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卒業後
190 星暦552年 橙の月 11日 防犯(4)
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アレクの視点のままです
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「今回の事件が解決したら、『カンフィー・コーナー』のケーキセットを要求する~!」
位置追跡装置の魔石に同調させた魔石を切り分ける作業をしながらシャルロが声を上げた。
「あ、俺は『竜の夢』のフルコースディナーがいいな」
別の作業台で同じく魔石を切りながらウィルが要求を追加する。
「はいはい、ケーキセットとディナーね。分かりましたよ。他に何か?」
「あ、前焼いてくれたアレクの義姉さんのアーモンド・クッキーも欲しいなぁ」
シャルロが付け加えた。
ウィルは他には欲しい物が無かったのか、小さく笑っただけだった。
王都で買ってきた魔石はシャルロが力押しであっという間に同調させた。
だが。
この同調の状態を失わせずに割っていく作業は実は思ったよりも大変だった。
私が家族会議をしている間にウィルとシャルロが試しておいてくれたのだが、同調させた魔石を単にハンマーで砕いた場合、形が崩れて魔力が乱反射(?)するのか、かなりの部分の同調が失われてしまうのだ。
お陰で形を崩さぬよう、それなりに注意を払いながら魔石を切り分けていく必要が生じた。
宝石程の硬度はもたぬものの、岩石に魔力が溜まって出来た魔『石』である。パンを切り分けるような訳にはいかない。
試行錯誤の結果、糸鋸に魔力を帯びさせて切るのが一番効率的であることが判明した。
だが、効率的とは言ってもそれなりに魔力だけでなく、力と集中力を要する。
それを食べ物の要求だけでやってくれているのだから本当に良い仲間達だ。
今度、二人が好きなワインも持ってこよう。
◆◆◆
「急なことなのに本当にありがとう」
3人で半日かけて切り分けた魔石を持ってきた私たちに母が深く頭を下げて礼を言った。
本来ならばいくら友人とは言え、ボランティアでここまでの作業を1日でやってくれる魔術師なぞいない。元々魔石代と同程度の報酬を2人に払うつもりだったのだが、『いいよ』と辞退されてしまった。
そうなると頭を下げることと・・・クッキーを焼くぐらいのことでしかお礼が出来ない。
ま、後でディナーとケーキも奢るが。
菓子作りがあまり得意ではない母としてはここでは頭を下げる担当になったと言うところか。
「今晩、犯人がみつかるといいですね」
照れくさげにパタパタと手を振りながらシャルロがにこやかに答えた。
ウィルは軽く母に目礼をして魔石を置いたらさっさと姿を消してしまった。
こうやって見てみると、まるで人懐っこい犬と警戒心の強い猫のようだな、この二人。
それであれだけ気が合うなんて、本当に不思議だ。
「では、この魔石を閉店後に適当に店の商品に紛れ込ませておいて下さい。私も2軒回りますが、どこに行けばいいです?」
私の言葉に頷き、母がサイドテーブルから簡単な地図を取り上げた。
「これを渡しておきましょう。この印が付いているところが、護衛をつけない店舗です。この家から距離が比較的近く、馬車でもアクセスしやすい場所を選んでおきました。あなたたちはじゃあ、この2つで設置してきてくれる?」
この家で待機か。
ウィルが嫌がりそうだな。
幸い今日はそれ程寒くないから交代で馬車の中で追跡装置を確認することにするか。交代に出入りしていたらさり気無く当番じゃない時にウィルが他の場所へ行くことも可能だ。
内気でも人と話すことが苦手でもなく学院や仕事の時には全く問題なく他の人と付き合ってきていたのに、ウィルはどうも私たちの家族や友人と顔を合わせることをあまり好まない。
「分かりました」
2店舗分の魔石を手に取り、家を出た。
「ここで問題なく追跡装置から視えるか確認しているから、別の馬車を使って魔石を設置してきてくれるか?ぶっつけ本番だからな。思ったよりも出力が無くって位置発信が視えないなんてことになったら不味い」
馬車に乗って追跡装置を確認していたウィルがひょいと首を出す。
「馬車を出すより、馬の方が早いな。私は久しぶりにラフェーンに乗ることにしよう」
シャルロの馬を手配しようとしたら、シャルロも首を横に振った。
「僕もここで視ているよ。出力足りなかったら手伝えるかもしれないし」
一瞬、ウィルが変な顔をした。
「どうした?」
「今思ったんだけどさ・・・。こんな苦労しなくても、蒼流が商品に彼の水飛沫をほんの少しだけかけておいたらそれを追えたんじゃないか?」
「「・・・。」」
思わず、沈黙の中で3人で顔を見合わせてしまった。
「今回の問題は、最終的には公の場で主犯者を裁く必要がある可能性が高いから、証明・再現の出来る魔具を使った方がきっといいんだろう。・・・多分」
気を取り直して、我々の苦労の正当化を図る。
普段のシャルロがあれだから、つい彼が実質無敵であることって忘れるんだよなぁ・・・。
ウィルの清早のことも考えたら、この二人に不可能なことの方が少ないような気がする。
ま、精霊に世俗的な汚いことに対応してもらうのも心苦しい。
