166 / 1,118
卒業後
165 星歴552年 萌葱の月 2日 楽しい手伝い(4)
しおりを挟む
「君達がここの発見者なのか!?」
遺跡の発掘現場で又もや熱狂的な歓迎を受けた後、俺たちは本格的に手伝いに頑張ることになった。
考古学と言うのは、気が遠くなる程地味な作業の連続であると本にも書いてあったが・・・。
真剣にマジで地味だった。
遺跡の中の詳細な見取り図の作成。
各建造物のタイプと中に何があるかの大雑把な目録の作成。
壊れそうな物に対する固定化の魔術の補強。
そして細心の注意を払って建造物の中の物を記録、そして必要に応じて補修。
一軒の建物だけでもこれを念入りに行おうとしたらそれなりに大変だが、それが街一つ分丸ごとあるのだ。
終わるのが何時になるか、想像もつかない。
「大抵の遺跡だと目ぼしい物は殆ど持ち去られた後だから作業もある程度早くなるんだが、ここは完全に残っているからね。やる事が多すぎて嬉しい悲鳴をあげているところなんだ」
実際に嬉しそうな苦笑を零しながら案内を買ってでてくれたガルバ・ラツーナが言っていた。
ガルバはハラファの右腕というところらしい。ハラファが居ない時の責任者でもあるし、歴史に夢中になり過ぎて現実を忘れがちなハラファに代わって食糧の補給や寝具の用意といった事もやっているらしい。
「と言う訳で、まだ街全体の見取り図も完全には終わっていないし、中の目録作りも途中だし、当然見つかった物の補修も手を付けはじめたばかりだ。君達に希望があれば、どの作業でも手伝って貰うことはいくらでもあるけど、どれをしたい?」
「我々が見た建物の中には大量の書類や本がありましたが、あれの補修も可能なんですか?」
アレクが興味津々に尋ねた。
そう言えば、あの時書類に触ると崩壊してしまうことを知って物凄くがっかりしていたからなぁ。
「本か。あれは嬉しい発見何だけど頭を抱えてしまう問題でもあるんだよねぇ。
本を補修・復元する魔術もあるんだ。だけど、まず全体に軽く固定化をかけて触っても崩壊しないようにした後に、1ページごとに更に固定化を掛け直し、褪せたインクを復元させる術を掛けていくから・・・一冊の本でも下手をすると1年ぐらいかかってしまうんだ。本棚一つでも魔術師一人の一生分ぐらいの仕事で、この街全部の書籍となると・・・終わらない可能性の方が高いんだよね。
だから学術的に重要そうな物に狙いを付けて復元しなくちゃならないんだけど、狙いをつけるだけの判断をする為にもある程度は復元しなくちゃならないし・・・。アルマが取り組んでいるけど、手伝いたい?きっと喜ぶよ。向き不向きがあるから、向かないと思ったら別の事に移ってくれて構わないし」
ま、そりゃそうだ。やる事が山程あるのに、作業に適性が無い人間に無理矢理やらせて逃げられても、遺物を破壊されても元も子もないからな。
とりあえず、アレクと俺は本の復元作業のやり方を見せてもらう事にした。
シャルロは「向いていないと思うから」とのことで、見取り図の中にあるものの、まだ中の目録の作成が終わっていない建物での手伝いをする事にして、そちらへ向かう。
「やあ、君達が手伝いに来てくれた若者たちか。ありがとう。じゃあ、早速やって見せよう」
挨拶もそこそこに、アルマは俺たちを遺跡の中の建物の一つへ案内した。
「この建物は街の有力者の家だったか、役場だったんじゃないかと我々は睨んでいる。だからここの書籍から始めているんだ」
お、これって俺たちが最初に見た建物じゃん。幾つか、本に触って崩壊させてしまった失敗談は明かさない方が良さそうだな。
「役場って普通隠し金庫って在りませんよね?それともこの時代の遺跡はあるのが普通だったんでしょうか?」
