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卒業後
517 星暦555年 藤の月 30日 汚染(5)
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「バズール師。
至急に相談したい件があるとは、何か起きましたか?」
商業ギルドに入ったバズール師が受付の人に何やら話したら、直ぐに2階の角部屋にある偉そうな人のところへと案内された。
流石魔術院のお偉いさん。
アレクと来た時よりも対応が恭しいぜ。
「ダヴァール殿。
まずこれを見て欲しい」
バズール師に身振りされて、アンディが魔獣化したドブネズミと普通のドブネズミの入った籠を机の上に並べて置いた。
一応籠の下にタオルを敷いてるけど、あれって後で机の上を念入りに清掃した方が良いと言っておくべきだろうなぁ・・・。
幸い、魔獣化したネズミの毒は周りを汚染するほどの力は無いけど、うっかり机の上に食べ物とか置いたら不味いだろう。
まあ、どちらにせよこのお偉いさんだってドブネズミを置いた机なんぞ俺達が帰ったら直ぐに力一杯綺麗に清掃させるか。
「最近になって燃やされている燃料が原因で、王都の空気が汚染され、その灰を摂取した小さな生き物から魔獣化しているようだ。
まさか・・・と思っていたのだが、この様に明らかに様子に異常が見られるネズミが既に王都の下水道で見つかっているので、至急に対応する必要がある。
今年になってから使うようになった新しい仕入先からの燃料について、分かっていることがあったら教えて欲しい。
外から煙突を見た限りでは、どうやらこのギルドでも使っているようだが」
バズール師が説明を加えた。
そう。
なんと、この商業ギルドから出てくる煙も汚染されていたのだ。
つまり、少なくとも商業ギルドは『悪質だけど安い』新しい燃料を意図的に売っている訳では無いのだろう。
赤い目を光らせてひっきりなしに唸りながら涎を溢し、爪先から黒い液体を垂らしながら氏に襲いかかろうとする籠で暴れているネズミをダヴァール氏は腰が引けた様子で見つめた。
「魔獣化・・・ですか?」
「うむ。
悪魔や魔獣が住む暗黒界という別の世界の生き物がこちらに来て、こちらの環境を汚した際に汚染された物を食べたり吸ったりすると稀に起きる現象として魔術師や神殿が対処してきた現象なのだが・・・どうも、今回は汚染された木材が何故か燃料用として王都に来ているようだな」
バズール師がため息をつきながら答えた。
このタイミングを鑑みると、考えられるのは戦争の影響だよな。
どっかのバカが戦争中に魔獣を召喚して何か問題を起こしたか、じゃなきゃ昔からあった問題のある土地の木材を金に困って誰かが売り出すことにしたのか。
最悪の場合、ザルガ共和国が意図的に流していると言う可能性だってゼロでは無い。
もしもそうだとしたら、ガルカ王国並みに危険な隣国と言うことで準戦争状態としてアファル王国の警戒レベルががっつり上げられることになりそうだ。
頭が痛い・・・。
と言うか、戦争をふっかけてくるなら戦えば終わりだが、表立って敵対関係にある訳でも無いのにこんな魔獣化を引き起こすような長期的な嫌がらせをする国が隣国だったら怖すぎるぞ。
ダヴァール氏が立ち上がって扉に行き、外の者に何か指示を出して戻ってきた。
「年初にちょっと運河沿いにある木材置き場で大火事が起きて、王都の燃料となる薪や木炭が大量に失われたのですよ。
お陰で燃料費が高騰して・・・最近になって、何処かの中堅商会が元ガルカ王国のテリウス神殿の直轄領だった場所から新しく輸出されるようになった木炭を試しに使って貰いたいと大幅に割引して配ったはずです。
その商会の者を呼びにやらせましたので、少々お待ちください」
バズール師が頷いた。
「うむ。
待っている間にまずその新しい木炭とやらを見せて貰えないか?」
「あ、ここで燃えているのもそうですよ」
ダヴァール氏が立ち上がる前に、部屋の暖炉で燃えている木炭を俺が指さした。
木炭その物は元からの色が黒なので良く注意して視ないと汚染が分からないが、暖炉の炎は明らかに変な感じに赤黒いし、煙も妙に濃い。というか、木炭っていうのは本来ならこんなに煙は出ないだろう。
・・・もしかして普通の奴らにはこの煙って視えてないのか?
