シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
76 / 1,077
魔術学院2年目

075 星暦550年 桃の月 6日 火器《コンロ》

しおりを挟む
世の中、応用が効くモノって思っているよりも多いのかもしれない。

◆◆◆


「とりあえず、凍結庫フリザー火器コンロを作って術回路がどんな感じに機能するか確認してみるか」
どうせ課題として作らなきゃいけないんだし、どんなふうに機能するのか視ることで改造もやりやすくなる。

「じゃあ、先に火器コンロから作ろうか」
シャルロが提案した。

「そうだな、先にエネルギーの蓄積先を作っておいた方がいいだろう」
アレクが石の台を作業机の上に置きながら合意した。

距離があると途中で壊れる可能性も高くなるので、基本的にこの2つは火器コンロを石の台の上に作り、その石の台の下に凍結庫フリザーを入れることが多い。
石ではなく金属の台でもいいんだけどね。流石に木は火災を起こす可能性があるので避けるべきだろう。防火の術をかけると言う手もあるが・・・そこまでやるのは拘り派の主婦ぐらいのもんだ。
金属の方が料理の際に生じる油汚れが落ちやすくていいらしいが、熱の伝達が良すぎるので料理の熱が凍結庫フリザーまで伝わってしまい非効率的なことになりかねない。
ちょっとぐらい汚れて見た目が悪くなっても機能すりゃいいだろう。
マメに拭けばそれ程汚れが溜まるってことも無いだろうし。

「これってさぁ、出来あがったら俺らの内の誰かが貰う訳じゃない?俺の部屋にはこんなモノ置く場所無いんだけど、お前らある?」
どうせ作るなら引き取る人間にとって使い勝手がいいモノを作った方がいい。
シャルロが使うのかアレクが使うのかまず決めた方が効率的だろう。

「僕はあんまり料理ってしないからなぁ。凍結庫フリザーだけなら欲しいんだけど」

アレクが小さく笑った。
「ま、その為に自主的に俺たちだけで凍結庫フリザー保存庫フリッジをリンクできないか研究するんだろ?だったらシャルロは試作品第一号を持っていけばいい。どうせ最初の試作品は大きくなってしまうだろうからな」

「じゃあ、この課題の方はアレクの方で引き取るか?お前って料理したりするの?」
ある意味意外・・・。

「私はしないが、女性が働いている店舗のキッチンにでもおけば大歓迎されるだろう」

「じゃあ、喧嘩にならないように火源を2つ作ろうか」
シャルロが提案してきた。

「そうだな。それこそ一つ料理に使い、もう一つはお湯を沸かしてお茶を飲むのに使ってもいいし。
・・・料理用とお湯を沸かす用で火力って違う方がいいのかな?」

アレクが少し考え込んだ。
「どうせなら、火力を変えられるようにしよう。そうすれば応用が効く」

ふむ。術回路そのものに加減をつけさせるか、それとも術回路の数で火力を変えさせるか。
・・・術回路の数でやる方が簡単そうだな。火器コンロに関しては俺たちの誰もそれ程興味が無いから、術回路を弄るほど時間をかけて研究したい訳でもないし。

「じゃあ、薄い術回路を3つずつ作って、スイッチの場所によって魔力が通る術回路の数が変わるように設計するか」

「いいね!」
シャルロが嬉しそうに合意する。

「じゃ、はい」
術回路を作る為の銅線を渡した。
「一人2つずつ、出来るだけ薄くね」

俺もシャルロも基準的な火器コンロの火源のサイズなんて知らなかったのだが、幸い物知りアレクが知っていたのでそれに基づき術回路を作り始めた。

「これって・・・魔剣作りの時に見せられた火の魔剣の術回路にちょっと似ているな。同じではないけど。どう違いが出るんだろ?」
火の魔剣と料理用の火器コンロ
どちらもそれなりの時間の間、熱を発する必要がある。
魔剣の方が直ぐに高熱に達する必要がある・・・かな?

ある意味どうでもいいことだったのだが、気になったので魔剣の術回路も作って火器コンロ用の丸い形に加工してみた。
魔石を繋いで発動させてみると・・・。

「流石スタルノ氏だな。発動が早く、熱も高いのに魔力の消費量はこちらの方が少ないとは」
アレクが感心したようにつぶやいた。

「アレクの商会で火器コンロを作っているなら、スタルノさんの術回路を使えないか交渉してみたら?」
シャルロがにこやかに提案した。

どうだろ?
剣にしか興味が無い人だから、『好きにしろ』って言うかもしれないが、『料理に使うなんてふざけるな』と怒る可能性もある。
まあ、この術回路を火器コンロ用に大量生産させるんだったらその特許料で意に沿わない鍛冶の依頼を全部断ることができるようになるかもしれない。

プライドって論理だけに反応するモノではないからなぁ。

とりあえず、アレクの実家の店舗に置く予定の火器コンロに勝手に人の術回路を使うのは不味いだろうと言うことで、課題のモノに関しては学院から提供された術回路を使うことにした。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

処理中です...