シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

550 星暦555年 紺の月 23日 総動員(7)

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軍の風精霊の加護持ちの人の視点です。

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>>>サイド サラジョーン・パラティーダ

寝る準備をしていたところを今結婚式関連の警備責任者であるグラディウム大佐に呼び出されて連れてこられた魔術院では、長老格と思われる老魔術師と若い魔術師が大きな王都の地図を囲んで話しあっていた。

「グラディウム大佐。
夜遅くにすいません。
こちらは総務課担当の長老であるパズール師です」
若い魔術師がグラディウム大佐に気が付いたら立ち上がって挨拶と紹介をしてきた。
こんな深夜といって良い時間に魔術院の長老がいるとは。
どうやら問題はかなり深刻なようだ。

「アンディ殿。パズール師。
精霊によって探知網が薙ぎ払われたという話は大問題ですからな。
勿論、軍が出来ることに関しては最大限のことをします。
こちらが風精霊の加護を受けているサラジョーン・パラティーダ少佐です」
グラディウム大佐が長老と握手した後、自分のことを紹介した。

若い方がこちらに軽く会釈してから、話を始めた。
「探知網設置後の接続不備の確認を頼んだダントールという魔術師が、水精霊の加護を持っていまして。その伝手で彼が風精霊に聞いたところだと、どうも今回設置した探知網が目障りで精霊が薙ぎ払ってしまったとのことなのです。今まで何度も使われてきた王都警護用探知網にこんな問題が起きたことは一度もないので、出来れば風精霊の加護持ちに風精霊と原因と対応策について話し合うのにご協力を頂きたいと連絡をしました。
取り敢えず結婚式が終わるまでの短期間だから修復したら探知網は壊さないでくれとダントールが頼んだら彼と話していた風精霊は合意してくれたようなのですが、そうするとどうも探知網が撤去されるまで王都に風が吹かないかもしれないという話もあるようなのでそちらの詳細も確認をお願いしたい」

魔術師に対して頷きながら、自分の精霊に声をかけた。
「軽飛。
ちょっと出て来てくれる?」

『やっほ~。
どうしたの?』
ぽわんと目の前に軽飛が姿を現した。
基本的に、軽飛とのやり取りは心話で行う。声を出して呼び出す時は他の人にも見えるように姿を現してほしいことだというのが二人の間での決まり事だった。

「今日王都の周りに設置した探知網のことなんだけど。
あれって何か精霊にとって問題があるの?」
精霊が人間が設置した魔術や魔道具に干渉するなんてことは殆ど無い。
本当に薙ぎ払ったのか?
単に今回の魔術師の作業効率があまりにも悪すぎたのをごまかしている可能性もあるのではないか。
そんなことを考えながら、精霊に声をかけた。

『ああ、あれ?
今までだったらああいうのが設置されたら単に近づくのを止めていたんだけど、こないだ水のお方が愛し子の為に暗黒界の汚染を態々ここら辺から洗い流していたでしょう?
悪いことがあったら無視するのではなく取り去る方が良いのかと思ってみんなで壊して回ったのよ!』
褒めて~と言いたげな口ぶりで軽飛が自慢げに答えてくれた。

・・・。
ちょっと~。
魔術院と軍部が1日かけて総出で設置した探知網を壊して自慢されても困るんだけど。
自分は探知網の設置には関与していないが、風精霊の力を借りて警備に参加することになっている関係から今回の結婚式に関する一連の警備上の流れは聞いている。
探知網の設置はかなり大掛かりで重要なステップの一つであったはずだ。
それをあっさり壊されたと告白されても・・・気まずい。

思わず冷たい汗が背中に流れた。
「先日の汚染は放置していたら魔獣が発生するような重大な問題だったと聞くけど、今回の探知網にはどんな問題があったの?」

『あれって精霊の動きを阻害するのよ?
あんなのがあったら風だけじゃなくって他の精霊もこの地を避けるようになってしまうわ。
それじゃあ困るでしょ?』
あっさりと軽飛が答えた。

