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魔術学院3年目
082 星暦551年 藤の月 5日 最初の授業
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思ったよりヘビーな新年度開始だった・・・。
◆◆◆
新学年が始まった。
魔術学院最後の年で学ぶのは・・・召喚術。生徒のかなりの数がずっと楽しみにしていた科目だ。
とは言っても、雑談で今まで聞いた印象では何かを召喚してそれをどう使うのか、現実的に考えている様子は無い奴らが大多数なようだが。
教室の前でエタラ教師が講義を始めていた。
「召喚術の目的は魔力の効率的な使用だ。つまり、召喚に要する魔力で出来たであろう効果よりも多くの魔術の効果を、召喚した相手にやってもらえなければ意味が無い」
そりゃそうだ。魔力を使って召喚した相手に暖炉の火をつけてもらうぐらいだったら、自分でつけた方が早いし魔力の消費も少ない。自分で出来ることは召喚してやらせてもしょうがないな。
「出力の多い魔術を求めるような召喚は強制力が高い場合が多く、召喚対象から反発されることが多い。だから召喚術の授業のかなりの部分はそういった状況でいかに相手の攻撃を削ぎ、召喚者の身を守るかに費やされる。
ただし、それとは違った目的の召喚もある。何だと思う、アレク?」
出力の高い魔術を求めるのではない召喚。
現実的には、こっちの方が多いんだろうな。出力の高い魔術なんて、召喚対象が自分を攻撃できないように何重にも保護結界をはり、相手の力を削ぎ・・・なんてやっていたらかなり効率が悪い。
「情報・・・でしょうか?」
エタラ教師が頷いた。
「そうだ。例えば天候魔術は大規模魔術で、何人かの魔術師の協力でやっと小規模な雨を呼び起こせる程度だ。精霊などを召喚して雨を降らせてもらう方が効率的である良い例だな。だが、『雨を降らせる』という行為を強制するにはそれなりに危険が伴う。
しかし、精霊を呼び出して『今年はどのくらい雨が降るのか』とか『今年の秋の大雨はいつから始まるのか』と言った情報を貰うことはそれ程難しくない。精霊にしてみれば別にどうでもいい情報だから、簡単な報酬であっさり情報をくれることが多い。また、ダメだったら別の精霊を召喚すればいいので大した保護結界もいらず、結果召喚にかかる魔力も少ない」
なるほどね。
秋の大雨を魔力で止めるよりも、大雨が来る日を聞いておいてそれまでに収穫を終わらせるようにすればいいのか。
召喚術って無理やり召喚対象を罠にはめて奴隷のようにこき使うといった印象があったが、単に考え方を変えて賢く魔力を使う方法の一環でもあるんだな。
それこそ、稀な鉱石とかが欲しかったら地の精霊を呼び出してどこに行けばそれを採掘できるか教えてもらうのも手だろうし。
・・・いや、これはあまり成功しないのかな?
あっさり取れる範囲にある鉱石だったら過去の魔術師なり事業家なりが既にやって採掘しつくしてそうだ。
まあ、蒼流が他の学者が全然知らなかった廃墟をあっさり知っていたように、聞いた人間がいないと言う場合もありそうだが。
「魔術や情報を求めるのとは別に、使い魔を求めての召喚もある。これは基本的に幻獣や妖精相手だ。物理的な体の無い相手を召喚した場合、召喚している間ずっと対象を物理化する為に魔術師の魔力が消費され続けるから使い魔としては向いていない。
反対に幻獣は魔術の行使を求めたり情報源として使ったりとしてはあまり利用価値が高くないが、使い魔としてパートナーになってもらう相手としては悪くない。ただし、ちゃんと相手が納得している場合でないと危険だ。いくら契約で相手の行動をある程度縛れるとは言え、マスターを殺したい使い魔を傍に置いておくのは自殺行為だ。今まで強制的な使い魔の契約を結んだ魔術師で、相手を解放せずに寿命を全うした者はいない」
・・・いないんですか。
そりゃ凄いね。
強制的な契約を強いるような魔術師だったら、使い魔が自分に不利なことを出来ないようにがんじがらめに条件付けするだろうに。
何年ぐらい生き残れたのか、今までの記録を見てみたいところだな。魔術院にそう言う情報ってあるんだろうか?
