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卒業後
518 星暦555年 赤の月 9日 汚染(6)
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「じゃあ蒼流、お願い~」
王都の港から少し外れた湿地の脇にあるちょっとした小高い丘の上で、シャルロがお願いした。
横に立っていた蒼流が頷いたと思ったら、王都の上空に突然雨雲が発生し、土砂降りが始まる。
俺達は王都の外にいるので濡れなかったが、王都の周りだけに雨が降っているのが見えてある意味非常に不思議な光景だった。
これって角度が良かったら綺麗な虹が見えたんだろうなぁ・・・。
結局、王都の汚染された灰をどうするかという件で王宮、魔術院、商業ギルド及び神殿で話し合った結果、ここ5日ぐらいかけて王都中の煙突掃除が集中的に行われ、掃除に関わった人員は神殿が健康診断を行い、必要に応じて浄化の術を掛けた。
煙突以外に溜まっている汚染された灰を集める為に、蒼流に全てをざっと洗い流してもらい、下水の水を王都の傍の遊水池(目の前の湿地)に集め、煙突掃除で出てきた煤や灰と共に学院長が彼の火精霊に頼んで焼き尽くして貰う事になっている。
今回の事件があって知ったのだが、どうも暗黒界からの汚染というのは人間よりも精霊の方が除去に向いているらしい。
まあ、人間が勝手に選んだのでは無く、ちゃんと神様に選ばれた神殿長が神様に頼んだら更にあっさり対応出来るらしいのだが、『人間が対応出来る範囲のことを神に頼むのはあまり好ましくない』とのことで、王都近辺に居る精霊に加護を貰った人間を最大限活用することになったのだ。
これを聞いて、俺が学生の頃の禁呪で悪魔も召喚されていた件では神殿長が出てきてがっつりやっつけてたのに・・・と思ったのだが、どうやらあれもまだ『人間の対応』の一部らしい。
神様に頼むのでは無く、各神殿の神殿長に集めた灰の浄化を頼んだら1年ぐらい他に何もやる暇が無くなるぐらい大変だと聞いた。
う~ん、折角神様がやってくれればあっという間に綺麗になるのに、なんで頼まないんだろうね?
まあ、人間がコントロール出来ない上位の存在へ頼み事をするのに慣れるのは良くないか。
面白いことに、特級魔術師である学院長をこういうときにこき使うのは国の権利(?)らしくって当然のごとく手伝うよね?という感じで役割を割り振られたと聞いたが、シャルロは一個人(しかも貴族)なので頼みにくいのか、神殿と魔術院と王宮のお偉いさんがシャルロへ頼み込むためにウチに来て、パディン夫人が目を丸くしていた。
・・・どうせならウチじゃなくって、シャルロの実家に集まってくれれば良かったのに。
お偉いさん達にしてみれば『一個人に頼む』のはまだしも、『オレファーニ侯爵家に国が借りを作る』という形にはしたくなかったんだろうとアレクが言っていたが。
はっきり言って同居人の俺達には良い迷惑だ。
第一、そこまで気を遣わなくったってそれこそ学院長が頼めばシャルロだって気軽に蒼流に協力をお願いしてくれただろうに。
権力がある人達の面子とかパワーバランスとかって本当によく分からないし、つくづく面倒だ。
考えてみたら、シャルロの蒼流がいるお陰で俺は清早との関係が殆どオマケ扱いされてくれるので助かっているよなぁ。
うん、シャルロの新居祝いには何か良い物を贈ろう。
「あ、来たね」
シャルロが声をあげたので振り返ったら、何やら王都の端っこの辺からぶっとい水の柱が立ち上がり、まるで伝説の龍のようにうねりながら目の前の遊水池である湿地に流れ込んできた。
ちなみに、遊水池から水が逃げないように囲みを造るのは人間がやった。
というか、土系の幻獣の使い魔を持つ魔術師が総動員されて簡易堤防もどきを2日で作り上げたのだ。
お陰で俺も召集された。
まあ、それなりの日給を魔術院から貰ったので良いんだけど。
・・・考えたら、今回の日給分の金って魔術院が負担するのかね?
それとも商業ギルドが補填するのだろうか?
