シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
110 / 1,038
魔術学院3年目

109 星暦551年 青の月 28日 終わってた

しおりを挟む
「あれ?」

窓の外に見えているのは夕空だった。
サーシャの姉さんを見つけた後、事情徴収が終わるのを待ってからサーシャが匿われているシェフィート商店の支店の空き部屋へ連れて行き、感動の再会の後にやっと寮に帰ってきた。

シャルロとアレクに『見つかった』とだけ言ってベッドに倒れ込んだのだが・・・。

今日って学院祭のはずなんだけど。
初日だから俺も参加する予定で・・・夕空が見える時間まで寝ていると言うのはあり得ない。

ベッドにいても答えは降ってこないので、とりあえずアレクかシャルロを捕まえようと立ち上がった。

「あれ??」
体がふらふらする。
首をかしげながら着替えていたら、ノックとともに扉が開き、アレクとシャルロが飛び込んできた。

「起きたんだね!」
「具合はどうだ?」

「え~っと・・・。ちょっとふらふらするが、特に問題は無いと思うぞ。
今日は学院祭だっただろ?何だって起こしてくれなかったんだ?」

シャルロとアレクが顔を見合わせた。
「ウィルったら昨日は一日高熱で意識不明だったんだよ。医療師ヒーラーに視てもらったら、過労だって言うことだからそのまま寝かせておいたんだけど」

「無理をさせていたみたいで、悪かったな。俺たちも人身売買組織の検挙に付き合えば良かった」

高熱で意識不明??
しかも昨日一日?
「今日ってもしかして・・・28日?」

「「そう。」」

ショックだ・・・。

この俺様が過労で倒れるなんて。
幾ら夜遅くまで警備兵達と検挙やら、検挙で見つかった書類の確認やらをしていたからって言ってもたかが3日のことだったのに。

「・・・で、学院祭はどうなった?」

シャルロが肩をすくめた。
「スフィンクス寮が優勝。俺たち2番。
グリフォン寮は今年の1年はあまり良いのが入っていなかったからねぇ」

まあ、教師陣かOB陣もスフィンクス寮のモラルがこれ以上低下しないようにそれとなくアドバイスとかもしていたんだろうしな。
俺が初日をドタキャン、アレクとシャルロはサーシャの事件のことで気もそぞろだったのによくぞ2位になれたもんだ。アンディの指導力に感謝!と言うところだな。

「ウィルが起きたらおいでって学院長が言っていたから、具合が大丈夫なら行こう」

「人身売買組織がどうなったか、聞いたか?」

「「まだ」」

成程。
俺の復帰を待ってくれたんか。悪いことをした。

◆◆◆


「やあウィル、具合はどうだい?」
いつものごとくお茶を淹れながら学院長が俺たちを迎えてくれた。

「大丈夫です」

お茶を俺たちに渡しながら学院長が小さく笑った。
「ウィルが倒れるほど警備兵達を嫌いだったとはね。悪かったね、ストレスがかかるような仕事を頼んでしまって」

ぶっ。
思わずお茶を吹いてしまった。

「いやいや、別に警備兵が苦手だから倒れた訳じゃあないでしょう」

にやにや笑っていたが、学院長はそれ以上警備兵の話題には突っ込まずに俺たちに人身売買組織のことを話してくれた。

「今回の組織は王都でも有数の人身売買組織だったことが判明した。
首謀者は何と伯爵たるヴァルドス公。民を守り、指導すべき立場にある貴族たる者が何をやっているのかと陛下もお怒りだ」

「はぁ」

「結局、サーシャの姉、フェリナ・シズナータはヴァルドス公が特別に賄賂用に訓練するつもりで家に連れてきていたらしい。
まあ、お陰であやつにたどり着くまでウィルが協力してくれたので警備隊と税務局と魔術院にとっては幸運極まりないと言ったところだがな」

「まさか。俺の手助けなんて、微々たるものでしたよ」

あれだけ目立たないように頑張ったんだ。警備隊と税務局と魔術院に目をつけられるなんて、冗談じゃない。

「今までだって人身売買の疑いがもたれて下の人間が検挙されたことは多々あったんだ。だが、上までたどり着けなかった。
一体どのくらいの機密文書を見逃してきたんだろうかと警備隊の方は涙を流していたぞ」

まじっすか。
・・・俺が単に心眼サイトの優れた魔術師だと思ってくれているといいんだけど。

盗賊シーフギルドで働いていたなんてことがばれたら、一生そのことをネタにこき使われそうだな。

「まあ、俺じゃなくっても魔術師を何人か連れて行けば秘密金庫の場所ぐらいは心眼サイトで視えると思います。これからはますます魔術院と警備隊の協力が進みそうですね」

学院長がにやりと笑った。
「ま、そうだな。
お前さんが一番そう言うことに才能がありそうだが、過労で倒れるぐらい警備兵のことが苦手なのだとしたらお前に協力を頼むのも酷というものだよな」

ぐ。
別に、警備兵が苦手だったから倒れたんじゃない・・・と思うぞ。

でもまあ、これのお陰で警備兵からの協力要請が少なくなるならデリケートだと思われてもいいけど。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...