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卒業後
534 星暦555年 紫の月 11日 重要な確認作業だよね(6)
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「転移門の使用経歴って調べられます?」
婿子爵の愛人との別荘に行こうと魔術院の転移門に向かったところ、以前魔術院当番だった時に色々と教えてくれたセイラ・アシュフォードが運用当番だったのでついでに聞いてみた。
「そりゃあ、転移門の使用って魔術院がお金を受け取って魔力を使っているんだから、記録は残っているわよ?
だけどその情報を誰とでも共有できる訳ではないでしょう。
家族以外だったら、国の調査機関か、破産手続きに入った相手の債権者じゃない限り調査の要請は出来ないわ。
調べるのだってそれなりに手間がかかるから、あなたが自分で調べるというのでない限り手数料がかかるし」
セイラが肩を竦めながら答えた。
へぇぇ。
意外としっかりと管理されているんだな。
とは言え、魔術院当番でうまい事転移門の運用当番に回されるよう手配したら自分で勝手に調べられそうだが。
『それなりにしっかり稼げる魔術師は悪事に手を染める必要はない』という性善説(?)に基づいているのか、魔術院の情報管理ってかなりずさんだからなぁ。
夜中に忍び込めば、魔術院当番の手配なんていう面倒なことをする必要すらない。
だがまあ、今回はちゃんと婿子爵の家族からの依頼になるはずだから、大丈夫か。
「とある貴族様で離婚騒動が起きていて、旦那の隠し財産を調べているところなんですけど、この依頼書でどうでしょう?
それとも何か決まった書類様式がありますか?」
愛人邸で見せた子爵夫人からの依頼書を見せたら、セイラが薄く笑った。
「あ~。
彼ね。
最近見なくなったと思ったら、離婚騒動が起きているんだ?」
こわっ。
しっかし、魔術院で名を覚えられるほど頻繁に転移門を使っていたのか?
だとしたら本当に他国に拠点を作っていそうだな。
「奥様の依頼だったらこれで大丈夫よ。
どのくらい調べる必要があるの?」
依頼書を返しながらセイラが聞いてきた。
さて。
ある意味、婿養子は結婚する前から奥方を裏切っていたのだろうが・・・流石に結婚して直ぐの時点では他国に拠点を開けるほど横領した金が溜まっていないだろう。
「とりあえず、5年というところかな?」
セイラが料金表らしき紙を差し出してきた。
「半年分で銀貨5枚だから、5年分だったら金貨2枚と銀貨5枚ね。
もしくはウィルが自分で調べる?それだったら料金は発生しないわよ?」
うう~ん、どうしようかな。
転移門の傍にあった使用記録の帳簿を手に取って確認してみた。
そこそこ分厚いが・・・これでまだ1月分弱?!
うへぇ~。
これの5年分となったら物凄い量になるじゃないか!!!
冗談じゃない。
これは金で解決しよう。
既に発見した宝石やら金貨の3割5分の取り分で十分払えるから足は出ない。
船が見つかればその財産価値はかなり凄いことになるはずだし。
「お金を払うんで、頼みます」
「まあ、その方が良いでしょうね。
はい、これが申請書類よ」
セイラから渡された用紙に必要事項を書き込みながら、ふと頭に浮かんだことを尋ねた。
「ちなみに、家族だったら情報を要請できるってことなら、暴力を振るう夫から逃げたいなんて言う時には転移門は使わない方が無難ってことになるんですか?」
手っ取り早く遠くに移動するなら転移門が一番だが、移動先がすぐにばれるんだったらかえって危険かもしれない。
暴力を振るう夫から逃げる必要があるような女性の知り合いはいないが、知識として知っておいて損はない。
それこそ、いつか誰かが逃げるのを助けることになるかもしれないし。
まあ、そんな場合は転移門を使うよりも空滑機《グライダー》で移動する方が痕跡が少なくていい気がするが。
つうか、妻を殴るような夫だったら何かしら後ろ暗いことをやっているだろうから、その証拠をどっかに匿名で送り付ければいいだけかも。
現時点ではどうでもいい架空の話だが。
俺が書き込んだ申請書類を確認しながらセイラが肩を竦めた。
「ちゃんと魔術院にその旨を申し立てしておけば、司法官が『正当な理由がある』と承認した場合以外は家族でも調べられなくなるわ。
だけどまあ、夫から逃げるなんて追い詰められた状態の人はそんなことまで考えが及ばないことが多いからねぇ。
それっぽい女性の移動先情報の要請が来たら、申請書類の不備を指摘しまくって遅らせる程度しか出来ないのよ」
へぇぇ。
中々思いやりがあるね。
でも、それって追い詰められていそうな状況に気が付くような女性が当番だったら、だろ?
男が当番だったらそういうことに気が付かないんじゃないかね?
まあ、取り敢えず対応策が分かったので良しとしよう。
「では、これで頼みます。支払いは魔術院での俺の口座から引き落としということに出来るんですね。
ちなみに、調べるのにどのくらいかかります?」
「今年の分だったら今日の夕方までに終わるわよ?」
笑いながらセイラが答えた。
おい。
今年ってまだ3月も経ってないじゃないか。
「じゃあ、今日の帰りに取り敢えず今年の分とその他見つかった情報を受け取ります。
後は毎日夕方に取りに来ますので、直近から情報を集めておいて下さい」
多分、直近の情報だけで国外にある婿子爵の拠点のある街は分かるだろう。
それが分かったら長に調べてもらっている間に残りの5年間の分も集まるだろう。
さ~て。
別荘にはどのくらい財産があるかな?
