじかれ、宙に消えていく。
流石大精霊様。
ちゃんと部屋が濡れないように水の後始末までしてくれるんですね。
「急にやられても、観察出来んって......」
ぼやきながら目をこらす。
「球形......かな?」
「シャルロ、一歩前へ歩く感じで踏み出して」
アレクの注文に応じてシャルロが体を動かす。
最初は濡れていた部分へシャルロが足を伸ばしたら、そこには水が来なくなった。
ということは、結界は自動的に対象物の動きに合わせて形を変えるのか。
色々な姿勢をやらせ、しまいには床に寝転がらせてみたところ、どうやら結界は何も考えていなくても対象物の形に合わせて変形するようだった。
「よし、次はウィルがやれ。最後に私もやるから」
アレクの命令に、渋々と結界をはる。
シャルロは魔術師としてはこの3人の中では一番優秀だ。本人にその気があれば宮廷魔術師になれるだろう。蒼流の力を利用する気があれば、特級魔術師だって不可能では無い。
というか、蒼流の力を借りなくっても努力すれば本人の力だけでもなれるかもしれないが。
俺はその点器用さではシャルロを上回るかもしれないが魔力という観点から見たら3人の中ではびりっけつだ。ただ、清早がいるので水に対しては普通と反応が違うかもしれない。
ので、ある意味普通なアレクも対象として調べるのが一番確実だろう。
もっとも、魔術師が自分で張る結界と、魔具で張った結界が同じように機能するとは限らないけど。
ま、色々調べるのは悪くないことだ。
加熱型魔具といったら何が必要かな?」
工房に持ち込んだ黒板の前でアレクがペン型魔具を手に、振り返った。
ちなみに、これも我々が自分たちのために作った魔具だ。以前はチョークを使っていたのだが、粉があまりにも目障りだったので魔力を通したら文字を消せる黒板モドキとペンをセットで作ったのだ。
魔術師にしか使えないが、魔術学院にはそれなりの数を定期的に売り込んでいる。
研究肌な魔術師にも魔術院経由でそれなりに売れているし。
ま、単価も売上数もたいしたことないから、お小遣い程度だけど。
「熱!」
シャルロが手を上げて発言する。
「ほどよい熱、だ。熱すぎると火傷するぜ」
魔術学院に入る前に石を暖めて布にくるんで抱えて暖をとっていて火傷したのは痛い記憶だ。
「ああ、そういえば触って直ぐに火傷するほどで無くても、ある程度以上高い温度に長時間触れていると火傷することがあるらしいからな。そこら辺は医療師《ヒーラー》にでも確認しておこう」
アレクが頷きながら黒板に書き足す。
「風を遮るローブみたいなものがあると、効率がいいはず」
同じ気温でも、風がある日と無い日では外で身を潜めていたときの寒さが全然違った。
風というのは寒さを何倍も増やす。
だから空気の動きを止められれば、かなり暖かく出来るはず。
「ローブ型にする?」
シャルロが首を少し傾けて考え込んだ。
が、アレクが首を横に振った。
「いや。空滑機《グライダー》のレンタルの際に貸すのに、一々相手のコートを預かる羽目になったら面倒だし、警備兵とかにも売りつけるんだったら制服と型の違うローブを売りつけるのは難しいかもしれない。もっと着脱に融通の利く魔具にした方がいいと思う」
それにあんまり野暮ったいと上流層には買えないだろうし、かといって一々いろいろなデザインにつけるのは面倒だ。
「じゃあ、空気の動きをある程度阻害する結界を体の周りに、それとちょっと暖かい熱を出す機能が必要な訳だね。
他は?」
「あまり結界の効力を強くしすぎると呼吸困難になったり、音が聞こえなくなったりするかもしれないぜ」
風を止めるための結界というのは一番簡単にやる方法は空気の動きを禁じることだ。
「物に触れるのも阻害しちゃ駄目だしね」
シャルロが同意する。
「形も使用者の体勢に合わせて変化させる必要もありそうだな」
アレクのコメントに、シャルロが首をかしげた。
「考えてみたら、人間用の結界ってどんな形なんだろ? あんまり考えたこと無かった」
確かに。
「外で、結界を作ってみろ。上から水をかけて、どんな形に水がはじかれるか見てみよう」
シャルロなら失敗してびしょ濡れになっても過保護な精霊が直ぐに乾かしてくれるだろうし。
「え~! 寒いよ~~~!!! いいじゃん、ここでやれば!」
ばっと見事な速度で結界を自分の周りに張り、シャルロが手を振り上げる。
ざば~~~!!!!
見事な勢いで水が中から飛び出し、シャルロの周りの結界ではじかれ、宙に消えていく。
流石大精霊様。
ちゃんと部屋が濡れないように水の後始末までしてくれるんですね。
「急にやられても、観察出来んって......」
ぼやきながら目をこらす。
「球形......かな?」
「シャルロ、一歩前へ歩く感じで踏み出して」
アレクの注文に応じてシャルロが体を動かす。
最初は濡れていた部分へシャルロが足を伸ばしたら、そこには水が来なくなった。
ということは、結界は自動的に対象物の動きに合わせて形を変えるのか。
色々な姿勢をやらせ、しまいには床に寝転がらせてみたところ、どうやら結界は何も考えていなくても対象物の形に合わせて変形するようだった。
「よし、次はウィルがやれ。最後に私もやるから」
アレクの命令に、渋々と結界をはる。
シャルロは魔術師としてはこの3人の中では一番優秀だ。本人にその気があれば宮廷魔術師になれるだろう。蒼流の力を利用する気があれば、特級魔術師だって不可能では無い。
というか、蒼流の力を借りなくっても努力すれば本人の力だけでもなれるかもしれないが。
俺はその点器用さではシャルロを上回るかもしれないが魔力という観点から見たら3人の中ではびりっけつだ。ただ、清早がいるので水に対しては普通と反応が違うかもしれない。
ので、ある意味普通なアレクも対象として調べるのが一番確実だろう。
もっとも、魔術師が自分で張る結界と、魔具で張った結界が同じように機能するとは限らないけど。
ま、色々調べるのは悪くないことだ。
1
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる