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卒業後
520 星暦555年 赤の月 19日 汚染(8)
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ウィルの視点に戻りました。
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「ザルガ共和国から思っていた以上に多額の賠償金が届けられたのでな。
今回の件の発見者のウィルにもお裾分けの報奨金が出るそうだ」
ちょっと遊びに来いと学院長から連絡があって来てみたら、金貨の入った袋を差し出された。
報奨金?
なんじゃそりゃ。
「報奨金って・・・賞金首を捕まえたりとか犯罪組織を潰すのに手伝いと出るというのは知っていますが、今回のって結局どこかが犯罪行為を行おうとしていたんですか?」
今回の件は、単に自分やシェイラが街中に来た時に汚い空気を吸うのが嫌だから動いただけで、その後始末も思っていた以上に大規模かつ徹底的に魔術院と商業ギルドが手配してくれたんで俺としてはこちらこそお礼を言いたいぐらいなんだけど。
勿論、貰える金は受け取るけどさ。
「あれだけ大事になったのに驚きだが、今回は誰も意図的に悪事を働くつもりは無かったというのが情報部の結論だ。
アファル王国側の輸入した商会は、単に敵対的な隣国だったガルカ王国がもう少し理性的と思われるザルガ共和国に変わったから、早速あちらに乗り込んで新しい商機を見つけて物にしようと頑張っただけらしい。
そしてザルガ共和国側は単に取り潰したテリウス神殿の資産を現金化して少しでも属国化した元ガルカ王国の経済を立て直そうとしたら、とんでもない物を売ってしまって頭を抱えたというのが真相なようだ。
だから慌てて実際に販売を行った商会から金を毟り取ってこちらへ賠償金を払ってきたんだとさ」
学院長がお茶を淹れながら答えた。
「あ~。
敵対的行為じゃ無かったから、お偉いさん達は今回の件を大事にして国民の感情を反ザルガ共和国方向にかき立てなく無いって訳ですか?」
それで学院長を使って個人的に俺に報奨金をくれてるのか。
そこまで頑張って金なんぞくれる必要性があるんかね?
学院長が苦笑した。
「王都の動物が魔獣化し、住民も病気になったかも知れないとなったら色々と騒ぎ立てそうな人間がそれなりにいるからな。
なんと言っても貴族の多くは冬の社交界に参加するために王都に集まっていたからな。
魔術師ならまだしも、それ以外の人間は悪魔汚染についてもあまり分かっていないから、騒ぐ人間がいたら面倒だ」
だから今回の件の話は一般には殆ど流れていないのか。
まあ、悪魔汚染なんて俺だって妖精の森に行ってなければほぼ全く縁が無いからなぁ。
魔術師に取ってすら、魔術学院でちらっと授業に出てきた程度の話題だ。
だが。
「そうは言っても、あれだけ大々的に王都を丸洗いして、灰とかを浄化していたら十分に話は広まっていませんか?」
浄化に関しては王都の外の遊水池を使ったからあまり住民には関係ないが、蒼流が丸洗いするのに邪魔にならないよう、あの日は昼過ぎから1刻ほど全ての住民が外出を禁じられたのだ。
何らかの公布はされているはず。
「おや?
聞いてなかったのか?
あれに関しては、木炭に牛痘の菌が付いているかもしれないと言う話をでっち上げた。
木炭を輸出した後に、産出地で牛痘が流行したとの知らせが入り、あれは人間にも移りかねないことから王家と魔術院が協力して一気にその影響を洗い流したということにしてある」
学院長が肩を竦めながら答えた。
牛痘??
王都に牛なんてそれ程居ないぞ?
第一、その感染したと言う木炭を燃やしているのに病気がうつるとも思いがたいが・・・。
まあ、よく分からんがその言い訳で王都の住民が納得したのだったら良いか。
受け取った袋の中をチラリと覗いてみたら、思っていた以上に多くの金貨が入っていた。
うひゃ~。
これ貰えるの??
俺的には王都に帰ってきて、ちょっと周りを見て回ってアンディを捕まえて『ヤバくね?』と言っただけなのに、こんなに貰えるなんて嬉しいねぇ。
「俺は大したことはしていないのに、こんなに貰っちゃって良いんですか?
結局丸洗いも浄化もシャルロと学院長が精霊に頼んでいたのに」
つうか、今回の事件で人間はあまり大して苦労してないよな。
情報収集に情報部とか商業ギルドの人間が頑張ったんだろうけど、実際の汚染物質の後始末に関しては精霊任せだったから。
「ある意味、まだ被害が出ていなかったからな。
私とシャルロへの支払をしてもかなり余るぐらいの大金をザルガ共和国が払ってきたので、大事になる前に対処できた言い出しっぺのお前にもお裾分けという事らしい。
だから今後も何か変な事に気が付いたら、魔術院なり軍の情報部なりに是非一報くれだとさ。
これはウォレン・ガズラートからのお土産の菓子だ」
クッキーを差し出しながら学院長が笑った。
へぇぇ。
クッキーをお土産に持ってくるなんて、気が利いているじゃ無いか。
もっと放置していたら病人や魔獣化したネズミに襲われたけが人とかが大量に出たかもしれないから、ザルガ共和国はそれなりに賠償金を払ったのかな?
