シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
88 / 1,120
魔術学院3年目

087 星暦551年 赤の月 9日 再会

しおりを挟む
考えてみたら、軍人って地方に派遣されていたり、戦争に行っていたり、士官用の建物に住んでいたりで独身の間はあまり家って要らない。
だからガイフォード家って直系以外の親戚も本館に住んでいるんだな。

◆◆◆


相手としては『呪の解除』なんていう怪しげなことを頼んだ相手に自分の素性を知られたくない。
長としてはギルドの隠れ家に外部の人間を呼ぶなんて問題外。しかも呪がかかっているかもしれない怪しげなものを持ちこませて自分まで被害を受けても困るし。

ということで、長に会いに行ったら、倉庫街へ行くように指示された。

で。
倉庫にたどり着き、いつも通り壁を登って上からそっと中を覗き・・・驚いた。

「お久しぶり・・・でもないか。最近いかがお過ごしですか?」
ドアを開けて挨拶した。

「ウィル??!」
所在無げに周りを見回していたダレン・ガイフォードが俺を見て驚いたように声を上げた。

「お前が呪解除名人なのか??」

なんじゃそりゃ。
「解除名人って・・・。何ですか、それ」

ダレンが肩をすくめる。
「長がね。『呪の解除に関しては魔術院にも彼以上の腕を持つ人間はいない』と自慢していたんだ」

そりゃまた大きく出たもんだね。
「魔術院の人員よりも優れているなんて公言したこと有りませんよ、俺は。
術の解除は得意ですけどね。
それより、なんでここに?ガイフォード家が魔術院に持ち込めないような怪しげな買い物をするとも思いにくいんですが」
何といっても武道一筋で有名な家系だ。
例え怪しげなものを買ったとしても魔術院に持ち込めないとすら思いつかないんじゃないのか?

「・・・はるか昔に王家を助けてガイフォード家を貴族に成らしめた総領が注文した肖像画なんだよ。
本人が術をかけさせたとしても、誰かがガイフォード家の本館に忍び込んでそんな術をかけたにせよ、あまり世間に知らせたいようなことではないからな。
らちが明かなければ魔術院に行くが、先に非公式な伝手で何とかならないか、試すことにしたんだ」
ダレンがため息をつきながら答えた。

俺が何で盗賊《シーフ》ギルドから派遣されるのかを聞かない代わりに、何で有名な軍閥のガイフォード家が魔術院よりも先に裏社会のギルドを頼るのかも説明しないか。

世の中、思っていたよりも裏と表に繋がりがあるようだなぁ。

「何でその肖像画が怪しいと思ったんです?」
部屋の後ろの壁に立てかけてある肖像画に近づきながらダレンに尋ねた。
大きなカンバスをいっぱいに使って軍馬に乗り、戦場をかけている男性の姿が描かれている。
確かに術がかかっているのが微かに視えるが・・・普通の魔術師でもそれが普通の固定化の術ではなく、呪であると分かる人間は少ないだろう。

「ガイフォード家の人間は非常に健康で、エネルギーにあふれている。
だが、怪我をしたり年をとって一線を引いた後はかなり早く死ぬ人間が多い。
だが、田舎に引き払って暮らすとそうでもない。
まあ、軍と国に身を捧げるのが俺たちの生き方だからな。それが出来なくなった時に失意で弱まるのが早いのは不思議ではないし、ある意味救いだと思って誰も気にしていなかったのだが・・・。
先日、負傷を負って養生中の従兄弟が風邪をひいた。やっと風邪が治って下に降りてきたら、その絵から変な術が発現して、彼の生命力を吸い取ったように視えたんだ。
気のせいかと思ったのだがその後彼の容体が悪化してね。
もしかしたらと思って兄の友人を頼ってみた訳だ」
ダレンがため息をつきながら説明した。

「その従兄弟さん、まだ弱っています?術が発現している間の方が解除しやすいんですよ」
発現していなくても、出来なくはないが必要な労力がぐっと上がる。

ダレンが頷いた。
「ガイフォード家でそんな変なことが起きていると知られたくなかったから態々ここを指定したのだが、相手が顔見知りとあっては隠してもしょうがない。
本家に戻ろう」

ガイフォード家の本家か。
従兄弟まで一緒に住んでいるとは一体どれだけの大世帯になっているのか知らないが、面白そうだ。


しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...