シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院1年目

011 星暦549年 青の月 27日 学院祭(5)当日1

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負けるのは、嫌いだ。

まあ、好きな人間はあまりいないだろうが。
学院祭の初日は術の精度・強度を競うことになる。
殆ど学期末テストだよ、これ。
全校生徒+招待客の前でやるからプレッシャーが少しあるけど。

どんな仕事でもそうだろうが、プレッシャーがないところだけでしか力が発揮できないんじゃああまり意味がない。学院側もそんな考えもあってある意味酷なこんな競争をやるのだろうか。

各学年が順々にやっていくから、それなりに見ている方は飽きてくる。
ま、教師陣の評価で勝ち負けが決まり、その順位によって寮にポイントが付くからそれなりに熱血している生徒が多いが。

基本的にどの寮もポイントを最大化する為に各生徒の出るモノを決めている。
得意度とポイントの高さでかね合う訳だ。
例えばダレン・ガイフォードは攻撃術の系統が強い。
魔術師と言えば文系な職業だというイメージが強く、卵たちも子供のころから勉学に熱心にやって来ている中で、最初から魔術剣士を目指して訓練してきたダレンは生徒の中ではダントツに強い。
だが攻撃系の競技に全部彼が出る訳にはいかない。時間的・体力的にも難しいし、第一『全員参加』という規則に反するから彼だけに活躍させる訳にはいかない。

だから彼は一番ポイントが高い、寮対抗『野戦』にアタッカーとして出場する。
あとは個人競技で宙に舞う泡(魔術で作ったものだからシャボン玉のように勝手に割れないし落ちてこない)を術で落としていく『狙い撃ち』に出る。

精霊にとても好かれている為、実は魔術の出力がべらぼうに高いシャルロは大桶一杯分の熱湯を凍結させるスピードを競う『氷結』と種の発育の加速化のスピードを競う『育成』とに参加する。

俺は・・・。
人並みの出力しかないし、コントロールもまだそんなに優れてはいない。
だが、眼の良さは誰よりもいいし、体を動かすことにかけては誰にも負けない(少なくともウチの学年ではね!)。
ということで結局ダレンと同じく『野戦』と『狙い撃ち』に出ることになってしまった。
イマイチ、自分がかなわない人間と得意範囲が重なると言うのは嬉しくない。
あいつに勝てることってあるんだろうか・・・。

まあ、まだ俺は魔術師としての成長を始めたばかりなんだ。
母親に子供のころから教えてもらっていたダレンと同じレベルに現時点でなれなくても、いつか追い越せばいいのさ!



「頑張ってね~」
シャルロに呑気な応援を貰いながら『狙い撃ち』へ参加する為に前に出る。
各々の枠の中で動き回る泡を一番早く消しきったものが勝ちになる。
これは出力よりも精度を競うものなので、消すのに使っていい魔術は『貫通』の魔術のみ。突風とか火の玉では泡は割れないらしい。

まだ1年なので俺たちの枠は大きく、入っている泡もそれほど大きくない上動きもそれ程早くない。これが3年のになると枠が小さく、泡が多くしかも早く動くようになるので泡がお互いにぶつかりあってめまぐるしく方向転換することになり、大変らしい。

指定の位置に付き、動き回る泡を注視する。
うん、基本的にまっすぐ動いていて、枠の面か別の泡にぶつからない限り、方向やスピードは変わっていない。
これなら俺の術の発現のスピードでも、前もって泡の動きを読んでおけば何とかなるかな。

術は頭の中でその発現の姿をしっかり描いてから呪を唱えることで発現する。
複雑なら術なら呪文になるが、単純に貫通させるだけなら一言の呪でいい。
だけどしっかりその発現の姿を頭の中で描けてないと、呪が発動しないんだよねぇ。
まだ修行の足りない俺の場合、急ぐと2回に1回は失敗する。
だから急がずにしっかり描いてからやらないといけない。
でも他の奴らに遅れたらゲンコツだ。

「本当に大丈夫なんかいな、俺・・・?」

スタートを知らせる笛が鳴った。
近くの、比較的ゆっくり動いている上に衝突しないコースを動いている泡に焦点を合わせ、それが3秒後にあるであろう場所を俺の力が貫通するのを描き、しっかり心に焼き付ける。
「貫通」
うっし!
術が発動した。
標的の泡がどうなったかは気にせずに、次のを狙っていく。
スタート位置に立ってからの待ち時間の間に10個の泡の動きは大体見てとったから、どこをどれが動いているはずなのかは分かっている。
発動さえすればちゃんと泡は壊れているはずだから、確認する時間の方が惜しい。
「貫通」
「貫通」
ちっ。出なかった。
「・・・貫通!」
今度はちゃんと出たが、潰すのに遅れたせいで泡の軌跡が最初に計算したものからずれてしまった。

ま、しっかり描いたつもりでも発現率が8割程度なんだ。
完璧にいくとは思っていなかったしな。

もう一度枠の中全体を見直し、衝突コースにない泡を見極めて狙いをつける。
「貫通」
次に狙ったのは発現させる前に斜め後ろからちょっと早い目にきた泡にぶつかられてコースが変わってしまった。

しまったな、時間がたっている間に泡が泡にぶつかって加速したのがあるらしい。
他の寮のやつらがどうなっているのか見たかったが、そんな暇はない。
俺の場合、焦ったところで物事が改善する『底力』がどこかに隠れている訳でもないからな。
深呼吸をする間にもう一度枠の中の全部の泡の動きを確認し、確実にコースの変わらない泡を割り出す。
「貫通」
「貫通」
頭が痛くなってきた。
集中して限られた時間の中で体を動かすことには慣れているが、術を使うと言うのは全然違う『筋肉』を使っている感じだ。
「っ貫通!」
「・・・貫通」
あと2つ!
「貫通」
あと一つ。一つだけとなれば枠との衝突さえなければコース変更はない。
「貫通」
っち。最後だと思って油断したら発現しなかった。
「・・・貫通!」
結局10回やって2回失敗か。
普段通りの発現率だな。本番に強い人間というのもいるが、どうやら俺は頑張っても本番に練習より良くできると言うことはないらしい。心に刻んでおこう。

周りを見回したら、既にドラグーン寮のヤツは終わっていた。
2位か。
まあ、遅れて入学した下町出身の卵としては悪くないと思うことにするか。

・・・来年は絶対に勝ってやる!!

ちなみに、『野戦』はグリフォン寮が楽勝だった。
いくら額の珠を割るのに魔術を使うとはいえ、その瞬間までは入り乱れた乱戦状態で皆がばたばたやっているんだ。
普段は道場で武器を動かすことを『習って』いるだけの卵なんて俺様の敵じゃないぜ。
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