ディナーとケーキセットで買収できるこの二人に直接手伝ってもらう方が何かといいに違いない。
きっと。
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「今回の事件が解決したら、『カンフィー・コーナー』のケーキセットを要求する~!」
位置追跡装置の魔石に同調させた魔石を切り分ける作業をしながらシャルロが声を上げた。
「あ、俺は『竜の夢』のフルコースディナーがいいな」
別の作業台で同じく魔石を切りながらウィルが要求を追加する。
「はいはい、ケーキセットとディナーね。分かりましたよ。他に何か?」
「あ、前焼いてくれたアレクの義姉さんのアーモンド・クッキーも欲しいなぁ」
シャルロが付け加えた。
ウィルは他には欲しい物が無かったのか、小さく笑っただけだった。
王都で買ってきた魔石はシャルロが力押しであっという間に同調させた。
だが。
この同調の状態を失わせずに割っていく作業は実は思ったよりも大変だった。
私が家族会議をしている間にウィルとシャルロが試しておいてくれたのだが、同調させた魔石を単にハンマーで砕いた場合、形が崩れて魔力が乱反射(?)するのか、かなりの部分の同調が失われてしまうのだ。
お陰で形を崩さぬよう、それなりに注意を払いながら魔石を切り分けていく必要が生じた。
宝石程の硬度はもたぬものの、岩石に魔力が溜まって出来た魔『石』である。パンを切り分けるような訳にはいかない。
試行錯誤の結果、糸鋸に魔力を帯びさせて切るのが一番効率的であることが判明した。
だが、効率的とは言ってもそれなりに魔力だけでなく、力と集中力を要する。
それを食べ物の要求だけでやってくれているのだから本当に良い仲間達だ。
今度、二人が好きなワインも持ってこよう。
◆◆◆
「急なことなのに本当にありがとう」
3人で半日かけて切り分けた魔石を持ってきた私たちに母が深く頭を下げて礼を言った。
本来ならばいくら友人とは言え、ボランティアでここまでの作業を1日でやってくれる魔術師なぞいない。元々魔石代と同程度の報酬を2人に払うつもりだったのだが、『いいよ』と辞退されてしまった。
そうなると頭を下げることと・・・クッキーを焼くぐらいのことでしかお礼が出来ない。
ま、後でディナーとケーキも奢るが。
菓子作りがあまり得意ではない母としてはここでは頭を下げる担当になったと言うところか。
「今晩、犯人がみつかるといいですね」
照れくさげにパタパタと手を振りながらシャルロがにこやかに答えた。
ウィルは軽く母に目礼をして魔石を置いたらさっさと姿を消してしまった。
こうやって見てみると、まるで人懐っこい犬と警戒心の強い猫のようだな、この二人。
それであれだけ気が合うなんて、本当に不思議だ。
「では、この魔石を閉店後に適当に店の商品に紛れ込ませておいて下さい。私も2軒回りますが、どこに行けばいいです?」
私の言葉に頷き、母がサイドテーブルから簡単な地図を取り上げた。
「これを渡しておきましょう。この印が付いているところが、護衛をつけない店舗です。この家から距離が比較的近く、馬車でもアクセスしやすい場所を選んでおきました。あなたたちはじゃあ、この2つで設置してきてくれる?」
この家で待機か。
ウィルが嫌がりそうだな。
幸い今日はそれ程寒くないから交代で馬車の中で追跡装置を確認することにするか。交代に出入りしていたらさり気無く当番じゃない時にウィルが他の場所へ行くことも可能だ。
内気でも人と話すことが苦手でもなく学院や仕事の時には全く問題なく他の人と付き合ってきていたのに、ウィルはどうも私たちの家族や友人と顔を合わせることをあまり好まない。
「分かりました」
2店舗分の魔石を手に取り、家を出た。
「ここで問題なく追跡装置から視えるか確認しているから、別の馬車を使って魔石を設置してきてくれるか?ぶっつけ本番だからな。思ったよりも出力が無くって位置発信が視えないなんてことになったら不味い」
馬車に乗って追跡装置を確認していたウィルがひょいと首を出す。
「馬車を出すより、馬の方が早いな。私は久しぶりにラフェーンに乗ることにしよう」
シャルロの馬を手配しようとしたら、シャルロも首を横に振った。
「僕もここで視ているよ。出力足りなかったら手伝えるかもしれないし」
一瞬、ウィルが変な顔をした。
「どうした?」
「今思ったんだけどさ・・・。こんな苦労しなくても、蒼流が商品に彼の水飛沫をほんの少しだけかけておいたらそれを追えたんじゃないか?」
「「・・・。」」
思わず、沈黙の中で3人で顔を見合わせてしまった。
「今回の問題は、最終的には公の場で主犯者を裁く必要がある可能性が高いから、証明・再現の出来る魔具を使った方がきっといいんだろう。・・・多分」
気を取り直して、我々の苦労の正当化を図る。
普段のシャルロがあれだから、つい彼が実質無敵であることって忘れるんだよなぁ・・・。
ウィルの清早のことも考えたら、この二人に不可能なことの方が少ないような気がする。
ま、精霊に世俗的な汚いことに対応してもらうのも心苦しい。
ディナーとケーキセットで買収できるこの二人に直接手伝ってもらう方が何かといいに違いない。
きっと。
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