136 / 1,118
卒業後
135 星暦552年 紫の月 3日 呼び出し(3)
しおりを挟む
「何が起きたかを知るには青に聞くのが一番なのですが・・・。悪魔憑きに尋問に答えさせるような術をご存知ですか?」
空になったグラスを見てため息をついた長は、流石にワインは諦めたのかお茶を淹れ始めた。
あんなところにポットがあるなんて、初めて知ったよ。
「ウィル、何が視えるか言ってみろ」
ふむ。
目を閉じて青の気をじっくりと観察する。
「異質な何かが体全体を汚染している感じですね。一番濃いのは腹部かな?
ただし、もっと濃厚な何かの残滓が頭の辺にあるようです。
青本来の気は・・・無いと言うよりは封じられている感じですね」
これだったら汚染源の悪魔を追い出したら何とかなりそうな気がするが・・・悪魔憑きって不可逆なんじゃなかったのか?
「ふむ。完全な悪魔憑きにしては汚染度が低いようだ。最初に青殿の意識を奪った悪魔の下級眷族か何かに憑かれているのかもしれない。幸運だったな。ウィルが言ったように、まだ本人の気が残っている」
「残っていなかったら・・・手遅れだったのですか?」
長がお茶を注ぎながら尋ねる。
「最初に意識を奪った悪魔が憑いていたらここにたどり着く前に気を食いつくされていただろう。いくら質がいいとは言え、この拘束結界もこの大悪魔相手だったらほんの数秒程度しか抑えにならなかっただろうしな。
盗賊ギルドの長が対悪魔拘束結界を持っていると思っていなかったのか、大物を使って確実に排除しなければいけないほどの脅威であると思われていなかったのか。
どちらにせよ、幸運だったな。皆にとって」
ため息をつきながら長がお茶を俺にも注いでくれた。
とうとう俺も一人前扱いかぁ。
こんな場合だけど、ちょっと嬉しいかも。
「では悪魔を払えるとして。
青の記憶はどんな感じになりますか?ショックで何も覚えていない可能性があるならば、悪魔を払う前に尋問すべきかもしれません」
悪魔って尋問に答えるもんなの?
まあ、別に秘密を守らなければいけないという義理も無いかもしれないが。
イマイチ人間相手のように苦痛や脅しが効くとも思えない。
「先に尋問をした方がいいかもしれないな。払った後に何も覚えていなかったと分かっても手の打ちようが無い」
学院長が周りを見回した。
「バスタブか何か、水を大量に流してもいいところが欲しいのだが。流石にここを水浸しにはしない方がいいだろう?」
水・・・ですか。
何か嫌な予感がしてきたんだけど。
清早に協力させるつもりなのかな、この人。
「ああ、こちらに休憩用の浴室があります」
机の後ろの扉を開いたら、そこに浴室があった。
しかもそこそこ大きい。
おいおい。
長ったらすっかりここで生活しているんじゃん。
度を過ぎたワーカホリックは駄目だよ。ある程度は仕事と遊びをバランスさせなきゃ。
「拘束」
学院長が拘束術を重ね掛けし、ルシャーナ神の聖刻鎖で縛った青を浴室へ引きずっていく。
「手伝いますよ」
幾ら意識が逝っちゃっているとしても、足を引きずってあちらこちらにぶつかりながら引きずられるのはあまり良くないだろう。
悪魔を払えるらしいから、復活後に痣だらけと言うのも哀しい。
青の体をバスタブに横たえ、学院長が俺の方に向いた。
「お前の精霊に、聖水をかけるよう頼めるか?」
やっぱり・・・。
『清早?頼んでも大丈夫か?嫌だったらこのオッサンなら何とかなると思うから断っていいぞ。』
頭の中で尋ねた俺に、清早があっさり姿を現して答えた。
「大丈夫。こんな小物、怖くも痛くも無い。ウィルの周りが汚染されるのも困るからね」
清早の手から水が飛び出し、青の体にかかる。
そっか、精霊の造りだす水ってもしかして聖水だった訳?
自然の気が沢山籠っていそうではあるが。
神に祝福された水・・・という訳ではないかもしれないが、水精霊が生み出す水も十分下級悪魔には脅威なのか、青の体が暴れはじめる。
「これ、暴れるな。幾つか質問を答えれば、解放してやろう」
あれ、解放するんだ?
・・・もしかして、命から解放するって言うやつ?