「質問です」
タニーシャが手を挙げた。エタラが続けるように頷く。
「人間とかも召喚出来るんですか?そうしたら遠くにいる人にも簡単に会えると思うんですが」
「いい質問だ」
エタラが生徒たちをじっくり見回しながら答えた。
「答えは・・・場合によっては可能だが禁忌だ。
基本的に、召喚は魔力がある相手しか呼び出せない。だから精霊・悪魔・幻獣・妖精といった魔力のある存在が召喚対象になる。普通の動物とか物は呼び出せない。
人間も、魔術師レベルの魔力が無い存在を召喚しようとすると失敗する。魔力が多少だけある人間を召喚する場合、術が成功しても召喚術に生命力を奪われて対象者がその場で死んでしまうことが殆どだ」
だが、魔術師なら召喚出来るのか?だったら非常時とかだったら許可しても良さそうな気がするが。
禁忌とは随分と強い禁止だ。
「だが、戦時中だろうが家族が死にかけていようが、例え魔術師で十分魔力がある対象であろうと、人間を召喚することは禁じられている。
何故か。
狂うからだ」
ドラマチックにエタラが一度言葉を切る。
「精神か、体か、狂う対象は召喚術によって違う場合が見られるが、今まで知られているどのような召喚術であろうと、召喚された人間が2年以内に死ななかったケースは無い」
2年以内に確実に死ぬとは・・・凄い。
それは確かに禁忌になる訳だ。
「これはある意味、魔術師への暗殺手段とも成りうる。
だから人間を召喚した魔術師はすぐさま禁忌を犯したとして魔力を封じられる。また、君たちにも自分に対して誰かから召喚されかけた時にその術を破る方法を教える」
禁忌だからって今まで対処法を教えて来なかったことが意外だな。
それとも対人間召喚を禁じるような効果が学院の結界に含まれているのか?
ま、良家の子息はそういった対応法は既に子供のころに習っているんだろうね。
普通の魔術師の卵は暗殺・誘拐の対象にはなりにくいだろうから3年目まで教えなくても大丈夫なのかな?
◆◆◆
新学年が始まった。
魔術学院最後の年で学ぶのは・・・召喚術。生徒のかなりの数がずっと楽しみにしていた科目だ。
とは言っても、雑談で今まで聞いた印象では何かを召喚してそれをどう使うのか、現実的に考えている様子は無い奴らが大多数なようだが。
教室の前でエタラ教師が講義を始めていた。
「召喚術の目的は魔力の効率的な使用だ。つまり、召喚に要する魔力で出来たであろう効果よりも多くの魔術の効果を、召喚した相手にやってもらえなければ意味が無い」
そりゃそうだ。魔力を使って召喚した相手に暖炉の火をつけてもらうぐらいだったら、自分でつけた方が早いし魔力の消費も少ない。自分で出来ることは召喚してやらせてもしょうがないな。
「出力の多い魔術を求めるような召喚は強制力が高い場合が多く、召喚対象から反発されることが多い。だから召喚術の授業のかなりの部分はそういった状況でいかに相手の攻撃を削ぎ、召喚者の身を守るかに費やされる。
ただし、それとは違った目的の召喚もある。何だと思う、アレク?」
出力の高い魔術を求めるのではない召喚。
現実的には、こっちの方が多いんだろうな。出力の高い魔術なんて、召喚対象が自分を攻撃できないように何重にも保護結界をはり、相手の力を削ぎ・・・なんてやっていたらかなり効率が悪い。
「情報・・・でしょうか?」
エタラ教師が頷いた。
「そうだ。例えば天候魔術は大規模魔術で、何人かの魔術師の協力でやっと小規模な雨を呼び起こせる程度だ。精霊などを召喚して雨を降らせてもらう方が効率的である良い例だな。だが、『雨を降らせる』という行為を強制するにはそれなりに危険が伴う。
しかし、精霊を呼び出して『今年はどのくらい雨が降るのか』とか『今年の秋の大雨はいつから始まるのか』と言った情報を貰うことはそれ程難しくない。精霊にしてみれば別にどうでもいい情報だから、簡単な報酬であっさり情報をくれることが多い。また、ダメだったら別の精霊を召喚すればいいので大した保護結界もいらず、結果召喚にかかる魔力も少ない」
なるほどね。
秋の大雨を魔力で止めるよりも、大雨が来る日を聞いておいてそれまでに収穫を終わらせるようにすればいいのか。
召喚術って無理やり召喚対象を罠にはめて奴隷のようにこき使うといった印象があったが、単に考え方を変えて賢く魔力を使う方法の一環でもあるんだな。
それこそ、稀な鉱石とかが欲しかったら地の精霊を呼び出してどこに行けばそれを採掘できるか教えてもらうのも手だろうし。
・・・いや、これはあまり成功しないのかな?
