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卒業後
197 星歴553年 藤の月 1日 防寒(2)
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「さて。
加熱型魔具といったら何が必要かな?」
工房に持ち込んだ黒板の前でアレクがペン型魔具を手に、振り返った。
ちなみに、これも我々が自分たちのために作った魔具だ。以前はチョークを使っていたのだが、粉があまりにも目障りだったので魔力を通したら文字を消せる黒板モドキとペンをセットで作ったのだ。
魔術師にしか使えないが、魔術学院にはそれなりの数を定期的に売り込んでいる。
研究肌な魔術師にも魔術院経由でそれなりに売れているし。
ま、単価も売上数もたいしたことないから、お小遣い程度だけど。
「熱!」
シャルロが手を上げて発言する。
「ほどよい熱、だ。熱すぎると火傷するぜ」
魔術学院に入る前に石を暖めて布にくるんで抱えて暖をとっていて火傷したのは痛い記憶だ。
「ああ、そういえば触って直ぐに火傷するほどで無くても、ある程度以上高い温度に長時間触れていると火傷することがあるらしいからな。そこら辺は医療師《ヒーラー》にでも確認しておこう」
アレクが頷きながら黒板に書き足す。
「風を遮るローブみたいなものがあると、効率がいいはず」
同じ気温でも、風がある日と無い日では外で身を潜めていたときの寒さが全然違った。
風というのは寒さを何倍も増やす。
だから空気の動きを止められれば、かなり暖かく出来るはず。
「ローブ型にする?」
シャルロが首を少し傾けて考え込んだ。
が、アレクが首を横に振った。
「いや。空滑機《グライダー》のレンタルの際に貸すのに、一々相手のコートを預かる羽目になったら面倒だし、警備兵とかにも売りつけるんだったら制服と型の違うローブを売りつけるのは難しいかもしれない。もっと着脱に融通の利く魔具にした方がいいと思う」
それにあんまり野暮ったいと上流層には買えないだろうし、かといって一々いろいろなデザインにつけるのは面倒だ。
「じゃあ、空気の動きをある程度阻害する結界を体の周りに、それとちょっと暖かい熱を出す機能が必要な訳だね。
他は?」
「あまり結界の効力を強くしすぎると呼吸困難になったり、音が聞こえなくなったりするかもしれないぜ」
風を止めるための結界というのは一番簡単にやる方法は空気の動きを禁じることだ。
「物に触れるのも阻害しちゃ駄目だしね」
シャルロが同意する。
「形も使用者の体勢に合わせて変化させる必要もありそうだな」
アレクのコメントに、シャルロが首をかしげた。
「考えてみたら、人間用の結界ってどんな形なんだろ? あんまり考えたこと無かった」
確かに。
「外で、結界を作ってみろ。上から水をかけて、どんな形に水がはじかれるか見てみよう」
シャルロなら失敗してびしょ濡れになっても過保護な精霊が直ぐに乾かしてくれるだろうし。
「え~! 寒いよ~~~!!! いいじゃん、ここでやれば!」
ばっと見事な速度で結界を自分の周りに張り、シャルロが手を振り上げる。
ざば~~~!!!!
見事な勢いで水が中から飛び出し、シャルロの周りの結界ではじかれ、宙に消えていく。
流石大精霊様。
ちゃんと部屋が濡れないように水の後始末までしてくれるんですね。
「急にやられても、観察出来んって......」
ぼやきながら目をこらす。
「球形......かな?」
「シャルロ、一歩前へ歩く感じで踏み出して」
アレクの注文に応じてシャルロが体を動かす。
最初は濡れていた部分へシャルロが足を伸ばしたら、そこには水が来なくなった。
ということは、結界は自動的に対象物の動きに合わせて形を変えるのか。
色々な姿勢をやらせ、しまいには床に寝転がらせてみたところ、どうやら結界は何も考えていなくても対象物の形に合わせて変形するようだった。
「よし、次はウィルがやれ。最後に私もやるから」
アレクの命令に、渋々と結界をはる。
シャルロは魔術師としてはこの3人の中では一番優秀だ。本人にその気があれば宮廷魔術師になれるだろう。蒼流の力を利用する気があれば、特級魔術師だって不可能では無い。
というか、蒼流の力を借りなくっても努力すれば本人の力だけでもなれるかもしれないが。
俺はその点器用さではシャルロを上回るかもしれないが魔力という観点から見たら3人の中ではびりっけつだ。ただ、清早がいるので水に対しては普通と反応が違うかもしれない。
ので、ある意味普通なアレクも対象として調べるのが一番確実だろう。