「俺様が誰だか分かっているのか!大悪魔ガバナルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!」
知らないって。
いかにも小物な台詞に突っ込みを入れそうになってしまったが、何とか自分を抑えた。
「ほう、大悪魔ガバルナ殿か。かの方は色々忙しいと聞いたが、最近は人間界にちょっかいを出すほど暇になってきたのか?」
俺に比べ、学院長はずっと大人だった。
「遊びさ!ガバルナ様ぐらい偉大な悪魔ともなれば、遊びも大掛かりになるのさ」
「なるほどな。今度の遊びはどんなものなのだ?」
「そんなもの、何で俺が教えるんだ!」
がなり立てた青の体を占領している悪魔を見て、学院長がこちらに頷く。
「おりゃ」
清早が更に水を青にかけた。
「イテイテイテイテ!止めろ、俺が薄れちまうじゃないか!」
「じゃあ、答えるのだな。ガバルナ殿ぐらいの悪魔ともなれば我々が何をしようと多少の障害など、ゲームの面白みが増えたぐらいのことだろう?」
憶えていろよ~などというチンピラ丸出しな悪態をつきながら悪魔が続けた。
下級悪魔って思っていたよりも人間臭いんだな。
もしかして、街中のチンピラって下級悪魔が遊びに来ている仮の姿のも混じっていたり??
「若いのが、この国を乗っ取るのに手伝ってくれって交渉してきたんだ。
ガバルナ様の術の出力用に人間の糧を出すから、手伝ってくれって。糧に出された人間の一人に面白いのがいたから、そいつが尽きるまでだったら手伝ってやろうと言うことになったんだよ!」
面白い、ね。
悪魔にとっての面白いってどういうポイントが重視されるんだろうか。
学院長が大きなため息をついた。
「成程。ガバルナ殿にとっては面白い時間つぶしかも知れんが、人間にとっては困った重大事項じゃな。だが・・・お前さんのような下級悪魔じゃあ人間の若いのなんて皆同じに見えるんだろうなぁ。
どうしたものか」
「何を言うか!俺はガバルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!人間の見わけぐらいつく!」
「だが、名前が分からねば、顔の見わけがつけてもしょうがないのだよ」
「ザカリー・バアグナルだよ!この国の偉い奴の息子らしいけど、親父が死ぬのを待っていたら自分がジジイになるからガバルナ様に縋ったんだとさ」
バアグナルね。
宰相の名字がそんな感じじゃなかったっけ・・・?
空になったグラスを見てため息をついた長は、流石にワインは諦めたのかお茶を淹れ始めた。
あんなところにポットがあるなんて、初めて知ったよ。
「ウィル、何が視えるか言ってみろ」
ふむ。
目を閉じて青の気をじっくりと観察する。
「異質な何かが体全体を汚染している感じですね。一番濃いのは腹部かな?
ただし、もっと濃厚な何かの残滓が頭の辺にあるようです。
青本来の気は・・・無いと言うよりは封じられている感じですね」
これだったら汚染源の悪魔を追い出したら何とかなりそうな気がするが・・・悪魔憑きって不可逆なんじゃなかったのか?
「ふむ。完全な悪魔憑きにしては汚染度が低いようだ。最初に青殿の意識を奪った悪魔の下級眷族か何かに憑かれているのかもしれない。幸運だったな。ウィルが言ったように、まだ本人の気が残っている」
「残っていなかったら・・・手遅れだったのですか?」
長がお茶を注ぎながら尋ねる。
「最初に意識を奪った悪魔が憑いていたらここにたどり着く前に気を食いつくされていただろう。いくら質がいいとは言え、この拘束結界もこの大悪魔相手だったらほんの数秒程度しか抑えにならなかっただろうしな。
盗賊ギルドの長が対悪魔拘束結界を持っていると思っていなかったのか、大物を使って確実に排除しなければいけないほどの脅威であると思われていなかったのか。
どちらにせよ、幸運だったな。皆にとって」
ため息をつきながら長がお茶を俺にも注いでくれた。
とうとう俺も一人前扱いかぁ。
こんな場合だけど、ちょっと嬉しいかも。
「では悪魔を払えるとして。
青の記憶はどんな感じになりますか?ショックで何も覚えていない可能性があるならば、悪魔を払う前に尋問すべきかもしれません」
悪魔って尋問に答えるもんなの?