間違いなく、これも汚染された燃料の一部だ。
「・・・これが、ですか?
私もずっとこれを使っていたらこんな風になってしまった可能性がある、と??」
ギョッとしたようにダヴァール氏が突然暖炉が悪魔に変身したかのように身を引いた。
「空気汚染からの魔獣化にはかなり時間が掛るから、人体に異常が出るには何年もかかったと思う。
だが、今冬の煙突掃除に関しては神殿と相談した方が良いでしょうな。
このドブネズミたちが魔獣化したのは汚染された灰の混じった水を体の大きさから考えれば大量に飲んでいたことが原因だろうから、煙突掃除をするような小柄な男性や子供が大量に汚染された灰を掃除の際に吸ったら弊害が起きてもおかしくは無い」
バルール師が答えた。
普段の煙突掃除に商業ギルドが関与するかは不明だが、今回は問題の大元となる汚染源をばらまくのに商業ギルドの一員が絡んでいるようだから、後始末にも責任を問われることになるだろう。
しっかし、煙突掃除ねぇ・・・。
ガキの頃は偶に煙突掃除要員としてターゲットの屋敷の下調べに行ったこともあったが、灰って危険なんだなぁ。
まあ、どちらにせよ魔術学院に入る頃から既に煙突掃除をするには少し体が大きくなりすぎていたけどさ。
でもまあ、過去の我が身の話だったかもしれないのだ。神殿が下町の下水までは浄化に手が回らないということになったら、清早にちょっと相談しようかな?
------------------------------------------------------------------
やってないことの証明っていうのはほぼ不可能ですから、アファル王国では疑心暗鬼が酷いことになるでしょうね~。
至急に相談したい件があるとは、何か起きましたか?」
商業ギルドに入ったバズール師が受付の人に何やら話したら、直ぐに2階の角部屋にある偉そうな人のところへと案内された。
流石魔術院のお偉いさん。
アレクと来た時よりも対応が恭しいぜ。
「ダヴァール殿。
まずこれを見て欲しい」
バズール師に身振りされて、アンディが魔獣化したドブネズミと普通のドブネズミの入った籠を机の上に並べて置いた。
一応籠の下にタオルを敷いてるけど、あれって後で机の上を念入りに清掃した方が良いと言っておくべきだろうなぁ・・・。
幸い、魔獣化したネズミの毒は周りを汚染するほどの力は無いけど、うっかり机の上に食べ物とか置いたら不味いだろう。
まあ、どちらにせよこのお偉いさんだってドブネズミを置いた机なんぞ俺達が帰ったら直ぐに力一杯綺麗に清掃させるか。
「最近になって燃やされている燃料が原因で、王都の空気が汚染され、その灰を摂取した小さな生き物から魔獣化しているようだ。
まさか・・・と思っていたのだが、この様に明らかに様子に異常が見られるネズミが既に王都の下水道で見つかっているので、至急に対応する必要がある。
今年になってから使うようになった新しい仕入先からの燃料について、分かっていることがあったら教えて欲しい。
外から煙突を見た限りでは、どうやらこのギルドでも使っているようだが」
バズール師が説明を加えた。
そう。
なんと、この商業ギルドから出てくる煙も汚染されていたのだ。
つまり、少なくとも商業ギルドは『悪質だけど安い』新しい燃料を意図的に売っている訳では無いのだろう。
赤い目を光らせてひっきりなしに唸りながら涎を溢し、爪先から黒い液体を垂らしながら氏に襲いかかろうとする籠で暴れているネズミをダヴァール氏は腰が引けた様子で見つめた。
「魔獣化・・・ですか?」
「うむ。
悪魔や魔獣が住む暗黒界という別の世界の生き物がこちらに来て、こちらの環境を汚した際に汚染された物を食べたり吸ったりすると稀に起きる現象として魔術師や神殿が対処してきた現象なのだが・・・どうも、今回は汚染された木材が何故か燃料用として王都に来ているようだな」