もっとも、魔術師が自分で張る結界と、魔具で張った結界が同じように機能するとは限らないけど。
ま、色々調べるのは悪くないことだ。
加熱型魔具といったら何が必要かな?」
工房に持ち込んだ黒板の前でアレクがペン型魔具を手に、振り返った。
ちなみに、これも我々が自分たちのために作った魔具だ。以前はチョークを使っていたのだが、粉があまりにも目障りだったので魔力を通したら文字を消せる黒板モドキとペンをセットで作ったのだ。
魔術師にしか使えないが、魔術学院にはそれなりの数を定期的に売り込んでいる。
研究肌な魔術師にも魔術院経由でそれなりに売れているし。
ま、単価も売上数もたいしたことないから、お小遣い程度だけど。
「熱!」
シャルロが手を上げて発言する。
「ほどよい熱、だ。熱すぎると火傷するぜ」
魔術学院に入る前に石を暖めて布にくるんで抱えて暖をとっていて火傷したのは痛い記憶だ。
「ああ、そういえば触って直ぐに火傷するほどで無くても、ある程度以上高い温度に長時間触れていると火傷することがあるらしいからな。そこら辺は医療師《ヒーラー》にでも確認しておこう」
アレクが頷きながら黒板に書き足す。
「風を遮るローブみたいなものがあると、効率がいいはず」
同じ気温でも、風がある日と無い日では外で身を潜めていたときの寒さが全然違った。
風というのは寒さを何倍も増やす。
だから空気の動きを止められれば、かなり暖かく出来るはず。
「ローブ型にする?」
シャルロが首を少し傾けて考え込んだ。
が、アレクが首を横に振った。
「いや。空滑機《グライダー》のレンタルの際に貸すのに、一々相手のコートを預かる羽目になったら面倒だし、警備兵とかにも売りつけるんだったら制服と型の違うローブを売りつけるのは難しいかもしれない。もっと着脱に融通の利く魔具にした方がいいと思う」
それにあんまり野暮ったいと上流層には買えないだろうし、かといって一々いろいろなデザインにつけるのは面倒だ。
「じゃあ、空気の動きをある程度阻害する結界を体の周りに、それとちょっと暖かい熱を出す機能が必要な訳だね。
他は?」
「あまり結界の効力を強くしすぎると呼吸困難になったり、音が聞こえなくなったりするかもしれないぜ」
風を止めるための結界というのは一番簡単にやる方法は空気の動きを禁じることだ。
「物に触れるのも阻害しちゃ駄目だしね」
シャルロが同意する。
「形も使用者の体勢に合わせて変化させる必要もありそうだな」
アレクのコメントに、シャルロが首をかしげた。
「考えてみたら、人間用の結界ってどんな形なんだろ? あんまり考えたこと無かった」
確かに。
「外で、結界を作ってみろ。上から水をかけて、どんな形に水がはじかれるか見てみよう」
シャルロなら失敗してびしょ濡れになっても過保護な精霊が直ぐに乾かしてくれるだろうし。
「え~! 寒いよ~~~!!! いいじゃん、ここでやれば!」
ばっと見事な速度で結界を自分の周りに張り、シャルロが手を振り上げる。
ざば~~~!!!!
見事な勢いで水が中から飛び出し、シャルロの周りの結界ではじかれ、宙に消えていく。
流石大精霊様。
ちゃんと部屋が濡れないように水の後始末までしてくれるんですね。
「急にやられても、観察出来んって......」
ぼやきながら目をこらす。
「球形......かな?」
「シャルロ、一歩前へ歩く感じで踏み出して」
アレクの注文に応じてシャルロが体を動かす。
最初は濡れていた部分へシャルロが足を伸ばしたら、そこには水が来なくなった。
ということは、結界は自動的に対象物の動きに合わせて形を変えるのか。
色々な姿勢をやらせ、しまいには床に寝転がらせてみたところ、どうやら結界は何も考えていなくても対象物の形に合わせて変形するようだった。
「よし、次はウィルがやれ。最後に私もやるから」
アレクの命令に、渋々と結界をはる。
シャルロは魔術師としてはこの3人の中では一番優秀だ。本人にその気があれば宮廷魔術師になれるだろう。蒼流の力を利用する気があれば、特級魔術師だって不可能では無い。
というか、蒼流の力を借りなくっても努力すれば本人の力だけでもなれるかもしれないが。
俺はその点器用さではシャルロを上回るかもしれないが魔力という観点から見たら3人の中ではびりっけつだ。ただ、清早がいるので水に対しては普通と反応が違うかもしれない。
ので、ある意味普通なアレクも対象として調べるのが一番確実だろう。
もっとも、魔術師が自分で張る結界と、魔具で張った結界が同じように機能するとは限らないけど。
ま、色々調べるのは悪くないことだ。
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