シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院2年目

064 星暦550年 翠の月 16日 相談

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実習の教員としては信じられない口が足りないと思ったが、捕まえて質問をしてみたら完全に無口な訳ではなかった。
何だってスタルノは実習の時あれほど何も説明をしなかったんだろ?

◆◆◆



流石拘りの男、スタルノ。
夕食の後に鍛冶場に戻ったら、まだいた。

魔剣に惚れ込んでいる感じだったからなぁ。

「どうした?」
突然声を掛けられた。
おっと。
見ていたのに気付かれたか。まあ、気配は消してなかったけど。

「スタルノさんは何故魔剣鍛冶師になったんです?」

思わず、質問がこぼれた。

「俺か?」
槌を置き、炉の灰を集めて炎を寝かせてからスタルノが振りかえった。

「俺は・・・田舎育ちでな。
ある時うっかり森に深入りしすぎて魔獣に追い詰められそうになったとき、村へ行く途中だった冒険者に助けられたんだ。
そいつが魔獣を打ち払うのに使ったのが魔剣だった。
あの時の感動は・・・今でも覚えている。俺のナイフでは傷一つつけられなかった岩獣《ロクビス》が、炎を帯びた魔剣でたったの1撃だった。
魔力があることが判明して王都の魔術学院に入学することが決まった時に、絶対に魔剣鍛冶師になろうと思ったんだ。授業は魔剣作りに役立ちそうな項目以外は辛うじて卒業できる程度しか出席せず、暇な時間は全てあちこちの鍛冶師の元に入り浸っていた。魔剣鍛冶師になること以外、考えたことも無かったな。
・・・まあ、今思えば実は魔剣よりもあの冒険者の腕の方が大きかったと思うが」

うう~む。
ある意味、あまり参考にならんな。俺は別にそんな思い入れはないから、どんな苦労も苦にならないとは感じないぞ。

「魔剣って凄く高いから中々買える人間がいないと思うんですけど、独り立ちするのって難しくありませんか?」

ふんっと鍛冶師が鼻で笑った。
「どんな職業だって楽には成功せん。魔術師になったところでヘイコラして上司のご機嫌伺いをしてこき使われることになる。魔術院で上まで上り詰めようと思ったら魔力もだが政治力が必要だしな。魔具職人だって作ったモノが売れるようになるまでにはそれなりに時間がかかるし、成功しないこともある。
俺は元々、実用に耐えうる魔剣を作る為には剣を作る腕も磨かなければならないと思っていたからな。最初は魔剣だけでなく普通の剣やダガー、槍とか武器なら何でも作っていた。そういうのを武器屋に持ち込んで売っていたから、それなりの武器を作れるようになった時点で独り立ち出来たぞ。」

なるほど。
最初は普通の鍛冶師として生計を立てたのか。折角魔力があるんだから魔術師になった方が普通の鍛冶師になるよりはいい思えるが、最終的に魔剣鍛冶師になるんだったら無駄ではない道のりなのだろうな。

「俺が今日やっていたことって・・・鍛冶師として向いている技能だと思いますか?
最近、学院を卒業した後の進路について悩んでいるんです」

・・・考えてみたら、今度学院長とか他の教師にも俺って何に向いているのか意見を聞いてみようかな。第三者から見て俺の才能がどんな分野に向いているのか意見を聞いてから何を『やりたい』と思えるかを判断してもいいんだし。

スタルノは無造作に肩をすくめた。
「まあ、ある程度はな。剣の密度が見てとれるとか、剣の密度と練度を影響できるっていうのは鍛冶師として役に立つ才能だと思うぞ。
だが、そういった才能は他の職業でも役に立つだろう。要は、お前が何をしたいかが重要なんじゃないか?どれだけ才能があろうと、努力する気が無ければ成功はしないぞ」

ま、そりゃそうだ。

「成程、それはそうですね。では、努力する気が起きるだけ好きになれるか知りたいんで、暫くの間、授業の後にここでお手伝いさせてもらってもいいですか?」

今回の実習はそれなりに達成感があったが、長期的に続けて面白いと思えるかは実験してみないことにはわからない。幸い、この鍛冶場は寮からそれ程離れてはいない。図書館に入り浸る時間が減るが、このぐらいの時間までだったら何とかなる。


「金は出さんぞ。タダでこき使われたいんだったら、好きにするんだな」
それでは、とりあえず技能を盗みたいと思えるほど興味を持てるか、試させてもらうとしよう。






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