バズール師がため息をつきながら答えた。
このタイミングを鑑みると、考えられるのは戦争の影響だよな。
どっかのバカが戦争中に魔獣を召喚して何か問題を起こしたか、じゃなきゃ昔からあった問題のある土地の木材を金に困って誰かが売り出すことにしたのか。
最悪の場合、ザルガ共和国が意図的に流していると言う可能性だってゼロでは無い。
もしもそうだとしたら、ガルカ王国並みに危険な隣国と言うことで準戦争状態としてアファル王国の警戒レベルががっつり上げられることになりそうだ。
頭が痛い・・・。
と言うか、戦争をふっかけてくるなら戦えば終わりだが、表立って敵対関係にある訳でも無いのにこんな魔獣化を引き起こすような長期的な嫌がらせをする国が隣国だったら怖すぎるぞ。
ダヴァール氏が立ち上がって扉に行き、外の者に何か指示を出して戻ってきた。
「年初にちょっと運河沿いにある木材置き場で大火事が起きて、王都の燃料となる薪や木炭が大量に失われたのですよ。
お陰で燃料費が高騰して・・・最近になって、何処かの中堅商会が元ガルカ王国のテリウス神殿の直轄領だった場所から新しく輸出されるようになった木炭を試しに使って貰いたいと大幅に割引して配ったはずです。
その商会の者を呼びにやらせましたので、少々お待ちください」
バズール師が頷いた。
「うむ。
待っている間にまずその新しい木炭とやらを見せて貰えないか?」
「あ、ここで燃えているのもそうですよ」
ダヴァール氏が立ち上がる前に、部屋の暖炉で燃えている木炭を俺が指さした。
木炭その物は元からの色が黒なので良く注意して視ないと汚染が分からないが、暖炉の炎は明らかに変な感じに赤黒いし、煙も妙に濃い。というか、木炭っていうのは本来ならこんなに煙は出ないだろう。
・・・もしかして普通の奴らにはこの煙って視えてないのか?
間違いなく、これも汚染された燃料の一部だ。
「・・・これが、ですか?
私もずっとこれを使っていたらこんな風になってしまった可能性がある、と??」
ギョッとしたようにダヴァール氏が突然暖炉が悪魔に変身したかのように身を引いた。
「空気汚染からの魔獣化にはかなり時間が掛るから、人体に異常が出るには何年もかかったと思う。
だが、今冬の煙突掃除に関しては神殿と相談した方が良いでしょうな。
このドブネズミたちが魔獣化したのは汚染された灰の混じった水を体の大きさから考えれば大量に飲んでいたことが原因だろうから、煙突掃除をするような小柄な男性や子供が大量に汚染された灰を掃除の際に吸ったら弊害が起きてもおかしくは無い」
バルール師が答えた。
普段の煙突掃除に商業ギルドが関与するかは不明だが、今回は問題の大元となる汚染源をばらまくのに商業ギルドの一員が絡んでいるようだから、後始末にも責任を問われることになるだろう。
しっかし、煙突掃除ねぇ・・・。
ガキの頃は偶に煙突掃除要員としてターゲットの屋敷の下調べに行ったこともあったが、灰って危険なんだなぁ。
まあ、どちらにせよ魔術学院に入る頃から既に煙突掃除をするには少し体が大きくなりすぎていたけどさ。
でもまあ、過去の我が身の話だったかもしれないのだ。神殿が下町の下水までは浄化に手が回らないということになったら、清早にちょっと相談しようかな?
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やってないことの証明っていうのはほぼ不可能ですから、アファル王国では疑心暗鬼が酷いことになるでしょうね~。
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