被害が出ていないのに問題が発覚するなんて普通は無いもんな。
そう考えると、俺が報奨金を貰うのもある意味、理にかなっているのかも。
しっかし。
「本当に、ザルガ共和国は何も意図していなかったんですか?
パストン島へ海賊をよこしたこととかを考えると、あそこはそれなりにひねくれた嫌がらせをしそうな国ですが」
まあ、交易に直接的な競争相手になる新規航路の補給地を潰そうとするのと、隣国の王都に長期的に影響が出るような危険物をばらまくのでは大分違うけど。
だが、数年かけて王都を大々的に汚染できたら、アファル王国の人的資源とかがかなり損なわれただろう。
なんと言ったって、国軍だって王都の周辺で訓練とかをしているのだ。最終的には影響を受けただろう。
競争相手を潰そうとするのなら、そう言う手もありそうじゃないのか?
「流石にザルガ共和国本国までは手が届いていないらしいが、元ガルカ王国の代官の執務室とかはそれなりに盗聴用の魔道具を設置して情報収集が出来るようになっているらしい。
他に漏れてきている情報から考えても、まだあちらは魔道具を見つける探知機を発明していないようだし、盗聴されていることにも気が付いていないようだ。
本国がガルカ王国に送り込んだ代官を使い捨てにするつもりなんじゃ無い限り、『多分、大丈夫』だと情報部の人間は判断しているそうだぞ?。
しかも、あの後旧ガルカ王国の元テリウス神殿の直轄領を大々的に他の神殿の人間に調べさせているからな。
どうもテリウス神殿は悪魔汚染があった場所を立入禁止にすることで対処していたらしい」
マジか。
浄化せずに『立入禁止にすることで対処』って王家がそれをするのは分かるけど、神殿ってそう言う暗黒界とか悪魔とかとの対応をするのが重要な責務の一つじゃ無かったの???
テリウス神殿って本当に救いようが無いな。
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アファル王国も盗聴機を設置し始めていますw
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「ザルガ共和国から思っていた以上に多額の賠償金が届けられたのでな。
今回の件の発見者のウィルにもお裾分けの報奨金が出るそうだ」
ちょっと遊びに来いと学院長から連絡があって来てみたら、金貨の入った袋を差し出された。
報奨金?
なんじゃそりゃ。
「報奨金って・・・賞金首を捕まえたりとか犯罪組織を潰すのに手伝いと出るというのは知っていますが、今回のって結局どこかが犯罪行為を行おうとしていたんですか?」
今回の件は、単に自分やシェイラが街中に来た時に汚い空気を吸うのが嫌だから動いただけで、その後始末も思っていた以上に大規模かつ徹底的に魔術院と商業ギルドが手配してくれたんで俺としてはこちらこそお礼を言いたいぐらいなんだけど。
勿論、貰える金は受け取るけどさ。
「あれだけ大事になったのに驚きだが、今回は誰も意図的に悪事を働くつもりは無かったというのが情報部の結論だ。
アファル王国側の輸入した商会は、単に敵対的な隣国だったガルカ王国がもう少し理性的と思われるザルガ共和国に変わったから、早速あちらに乗り込んで新しい商機を見つけて物にしようと頑張っただけらしい。
そしてザルガ共和国側は単に取り潰したテリウス神殿の資産を現金化して少しでも属国化した元ガルカ王国の経済を立て直そうとしたら、とんでもない物を売ってしまって頭を抱えたというのが真相なようだ。
だから慌てて実際に販売を行った商会から金を毟り取ってこちらへ賠償金を払ってきたんだとさ」
学院長がお茶を淹れながら答えた。
「あ~。
敵対的行為じゃ無かったから、お偉いさん達は今回の件を大事にして国民の感情を反ザルガ共和国方向にかき立てなく無いって訳ですか?」
それで学院長を使って個人的に俺に報奨金をくれてるのか。
そこまで頑張って金なんぞくれる必要性があるんかね?