まあ、別に秘密を守らなければいけないという義理も無いかもしれないが。
イマイチ人間相手のように苦痛や脅しが効くとも思えない。
「先に尋問をした方がいいかもしれないな。払った後に何も覚えていなかったと分かっても手の打ちようが無い」
学院長が周りを見回した。
「バスタブか何か、水を大量に流してもいいところが欲しいのだが。流石にここを水浸しにはしない方がいいだろう?」
水・・・ですか。
何か嫌な予感がしてきたんだけど。
清早に協力させるつもりなのかな、この人。
「ああ、こちらに休憩用の浴室があります」
机の後ろの扉を開いたら、そこに浴室があった。
しかもそこそこ大きい。
おいおい。
長ったらすっかりここで生活しているんじゃん。
度を過ぎたワーカホリックは駄目だよ。ある程度は仕事と遊びをバランスさせなきゃ。
「拘束」
学院長が拘束術を重ね掛けし、ルシャーナ神の聖刻鎖で縛った青を浴室へ引きずっていく。
「手伝いますよ」
幾ら意識が逝っちゃっているとしても、足を引きずってあちらこちらにぶつかりながら引きずられるのはあまり良くないだろう。
悪魔を払えるらしいから、復活後に痣だらけと言うのも哀しい。
青の体をバスタブに横たえ、学院長が俺の方に向いた。
「お前の精霊に、聖水をかけるよう頼めるか?」
やっぱり・・・。
『清早?頼んでも大丈夫か?嫌だったらこのオッサンなら何とかなると思うから断っていいぞ。』
頭の中で尋ねた俺に、清早があっさり姿を現して答えた。
「大丈夫。こんな小物、怖くも痛くも無い。ウィルの周りが汚染されるのも困るからね」
清早の手から水が飛び出し、青の体にかかる。
そっか、精霊の造りだす水ってもしかして聖水だった訳?
自然の気が沢山籠っていそうではあるが。
神に祝福された水・・・という訳ではないかもしれないが、水精霊が生み出す水も十分下級悪魔には脅威なのか、青の体が暴れはじめる。
「これ、暴れるな。幾つか質問を答えれば、解放してやろう」
あれ、解放するんだ?
・・・もしかして、命から解放するって言うやつ?
「俺様が誰だか分かっているのか!大悪魔ガバナルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!」
知らないって。
いかにも小物な台詞に突っ込みを入れそうになってしまったが、何とか自分を抑えた。
「ほう、大悪魔ガバルナ殿か。かの方は色々忙しいと聞いたが、最近は人間界にちょっかいを出すほど暇になってきたのか?」
俺に比べ、学院長はずっと大人だった。
「遊びさ!ガバルナ様ぐらい偉大な悪魔ともなれば、遊びも大掛かりになるのさ」
「なるほどな。今度の遊びはどんなものなのだ?」
「そんなもの、何で俺が教えるんだ!」
がなり立てた青の体を占領している悪魔を見て、学院長がこちらに頷く。
「おりゃ」
清早が更に水を青にかけた。
「イテイテイテイテ!止めろ、俺が薄れちまうじゃないか!」
「じゃあ、答えるのだな。ガバルナ殿ぐらいの悪魔ともなれば我々が何をしようと多少の障害など、ゲームの面白みが増えたぐらいのことだろう?」
憶えていろよ~などというチンピラ丸出しな悪態をつきながら悪魔が続けた。
下級悪魔って思っていたよりも人間臭いんだな。
もしかして、街中のチンピラって下級悪魔が遊びに来ている仮の姿のも混じっていたり??
「若いのが、この国を乗っ取るのに手伝ってくれって交渉してきたんだ。
ガバルナ様の術の出力用に人間の糧を出すから、手伝ってくれって。糧に出された人間の一人に面白いのがいたから、そいつが尽きるまでだったら手伝ってやろうと言うことになったんだよ!」
面白い、ね。
悪魔にとっての面白いってどういうポイントが重視されるんだろうか。
学院長が大きなため息をついた。
「成程。ガバルナ殿にとっては面白い時間つぶしかも知れんが、人間にとっては困った重大事項じゃな。だが・・・お前さんのような下級悪魔じゃあ人間の若いのなんて皆同じに見えるんだろうなぁ。
どうしたものか」
「何を言うか!俺はガバルナ様の第3の部下、シャシュガナルだぞ!人間の見わけぐらいつく!」
「だが、名前が分からねば、顔の見わけがつけてもしょうがないのだよ」
「ザカリー・バアグナルだよ!この国の偉い奴の息子らしいけど、親父が死ぬのを待っていたら自分がジジイになるからガバルナ様に縋ったんだとさ」
バアグナルね。
宰相の名字がそんな感じじゃなかったっけ・・・?
1
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる