シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

113 星暦551年 桃の月 9日 将来設計

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あっという間だった。

もうあと1月もたたぬ間に俺たちは魔術学院を卒業し、一人前の魔術師として社会に出ることになる。

卒業の為には最後に魔術院がおこなる魔術師認定試験に受からなければならないけど、卒業が危なそうな生徒は先月あたりから学院の教師に徹底的な集中講義を受けている。

つまり、集中講義を受けるように言われなかった俺達は一応大丈夫そうと言うこと。

と言うことで俺の今一番の悩みは今後の展望。
アルタルト号からの売り上げのお陰でそれなりの余裕資金が出来たが、それでも働かずに一生暮らしていくほどの資金ではない。
だから選択肢としては;
1.資金のかなりの部分を投資して事業を立ち上げる。魔具もしくは魔剣製造業というところだろうな。
2.余裕資金で家賃とかの足しにして見習いとしては良い生活をしつつも、基本的に下っ端としてどこかの魔具職人かスタルノのところに見習いとして就職する。
3.資金を使って食いつなぎ、また別の沈没船もしくは遺跡を探して冒険者として生きていく。

一番無難なのが2、ギャンブルなのが3、中間が1と言うところか。

事業を始めてもどうやって作ったモノを売るかに多少不安が残る。しっかり技術を身につける為にはどこかに弟子入りして数年間かけて技術を盗みまくるべきだろう。まあ、技術を盗むんだったら心眼サイトで覗き見して文字通り盗むのも可能だが。

だが。折角資金があるのにどっかに見習いとして下働きから始めるのもやはり微妙だ。下働きって扱いが悪いから、『やる以外選択肢が無い』という状況下だったら我慢できるんだが、『金があるから他にも選択肢もある』と思っているとそれなりに精神的に辛い気がする。

3はなぁ・・・。
ある意味、盗賊シーフとして生計を立てるのと同じぐらい危険なんじゃないかと言う気がする。
金になる沈没船や遺跡が見つからない可能性は高いし、今回の発見はオレファーニ家とシェフィート家の名前があったから横から奪われなかったという面もあると思う。

勿論、独り立ちしたって友としてあの二人は俺が冒険家になっても色々助けてくれるだろう。だが、一緒に探してきたお宝を売りさばくのに手を借りるならまだしも、社会的に他の責任があるのに俺が独りで見つけてきた宝を俺の為に売りさばくのに手を借りるのもねぇ。

そんなおんぶ一方な関係は長期的には歪んでいく。
そう考えると、冒険家として生きていくのも難しい。

どうするか。
ある意味、贅沢な悩みに考え込んでいたら、ドアからノックが聞こえた。

「ウィル?」
アレクが部屋に顔を覗かせる。

「なんだ?」

「ちょっとシャルロと私とで相談したいことがあるんだが、今時間大丈夫か?」
なんだろ?

「勿論」


「ウィルは卒業後に何をするか決めたの?」
安物の(それでも座り心地は良いように改造したんだい)椅子に座ったシャルロが尋ねてきた。

「う~ん、ちょっと悩んでいるところ。独り立ちして店を始めても採算が取れるか微妙な気がするんだけど、かといって一番下っ端の状態で見習い就職するのも、完全にはっちゃけて冒険家になるのもどっちもちょっとねぇ・・・」

「魔術院や警備隊から誘いがかかっていたんじゃないのか?」

「研究だけしたり正義の味方活動をしたりするのは性に合わないよ」
知り合いの手助けをするのは全然構わないが、職業として正義の味方をするのは性に合わない。人間、ある程度は自己責任で生きていくべきだ。そんな自己責任を果たしていないような人間まで助けなきゃいけない警備兵なんて嫌だね。

しかも現実の話を言うと、清廉な生活をしている警備兵もいるが、かなりの数の警備兵はそれなりに汚職に手を染めていてやっていることは裏ギルドも真っ青な場合もあるし。

「僕ねぇ、発明家になろうかと思うんだ。ウィルも一緒にやらない?」

へ?

思わず、シャルロの顔を見つめてしまった。
小さくアレクがため息をつく。
「何でそう、説明を飛ばすかね、お前さんは。
ウィル、私とシャルロで話していたんだが、私たちは魔具の商品開発の才能があると思わないか?素材とかのことに関しての感性ではシャルロには人並み外れた才能があると思うし、ウィルは術回路とかに関する能力はずば抜けている。私は商品化に関する知識があるし、作ったモノを売るコネもある。
だから3人で商品開発のビジネスを始めてはどうかと思うんだ。最初はシェフィート商会が主な受託先になると思うが、独立したビジネスとすることでどこからでも依頼を受けて商品を作れる」

商品開発の事業?
なるほど、去年作った保存庫フリッジ凍結庫フリザー保存庫フリッジ・送風機のように、商品のアイディアを練って生産の際に手数料を貰うのか。これだったら実際に売るのは他の商会がやることになるから良いかもしれない。

だけど。
「お前ら、家業の手伝いするんじゃなかったの?」

「別に~。兄さん達沢山いるから僕いなくても大丈夫だし」
「既に色々専門家を雇っているから、私がフルタイムで働くほどの仕事は無いんだよ」

おやまぁ。
シャルロはまだしも、アレクはそれなりに家業を助ける展望があったと思っていたんだが。

「まあ、私はそれなりに家業の方にも時間を割かなければならないから、3人で事業を始めても売り上げの分割はシャルロ4、ウィル4に私が2で良いかと思っている。その代わりシェフィート家からの紹介と言ったモノに関しては第三者を使う場合と同じだけの紹介料と言ったモノを私が貰う」

ふむ。下手になぁなぁにシェフィート家とのコネを使うよりもしっかり手数料を媒介させた方がはっきりしていていいな。

「面白いじゃないか。具体的なプランを聞かせてくれよ」

3人でこれからも一緒にやっていくと言うのも楽しそうだし。



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