あっさり取れる範囲にある鉱石だったら過去の魔術師なり事業家なりが既にやって採掘しつくしてそうだ。
まあ、蒼流が他の学者が全然知らなかった廃墟をあっさり知っていたように、聞いた人間がいないと言う場合もありそうだが。
「魔術や情報を求めるのとは別に、使い魔を求めての召喚もある。これは基本的に幻獣や妖精相手だ。物理的な体の無い相手を召喚した場合、召喚している間ずっと対象を物理化する為に魔術師の魔力が消費され続けるから使い魔としては向いていない。
反対に幻獣は魔術の行使を求めたり情報源として使ったりとしてはあまり利用価値が高くないが、使い魔としてパートナーになってもらう相手としては悪くない。ただし、ちゃんと相手が納得している場合でないと危険だ。いくら契約で相手の行動をある程度縛れるとは言え、マスターを殺したい使い魔を傍に置いておくのは自殺行為だ。今まで強制的な使い魔の契約を結んだ魔術師で、相手を解放せずに寿命を全うした者はいない」
・・・いないんですか。
そりゃ凄いね。
強制的な契約を強いるような魔術師だったら、使い魔が自分に不利なことを出来ないようにがんじがらめに条件付けするだろうに。
何年ぐらい生き残れたのか、今までの記録を見てみたいところだな。魔術院にそう言う情報ってあるんだろうか?
「質問です」
タニーシャが手を挙げた。エタラが続けるように頷く。
「人間とかも召喚出来るんですか?そうしたら遠くにいる人にも簡単に会えると思うんですが」
「いい質問だ」
エタラが生徒たちをじっくり見回しながら答えた。
「答えは・・・場合によっては可能だが禁忌だ。
基本的に、召喚は魔力がある相手しか呼び出せない。だから精霊・悪魔・幻獣・妖精といった魔力のある存在が召喚対象になる。普通の動物とか物は呼び出せない。
人間も、魔術師レベルの魔力が無い存在を召喚しようとすると失敗する。魔力が多少だけある人間を召喚する場合、術が成功しても召喚術に生命力を奪われて対象者がその場で死んでしまうことが殆どだ」
だが、魔術師なら召喚出来るのか?だったら非常時とかだったら許可しても良さそうな気がするが。
禁忌とは随分と強い禁止だ。
「だが、戦時中だろうが家族が死にかけていようが、例え魔術師で十分魔力がある対象であろうと、人間を召喚することは禁じられている。
何故か。
狂うからだ」
ドラマチックにエタラが一度言葉を切る。
「精神か、体か、狂う対象は召喚術によって違う場合が見られるが、今まで知られているどのような召喚術であろうと、召喚された人間が2年以内に死ななかったケースは無い」
2年以内に確実に死ぬとは・・・凄い。
それは確かに禁忌になる訳だ。
「これはある意味、魔術師への暗殺手段とも成りうる。
だから人間を召喚した魔術師はすぐさま禁忌を犯したとして魔力を封じられる。また、君たちにも自分に対して誰かから召喚されかけた時にその術を破る方法を教える」
禁忌だからって今まで対処法を教えて来なかったことが意外だな。
それとも対人間召喚を禁じるような効果が学院の結界に含まれているのか?
ま、良家の子息はそういった対応法は既に子供のころに習っているんだろうね。
普通の魔術師の卵は暗殺・誘拐の対象にはなりにくいだろうから3年目まで教えなくても大丈夫なのかな?
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