精霊が寄り付かない地はやがて廃れ、不毛の地となる。
農地だとすぐにその影響がでるが、王都のような人が働いて過ごす場所だとそこまで露骨には問題にならないはずだが・・・確かに精霊が寄り付かなくなるのは困るだろう。

とは言え、半月程度の話なのでそれ程問題にはならないはずだ。

「なるほど。
精霊が避けてしまうのですね。
過去の王太子の結婚式や即位式の際に探知網を設置した状況で何が起きたかの記録を調べたところ、確かに風が吹かず夏は猛烈に蒸し暑くなったとの記述がありました」
アンディが説明するように付け足した。

「風が吹かなくて猛烈に暑くなるというのも困るが・・・それでも危険な魔道具が野放図に王都に入ってくるよりはマシなはずだ。
取り敢えず、結婚式が終わったら撤去するのでそれまでは探知網に手を出さず、そして何とか王都に風を吹かせ続けてもらうことは可能かね?」
パズール師が軽飛と自分に声をかけてきた。

精霊によっては加護を与えた相手としか会話をしない者もいるが、軽飛はそこそこ社交的なので姿を現した時は他の人間とも会話をしてくれるので、パズール師の言葉を繰り返すことなくそのまま軽飛に目をやって返事を待った。
『大丈夫よ~ん。
さっき水の愛し子からも頼まれたから、手は出さないことにもう皆で申し合わせてあるから。
風を吹かせるのは話になかったけど、まあしょうがないから我慢してこの地から離れないでおいてあげるわ~』
軽飛が軽い調子で答えた。

精霊にとって人間という存在の『社会的地位』というのは全く意味をなさない。
お蔭で魔術院の長老だろうが王家の人間だろうが軍部のお偉い様だろうが同じような軽い調子で話すので時折お偉い様に睨まれることになるのだが・・・流石に魔術院の長老はそこら辺は分かっているのか、軽飛の軽い口調を気にした様子もなく、感謝の意を込めて頭を下げてくれた。

「助かる。
さて、グラディウム大佐。
今日は1日軍部の輸送部隊に手伝ってもらったのだが、更に手を貸していただけるだろうか?
魔術師を馬に乗せて王都を回らせる必要がある。
取り敢えず魔術院の職員を15人程収集したのだが、貸馬屋が全てもう閉まっているのだ」
長老の言葉に続いてアンディが王都の地図をつなぎ合わせた物をグラディウム大佐と自分が見えるように机の上に広げてくれた。

「この×がついているところが探知網が切れた箇所です。
接続不良個所を確認して位置を特定した後、魔術院から魔術師を遣って修復する予定だったのですが・・・これだけボロボロだったら全部を回った方が早いという結論に達しました。
夜通し徹夜で働くことになりますが、流石に歩いて回るのでは終わりませんし体力の消耗が激しいのでなんとしても足が必要なんです」

探知網を表すらしき大きな丸にはあちこちにバツが記されまくっていた。
うわぁ・・・。
これを全部修復するんだ。

幾らまだ正式な日付が発表されていないとはいえ、結婚式の計画は既に動き始めている。
問題が起きたからと言ってそう簡単に結婚式を後ろにずらせないことを考えると、修復に時間をかけられないのは分かるが・・・大丈夫なの?

思わず同情していたら、グラディウム大佐がとんでもないことを言いだした。
「了解した。
第3騎士団なら夜でも人がいるので、そこからすぐに馬と護衛を手配しましょう。
魔術師は足りていますか?何だったら軍部の魔術師にも召集をかけるが」
え???
それって私も入っているよね???
残業続きの毎日がひと段落ついて、やっと落ち着いてお風呂に入って寝る予定だったのに~~~~~!!!!

『大丈夫、足さえ確保できれば何とかなる』と答えろと長老に念を送ったが、帰ってきたのは
「それは助かります。
是非お願いしたい」
という無慈悲な言葉だった・・・。


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