国のため・・・とは言っても王家が補填する謂われはない気もするが。
「ちなみに、今回の事件の黒幕って分かったんですか?」
王都の雨は既に止んでいたが、王都とその下水道を洗い流す水を集めるのにはまだ時間がかかるのか、遊水池に刻々と水が流れ込んでいくのを眺めながら、横に立っていた学院長に聞いてみた。
結局、商業ギルドであのお偉いさんの部屋にあった木炭も汚染されていたことが確認出来たことで、どの商会が配った物だったかがはっきりして、俺は帰って良いと追い出されたんだよね。
アンディは魔術院のお偉いさんの使い走りをするために残ったけど。
シャルロに話が来た際にも、『何が必要なのか』とか『どうやるか』とか『報酬は幾らか』の話はあっても、『黒幕は誰か』は話題に上がらなかったから、結局何も分からずじまい。
盗賊《シーフ》ギルドの長にでも聞きに行けば教えて貰えたかも知れないけど、結局下町の汚染除去の為に俺が一肌脱ぐ必要も無かったので聞きに行ってないんだよね。
「以前から何故ああもテリウス教の神殿の直轄地が多いのか不思議に思っていたのだが、どうやら悪魔に汚染された場所の管理があの国でのテリウス教の責務の一つだったらしい。
敗戦で神官が逃げたせいで、何故テリウス神殿の直轄地の森が立入禁止なのかを知る人間がいなくなり、飢えを凌ぐために近隣の街の人間ががっつり木を伐採して木炭を造って輸出したという話だ。
本当に近隣の人間や売り出しを決定した代官が何も知らなかったのかはこれから確認というところだな。
『危険物を騙されて買わされた』ということでザルガ共和国に抗議は入れているが、例えザルガ共和国が噛んでいたとしても認めるわけは無いから、真実は分かりようが無いだろうが」
へぇ~。
テリウス教って何をやっているのか不明だったし、あの亡命してきた魔術師の話ではガルカ国王にとって都合の悪い人間の始末をするような汚い仕事を請け負うことで権威と特権を前国王から認められたと聞いたが、まともな仕事もしていたのか。
とは言っても、その依怙贔屓していた王が負けたからって危険な土地の取り扱いに関して引き継ぎもせずに逃げるなんて、無責任にも程があるが。
「その木炭ってアファル王国にだけ、売り出されたんですか?
あっちの本国とか、現地で売り出されてないとしたらちょっと怪しいですよね?」
学院長が肩を竦めた。
「ザルガ共和国は南国だからなぁ。
木炭を使う理由があまりないだろう。料理用に使う木炭の量なんてたかが知れているから態々輸入するとは思えない。
他の国への販売に関しては・・・確かに売った先に偏りがあったら、怪しいな。
まあ、どちらにせよ情報部がこれから必死になって情報収集することになるだろうよ」
そう言えば、前回の開発の際に見つかった盗聴機を活用しようと情報部(か魔術院?)で開発をしていると聞いたが、もう完成したのかね?
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除去と浄化は精霊頼み!
お陰ですっかりウィル君の活躍がかすれちゃってきたw
王都の港から少し外れた湿地の脇にあるちょっとした小高い丘の上で、シャルロがお願いした。
横に立っていた蒼流が頷いたと思ったら、王都の上空に突然雨雲が発生し、土砂降りが始まる。
俺達は王都の外にいるので濡れなかったが、王都の周りだけに雨が降っているのが見えてある意味非常に不思議な光景だった。
これって角度が良かったら綺麗な虹が見えたんだろうなぁ・・・。
結局、王都の汚染された灰をどうするかという件で王宮、魔術院、商業ギルド及び神殿で話し合った結果、ここ5日ぐらいかけて王都中の煙突掃除が集中的に行われ、掃除に関わった人員は神殿が健康診断を行い、必要に応じて浄化の術を掛けた。
煙突以外に溜まっている汚染された灰を集める為に、蒼流に全てをざっと洗い流してもらい、下水の水を王都の傍の遊水池(目の前の湿地)に集め、煙突掃除で出てきた煤や灰と共に学院長が彼の火精霊に頼んで焼き尽くして貰う事になっている。
今回の事件があって知ったのだが、どうも暗黒界からの汚染というのは人間よりも精霊の方が除去に向いているらしい。
まあ、人間が勝手に選んだのでは無く、ちゃんと神様に選ばれた神殿長が神様に頼んだら更にあっさり対応出来るらしいのだが、『人間が対応出来る範囲のことを神に頼むのはあまり好ましくない』とのことで、王都近辺に居る精霊に加護を貰った人間を最大限活用することになったのだ。
これを聞いて、俺が学生の頃の禁呪で悪魔も召喚されていた件では神殿長が出てきてがっつりやっつけてたのに・・・と思ったのだが、どうやらあれもまだ『人間の対応』の一部らしい。
神様に頼むのでは無く、各神殿の神殿長に集めた灰の浄化を頼んだら1年ぐらい他に何もやる暇が無くなるぐらい大変だと聞いた。
う~ん、折角神様がやってくれればあっという間に綺麗になるのに、なんで頼まないんだろうね?
