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卒業後
535 星暦555年 紫の月 11日 重要な確認作業だよね(7)
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婿子爵の愛人との別荘には誰もいなかった。
使っている時は通いの家政婦がいるらしいが、それ以外の時期は月に1度程度空気を入れ替えてざっと掃除をさせているらしいというのが長から得た情報だ。
ここに来る際は家政婦に事前に連絡しておき、掃除をして鍵を開けておいてもらうとのことで、愛人は別荘の鍵すら持っていなかったようだ。
まあ、探せば流石にどっかにはあるんだろうけど。
とは言え、現時点では必要ない。
まあ、嵩張る資産価値の高い物が見つかったらそれを運び出す業者の為に誰かが玄関を開く必要があるが。
その際には家政婦に連絡するのかな?
子爵夫人の名前で連絡してもちゃんと対応してくれるのかね?
そんなことを考えながら、玄関を開けて中に入っていく。
・・・思ったより広い。
これが『別荘』なんだぁ・・・。
貴族って愛人との別荘でも贅沢なんだなぁ。
俺達の家よりも広そうじゃん。
流石に工房を含めれば俺達の家の方が大きいけど。
さて。
この家にある物は全部俺が発見したことになるから、今回は全部の部屋を回って資産をリストアップしていく必要がある。
面倒くさい。
絵画とか小ぶりな彫刻はまだしも、骨董品クラスの家具とかに関しては金にはなるけど盗むのは難しいからあまり詳しくないんだよねぇ。
一応そういうのを専門にしている連中から下調べの依頼を請けた(というか使い走りをしていたに近いけど)ことはあるから知識は一通りあるが、宝石みたいに一目見たら真偽や価値が分かるほどではない。
欲張らずに、長からそっち系の人員を借りてくるべきだったかなぁ。
じゃなきゃアレクを連れてきても良かったかもしれない。
まあ、今更だ。
今日中に終わらなかったら考えよう。
◆◆◆◆
「ほおう?
美術品系はこちらに隠していたのか。
別荘などに置いていたら見て楽しむ機会が少なかっただろうに」
俺が差し出したリストに目を通した長が顎をさすりながら呟いた。
「王都の愛人宅はヤバそうになったらパパっと荷造りして持ち逃げられる資産を隠していて、避暑地の別荘はほとぼりが冷めた頃に戻ってきて現金化する予定の大き目なブツを保管するのに使っていたのかも?」
愛人との別荘には殆ど宝石は無かったが、代わりにそれなりに価値のある家具や美術品が多かった。
裏帳簿もなかったものの・・・脅迫に使えそうな怪しげな情報を纏めた資料集みたいのがあった。
・・・これって資産価値はもの凄くあるっちゃあ、あるけど奥方が表立ってこれを資金化するのは難しいから、報酬の対象にはならないんだろうなぁ。
それとも貴族ともなればこういう情報も影の取引用にそこそこ堂々と使えるのだろうか?
「・・・我々や対象者の競争相手にでも売りつければそれなりの資産価値がありそうだが、子爵夫人ともあろうものがそんなことをするとは認めないだろうから、これに対する報酬は難しいだろうな」
薄く笑いながら脅迫用らしき資料を見ながら長が言った。
・・・だよね~。
「じゃあ、報酬が無いと夫人が言ったら、その場でこれらを燃やして貰えます?
『使い道がない』ということで報酬を払わないんだったら、『使えない』ようにしないと」
そういった俺の言葉に長が笑いながら頷いた。
「分かった。
奥方が報酬の支払いを断る前に、断ったら何が起きるか分かるように話を進めるよ」
いや、別に脅迫書類に関してはそのまま破棄してくれても良いんだけど。
流石にそれをきっちり資産化して報酬を得てくれとは言いずらい。
「ちなみに、魔術院で婿子爵の転移門の使用記録を調べるよう依頼しているんですが・・・やはりザルガ共和国に拠点がある可能性が高いですね。
まだ直近の2年弱しか調査結果が出ていませんが、かなりの頻度で転移門を使ってザルガ共和国の東寄りの州にある大き目の都市に行っているようです」
さて。
この情報に関して調べると長が自分から言ってくれたら、魔術院に払った調査料も経費として認めてくれと提案するのだが・・・どうかな?
