シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

101 星暦551年 紺の月 30日 倉庫

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3人で相談した結果、アレクのお兄さん(次男の方ね)にマネージャーとして手伝ってもらうことにした。

倉庫には俺たち3人で持ちだしを禁じる術をかける。
また警備の人間も雇い、倉庫の外をパトロールしてもらう。
倉庫そのものには保護結界を張って泥棒とかが入りにくいようにする。

そしてアレクのお兄さんにはマネージメント料として利益の10%を払う代わりに警備とか見つかったモノのオークションへの売出を手配してもらう。

最初は考古学者か遺跡専門の冒険者でも雇って俺たちが自分で指揮を取ろうと思っていたのだが、倉庫を借りて警備員を雇う手続きをしている間に気力が尽きてしまった。

自分で稼いだ資金を守る程度のことなら難しくないのだが、こういうぼた餅的な利益の確保って俺たちの技能の中には無かったんだよね。

何人か面接してみた考古学者は片っぱしから宝石を助手に盗まれそうな学者バカか、自分が盗みそうな怪しげな人間ばかり。

警備兵の方もそれなりのレベルの人間を集められたが、完全に監督なしに任せるにはちょっと無理がある。

倉庫にかける術だけでも疲れ果てるのに、更に人間関係のことで頭を悩ませることが多すぎて投げてしまったのだ。

アレクのお兄さんならそれなりに信用出来るだろうし。
俺たちが完全に赤の他人だったら信用したらヤバかったかもしれないが、弟から騙し取るような人間ではないようだったので頼ることにした訳。

で。
やっと船を倉庫へ持っていく日になった。

「やっとだね~」
馬車の中でにこやかに微笑みながらシャルロが呟いた。

「長かった・・・。『こんなに面倒なら、沈めたまま放っておこうか』と何度も思ったんだが我慢できてよかった」

おいおい。
投げちまおうと思ったんですか、アレクさん。
ま、我慢してくれてありがとね。

ちなみに王都に戻る前に拾っておいた客室に多々あった宝石を見せたら、アレクの次兄はかなりやる気になっていた。


港で馬車を降り、お弁当を持って海に入っていく。
もうここからは出て来ないから御者には王都へ戻るように指示をしてからね。

本当はね。
考えてみたら俺たちがここまで来なくっても清早なり蒼流に頼めば船を持ってきてくれると言っていたんだけどね。

やはり折角の冒険だから自分たちで乗って行きたかった。

「じゃ、これを貼っていくか。強化術、よろしくね」

「「任せて」」

持ってきた薄地の布を窓や亀裂の入った船底に当てていく。
後ろについてきたシャルロとアレクが交互に強化術と接合術をかけて布がそこから外れぬよう、そして破けぬよう術をかける。

これで多分船からモノが落ちないはず。
大きな船だし精霊の加護が付いているからあまり揺れない予定だし、中のモノが勢いよく窓なり亀裂なりに当たることは無いはずだから、布でカバーするだけで何とかなる・・・と俺たちは期待していた。

これ以上にしっかりした修理をしようと思ったらどうしてもダッチャスで港に上げなければけない。

ちょっとねぇ。
泥棒に狙われるか、もっと悪ければ引き揚げ屋サルベージャー協会の人間にイチャモンをつけられて船を奪われるか。

どちらにせよ、あまりいいことは起きないだろう。
だから簡単な応急措置をして持っていくことにしたのだ。
ま、成るようになると言うことで。

「蒼流、お願い」
シャルロが声をかけた瞬間、船と海底との間に小さな爆発が起きたようだった。
実際には単に船が浮かび上がり、海面との間に張り付いていた砂埃とかが舞い上がっただけなんだけどね。

海底から数百年ぶりに浮き上がった船はゆったりとスピードを上げ、動きだした。
流石。
一体蒼流と清早の力ってどのくらいあるんだろ?興味があるところだ。

「凄いな、見てみろ」
アレクが指さした斜め上の方を見上げる。
だんだん上昇してきたアルタルト号の上方の薄く蒼い水の上を別の船が進んでいく。
幻想的に美しかった。

「この船のマストが折れいて良かったな。流石にあれが付いてたら直立させて移動するのは難しかった」

「ま、マストが折れていたから沈んだんだろう」
俺の言葉に、アレクが答えた。

「しっかし、奇麗だねぇ。
これから船に用事が無くっても、時々海に潜って上を見ようかな」
シャルロが感心したように上を見ながら呟いた。

確かにね。
こんな風景は他の誰にも見えないだろう。

ノンビリ頭上の風景を楽しみ、お弁当を食べていたら王都に付いていた。
「よし!」

さて、ここかららが勝負だ。

ゆっくりと船が海上へと上がっていく。
周りの船に乗っている人間からは、まるで幽霊船が現れたかのような視線が向けられる。

そうなんだよねぇ。怪しさ満点だ。
目立つから夜にやるのも手だと話し合ったのだが、他の船を避けるのが難しくなる為日中にやることになったのだ。

アルタルト号が滑るように(実際、帆を張っている訳じゃあないんだから滑っていると言っても語弊はないかな)海上を進み、借りた倉庫へと向かう。

「よし、指示通りだ」
アレクが開けっ放しになっている倉庫を見て満足げに呟いた。

倉庫は修理に使われることがあり、船を引き揚げる為のレールが設置されている場所を借りた。
そのレールの周りと倉庫の中は誰もいない。
これから大量の水をかぶることになるので物もおいてない。
きっちり指示通りだ。

そして。
ザバァァァァ。

まるで津波であるかのように海面が船を乗せたまま上がり・・・アルタルト号はレールの上を滑るように倉庫の中へは入っていった。

俺たちの魔力ではこれだけ重量のある物体を海面から持ち上げて20メタ以上も移動させるのは無理なんだよね。
かといって他人を雇って人力(あと馬や牛に手伝ってもらうにしても)で倉庫の中に船を入れるのは不特定多数の人間に何かをかすめ取る機会を与えるようなものだ。

そこで結局蒼流と清早に最後の移動も頼み込んだ訳。

・・・頼り過ぎているよなぁ・・・。

精霊には物欲などないからお礼の品を渡すと言うのは無理があるが、どうやったらお礼を出来るのか今度ちょっと考えておかないとな。

「これがアルタルト号か!」
海水が引くか否かの瞬間にセビウス・シェフィートが姿を現した。

俺たちには目もくれずに、船をぺたぺた触っていたと思ったら、縄梯子をかけさせて甲板に上がってきた。

「・・・お兄さん、昔の船とかって好きだったり?」
上がってきたと思ったら俺たちの横を素通りして船長室へ飛び込んで行った姿を見てシャルロがアレクに尋ねた。

「一時は学者になろうと思っていたと聞いたことがあったが・・・経済学者を目指していたのかと思っていたら考古学者だったのかもしれないな」
驚いたように船長室で家具やら壁を熱心に調べている兄を見ながらアレクが答えた。

「だからたったの10%で手伝ってくれることにしたのか」
いくら沈没船にそれなりの宝が残っていたとしても、シェフィート家の次男を買収するには程遠い金額だ。
なのにたったの1割の報酬で良いと言うのは余程アレクのことを大事にしている兄なのだなぁ・・・と思っていたら、どうやら船が目当てだったらしい。

ま、一緒に楽しんで調べますか。

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