学院長が苦笑した。
「王都の動物が魔獣化し、住民も病気になったかも知れないとなったら色々と騒ぎ立てそうな人間がそれなりにいるからな。
なんと言っても貴族の多くは冬の社交界に参加するために王都に集まっていたからな。
魔術師ならまだしも、それ以外の人間は悪魔汚染についてもあまり分かっていないから、騒ぐ人間がいたら面倒だ」
だから今回の件の話は一般には殆ど流れていないのか。
まあ、悪魔汚染なんて俺だって妖精の森に行ってなければほぼ全く縁が無いからなぁ。
魔術師に取ってすら、魔術学院でちらっと授業に出てきた程度の話題だ。
だが。
「そうは言っても、あれだけ大々的に王都を丸洗いして、灰とかを浄化していたら十分に話は広まっていませんか?」
浄化に関しては王都の外の遊水池を使ったからあまり住民には関係ないが、蒼流が丸洗いするのに邪魔にならないよう、あの日は昼過ぎから1刻ほど全ての住民が外出を禁じられたのだ。
何らかの公布はされているはず。
「おや?
聞いてなかったのか?
あれに関しては、木炭に牛痘の菌が付いているかもしれないと言う話をでっち上げた。
木炭を輸出した後に、産出地で牛痘が流行したとの知らせが入り、あれは人間にも移りかねないことから王家と魔術院が協力して一気にその影響を洗い流したということにしてある」
学院長が肩を竦めながら答えた。
牛痘??
王都に牛なんてそれ程居ないぞ?
第一、その感染したと言う木炭を燃やしているのに病気がうつるとも思いがたいが・・・。
まあ、よく分からんがその言い訳で王都の住民が納得したのだったら良いか。
受け取った袋の中をチラリと覗いてみたら、思っていた以上に多くの金貨が入っていた。
うひゃ~。
これ貰えるの??
俺的には王都に帰ってきて、ちょっと周りを見て回ってアンディを捕まえて『ヤバくね?』と言っただけなのに、こんなに貰えるなんて嬉しいねぇ。
「俺は大したことはしていないのに、こんなに貰っちゃって良いんですか?
結局丸洗いも浄化もシャルロと学院長が精霊に頼んでいたのに」
つうか、今回の事件で人間はあまり大して苦労してないよな。
情報収集に情報部とか商業ギルドの人間が頑張ったんだろうけど、実際の汚染物質の後始末に関しては精霊任せだったから。
「ある意味、まだ被害が出ていなかったからな。
私とシャルロへの支払をしてもかなり余るぐらいの大金をザルガ共和国が払ってきたので、大事になる前に対処できた言い出しっぺのお前にもお裾分けという事らしい。
だから今後も何か変な事に気が付いたら、魔術院なり軍の情報部なりに是非一報くれだとさ。
これはウォレン・ガズラートからのお土産の菓子だ」
クッキーを差し出しながら学院長が笑った。
へぇぇ。
クッキーをお土産に持ってくるなんて、気が利いているじゃ無いか。
もっと放置していたら病人や魔獣化したネズミに襲われたけが人とかが大量に出たかもしれないから、ザルガ共和国はそれなりに賠償金を払ったのかな?
被害が出ていないのに問題が発覚するなんて普通は無いもんな。
そう考えると、俺が報奨金を貰うのもある意味、理にかなっているのかも。
しっかし。
「本当に、ザルガ共和国は何も意図していなかったんですか?
パストン島へ海賊をよこしたこととかを考えると、あそこはそれなりにひねくれた嫌がらせをしそうな国ですが」
まあ、交易に直接的な競争相手になる新規航路の補給地を潰そうとするのと、隣国の王都に長期的に影響が出るような危険物をばらまくのでは大分違うけど。
だが、数年かけて王都を大々的に汚染できたら、アファル王国の人的資源とかがかなり損なわれただろう。
なんと言ったって、国軍だって王都の周辺で訓練とかをしているのだ。最終的には影響を受けただろう。
競争相手を潰そうとするのなら、そう言う手もありそうじゃないのか?
「流石にザルガ共和国本国までは手が届いていないらしいが、元ガルカ王国の代官の執務室とかはそれなりに盗聴用の魔道具を設置して情報収集が出来るようになっているらしい。
他に漏れてきている情報から考えても、まだあちらは魔道具を見つける探知機を発明していないようだし、盗聴されていることにも気が付いていないようだ。
本国がガルカ王国に送り込んだ代官を使い捨てにするつもりなんじゃ無い限り、『多分、大丈夫』だと情報部の人間は判断しているそうだぞ?。
しかも、あの後旧ガルカ王国の元テリウス神殿の直轄領を大々的に他の神殿の人間に調べさせているからな。
どうもテリウス神殿は悪魔汚染があった場所を立入禁止にすることで対処していたらしい」
マジか。
浄化せずに『立入禁止にすることで対処』って王家がそれをするのは分かるけど、神殿ってそう言う暗黒界とか悪魔とかとの対応をするのが重要な責務の一つじゃ無かったの???
テリウス神殿って本当に救いようが無いな。
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アファル王国も盗聴機を設置し始めていますw
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