楽しみだ。
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手書きの紙の記録を調べるのって大変そう・・・。
婿子爵の愛人との別荘に行こうと魔術院の転移門に向かったところ、以前魔術院当番だった時に色々と教えてくれたセイラ・アシュフォードが運用当番だったのでついでに聞いてみた。
「そりゃあ、転移門の使用って魔術院がお金を受け取って魔力を使っているんだから、記録は残っているわよ?
だけどその情報を誰とでも共有できる訳ではないでしょう。
家族以外だったら、国の調査機関か、破産手続きに入った相手の債権者じゃない限り調査の要請は出来ないわ。
調べるのだってそれなりに手間がかかるから、あなたが自分で調べるというのでない限り手数料がかかるし」
セイラが肩を竦めながら答えた。
へぇぇ。
意外としっかりと管理されているんだな。
とは言え、魔術院当番でうまい事転移門の運用当番に回されるよう手配したら自分で勝手に調べられそうだが。
『それなりにしっかり稼げる魔術師は悪事に手を染める必要はない』という性善説(?)に基づいているのか、魔術院の情報管理ってかなりずさんだからなぁ。
夜中に忍び込めば、魔術院当番の手配なんていう面倒なことをする必要すらない。
だがまあ、今回はちゃんと婿子爵の家族からの依頼になるはずだから、大丈夫か。
「とある貴族様で離婚騒動が起きていて、旦那の隠し財産を調べているところなんですけど、この依頼書でどうでしょう?
それとも何か決まった書類様式がありますか?」
愛人邸で見せた子爵夫人からの依頼書を見せたら、セイラが薄く笑った。
「あ~。
彼ね。
最近見なくなったと思ったら、離婚騒動が起きているんだ?」
こわっ。
しっかし、魔術院で名を覚えられるほど頻繁に転移門を使っていたのか?
だとしたら本当に他国に拠点を作っていそうだな。
「奥様の依頼だったらこれで大丈夫よ。
どのくらい調べる必要があるの?」
依頼書を返しながらセイラが聞いてきた。
さて。
ある意味、婿養子は結婚する前から奥方を裏切っていたのだろうが・・・流石に結婚して直ぐの時点では他国に拠点を開けるほど横領した金が溜まっていないだろう。
「とりあえず、5年というところかな?」
セイラが料金表らしき紙を差し出してきた。
「半年分で銀貨5枚だから、5年分だったら金貨2枚と銀貨5枚ね。
もしくはウィルが自分で調べる?それだったら料金は発生しないわよ?」
うう~ん、どうしようかな。
転移門の傍にあった使用記録の帳簿を手に取って確認してみた。
そこそこ分厚いが・・・これでまだ1月分弱?!
うへぇ~。
これの5年分となったら物凄い量になるじゃないか!!!
冗談じゃない。
これは金で解決しよう。
既に発見した宝石やら金貨の3割5分の取り分で十分払えるから足は出ない。
船が見つかればその財産価値はかなり凄いことになるはずだし。
「お金を払うんで、頼みます」
「まあ、その方が良いでしょうね。
はい、これが申請書類よ」
セイラから渡された用紙に必要事項を書き込みながら、ふと頭に浮かんだことを尋ねた。
「ちなみに、家族だったら情報を要請できるってことなら、暴力を振るう夫から逃げたいなんて言う時には転移門は使わない方が無難ってことになるんですか?」
手っ取り早く遠くに移動するなら転移門が一番だが、移動先がすぐにばれるんだったらかえって危険かもしれない。
暴力を振るう夫から逃げる必要があるような女性の知り合いはいないが、知識として知っておいて損はない。
それこそ、いつか誰かが逃げるのを助けることになるかもしれないし。
まあ、そんな場合は転移門を使うよりも空滑機《グライダー》で移動する方が痕跡が少なくていい気がするが。
つうか、妻を殴るような夫だったら何かしら後ろ暗いことをやっているだろうから、その証拠をどっかに匿名で送り付ければいいだけかも。
現時点ではどうでもいい架空の話だが。
俺が書き込んだ申請書類を確認しながらセイラが肩を竦めた。
「ちゃんと魔術院にその旨を申し立てしておけば、司法官が『正当な理由がある』と承認した場合以外は家族でも調べられなくなるわ。
だけどまあ、夫から逃げるなんて追い詰められた状態の人はそんなことまで考えが及ばないことが多いからねぇ。
それっぽい女性の移動先情報の要請が来たら、申請書類の不備を指摘しまくって遅らせる程度しか出来ないのよ」
へぇぇ。
中々思いやりがあるね。
でも、それって追い詰められていそうな状況に気が付くような女性が当番だったら、だろ?
男が当番だったらそういうことに気が付かないんじゃないかね?
まあ、取り敢えず対応策が分かったので良しとしよう。
「では、これで頼みます。支払いは魔術院での俺の口座から引き落としということに出来るんですね。
ちなみに、調べるのにどのくらいかかります?」
「今年の分だったら今日の夕方までに終わるわよ?」
笑いながらセイラが答えた。
おい。
今年ってまだ3月も経ってないじゃないか。
「じゃあ、今日の帰りに取り敢えず今年の分とその他見つかった情報を受け取ります。
後は毎日夕方に取りに来ますので、直近から情報を集めておいて下さい」
多分、直近の情報だけで国外にある婿子爵の拠点のある街は分かるだろう。
それが分かったら長に調べてもらっている間に残りの5年間の分も集まるだろう。
さ~て。
別荘にはどのくらい財産があるかな?
楽しみだ。
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手書きの紙の記録を調べるのって大変そう・・・。
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