45 / 1,038
魔術学院2年目
044 星暦550年 紺の月 17日 遺跡(4)
しおりを挟む
いつの時代も、人間の行動というのはあまり変わらないのだろう。
いつの日か、争いや憎しみ、怒りといったモノから人間が解放される時は来るのだろうか?
清早が作った階段を下りて下の階に出る。
着いた先は、小さな部屋だった。
大きめの浅い壺のようなものと、白骨が一体。
扉は朽ち果てて無くなっていた。
壁に装飾は無く、非常に無愛想な部屋だ。
地階というのは貧乏人が住む場所だったのだろうか?
中央広場の下となれば、窓が無い地階でもそれなりに住みたがる人が多い、高級地となるかと思ったが・・・。
「これ、本物だよね?」
シャルロが恐る恐る白骨を眺めながら尋ねた。
「そりゃそうだろ。こんなとこに偽物を置く必要はないだろうし」
白骨の傍にしゃがみこみながらアレクが答える。
「オーパスタ神殿の遺跡で死体が発見されることって珍しいんだろ?あまり触らない方がいいかもしれないぞ」
変な病気を移されても困るし。
「そうだね。他の部屋も見てみよう」
白骨をもう少し調べてみたいげなアレクを残してシャルロが部屋を出る。
俺も後を続いた。
人類以外の骨だって言うのならまだしも、普通の人間の骨には幾ら古くても興味は無い。
視た感じ、普通の人間のようだったし。
出た先は廊下だった。
今通った扉と同じような出入り口が10か所程ある。
付き当りにちょっとした開けたスペースがあり、そこに机と椅子であったのだろう残骸があった。
その後ろに上との本来の出入り口であったらしい階段がある。
一番上に扉で蓋がしてあるが。
朽ち果てていないと言うことは、岩か鉄板か何かで出来ているのか?
「・・・なんか、変な感じな場所だな」
後ろから続いてきたアレクが呟いた。
地下とは言え、全く窓が無い作り。
それなりに厚い壁。
家具が無く、全く装飾がされていない内装。
一つしかない出入り口の前にある待機所。
「ここって・・・留置所か牢獄のような感じがしないか?」
そんなところに放り込まれたことは無いが、盗賊ギルドの仕事関係で投獄されている人間に連絡を取ったり、逃がしたことは何度かある。
何とはなしに、雰囲気が似ていた。
まあ、単に貧乏人が集まって住んでいる地域だったのかもしれないが。
「他の部屋も見てみよう」
シャルロが隣の部屋に入っていった。
さっきと同じように、壺と、白骨。
あの壺って便器代わりだったんだろうなぁ。
寝床に使われていただろう藁とかはとっくのとうに朽ち果てているのだろう。
3つ目の部屋も似たり寄ったりな感じだった。
だが、4つ目に入った部屋はちょっと違った。
壺が割れており、壁一面に何かが彫られていたのだ。
文字なのだろうか?
絵にしては一つ一つの模様の粒が小さく、サイズが妙に一様だ。
「なあシャルロ、蒼流って人間の文字とか知っていたり・・・しない?」
蒼流程の力がある精霊なら、きっとこの遺跡に人間が住んでいた時代にも存在していただろう。
だとしたら、その時代の言語も知っていても不思議は無い。
「知っている?」
シャルロが蒼流に尋ねる。
今回は返事は心話だったらしい。
「知らないって。その時代の言葉は知っていたけど文字を読む必要性は感じなかったんだって」
ま、そうだね。
精霊が人間の書いた本を読みたいとは思わないだろうし。
つうか、精霊って本を読むなんて言う習慣は無いんだろうなぁ。
「この白骨が気になるところだが・・・これは凄い発見だぞ。
オーパスタ神殿遺跡で文字の発見はごく僅かにしかされていないはずだ」
アレクがしげしげと壁を見詰めながら言った。
「他の部屋にも無いか、見てこよう!」
シャルロが飛び出していく。
この遺跡があった街が捨てられた時・・・ここの投獄されていた人間は飢え死にするに任せて封印されて捨てられたんだろうなぁ。
もしかしたらその前に毒を与えられていたかもしれないが。
というか、上に出る場所が封鎖されていたと言うことは、下にいた人間が上に出たいと思うかもしれない状況だったと言うことだから・・・飢え死にか。
えげつない。
一体何をやったらそこまで許されないのだろう?