まあ、人間がコントロール出来ない上位の存在へ頼み事をするのに慣れるのは良くないか。
面白いことに、特級魔術師である学院長をこういうときにこき使うのは国の権利(?)らしくって当然のごとく手伝うよね?という感じで役割を割り振られたと聞いたが、シャルロは一個人(しかも貴族)なので頼みにくいのか、神殿と魔術院と王宮のお偉いさんがシャルロへ頼み込むためにウチに来て、パディン夫人が目を丸くしていた。
・・・どうせならウチじゃなくって、シャルロの実家に集まってくれれば良かったのに。
お偉いさん達にしてみれば『一個人に頼む』のはまだしも、『オレファーニ侯爵家に国が借りを作る』という形にはしたくなかったんだろうとアレクが言っていたが。
はっきり言って同居人の俺達には良い迷惑だ。
第一、そこまで気を遣わなくったってそれこそ学院長が頼めばシャルロだって気軽に蒼流に協力をお願いしてくれただろうに。
権力がある人達の面子とかパワーバランスとかって本当によく分からないし、つくづく面倒だ。
考えてみたら、シャルロの蒼流がいるお陰で俺は清早との関係が殆どオマケ扱いされてくれるので助かっているよなぁ。
うん、シャルロの新居祝いには何か良い物を贈ろう。
「あ、来たね」
シャルロが声をあげたので振り返ったら、何やら王都の端っこの辺からぶっとい水の柱が立ち上がり、まるで伝説の龍のようにうねりながら目の前の遊水池である湿地に流れ込んできた。
ちなみに、遊水池から水が逃げないように囲みを造るのは人間がやった。
というか、土系の幻獣の使い魔を持つ魔術師が総動員されて簡易堤防もどきを2日で作り上げたのだ。
お陰で俺も召集された。
まあ、それなりの日給を魔術院から貰ったので良いんだけど。
・・・考えたら、今回の日給分の金って魔術院が負担するのかね?
それとも商業ギルドが補填するのだろうか?
国のため・・・とは言っても王家が補填する謂われはない気もするが。
「ちなみに、今回の事件の黒幕って分かったんですか?」
王都の雨は既に止んでいたが、王都とその下水道を洗い流す水を集めるのにはまだ時間がかかるのか、遊水池に刻々と水が流れ込んでいくのを眺めながら、横に立っていた学院長に聞いてみた。
結局、商業ギルドであのお偉いさんの部屋にあった木炭も汚染されていたことが確認出来たことで、どの商会が配った物だったかがはっきりして、俺は帰って良いと追い出されたんだよね。
アンディは魔術院のお偉いさんの使い走りをするために残ったけど。
シャルロに話が来た際にも、『何が必要なのか』とか『どうやるか』とか『報酬は幾らか』の話はあっても、『黒幕は誰か』は話題に上がらなかったから、結局何も分からずじまい。
盗賊《シーフ》ギルドの長にでも聞きに行けば教えて貰えたかも知れないけど、結局下町の汚染除去の為に俺が一肌脱ぐ必要も無かったので聞きに行ってないんだよね。
「以前から何故ああもテリウス教の神殿の直轄地が多いのか不思議に思っていたのだが、どうやら悪魔に汚染された場所の管理があの国でのテリウス教の責務の一つだったらしい。
敗戦で神官が逃げたせいで、何故テリウス神殿の直轄地の森が立入禁止なのかを知る人間がいなくなり、飢えを凌ぐために近隣の街の人間ががっつり木を伐採して木炭を造って輸出したという話だ。
本当に近隣の人間や売り出しを決定した代官が何も知らなかったのかはこれから確認というところだな。
『危険物を騙されて買わされた』ということでザルガ共和国に抗議は入れているが、例えザルガ共和国が噛んでいたとしても認めるわけは無いから、真実は分かりようが無いだろうが」
へぇ~。
テリウス教って何をやっているのか不明だったし、あの亡命してきた魔術師の話ではガルカ国王にとって都合の悪い人間の始末をするような汚い仕事を請け負うことで権威と特権を前国王から認められたと聞いたが、まともな仕事もしていたのか。
とは言っても、その依怙贔屓していた王が負けたからって危険な土地の取り扱いに関して引き継ぎもせずに逃げるなんて、無責任にも程があるが。
「その木炭ってアファル王国にだけ、売り出されたんですか?
あっちの本国とか、現地で売り出されてないとしたらちょっと怪しいですよね?」
学院長が肩を竦めた。
「ザルガ共和国は南国だからなぁ。
木炭を使う理由があまりないだろう。料理用に使う木炭の量なんてたかが知れているから態々輸入するとは思えない。
他の国への販売に関しては・・・確かに売った先に偏りがあったら、怪しいな。
まあ、どちらにせよ情報部がこれから必死になって情報収集することになるだろうよ」
そう言えば、前回の開発の際に見つかった盗聴機を活用しようと情報部(か魔術院?)で開発をしていると聞いたが、もう完成したのかね?
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