シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
136 / 1,038
卒業後

135 星暦552年 紫の月 3日 呼び出し(3)

しおりを挟む
「何が起きたかを知るには青に聞くのが一番なのですが・・・。悪魔憑きに尋問に答えさせるような術をご存知ですか?」

空になったグラスを見てため息をついた長は、流石にワインは諦めたのかお茶を淹れ始めた。
あんなところにポットがあるなんて、初めて知ったよ。

「ウィル、何が視えるか言ってみろ」

ふむ。
目を閉じて青の気をじっくりと観察する。
「異質な何かが体全体を汚染している感じですね。一番濃いのは腹部かな?
ただし、もっと濃厚な何かの残滓が頭の辺にあるようです。
青本来の気は・・・無いと言うよりは封じられている感じですね」

これだったら汚染源の悪魔を追い出したら何とかなりそうな気がするが・・・悪魔憑きって不可逆なんじゃなかったのか?

「ふむ。完全な悪魔憑きにしては汚染度が低いようだ。最初に青殿の意識を奪った悪魔の下級眷族か何かに憑かれているのかもしれない。幸運だったな。ウィルが言ったように、まだ本人の気が残っている」

「残っていなかったら・・・手遅れだったのですか?」
長がお茶を注ぎながら尋ねる。

「最初に意識を奪った悪魔が憑いていたらここにたどり着く前に気を食いつくされていただろう。いくら質がいいとは言え、この拘束結界もこの大悪魔相手だったらほんの数秒程度しか抑えにならなかっただろうしな。
盗賊シーフギルドの長が対悪魔拘束結界を持っていると思っていなかったのか、大物を使って確実に排除しなければいけないほどの脅威であると思われていなかったのか。
どちらにせよ、幸運だったな。皆にとって」

ため息をつきながら長がお茶を俺にも注いでくれた。
とうとう俺も一人前扱いかぁ。
こんな場合だけど、ちょっと嬉しいかも。

「では悪魔を払えるとして。
青の記憶はどんな感じになりますか?ショックで何も覚えていない可能性があるならば、悪魔を払う前に尋問すべきかもしれません」

悪魔って尋問に答えるもんなの?
まあ、別に秘密を守らなければいけないという義理も無いかもしれないが。
イマイチ人間相手のように苦痛や脅しが効くとも思えない。

「先に尋問をした方がいいかもしれないな。払った後に何も覚えていなかったと分かっても手の打ちようが無い」

学院長が周りを見回した。
「バスタブか何か、水を大量に流してもいいところが欲しいのだが。流石にここを水浸しにはしない方がいいだろう?」

水・・・ですか。
何か嫌な予感がしてきたんだけど。
清早に協力させるつもりなのかな、この人。

「ああ、こちらに休憩用の浴室があります」
机の後ろの扉を開いたら、そこに浴室があった。
しかもそこそこ大きい。

おいおい。
長ったらすっかりここで生活しているんじゃん。
度を過ぎたワーカホリックは駄目だよ。ある程度は仕事と遊びをバランスさせなきゃ。

拘束アレスト
学院長が拘束術を重ね掛けし、ルシャーナ神の聖刻鎖で縛った青を浴室へ引きずっていく。

「手伝いますよ」
幾ら意識が逝っちゃっているとしても、足を引きずってあちらこちらにぶつかりながら引きずられるのはあまり良くないだろう。
悪魔を払えるらしいから、復活後に痣だらけと言うのも哀しい。

青の体をバスタブに横たえ、学院長が俺の方に向いた。
「お前の精霊に、聖水をかけるよう頼めるか?」

やっぱり・・・。
『清早?頼んでも大丈夫か?嫌だったらこのオッサンなら何とかなると思うから断っていいぞ。』

頭の中で尋ねた俺に、清早があっさり姿を現して答えた。
「大丈夫。こんな小物、怖くも痛くも無い。ウィルの周りが汚染されるのも困るからね」

清早の手から水が飛び出し、青の体にかかる。
そっか、精霊の造りだす水ってもしかして聖水だった訳?
自然の気が沢山籠っていそうではあるが。

神に祝福された水・・・という訳ではないかもしれないが、水精霊が生み出す水も十分下級悪魔には脅威なのか、青の体が暴れはじめる。

「これ、暴れるな。幾つか質問を答えれば、解放してやろう」
あれ、解放するんだ?
・・・もしかして、命から解放するって言うやつ?

「俺様が誰だか分かっているのか!大悪魔ガバナルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!」
知らないって。

いかにも小物な台詞に突っ込みを入れそうになってしまったが、何とか自分を抑えた。

「ほう、大悪魔ガバルナ殿か。かの方は色々忙しいと聞いたが、最近は人間界にちょっかいを出すほど暇になってきたのか?」
俺に比べ、学院長はずっと大人だった。

「遊びさ!ガバルナ様ぐらい偉大な悪魔ともなれば、遊びも大掛かりになるのさ」

「なるほどな。今度の遊びはどんなものなのだ?」

「そんなもの、何で俺が教えるんだ!」
がなり立てた青の体を占領している悪魔を見て、学院長がこちらに頷く。

「おりゃ」
清早が更に水を青にかけた。

「イテイテイテイテ!止めろ、俺が薄れちまうじゃないか!」

「じゃあ、答えるのだな。ガバルナ殿ぐらいの悪魔ともなれば我々が何をしようと多少の障害など、ゲームの面白みが増えたぐらいのことだろう?」

憶えていろよ~などというチンピラ丸出しな悪態をつきながら悪魔が続けた。
下級悪魔って思っていたよりも人間臭いんだな。
もしかして、街中のチンピラって下級悪魔が遊びに来ている仮の姿のも混じっていたり??

「若いのが、この国を乗っ取るのに手伝ってくれって交渉してきたんだ。
ガバルナ様の術の出力用に人間の糧を出すから、手伝ってくれって。糧に出された人間の一人に面白いのがいたから、そいつが尽きるまでだったら手伝ってやろうと言うことになったんだよ!」

面白い、ね。
悪魔にとっての面白いってどういうポイントが重視されるんだろうか。

学院長が大きなため息をついた。
「成程。ガバルナ殿にとっては面白い時間つぶしかも知れんが、人間にとっては困った重大事項じゃな。だが・・・お前さんのような下級悪魔じゃあ人間の若いのなんて皆同じに見えるんだろうなぁ。
どうしたものか」

「何を言うか!俺はガバルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!人間の見わけぐらいつく!」

「だが、名前が分からねば、顔の見わけがつけてもしょうがないのだよ」

「ザカリー・バアグナルだよ!この国の偉い奴の息子らしいけど、親父が死ぬのを待っていたら自分がジジイになるからガバルナ様に縋ったんだとさ」

バアグナルね。
宰相の名字がそんな感じじゃなかったっけ・・・?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...