残りの部屋を調べたところ、2つに落書きのような書き込みがあり、1つの部屋は壁から壁まで文字で埋め尽くされていた。
そして一つの部屋では・・・壁に穴が開いていた。
便器にするような粗悪品であろう壺の破片で壁を彫りぬくとは、根性だ。
だが、封鎖された階段の一番上に横たわっていた白骨を見る限り、その根性も報われなかったようだ。
可哀想に。
牢獄に注意が行かないように、天井(というか床と言うか)一面に目隠しの術を練り込むのは分かるが、街を破棄する際に、囚人が絶対に逃げられないように封をするだけでなく、固定化の術までかけるなんて。
オーパスタ神殿遺跡の元の住民はあまり過ちを許すタイプではなかったようだ。
「オーパスタ神殿遺跡の文字って解析されているのかな?
何でこの人たちがここまで徹底的に封じ込まれたのか、知りたい」
アレクとシャルロに聞いてみた。
「確か、それなりに文字は解明されていたと思う。古代シャタット文明の文字から派生したものだという話だったはずだ。
サンプルが少ないから、かなりの部分は推測らしいけど。これだけ色々書き込まれていれば、文字の解明そのものにもかなり役に立つと思うな」
アレクが答えた。
「早速帰って、おばあさまに研究者に来るよう話をつけてもらおう。僕もこの人たちが何をしたのか、知りたい」
シャルロが提案した。
「そうだな。あまり見る物も無いようだし」
初めて探検してみた遺跡の中でこうも生々しい『人間らしさ』を目にするとは。
本当に、昔の人間も、今と人間とあまり変わりは無かったんだな。
いつの日か、争いや憎しみ、怒りといったモノから人間が解放される時は来るのだろうか?
清早が作った階段を下りて下の階に出る。
着いた先は、小さな部屋だった。
大きめの浅い壺のようなものと、白骨が一体。
扉は朽ち果てて無くなっていた。
壁に装飾は無く、非常に無愛想な部屋だ。
地階というのは貧乏人が住む場所だったのだろうか?
中央広場の下となれば、窓が無い地階でもそれなりに住みたがる人が多い、高級地となるかと思ったが・・・。
「これ、本物だよね?」
シャルロが恐る恐る白骨を眺めながら尋ねた。
「そりゃそうだろ。こんなとこに偽物を置く必要はないだろうし」
白骨の傍にしゃがみこみながらアレクが答える。
「オーパスタ神殿の遺跡で死体が発見されることって珍しいんだろ?あまり触らない方がいいかもしれないぞ」
変な病気を移されても困るし。
「そうだね。他の部屋も見てみよう」
白骨をもう少し調べてみたいげなアレクを残してシャルロが部屋を出る。
俺も後を続いた。
人類以外の骨だって言うのならまだしも、普通の人間の骨には幾ら古くても興味は無い。
視た感じ、普通の人間のようだったし。
出た先は廊下だった。
今通った扉と同じような出入り口が10か所程ある。
付き当りにちょっとした開けたスペースがあり、そこに机と椅子であったのだろう残骸があった。
その後ろに上との本来の出入り口であったらしい階段がある。
一番上に扉で蓋がしてあるが。
朽ち果てていないと言うことは、岩か鉄板か何かで出来ているのか?