アレクが尋ねた。
「隠し金庫?あまり発見されていないが、通常は個人宅に多いんじゃないかな?」
階段を上りながらアルマが答えた。
ふむ。壁や床の固定化も補強してあるようだな。
まあ、じゃないと床が抜けてその衝撃でせっかく発見された遺物が粉になってしまったりしては後悔しきれないもんな。
「じゃあ、ここは個人宅ではないですか?ウィルが幾つか隠し金庫を見つけていましたから」
アレクの言葉にアルマが物凄い勢いで振り返った。
「隠し金庫??何だって君達がそんな物を見つけているんだ?いや、それよりもどこにあるんだ、それ?!」
どうやら、アルマは他の2人よりも更に浮世離れした学者なようだ。
前回見付けた隠し金庫の場所を見せた。
つい習慣で中を探した後に閉めていたのだが、発掘している学者達がそれを見つけられていないとは想定外だった。
まあ、ここの隠し金庫はどうせ空に近かったけど。
ダガーは俺が貰っちゃったし、書斎の隠し金庫に入っていた書類は触ったら粉になって消えてしまったし。
だけど、考えてみたら遺跡の中でも発見されていない隠し金庫ってこの調子なら意外と沢山あるのかもなぁ。素人には隠し金庫を見つけるのって難しいのかも知れないが、学者達にプロの盗賊《シーフ》を雇うという考えが浮かぶとは思えない。
ふむ。
だけどまあ、これ程荒さずに遺跡を見つけられた事に感謝されると今後遺跡を見付けたとしても金庫荒らしはし難いな・・・。
本の修復作業は・・・説明から想像していたよりも更に上をいって細かく、時間のかかる作業だった。
それでもめげないアレクを残し、俺は街の見取り図作成作業に参加する事にした。
ま、3人とも違う作業をしたらお互い違うことを聞けて面白いだろうし。
ついでに隠し金庫の場所を全部マークしておいてやるか・・・なんて事を考えながら俺は指示された街の西端へ向かった。
遺跡の発掘現場で又もや熱狂的な歓迎を受けた後、俺たちは本格的に手伝いに頑張ることになった。
考古学と言うのは、気が遠くなる程地味な作業の連続であると本にも書いてあったが・・・。
真剣にマジで地味だった。
遺跡の中の詳細な見取り図の作成。
各建造物のタイプと中に何があるかの大雑把な目録の作成。
壊れそうな物に対する固定化の魔術の補強。
そして細心の注意を払って建造物の中の物を記録、そして必要に応じて補修。
一軒の建物だけでもこれを念入りに行おうとしたらそれなりに大変だが、それが街一つ分丸ごとあるのだ。
終わるのが何時になるか、想像もつかない。
「大抵の遺跡だと目ぼしい物は殆ど持ち去られた後だから作業もある程度早くなるんだが、ここは完全に残っているからね。やる事が多すぎて嬉しい悲鳴をあげているところなんだ」
実際に嬉しそうな苦笑を零しながら案内を買ってでてくれたガルバ・ラツーナが言っていた。
ガルバはハラファの右腕というところらしい。ハラファが居ない時の責任者でもあるし、歴史に夢中になり過ぎて現実を忘れがちなハラファに代わって食糧の補給や寝具の用意といった事もやっているらしい。
「と言う訳で、まだ街全体の見取り図も完全には終わっていないし、中の目録作りも途中だし、当然見つかった物の補修も手を付けはじめたばかりだ。君達に希望があれば、どの作業でも手伝って貰うことはいくらでもあるけど、どれをしたい?」
「我々が見た建物の中には大量の書類や本がありましたが、あれの補修も可能なんですか?」
アレクが興味津々に尋ねた。
そう言えば、あの時書類に触ると崩壊してしまうことを知って物凄くがっかりしていたからなぁ。
「本か。あれは嬉しい発見何だけど頭を抱えてしまう問題でもあるんだよねぇ。
本を補修・復元する魔術もあるんだ。だけど、まず全体に軽く固定化をかけて触っても崩壊しないようにした後に、1ページごとに更に固定化を掛け直し、褪せたインクを復元させる術を掛けていくから・・・一冊の本でも下手をすると1年ぐらいかかってしまうんだ。本棚一つでも魔術師一人の一生分ぐらいの仕事で、この街全部の書籍となると・・・終わらない可能性の方が高いんだよね。
だから学術的に重要そうな物に狙いを付けて復元しなくちゃならないんだけど、狙いをつけるだけの判断をする為にもある程度は復元しなくちゃならないし・・・。アルマが取り組んでいるけど、手伝いたい?きっと喜ぶよ。向き不向きがあるから、向かないと思ったら別の事に移ってくれて構わないし」
ま、そりゃそうだ。やる事が山程あるのに、作業に適性が無い人間に無理矢理やらせて逃げられても、遺物を破壊されても元も子もないからな。
とりあえず、アレクと俺は本の復元作業のやり方を見せてもらう事にした。
シャルロは「向いていないと思うから」とのことで、見取り図の中にあるものの、まだ中の目録の作成が終わっていない建物での手伝いをする事にして、そちらへ向かう。
「やあ、君達が手伝いに来てくれた若者たちか。ありがとう。じゃあ、早速やって見せよう」
挨拶もそこそこに、アルマは俺たちを遺跡の中の建物の一つへ案内した。
「この建物は街の有力者の家だったか、役場だったんじゃないかと我々は睨んでいる。だからここの書籍から始めているんだ」
お、これって俺たちが最初に見た建物じゃん。幾つか、本に触って崩壊させてしまった失敗談は明かさない方が良さそうだな。
「役場って普通隠し金庫って在りませんよね?それともこの時代の遺跡はあるのが普通だったんでしょうか?」
アレクが尋ねた。
「隠し金庫?あまり発見されていないが、通常は個人宅に多いんじゃないかな?」
階段を上りながらアルマが答えた。
ふむ。壁や床の固定化も補強してあるようだな。
まあ、じゃないと床が抜けてその衝撃でせっかく発見された遺物が粉になってしまったりしては後悔しきれないもんな。
「じゃあ、ここは個人宅ではないですか?ウィルが幾つか隠し金庫を見つけていましたから」
アレクの言葉にアルマが物凄い勢いで振り返った。
「隠し金庫??何だって君達がそんな物を見つけているんだ?いや、それよりもどこにあるんだ、それ?!」
どうやら、アルマは他の2人よりも更に浮世離れした学者なようだ。
前回見付けた隠し金庫の場所を見せた。
つい習慣で中を探した後に閉めていたのだが、発掘している学者達がそれを見つけられていないとは想定外だった。
まあ、ここの隠し金庫はどうせ空に近かったけど。
ダガーは俺が貰っちゃったし、書斎の隠し金庫に入っていた書類は触ったら粉になって消えてしまったし。
だけど、考えてみたら遺跡の中でも発見されていない隠し金庫ってこの調子なら意外と沢山あるのかもなぁ。素人には隠し金庫を見つけるのって難しいのかも知れないが、学者達にプロの盗賊《シーフ》を雇うという考えが浮かぶとは思えない。
ふむ。
だけどまあ、これ程荒さずに遺跡を見つけられた事に感謝されると今後遺跡を見付けたとしても金庫荒らしはし難いな・・・。
本の修復作業は・・・説明から想像していたよりも更に上をいって細かく、時間のかかる作業だった。
それでもめげないアレクを残し、俺は街の見取り図作成作業に参加する事にした。
ま、3人とも違う作業をしたらお互い違うことを聞けて面白いだろうし。
ついでに隠し金庫の場所を全部マークしておいてやるか・・・なんて事を考えながら俺は指示された街の西端へ向かった。
1
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる