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魔術学院1年目
013 星暦549年 萌葱の月 4日 魔術理論
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『魔術とは科学であると我々は教えているが、芸術であると考える人も多い。
私は、何事も基礎の部分は科学であり、応用を必要とする上級なレベルは芸術だと考えるべきだと思っている。
芸術へ自らの技を高めていく為には、科学として行え得る全ての技を知っておくことが一番の近道であろう。』
アイシャルヌ・ハートネット著『芸術としての魔術』
◆◆◆
理論だけを教えても生徒は飽きるし、実施が無ければ理解は浅い。
だからアシャール魔術学院では入ってきた生徒にまず基本的な魔力の使い方と簡単な術を教え、その間にその術の背後にある理論を軽く教える。
ある程度基本を教えたら、今まで教えた理論をまとめ上げる感じで魔術理論の授業が行われるようになる。
・・・大抵の魔術師の家系の生徒はこういった基本は既に親元で習っているんだけどね。
各家庭での教育にはばらつきがあるから、学院としては飛ばす訳にもいかないんだろう。一般家庭出身者もいるし。
「魔術とは自然には無い現象を何らかの形で強引に実現させる技だ。
自分の魔力を使う事がもっとも基本的な方法で、君たちは今これを学んでいるところだ。2年目になったら自分の力を何かの媒体に蓄えてそれを術の行使に使う方法を学ぶ。そして最後に学ぶのが自分以外の存在に願って力を貸してもらう事だ。
アレク、自分以外の存在にどんなモノがあるか、挙げなさい」
キリカト教師が眠そうな顔をして窓の外を眺めていたアレク・シェフィートの名を呼んだ。
「ええっと・・・。神、精霊、英霊でしょうか?」
頷いてアレクに座るように指示しながらキリカト教師が続けた。
「そう、後は悪魔、悪霊も力を貸す場合もある。大抵は魔術師が後悔するような結果になるが。
シャルロ、これらの存在のあり方の違いは?」
「精霊は自然の力です。神は・・・精霊を司る超自然の存在とも言われるし、人間の信仰によって力を得ているとも言われていて、真実は分かりません。英霊は東方で行われることが多い、先祖信仰の結果先祖の霊が力を得て子孫に手を貸す存在です」
シャルロが一息ついてから続ける。
こいつってのんびりしているから時々あまり長く話すと息継ぎに失敗するんだよなぁ。
「悪霊はマイナスな感情に捕らわれたことから力をふるえるようになった霊。悪魔は悪霊が更に力を蓄えた存在だとも、悪しき感情に捕らわれた精霊だとも言われていています」
キリカト教師が頷いた。
「神殿の神官や他の魔術学院の教師に聞いても、悪魔や神の存在についての定義には色々違いがある。このアシャール魔術学院では敢えて定義はせず、『不明』という立場を取っている。存在の真実が分からなくても力を借りることはできるし、不幸な場合は殺されることもある。『真実』として分からぬことは分からぬと認めることで、より用心深く行動できるし限界に縛られないと我々は考えている」
「また、魔術の行使に直接力を借りるのではなく、何かを代償に現実での世界での助けを得ることができる。使い魔と呼ばれる存在だ。ウィル、使い魔をどうやったら得ることができる?」
おっと。俺の順番か。
「交渉です。低位の精霊、魔物、魔族、低位の悪魔と交渉・契約することで使い魔として協力してもらうことが出来ます。基本的に自分より力の強い相手に使い魔になることを求めるのは危険ですが、準備のやりようによっては可能な場合もあります。ただし、その場合は契約の条件を破った瞬間に殺される可能性が非常に高くなります」
入学して5か月。
俺も大分学んだよなぁ。
「使い魔の魔力は魔術師の魔術とは別に存在するので、使い魔を持つことは自分の魔力の節約にもなるし、場合によっては自分がいる場所以外で魔術を行使することも可能になる。だから使い魔は一人前の魔術師として活躍していく上で重要な存在だ。ただし使い魔を得る過程は非常に危険なので3年になるまでは絶対に試さないように。」
キリカト教師がじろりと教室を見まわした。
「何年かに一度、勝手に自分で試して大怪我する、または場合によっては死ぬ生徒がでる。
例え自分の親族や友人に使い魔がいて馴染みがあると思っていても、絶対に試すな。
4年前にも生徒が一人亡くなった。学年でもトップの成績を誇っていたのだが、それが仇になった」
学院にしてもジレンマだよな。
使い魔と安全に契約する為に必要な手段を教えてしまったら生徒が勝手に自分ひとりで試そうとし、かといって教えないとちゃんと身を守る手段を講じることなく試した生徒が死ぬ。
ま、教えて死なれるよりは教えないで『勝手にやろうと思わないよう、教えないのにこちらの警告を無視された場合、どうしようもありません。』と言った方が責任追及が少なくって済むんだろうね。
「使い魔の契約をしなくても術の一環として力ある存在に助けてもらうことは出来るし、元素に影響を与える術の場合は精霊に好かれている方が術への発現に必要とされる魔力が少なくて済む。また、個人によって魔力の発現がしやすい魔術のタイプはそれぞれ違う。違ったタイプの術を学んでいくにつれてやりやすいものと、やりにくいものが出てくるだろう。自分の術の発現の効率にも注意しておくといい」
最近、やっと魔術師の家系出身の生徒たちに魔術関係の授業で追い付いてきた。だから時間を見つけては図書室に行って色々魔術理論の本を読んでいる。
それによると使い魔を得たり、力のある存在に願ったりする以外にも魔力を底上げする方法があるようだ。
基本的に禁呪ばかりなので授業では言わないことにしているのかな?
そんなことを思っていたら、実地で禁呪を見る羽目になった・・・。
私は、何事も基礎の部分は科学であり、応用を必要とする上級なレベルは芸術だと考えるべきだと思っている。
芸術へ自らの技を高めていく為には、科学として行え得る全ての技を知っておくことが一番の近道であろう。』
アイシャルヌ・ハートネット著『芸術としての魔術』
◆◆◆
理論だけを教えても生徒は飽きるし、実施が無ければ理解は浅い。
だからアシャール魔術学院では入ってきた生徒にまず基本的な魔力の使い方と簡単な術を教え、その間にその術の背後にある理論を軽く教える。
ある程度基本を教えたら、今まで教えた理論をまとめ上げる感じで魔術理論の授業が行われるようになる。
・・・大抵の魔術師の家系の生徒はこういった基本は既に親元で習っているんだけどね。
各家庭での教育にはばらつきがあるから、学院としては飛ばす訳にもいかないんだろう。一般家庭出身者もいるし。
「魔術とは自然には無い現象を何らかの形で強引に実現させる技だ。
自分の魔力を使う事がもっとも基本的な方法で、君たちは今これを学んでいるところだ。2年目になったら自分の力を何かの媒体に蓄えてそれを術の行使に使う方法を学ぶ。そして最後に学ぶのが自分以外の存在に願って力を貸してもらう事だ。
アレク、自分以外の存在にどんなモノがあるか、挙げなさい」
キリカト教師が眠そうな顔をして窓の外を眺めていたアレク・シェフィートの名を呼んだ。
「ええっと・・・。神、精霊、英霊でしょうか?」
頷いてアレクに座るように指示しながらキリカト教師が続けた。
「そう、後は悪魔、悪霊も力を貸す場合もある。大抵は魔術師が後悔するような結果になるが。
シャルロ、これらの存在のあり方の違いは?」
「精霊は自然の力です。神は・・・精霊を司る超自然の存在とも言われるし、人間の信仰によって力を得ているとも言われていて、真実は分かりません。英霊は東方で行われることが多い、先祖信仰の結果先祖の霊が力を得て子孫に手を貸す存在です」
シャルロが一息ついてから続ける。
こいつってのんびりしているから時々あまり長く話すと息継ぎに失敗するんだよなぁ。
「悪霊はマイナスな感情に捕らわれたことから力をふるえるようになった霊。悪魔は悪霊が更に力を蓄えた存在だとも、悪しき感情に捕らわれた精霊だとも言われていています」
キリカト教師が頷いた。
「神殿の神官や他の魔術学院の教師に聞いても、悪魔や神の存在についての定義には色々違いがある。このアシャール魔術学院では敢えて定義はせず、『不明』という立場を取っている。存在の真実が分からなくても力を借りることはできるし、不幸な場合は殺されることもある。『真実』として分からぬことは分からぬと認めることで、より用心深く行動できるし限界に縛られないと我々は考えている」
「また、魔術の行使に直接力を借りるのではなく、何かを代償に現実での世界での助けを得ることができる。使い魔と呼ばれる存在だ。ウィル、使い魔をどうやったら得ることができる?」
おっと。俺の順番か。
「交渉です。低位の精霊、魔物、魔族、低位の悪魔と交渉・契約することで使い魔として協力してもらうことが出来ます。基本的に自分より力の強い相手に使い魔になることを求めるのは危険ですが、準備のやりようによっては可能な場合もあります。ただし、その場合は契約の条件を破った瞬間に殺される可能性が非常に高くなります」
入学して5か月。
俺も大分学んだよなぁ。
「使い魔の魔力は魔術師の魔術とは別に存在するので、使い魔を持つことは自分の魔力の節約にもなるし、場合によっては自分がいる場所以外で魔術を行使することも可能になる。だから使い魔は一人前の魔術師として活躍していく上で重要な存在だ。ただし使い魔を得る過程は非常に危険なので3年になるまでは絶対に試さないように。」
キリカト教師がじろりと教室を見まわした。
「何年かに一度、勝手に自分で試して大怪我する、または場合によっては死ぬ生徒がでる。
例え自分の親族や友人に使い魔がいて馴染みがあると思っていても、絶対に試すな。
4年前にも生徒が一人亡くなった。学年でもトップの成績を誇っていたのだが、それが仇になった」
学院にしてもジレンマだよな。
使い魔と安全に契約する為に必要な手段を教えてしまったら生徒が勝手に自分ひとりで試そうとし、かといって教えないとちゃんと身を守る手段を講じることなく試した生徒が死ぬ。
ま、教えて死なれるよりは教えないで『勝手にやろうと思わないよう、教えないのにこちらの警告を無視された場合、どうしようもありません。』と言った方が責任追及が少なくって済むんだろうね。
「使い魔の契約をしなくても術の一環として力ある存在に助けてもらうことは出来るし、元素に影響を与える術の場合は精霊に好かれている方が術への発現に必要とされる魔力が少なくて済む。また、個人によって魔力の発現がしやすい魔術のタイプはそれぞれ違う。違ったタイプの術を学んでいくにつれてやりやすいものと、やりにくいものが出てくるだろう。自分の術の発現の効率にも注意しておくといい」
最近、やっと魔術師の家系出身の生徒たちに魔術関係の授業で追い付いてきた。だから時間を見つけては図書室に行って色々魔術理論の本を読んでいる。
それによると使い魔を得たり、力のある存在に願ったりする以外にも魔力を底上げする方法があるようだ。
基本的に禁呪ばかりなので授業では言わないことにしているのかな?
そんなことを思っていたら、実地で禁呪を見る羽目になった・・・。
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