「まあ、そうだろうなぁ。
幾ら事業免許証があろうと、それを使わなければ利益は生み出せない。
どの街だ?」
長が残りの紙を捲りながら訊ねた。
「ちなみに、これって拠点が見つかった場合の報酬の分配はどうなります?」
全部俺が調べたら当然3割5分が俺のものになるだろうが、ザルガ共和国まで調べに行くのは面倒だ。
あちらの調査は余程のことが無い限り長の方に任せ、俺は1割程度の情報提供料をもらえればそれでいいんだけどな。
「そうだな。
拠点を見つけて一通り調べた後に最終チェックとしてザルガ共和国まで行ってくれるなら1割5分払うぞ?」
長が書類を机の上に起きながら答えた。
おやぁ?
思っていたよりも気前が良いじゃん。
「魔術院への依頼料は清算してもらえますよね?」
「勿論だ」
う~ん。
随分と物分かりが良いなぁ。
奥方や実家に存在すら知られていない他国の拠点だったら態々資産や帳簿を隠していないだろうから俺が行くまでもないだろうと思っていたのだが、何か思い違いをしているのだろうか?
「それでいいですが・・・。
でも、ザルガ共和国の拠点なんて奥方も実家も気が付く可能性が低いし、法的にもあちらの資産をアファル王国へ引き上げるのも難しいでしょうから、そんなに本気になって隠していないのでは?」
合意しながら思わず長に聞いてみた。
「ザルガ共和国では脱税するのが常識なんだよ。
皆があまりにも脱税するから、あの国は儲けた金の半分以下しか国税局に報告されないという想定の下に本来の総収入の3割程度に税金がかかるようになっている。
だから脱税しないことにはバカみたいな税金を毟られる羽目になるんだ。
絶対に婿子爵殿も裏帳簿を作って資金を隠していたはず」
長が笑いながら答えた。
マジ???
脱税するのを前提とした税制度って・・・何か間違ってないか??
-------------------------------------------------------------------------
皆が脱税するから報告される範囲の収入に対する税率を高くして、税率が高いから皆が脱税に精を出し、皆が脱税を頑張るから国は更に税率を上げ・・・といった追いかけっこになっているんですね~w
使っている時は通いの家政婦がいるらしいが、それ以外の時期は月に1度程度空気を入れ替えてざっと掃除をさせているらしいというのが長から得た情報だ。
ここに来る際は家政婦に事前に連絡しておき、掃除をして鍵を開けておいてもらうとのことで、愛人は別荘の鍵すら持っていなかったようだ。
まあ、探せば流石にどっかにはあるんだろうけど。
とは言え、現時点では必要ない。
まあ、嵩張る資産価値の高い物が見つかったらそれを運び出す業者の為に誰かが玄関を開く必要があるが。
その際には家政婦に連絡するのかな?
子爵夫人の名前で連絡してもちゃんと対応してくれるのかね?
そんなことを考えながら、玄関を開けて中に入っていく。
・・・思ったより広い。
これが『別荘』なんだぁ・・・。
貴族って愛人との別荘でも贅沢なんだなぁ。
俺達の家よりも広そうじゃん。
流石に工房を含めれば俺達の家の方が大きいけど。
さて。
この家にある物は全部俺が発見したことになるから、今回は全部の部屋を回って資産をリストアップしていく必要がある。
面倒くさい。
絵画とか小ぶりな彫刻はまだしも、骨董品クラスの家具とかに関しては金にはなるけど盗むのは難しいからあまり詳しくないんだよねぇ。
一応そういうのを専門にしている連中から下調べの依頼を請けた(というか使い走りをしていたに近いけど)ことはあるから知識は一通りあるが、宝石みたいに一目見たら真偽や価値が分かるほどではない。
欲張らずに、長からそっち系の人員を借りてくるべきだったかなぁ。
じゃなきゃアレクを連れてきても良かったかもしれない。
まあ、今更だ。
今日中に終わらなかったら考えよう。
◆◆◆◆
「ほおう?