「・・・なんか、変な感じな場所だな」
後ろから続いてきたアレクが呟いた。
地下とは言え、全く窓が無い作り。
それなりに厚い壁。
家具が無く、全く装飾がされていない内装。
一つしかない出入り口の前にある待機所。
「ここって・・・留置所か牢獄のような感じがしないか?」
そんなところに放り込まれたことは無いが、盗賊ギルドの仕事関係で投獄されている人間に連絡を取ったり、逃がしたことは何度かある。
何とはなしに、雰囲気が似ていた。
まあ、単に貧乏人が集まって住んでいる地域だったのかもしれないが。
「他の部屋も見てみよう」
シャルロが隣の部屋に入っていった。
さっきと同じように、壺と、白骨。
あの壺って便器代わりだったんだろうなぁ。
寝床に使われていただろう藁とかはとっくのとうに朽ち果てているのだろう。
3つ目の部屋も似たり寄ったりな感じだった。
だが、4つ目に入った部屋はちょっと違った。
壺が割れており、壁一面に何かが彫られていたのだ。
文字なのだろうか?
絵にしては一つ一つの模様の粒が小さく、サイズが妙に一様だ。
「なあシャルロ、蒼流って人間の文字とか知っていたり・・・しない?」
蒼流程の力がある精霊なら、きっとこの遺跡に人間が住んでいた時代にも存在していただろう。
だとしたら、その時代の言語も知っていても不思議は無い。
「知っている?」
シャルロが蒼流に尋ねる。
今回は返事は心話だったらしい。
「知らないって。その時代の言葉は知っていたけど文字を読む必要性は感じなかったんだって」
ま、そうだね。
精霊が人間の書いた本を読みたいとは思わないだろうし。
つうか、精霊って本を読むなんて言う習慣は無いんだろうなぁ。
「この白骨が気になるところだが・・・これは凄い発見だぞ。
オーパスタ神殿遺跡で文字の発見はごく僅かにしかされていないはずだ」
アレクがしげしげと壁を見詰めながら言った。
「他の部屋にも無いか、見てこよう!」
シャルロが飛び出していく。
この遺跡があった街が捨てられた時・・・ここの投獄されていた人間は飢え死にするに任せて封印されて捨てられたんだろうなぁ。
もしかしたらその前に毒を与えられていたかもしれないが。
というか、上に出る場所が封鎖されていたと言うことは、下にいた人間が上に出たいと思うかもしれない状況だったと言うことだから・・・飢え死にか。
えげつない。
一体何をやったらそこまで許されないのだろう?
残りの部屋を調べたところ、2つに落書きのような書き込みがあり、1つの部屋は壁から壁まで文字で埋め尽くされていた。
そして一つの部屋では・・・壁に穴が開いていた。
便器にするような粗悪品であろう壺の破片で壁を彫りぬくとは、根性だ。
だが、封鎖された階段の一番上に横たわっていた白骨を見る限り、その根性も報われなかったようだ。
可哀想に。
牢獄に注意が行かないように、天井(というか床と言うか)一面に目隠しの術を練り込むのは分かるが、街を破棄する際に、囚人が絶対に逃げられないように封をするだけでなく、固定化の術までかけるなんて。
オーパスタ神殿遺跡の元の住民はあまり過ちを許すタイプではなかったようだ。
「オーパスタ神殿遺跡の文字って解析されているのかな?
何でこの人たちがここまで徹底的に封じ込まれたのか、知りたい」
アレクとシャルロに聞いてみた。
「確か、それなりに文字は解明されていたと思う。古代シャタット文明の文字から派生したものだという話だったはずだ。
サンプルが少ないから、かなりの部分は推測らしいけど。これだけ色々書き込まれていれば、文字の解明そのものにもかなり役に立つと思うな」
アレクが答えた。
「早速帰って、おばあさまに研究者に来るよう話をつけてもらおう。僕もこの人たちが何をしたのか、知りたい」
シャルロが提案した。
「そうだな。あまり見る物も無いようだし」
初めて探検してみた遺跡の中でこうも生々しい『人間らしさ』を目にするとは。
本当に、昔の人間も、今と人間とあまり変わりは無かったんだな。
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる