シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

124 星暦552年 赤の月 4日 発案

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「湯沸かし器か。機能として欲しいのは?」
ソファでお茶を楽しむ二人に問いかける。

「熱いお湯を素早く!」
「長話をしていても冷めないと言うのも重要だろうな」

確かに。
お茶と言うのは一杯飲んで終わりとは限らない。
「じゃあ、保温性の高い容器に保温の術だな。あと思ったんだけど、熱を水に与えるのと似たような術回路でで熱を奪う構造も出来ないかな?」

シャルロがニパッと笑った。
「いいね!夏は冷やしたお茶やジュースを入れておく容器があったら凄く素敵だ」

◆◆◆


回路に必要な機能はまず、熱の出し入れ。これはスイッチで出すか入れるかの方向性を決められなければならない。更に一度温度が設定されたらその温度で保つ機能が欲しい。

あと、贅沢を言うなら温度がいいところに来た時点で保温を選ぶのではなく、簡単に指定できる温度まで中身の温度を上げるなり下げるなり勝手にしてそこで保温してくれるだけの賢さが欲しい。

熱吸収ならそれ用の術回路は既に開発されている。
発熱の術回路も。
だが、両方できる術回路は無い。
また、決まった温度までの機能と言う物も無い。

「ある温度までのみ熱を出すなり吸収するなりするには、温度を把握してそこからスイッチを入れるか切るか出来る術回路が必要だな」
暫く考えていた時に、アレクが呟いた。

「そっか。熱を出し入れする術回路って言うだけじゃあ駄目なんだね」
シャルロの言葉にゲンナリする。

確かに、学院長のところでお茶をご馳走になっていた時に聞いた話では、茶葉や飲み方によって最適な湯の温度が変わるらしい。
となったら美味しいお茶を楽しむためにはちゃんとそれ用の温度でお湯を造れなければ片手間落ちだ。

だが、どうやって術回路でそんなことをやるのか。
熱を探知する術回路が必要なのではないか。

そんな魔具ってあったっけ?
・・・。
「熱を感知ではなく、利用と言うことにしたらどうだろう?凍結庫《フリザー》を造る時は熱吸収の術回路でエネルギーを吸収し、それを魔石に蓄えている。今回は、魔石に蓄える代わりに、オンかオフかの決まりを術回路の中で造らせれらないかな?」
俺の提案にアレクが考え込み、やがて顔を上げた。

「何も術回路に拘る必要は無い。単なるスイッチだ。膨張率の高い素材を使って物理的な膨張をスイッチ代わりに使ったらどうだ?」

成程。
乾燥機に使った発火防止のアイディアを一歩進めて、完全に魔術とは関係ない物理反応に切り替えるのか。

「・・・そうだったね。魔術師が造る魔具だからって術回路にばかり目がいっていたけど、別に魔術師じゃなくったってそう言うモノを作れるはずだよね」
シャルロが賛成した。

「とは言え、特許構造の中に隠しちまった方がいいな、そのアイディアは。
技術院の特許保護は屁だ」

術回路は魔術院へ登録し、魔術院がその特許権を保護する。
何と言っても術回路は多くの魔術師にとって重要な収入源である。その魔術師の団体である魔術院はそれなりに真剣に術回路の特許を守るために、かなりマメに無断使用などのスポットチェックをして違反者には情け容赦ない罰金を科すことでその特許を守っている。

術回路ではない機械的な発明は技術院が特許を管理し、保護することになっている。
が。
それなりに成功した(技術院に金を払っている)発明者の特許は苛烈なまでに保護するものの、普通の一般市民や工房の特許なぞ、守らないだけならまだしも下手をしたら袖の下を払った人間に秘密裏に売っぱらっていることもある。

都市伝説のような形で流れている噂だが、そのように売られた特許を盗み返す依頼を受けたことがある俺は、いかに技術院の『保護』があてにできないものか良く知っていた。

「屁・・・なの?」

「魔術院は実際に術回路を造る魔術師が構成員になっている組織だ。特許の保護は自分や友人の収入の保護にもなる。技術院は特許を利用する人間が構成している組織だ。発明家っていうのはそんな事務的な機構で働くタイプじゃないからな。技術院で働く人間にとって汗を流して特許を守る動機なぞ、ない」

アレクが小さくため息をついた。
「まあ、そこまで悲観しなくても良いと思うし、オレファーニとシェフィートの名前があればそうそう我々の特許を勝手に売ったりはしないだろうが、確かに技術院の特許侵害への対応力はかなり魔術院に比べると見劣りするね」

「ふうん。
ま、いいや。スイッチも術回路の一部に組み込むとして、とりあえず熱を出す方向と抜く方向に機能できる術回路を造ろう!」

ふむ。
現存の熱吸収と発熱の術回路とスイッチを組み合わせれば欲しい機能は一応出せると思うが、新しい術回路を造るつもりなのか。

まあ、そのくらい工夫しないとあまり新しい製品としての付加価値がないもんな。

1カ月、研究しまくろうじゃないか。

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