シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院2年目

063 星暦550年 翠の月 16日 仕上げ

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俺の魔術に関する才能は微妙に標準タイプからずれている。
特に問題は無いが何の役に立つのかと思ってきたのだが・・・少なくとも一つほど実用的な使い道を発見。

◆◆◆


5日間の研修と言ったら十分長いと思っていたのだが、現実の話としてはきちんと鍛えて砥ぎ、柄や魔石まで全部やるのには時間が足りない。

適当にやる分にはもっと早く出来るんだけど、スタルノみたいな拘り派の下で本格的にやる分にはね・・・。

ということで、スタルノが我慢できる最低限の鍛えとして1日半かけ、残りの半日で刃を研ぐ。

魔石を嵌めたり柄・柄頭を取り付けたりするには時間が足りないので『やる価値があるようなら』スタルノがやってくれるとのこと。
『実用に堪えないモノだったら好きにそのまま持って帰っていい』と言われている。
打ち終わったら直ぐに持って帰りたいところだが、持って帰れるのはお飾りレベルのみと言うのは中々厳しい。
ちなみに魔石の取り付けは魔具と同じで術回路さえちゃんと繋がっていれば石をはめ込むだけ。なので『態々教えんでもいいだろ』だとさ。

と言うことで、俺たちは刃を研いでいた。

専用の堅く鋭い刃で残ってしまった不要な部分の金属を削り落すことで刃の形を整え、その後はだんだんキメの細かい石を使って研いでいく。スタルノが鍛える場合はこんな不要な部分なんて出来ないから切り落としなんて必要ないらしいが、今回は『まあ実習だから』ということで目をつぶるんだそうだ。

鍛える段階だけで完全に刃の形を作るには一流の腕が必要だし、時間もかかる。
だから大量生産品・・・どころかオーダーメードでも安いグレードのものだと削るのが普通らしい。

「この不要部分を切り落とす刃で剣を作ったら無敵ですね」
用心深く刃と剣を擦り合わせながらタランに話しかけた。

「うん?これかい?」俺が手に持っていた刃を指しながらタランが答えた。
「これは堅いから作るのが大変なんだよね~。確かに何でも切れるけど、実戦向きじゃあない。堅過ぎて横からの衝撃に弱いからね」

なるほど。
堅ければいいと言う訳ではないのか。

・・・ということは、剣を鍛えている間に中の向きを出来るだけ整頓して密度を高くしたのはあまり良くないことだったりするのか??

だとしたらかなり哀しいが。

何か、途中からアレク達のに比べて槌で叩いた時の音が微妙に変化してきたんだよなぁ。
一応、昨日の昼休みにシャルロに何をやっているか説明して、『面白そうだね。どんどんやってみて。僕も出来るか試してみるよ』と魔力で介入することには了解を得ているんだけど、どういう結果になるんだろうか。

気になるところだ。
砥いでいる時も思わず気になってスタルノが傍に来るたびに注視してしまう。

「ほら、ぼーっとしてない!不要部分を切ったら炉へ入れて!」
タランに注意されてしまった。
刃の不要部分を切りとる際に刃に圧力がかかる為、その歪みを抜く為にもう一度炉で熱する。

出して、水につけて冷やし、また砥ぐ。
そして砥ぐ。
更に砥ぐ。
いつまでも・・・砥ぐ!

一体どれだけ砥がなきゃいけないんだ、剣って。

そんなこんなで思っていたら、スタルノが手を叩いて終えるように指示してきた。

「そこまで!作った剣をこちらへ持ってこい」
俺とアレクが作った剣を持って行った。
スタルノが両手に一本ずつ剣を持ち、バランスをとる。

「ま、バランスはそこそこだな。俺とタランが手伝っていたんだから当然と言えば当然だが。
術回路も・・・機能するな」スタルノが魔力を通したら、両方の剣から小さく炎が吹き出た。

「魔剣というのは炎系が一番人気があるが、他にも重さを打ち消す術回路を使うことで疲れない剣を作ることも可能だし、浄化の作用をつけたり、毒作用をつけたりすることも可能だ。他の魔具と同じで、魔剣の術回路も幾らでも工夫の余地はあり、魔剣を作るのを職業とするならより良い術回路を作る為の改善は常に続けていくことだな」

ふんふん。
まあ、そうだろうね。
とは言っても、剣を鍛える技能とか、素材の構成の研究とか、改善すべき部分って言うのは全部なんじゃないかと言う気もするけど。

「さて、剣そのものだが・・・。」
スタルノが作業机の上に剣を置き、槌で叩いた。
やはり音が違うなぁ。
音が俺たちのの方が高い。

「俺のところの実習では、人数を制限してちゃんと面倒をみるから基本的に同じような『そこそこ』レベルの魔剣がちゃんと出来あがる。今回もそこそこなモノが出来あがったが、何故か微妙に違いが出た」

作業机の上にこぶし大の岩を出して右手に持っていたアレク達の剣を振りおろす。
キン!という音がして剣が弾かれた。

「剣で岩を切るのはあまりお勧めできない。だが、『そこそこ』レベルの剣であれば一度や二度はやっても切れずに弾かれるが刃こぼれはしない」

今度は俺たちの剣を右手に持って振りおろす。
カシャ!
岩が切れた。

え?

「『まあまあ』良いレベルの剣になると小さな岩なら切れなくもない。
実習で初めて剣を作る人間が鍛えて『まあまあ』良い剣なんか出来ないはずなんだが・・・何をやったんだ、お前ら?」

じろりとスタルノがこちらを睨みつける。
・・・怒っているんじゃないと思うけど、怖い。もう少し人相を柔らかくしようよ。

「なんて説明すればいいのか分からないんですが、鍛えている時に集中すると剣の中身を整理して密度を上げられる感じがするんです。ほんの気休め程度に近いんですけど。どうなるのか興味あったから、ひたすら中を揃えてみました」

殆ど思いつきでやったことって改めて説明するのは妙に恥ずかしい。

「面白い才能だな」
ふん、と鼻を鳴らしながらスタルノがコメントした。
「金属だとあまり考えないものだが、剣を作る鉄も目に見えないほどの小さな結晶から出来あがっている。鍛冶師は鉄を鍛える際にこの結晶を出来る限り密度を高く、方向性を揃える為に腕を磨く。魔力でそれをやるって言う人間は初めてみたが・・・ま、それも有りだろう」

腕を磨いたら剣の中身の整理が槌で出来るって言うの?
ある意味その方がより不思議なんだけど。

「今回の実習では実用に足りるモノが出来たから、2本ともこちらで魔石をつけ、柄と柄頭をつけておく。
出来あがったら連絡をするから取りに来い。じゃあ、帰れ」

・・・で、終わり??
もうちょっと解説とかしてくれないの????

うう~む。
明日にでも、柄と柄頭をつける場面を見たかったとでも言って、来るかなぁ。

今回の実習でやってみたことがいい剣を作るのに役に立つことなら・・・もう少し掘り下げて習ってみたいかも。俺のちょっと変わった魔力の実用的かつ合法的な使い道が見つかったかも?

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