美術品系はこちらに隠していたのか。
別荘などに置いていたら見て楽しむ機会が少なかっただろうに」
俺が差し出したリストに目を通した長が顎をさすりながら呟いた。
「王都の愛人宅はヤバそうになったらパパっと荷造りして持ち逃げられる資産を隠していて、避暑地の別荘はほとぼりが冷めた頃に戻ってきて現金化する予定の大き目なブツを保管するのに使っていたのかも?」
愛人との別荘には殆ど宝石は無かったが、代わりにそれなりに価値のある家具や美術品が多かった。
裏帳簿もなかったものの・・・脅迫に使えそうな怪しげな情報を纏めた資料集みたいのがあった。
・・・これって資産価値はもの凄くあるっちゃあ、あるけど奥方が表立ってこれを資金化するのは難しいから、報酬の対象にはならないんだろうなぁ。
それとも貴族ともなればこういう情報も影の取引用にそこそこ堂々と使えるのだろうか?
「・・・我々や対象者の競争相手にでも売りつければそれなりの資産価値がありそうだが、子爵夫人ともあろうものがそんなことをするとは認めないだろうから、これに対する報酬は難しいだろうな」
薄く笑いながら脅迫用らしき資料を見ながら長が言った。
・・・だよね~。
「じゃあ、報酬が無いと夫人が言ったら、その場でこれらを燃やして貰えます?
『使い道がない』ということで報酬を払わないんだったら、『使えない』ようにしないと」
そういった俺の言葉に長が笑いながら頷いた。
「分かった。
奥方が報酬の支払いを断る前に、断ったら何が起きるか分かるように話を進めるよ」
いや、別に脅迫書類に関してはそのまま破棄してくれても良いんだけど。
流石にそれをきっちり資産化して報酬を得てくれとは言いずらい。
「ちなみに、魔術院で婿子爵の転移門の使用記録を調べるよう依頼しているんですが・・・やはりザルガ共和国に拠点がある可能性が高いですね。
まだ直近の2年弱しか調査結果が出ていませんが、かなりの頻度で転移門を使ってザルガ共和国の東寄りの州にある大き目の都市に行っているようです」
さて。
この情報に関して調べると長が自分から言ってくれたら、魔術院に払った調査料も経費として認めてくれと提案するのだが・・・どうかな?
「まあ、そうだろうなぁ。
幾ら事業免許証があろうと、それを使わなければ利益は生み出せない。
どの街だ?」
長が残りの紙を捲りながら訊ねた。
「ちなみに、これって拠点が見つかった場合の報酬の分配はどうなります?」
全部俺が調べたら当然3割5分が俺のものになるだろうが、ザルガ共和国まで調べに行くのは面倒だ。
あちらの調査は余程のことが無い限り長の方に任せ、俺は1割程度の情報提供料をもらえればそれでいいんだけどな。
「そうだな。
拠点を見つけて一通り調べた後に最終チェックとしてザルガ共和国まで行ってくれるなら1割5分払うぞ?」
長が書類を机の上に起きながら答えた。
おやぁ?
思っていたよりも気前が良いじゃん。
「魔術院への依頼料は清算してもらえますよね?」
「勿論だ」
う~ん。
随分と物分かりが良いなぁ。
奥方や実家に存在すら知られていない他国の拠点だったら態々資産や帳簿を隠していないだろうから俺が行くまでもないだろうと思っていたのだが、何か思い違いをしているのだろうか?
「それでいいですが・・・。
でも、ザルガ共和国の拠点なんて奥方も実家も気が付く可能性が低いし、法的にもあちらの資産をアファル王国へ引き上げるのも難しいでしょうから、そんなに本気になって隠していないのでは?」
合意しながら思わず長に聞いてみた。
「ザルガ共和国では脱税するのが常識なんだよ。
皆があまりにも脱税するから、あの国は儲けた金の半分以下しか国税局に報告されないという想定の下に本来の総収入の3割程度に税金がかかるようになっている。
だから脱税しないことにはバカみたいな税金を毟られる羽目になるんだ。
絶対に婿子爵殿も裏帳簿を作って資金を隠していたはず」
長が笑いながら答えた。
マジ???
脱税するのを前提とした税制度って・・・何か間違ってないか??
-------------------------------------------------------------------------
皆が脱税するから報告される範囲の収入に対する税率を高くして、税率が高いから皆が脱税に精を出し、皆が脱税を頑張るから国は更に税率を上げ・・・といった追いかけっこになっているんですね~w
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