シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
153 / 1,038
卒業後

152 星暦552年 青の月 3日 飛ぶ?

しおりを挟む
「空を飛びたいわ!」
ケレナが力強く宣言した。

紫の月の騒動の後、休養を兼ねてラズバリー伯爵令嬢は幼馴染のシャルロに会いに俺たちの家へ頻繁に遊びに来るようになった。

パディン夫人のケーキとお茶を楽しみ、妖精王やユニコーンや土竜ジャイアント・モールと戯れ。

悪魔に憑かれた後遺症(?)も無く人生を謳歌している。
色々な噂が流れていた為、社交界にはあまり顔を出さなくなったようだが本人はあまり気にしていないようだ。

シャルロを振り回している姿は中々見ていて微笑ましい。
今まで、天然君のシャルロは人を振り回すことはあってもあまり振り回される姿は見たこと無かったからなぁ。
とは言っても、前回の事件でシャルロも少し少年から脱皮し始めたようで、多少寂しい気もするが。

そんなケレナが、お茶を楽しんでいる俺たちに今日は要求を突き付けてきたのだ。

「空?ペガサスでも召喚して欲しいの?」
シャルロが首をかしげながら尋ねる。

「あら、そんなことも出来るの?是非今度召喚して頂戴。
だけど、それよりも魔具でいつでも飛べる道具を作って欲しいのよ。あなた達、色んな魔具を新しく開発しているんでしょ?
空飛ぶ道具も開発して!」

堂々と請求するケレナ。
おい。
あんた、その開発費用を払ってくれるんかい。

まあ本当にそんな道具が作れたら、暇な貴族や金持ち商人層へそれなりに売れるだろうが。

それに考えてみたら、ラズベリー伯爵家なら1~2月かそこらの俺たちの研究費ぐらいお小遣いでだせるかもな。貴族のドレスとかって目が飛び出るぐらい高いらしいから、服を1着作るのを止めれば費用を捻り出せるのかも。

「学院でウィルが精霊に頼み事した時は、空飛んでいたよね」
シャルロが思いだして呟いた。

「だが、あの振り回され方は、怖かっただろう。特殊な人間以外は好んでああいう空の飛び方をしたいとも思えないな」
苦笑しながらアレクが反論する。

「まあ、空に上がって滞空するだけならもうちょっと大人しく出来るだろうが・・・精霊への頼みごとって言うのは魔具で出来る話じゃあないだろ」
そして駄目だしは、俺。

ケレナが空に飛びたいと言うだけなら、ここで俺たちが精霊に頼みごとをするという形で簡単な何かを作れるだろう。
魔具で・・・となると厳しいな。

精霊への強制力が無いタイプの道具で空を飛んだ場合、下手したら空高くいる時に突然精霊が気まぐれを起こして離れたりしたら墜落死だ。かといって、強制力のあるような魔具など作りたくない。

第一、精霊を強制してしばりつけるような術は禁忌だ。
下手に強制力のある魔具が暴走したりした場合、自然のバランスが崩れたりしかねない。人間の命や悪魔を使うような禁忌ほどの個人的野心に対する使いやすさは無いものの、精霊を強制するような術や魔具が失敗した時の被害はスケールが大きく、他の禁忌と同じく街を一つ滅ぼしかねないらしい。

「嵐が来ると、家や馬小屋の屋根が飛んだりするじゃない。あんな感じに人も飛べない?」
ケレナが提案した。

うう~む。
一時的に風を起こす魔具を作ることは出来るが・・・。
「それって、ケレナが空を飛ぶたびに周りの家や植木鉢に暴風で被害を及ぼすことになるんだよ?」
シャルロが指摘する。

「でも、鷹とかが空を飛んでいる時、優雅に空気の中を滑っているようじゃない。
あれってそんなに風の力が必要とは思えないけど」
ケレナが主張する。

「成程、風に乗るのか。何らかの形で上に上がる手段があれば、後は気流に乗って風の中を滑ることは出来るかもしれないな。だが、そうなると移動はかなりの部分が風任せになるぞ?」
アレクがお茶を手に取りながら尋ねた。

「別に、空を飛んで移動することが目的じゃないもの。移動するんだったら転移門を使えば良いだけの話でしょ?私は飛びたいのよ!だから風任せでも構わないわ」

まあねぇ。
気持ちは分かる。俺も空を飛びたいし。
他の2人も『空を飛ぶ』と言うことに心を動かされているようだ。

幸い、一昨日ちょっとした開発(ペットの迷子防止首輪)も終わったところで、少し暇がある。
研究してみるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...